旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪帰らざる夜明け≫


いよいよアラン.ドロン特集第四弾です。

ドロン作品は、
九月から始めましたドロン特集と、
それ以前に紹介した作品を含めまして34作を超えました。

これらの作品は日記一覧からでも、また、
ページ一覧の(アラン.ドロンの部屋)でも
ご覧になれますので、彼の全貌を知るためには
そちらの方もご覧になってくださいませネ。

さて、いつもは、女性に手の早い?ドロンか、
全然無視するか...のどちらかですが、
さすがに..相手が
シモーヌ.シニョレとなると手を出しかねている..
ちょっとおかしくもある。

1985年に癌で死去するまで、フランス映画界、演劇界の
第一人者として君臨し続けた女優、シモーヌ.シニョレ。

晩年こそ、見たとおりの美しいとは縁の遠い容貌であったが、
ある世代の人たちに言わせると、
若いころの彼女は、なんとも魅力ある女優だったそうだ。

なでしこの日記では、
  ≪悪魔のような女≫、≪嘆きのテレーズ≫を取り上げましたが、
前者の鳥肌立つ怖さ、
後者の人妻の夫殺しという、
これまたなんとも怖い役柄でとびきりの演技だった。

若いころの作品、嘆きのテレーズあたりは
独特の容貌にモダンさが窺え、
なるほど魅力的だと思ったものだ。

1959年に、≪年上の女≫で、カンウ映画祭女優賞受賞、
米アカデミー賞女優主演賞を受賞している。

二度目の結婚はだれもが知る歌手としても一流、
役者としても一流の イヴ.モンタン である。
彼女が死すまで、24年間の結婚生活を全うしている。

アランが、フランス映画界きっての大女優の彼女と初めて、
共演したのが今日紹介する≪帰らざる夜明け≫である。

まるで正反対のアランとシモーヌ。

共演すると不思議に息が合うし、
画(え)に風格が醸し出される。

1971年度作品ということは、
アランが36歳。水も滴る美男子から、
シニョレのようなベテランの演技を受け止める演技派に
成長しつつあった。

後日紹介するつもりの、
その二年後の二作目≪燃えつきた納屋≫でも
共演している。

フランス東部の野原も丘も見渡す限りの緑濃き田園地帯。
セーヌ河とローヌ河上流を結ぶ運河が横切る。

のどかな美しい自然の中に、人間の不信と、エゴ、
欲望と憎悪がもつれ、またまた、追い詰められて命を落とす
ドロンとシモーヌの大人の愛を描いた名作です。

クーテルク夫人....シモーヌ.シニョレ
ジャン.....   アラン.ドロン
夫人の姪...   オクタヴィア.ピッコロ

ストーリー 
1934年、パリでは流血騒動も起こっている
混沌とした時世である。

バスもゆったりと走る田園地帯。
一人の男が歩いている。

運河のほとりに住む中年の未亡人、クーテル夫人は、
ある日、街に出て、ひよこの孵卵器を買い、
運転手にバスから降ろすのを手伝ってもらうが、
重くてとても一人で運べそうにもなかった。

たまたま、道を歩いていた通りすがりの男に
うちまで運ぶのを手伝ってもらった。名はジャンという。

クーテル夫人の家には運河にかかっている跳ね橋を
渡らねばならない。
跳ね橋は運河を隔てて住んでいる義妹が
手作業で昇降を行っている。

運河をゆったりと進む船。
のどかな風景である。

急ぐ旅でもなさそうな彼は、そのままそこに居ついて、
仕事を手伝う事にした。一日6フランという日当で。
寝泊りには納屋をあてがわれた。

故郷イタリアに似ているとジャンは言った。

運ばれた孵卵器がことごとく、ドラマの隠れた主役で、
ジャンと夫人を繋ぐ重要な小道具である.

夫人は14歳の時にこの農家に奉公に来て、そのまま嫁になった。
家の主人(今の父)と息子の両方に手篭めにされ、
結婚した息子はやがて死に、
女手ひとつで農作業をし、
父親の身の回り、夜も共にさせられて
今に至っている。

地味な服ばかりを着ている彼女の後姿には、
辛い境遇を生き抜いた女の歴史が刻み込まれていた。

だから、夫人は
男の嘘、いやらしさ、頼りなさ、
そして男の純情というものをどうやって
ほぐしだすかの手管を知り尽くしているのである。

義父...無愛想なこのじいさんと話をするジャンは、
なんとなくこの老人を嫌いではなかった。

しかし、じいさんは、若いこの男に
嫁を取られるのではないかという気持ちから
ジャンを警戒した。

ジャンはよく働いたし、仕事も速かった。

若い肉体とやさしさを持つジャンを目の前にして、
夫人は初めて、自ら求める情念に火がつくのを
押さえられなくなっていく。

ジャンという男...
ジャンは故郷に一度帰りたいと言った。
母は生きているか、死んでいるかもわからない。
今後のこともわからないと言った。
口には出さないが孤独な男ジャンにとって、
一時の安らぎの場であったのだろう。

運河の土手に腰を降ろし、船を眺めるジャンは
なぜか気持ちが落ち着くのだった。

運河を隔てた跳ね橋の対岸に住む、亡き夫の妹夫婦は
父親を丸め込んで夫人を追い出し、
土地を取り上げようと画策していた。

じいさんを連れて帰り、夫人のところには返さないつもりだ。
夫人はじいさんを連れにいったが、義妹夫婦は
彼女を追い出し、たたきのめそうとした。
見かねたジャンは橋を渡って夫人を助けた。

村の警官がジャンの身元確認にやってきた。
お尋ね者を探していたが、
差し出す身分証に警官は納得して帰った。

ジャンがただの行きずりの男ではないと感じ、
夫人はジャンに尋ねた。

お尋ね者らしい。
そうと知って、なおさら情念は深く燃え上がる。

その夜、夫人とジャンはベッドを共にした。

そっとベッドを抜けるジャンは夫人に
やさしく毛布をかけた。

そのことがあってから、ジャンは髭を剃り落とした。

頭の弱そうな夫人の姪(ピッコロ)は
だれかれとなく、男に簡単に見を任すふしだらな娘であった。
父無し子を育てている。
今又、ジャンに色目を使う。
ジャンにとっても若い娘は眩しい。

時おり、彼女が草摘みをしたり、
子供にお乳を与えるのを見ているジャンは
この娘の若さにいつしか惹かれるようになった。
いつも抱いている赤ん坊にジャンは声をかけ、
彼女にも優しく接した。

村のダンスパーテイーの夜、
女の子の帰りを待ち伏せたジャンは
草むらに彼女を誘った。

この娘の”おばさんは冷たい人よ”と言う言葉に、
ジャンは”そうでもないさ”と
一緒に暮らしてみて、一見とっつきにくいこの夫人の
弱さ、優しさを感じていた。

その夜、町で買ってきた新しいネグリジェを着て、ジャンを
待つが、すっぽかされて、夫人は憤怒し、
翌朝、出て行くように言い渡す。

    ”どこにいたの?”

  ”知ってたんだろ?
     他の人に嘘はついてもあんたには言えない”

   ”あの子のどこがいいの?”

   ”若さだ”

   ”正直ね。ひどいわ、
      老いたわたしをその気にさせておいて
     否定するなんて”

         と彼女は涙ぐんだ。

だが、
黙々と孵卵器や、時計を修理するジャンに、
夫人は機嫌を直した.。

のどかに橋のそばの洗濯場で洗物をする夫人に
村人の好奇の目は光る.
動じる夫人ではない。

孵卵器の使い方をじっと試していたジャンは
ついに使用できるようにした。苦労の成果である。

”これで儲けて、運河も買い取れ、
妹に土地を取られなくて済む”と
ジャンは大喜びで、夫人を抱き上げた。

そのころ、義妹夫婦は街の警察署にいた。
娘に盗ませたジャンの身分証を見せ、
お尋ねものではないかと密告していたのだ。

夜になるとじっと何かを訴えるような眼差しを
向ける夫人にジャンは、今夜も夫人のベッドにいた。

外にはトラックが静かに近づいてきた...

白々と夜は明ける....ふたりはじっと見詰め合っていた。

辺りは妹夫婦の密告によってやってきた警官たちに
包囲されていた。

娘は状況を知らせに飛んできた。

ジャンは持っていたピストルを握り、
止める夫人に別れを告げ、
表に飛び出した。

美しい田園地帯を駈け、逃げるジャン。
フィリップ.サントの音楽も哀しく美しく。

騎馬警官によってじわじわと
追い詰められ、
逃げ追うせるはずもなかった。

銃弾を逃れ、
ジャンは再び、嗚咽を堪え待つ夫人の家に戻った。

家の外に出ろというジャンに、

”嫌よ、自分のうちよ”と彼と共に行動する覚悟の夫人。

呼びかける警官の声に、
夫人は
   ”本名ラピニエール??”と聞いた。

そして、威嚇するように穴から外へ向けて発砲したジャン・

★この数分の間にふたりのこころはしっかりと
結ばれたと私は思っております。★

出て来いという警官の呼びかけに、
夫人は”出てはダメ!”とジャンを制した。

見詰め合うふたり。。。

ジャンは夫人を巻き添えにしたくなくて
表に出ようと....止める夫人。

そして、何かを言いたかったが、それは言葉にならなかった。

最後のキスをして、飛ぶように外に出たジャン....

打ち込まれた銃弾が孵卵器に火をつけた。

飛び出た彼には銃弾の雨が....

そして家の中にいた夫人にも散弾はあたり、
何のためらいもなく彼女は愛に殉じて逝った。

やっと自分の選んだ愛への喜びの死であった。
メラメラと炎は家を焼き尽くしていった....

ジャンの安らいだ死に顔は満足そうだった。


ジャンは12年前に、レストランで食事をしていて、
不快な政府の高官ふたりを、ただいらいらしたというだけで
殺し、投獄されていたものの脱獄し逃走していたのだった...


★
ドロンの魅力のひとつは、
悪に生きて殺されるという きわ に光る。

愛に燃え、苦しんだが、
穏やかな田園地帯の毎日は、
夫人にとっては、
死んだも同じ今までの日々の中で、
一生を取り返したに値するほどの
ものであったと思う。

ジャンも若い肉体を求めながらも
夫人の送るメッセージを
最後の最後に受け止め彼女を守ろうとした。

まさにシモーヌとアランのそう言った意味での対決でした。

ベテラン女優に決して劣ることなく見せた
アランの哀愁はここでも
見るものを惹きつけて離しませんでしたね。

ドロンとシンヨーレは映画デビューから、
不思議な因縁に結ばれた
同門同士なのである。

シモーヌの最初の夫、イヴ.アレグレ監督に
ドロンを推薦したことが
ドロンが映画デビューするチャンスを作りました。

アレグレ監督門下の先輩、後輩の関係だったのです。

ドロンは優れた男優達との共演でもいろんなものを
吸収しているが、この大物女優は
彼、ドロンにとっては、特別な存在なのである。

ジーッと今までの人生を堪えてきた夫人を
貫禄と重厚な演技でこなすシモーヌの心情を
じっくりと味わい深く受け止めた愛の名作だと思います。

★、この作品はなんていうのかな...
つまり、ドロンはドロンの役柄として、ひとつのパターンを
背負って、そして、そんな彼の前に、年上の薄幸な女性がいた。

シモーヌはシモーヌで、
完全に自分の領域の芝居の中に居る。

そして二つが結びついてひとつのドラマになった....

という風にも見えるのですね。

抑制された中の
ふたりの芝居の見事なハーモニーとでも言おうか。★

だから重みのある作品になっていると思うのです。

(仕立て屋の恋)、≪燃えつきた納屋≫。
(メグレ警部シリーズ)《離愁》もそうかな。
ジョリュジュ.シムノン原作を情感豊かに
描いた大好きな作品です。

ピエール.グラニエ=ドフェール監督は美しい景色の
描写、二人の雰囲気描写にも卓越した手腕を見せています。

さて、ドロン特集第一夜、如何でしたでしょうか。
ココでの日記を読まれて、

ドロン様ファンになっていただきたいのですが、
わたしのメッセージはうまく伝わっているのかなあ??



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: