MURDEROUS PLOT

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TRICK【上田&奈緒子】



譲れない思いを胸に秘め

真夜中に包まれながら、奈緒子は、車道の真ん中を堂々と歩いていた。
丑三つ時ともなれば、車の量は激減する。寧ろ、この時間帯で車を見かける方が難しい。
閑散とした通りには、冬ならではの空っ風が吹きすさぶ。
体にも心にも応える寒さを、奈緒子はその細い体でしっかりと受け止めた。
「…なんでこんな事してるんだろう、私。」
自嘲とも取れる呟きを漏らすと、奈緒子は夜の街を見渡して、肩を落とした。
事の始まりは、奈緒子が自室から外を眺めたのがきっかけだ。
奈緒子のアパートはあまりにもオンボロで、冬特有の風を遮る役割を果たさない。
その為、奈緒子は窓をじっと恨めしそうに眺めていたのだ。
――…そして、彼女は見つけてしまった。その先の遥か遠くで神々しく輝いている月の姿を。
「…今日は満月なのか。」
呟いた後に自分が月に見惚れていた事を自覚すると、奈緒子は窓から視線を外そうとした。
しかし、月がそれを許そうとしなかった。奈緒子は、まるで引力に引き付けられるかのように、当然の事のように月へと吸い寄せられていった。
結果、マフラーを首に巻いて近所にある空き地へと駆け出しているという今の状況に至る。
「馬鹿か、私。」
そこまで言って、“いや、馬鹿さ加減で言えば上田の方が遥かに上をいっている”と彼女は笑った。そして、笑顔の端で彼女はふと考えついた。
“上田は、今この時間に一体何をしているんだろう。”
だが、連想ゲームのように唐突に浮かんできた上田は、月の光に掻き消される闇のように唐突に消えていった。
今の奈緒子の脳内は、月が支配している。大きな丸い金色(こんじき)の月が。
元来、満月には不思議な力が備わっていると聞く。満月のある夜にキャンディをその光に晒せば、どんな夢でも叶えてくれる魔法のキャンディに変わるだとか、満月に当たる中で黒魔術をするとその効果が高まるだとか。中には嘘の情報も紛れているのだろうが、真実の話が紛れているのもまた事実である。
奈緒子の足は、まるでスキップをするかのように軽快に進む。寒さが心にも体にも応えていた筈なのに、いつの間にか彼女は寒さを感じなくなっていた。これも、月の魔力なのだろうか。
「…着いた。」
見慣れた空き地の見慣れた土管に飛び乗ると、その上で器用に仰向けになり空を仰ぎ見た。
窓から見るよりも大きく彼女の視界を支配する月は、依然として眩い光を放ち続ける。
「やっぱりあそこで見るより此処の方が断然良いな。」
不意に、頭の中で考えていた事が、勝手に口をついて出た。
けれど、奈緒子はその事態を重く受け止める事もせず、ただのんびりと空を眺めていた。


「…こんな所で一体何をしているんだ?」
奈緒子は月に見入っていた所為か、後ろからかかる声に気づくどころではない。
奈緒子の後ろに居る者も、自然と奈緒子の視線の先へと目を向ける。
すると、矢張り光り輝く満月に魅入られてしまった。

――…いや、その者もとうに月に魅入られていたのだ。
「綺麗だな…。」
奈緒子は、後ろからかかる声にようやく驚き、すかさず土管から起き上がって顔を向けた。
「…お前!!!」
奈緒子は月の魔力から目覚め、自分の目の前に立ちはだかる者を凝視した。
「そんなに僕の姿が珍しいか、YOU。」
奈緒子の目の前の者――…上田は、まじまじと自分を見つめる奈緒子の視線に耐えられず、身を捩る真似をしながらそう言った。
「…そういえば最近、会ってませんでしたよね。事件は無いんですか?」
「…それが、至って平和でね。僕の能力も、持て余し気味といったところなんだ。」
“持て余す程の能力も無い癖に。”
奈緒子は、いつもならこう言って上田を挑発しただろう。否、そう言うつもり満々だった。
しかし、口を開けば「そうか。」の一言だけが、昏々(こんこん)と流れ出ていった。
上田は、そんな奈緒子の様子を見て小首を傾げた。いつもなら、調子に乗った上田に釘を刺す筈なのに、彼女の口から否定や皮肉は一向に出て来ない。寧ろ、上田の言葉を容認さえする言葉を呟いたのだ。
“何か悪い物でも食べたんじゃないのか?”
上田は、そう言って彼女を挑発するつもりだった。寧ろする気満々であった。
けれど、何故か「ああ。」という酷く曖昧な言葉しか喋れなかった。
奈緒子は、そんな上田の様子を見て奇妙な違和感を感じた。いつもの上田なら、自分の言う言葉に敏感に反応し、軽いジャブを放ってくる筈なのに、それが無い。
互いが互いの様子に心から不信を抱きながら、それでも尚、話続ける。
「そういえば、どうして上田さんは今此処に来たんですか?」
「…月が…」
言いかけて、上田は口を噤む。まるで、話すという事さえ背徳の行為だと訴えるように。
「…月が?」
奈緒子は、上田が急に黙り込んだ様(サマ)を見て、そっと彼の言葉を催促した。
上田がゴクリと生唾を飲む音が、無音の空き地に小さく響き渡る。
「……月が、僕を呼んでいるような気がしたんだ。」
向かい合う二人の間を一陣の風が駆け抜けていく。その風につられるようにして奈緒子の髪がふわりと浮いた。



…ウエダ…モ…ワタシ…ト…イッショナノカ………?



「そういえば、YOUこそなんでこんな場所に?真夜中の一人歩きは危ないぞ。」
上田の話を聞きながら、奈緒子は“今日はヤケにお互い罵りあおうとしないな…”と考える。
しかし、何故お互いがそうしないのかという理由は、結局奈緒子にはわからなかった。
真実は、奈緒子が考えるよりも浅く、そしてその実深いものであったのだから、奈緒子にはわからなくて当たり前だろう。容易く答えの出る問題では無かった。ただそれだけの話なのだ。
「私は…。」
口がまたしても勝手に言葉を紡ごうとする。奈緒子の意に反して、口は今すぐにでも真実をバラしてしまいそうだった。自分の体の異変に、奈緒子は今更ではあるが戸惑いを覚えてしまう。
しかし、奈緒子は自らの口に勝った。…そして、それと同時に、今まで自分が何に操られていたのか気づいた。更に、今さっき自分で答えを導けなかった真実に、ようやく辿り着いたのだ。


まさか、自分は上田と寸分違わぬ理由で、此処へやってきたのだと、彼に言う訳にはいかない。
もし言えば、彼と同じ理由で此処に来られたことを喜んでいる自分が居ることも、説明しなければいけない。
幾ら月という魔力を秘めた相手にだって、この想いは絶対に譲れない。
例え月が自分のこの淡い想いすら見透かしていたとしても。
それなら尚のこと、吐いてはなるものか。


奈緒子は、そこまで考えて月を一睨みする。しかし月は決して怯えたりする様子はない。
「私は、もう二度とお前に翻弄されたりしないからな。」
小さく月に向かってそう宣言すると、奈緒子は目の前で自分をじっと見つめる上田へ顔を向け直す。
「…あ、どんな話してたっけ?」
「YOUは相変わらずだな。まぁ良い。送っていこう。」
上田は軽く月を見つめている。しかし、その目はついさっきまで月の虜となっていた彼の目とは違い、今の奈緒子のように綺麗に澄んだ瞳だった。
二人は、互いに月の魔力から解放されたのである。

「上田。本当は“送っていこう”じゃなくて“送ってくれ”の間違いじゃないのか?」
早速奈緒子の皮肉めいた台詞が上田に当たる。
「は、何を馬鹿なことを言っているんだ?僕は紳士としてあるべき姿をだね…」
「だってお前、怖がりじゃん。私でも居なければ、怖くて家へ帰れないんでしょう?」
上田はやや言葉に詰まりながらも、奈緒子に淡々と紳士像を語ろうとする。しかし奈緒子はやはり上田を挑発した。上田も奈緒子も、心中で“やっとお互いとも、いつもの調子が戻ってきた”と安堵した。
「何を言う!言っておくがな、僕は怖がりなんかじゃないんだぞ!!」
憤然とする上田を尻目にして、奈緒子は「あ、あそこに人魂が。」と近くの寺を指差した。
すると、奈緒子のすぐ側を歩いていた上田は、その場で大きな音を立てて倒れてしまったのであった。

「やっぱり怖がりじゃん。」

奈緒子の嘲笑とも取れる笑いが、夜の街を包み込んだ。






❀❀✿✿おまけ✿✿❀❀

山「上田、あの後私はお前をマンションまで運んだんだぞ。礼は無いのか?」
上「ああ。あの時はありがとう。」
山「…妙に素直だな、お前。気色悪いぞ。」
上「…人が素直に礼を言った時には、有難く受け取るのが礼儀だろう。」
山「ハイハイありがとうございマシター。」
上「ΣYOUは自分ばっかり説教して、僕の説教には耳も貸さないのか?」
山「私は生憎貸せる耳など持ってないんで。大体耳は取り外しが出来ないのに、どうやって耳を貸せと?」
上「…屁理屈を言うな。見苦しいぞ。あ、そういえばYOU。」
山「…はい?」
上「あの時君は、何故空き地へ来ていたのか、理由を言わなかったね?」
山「さーて何のことでしょう。」
上「しらばっくれるな!さぁ言え。僕ばかりYOUに本音を教えるだけなんて、恥ずかしいだろう。」
山「いやぁ、今日は良い天気ですね~。」
上「…曇っているが?」
山「………。」
上「さぁ、話せ。今すぐ話せ。さもなくば君の元へ大量の事件を持ち込むぞ!!」
山「上田と一緒。」
上「はぁ?」
山「…何でもない。」
上「相変わらず訳がわからんな、YOUは。」
山「その方がいつ会っても退屈しないでしょう?」
上「…まぁな。」
山「なら良いじゃないですか。あんまりくだらないことばっかり気にしてると禿げますよ?」
上「…僕の家系は禿げる家系では無いから、心配は要らないよ。」
山「…物事には例外がツキモノですよ?お前ならよくわかってるだろう。天才科学者さん?」
上「………。」




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