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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家
小津作品<お早よう>。
うちにテレビが登場したのは昭和33年だったか、
当時、皇太子のご成婚の前の年だったと思う。
その前は、東京の叔母の家に夏休みだの、春休みに
遊びに行っていたころ、
まだ、街頭のテレビが公園などにあって、
その時、初めて観たと思う。
三種の神器といわれたテレビ、冷蔵庫、洗濯機が
出始めた頃で
昭和34年作の小津安二郎の作品≪お早よう≫に
この頃の様子がよく描かれている。
ご近所のお宅にお邪魔してみんなで、大相撲を鑑賞する
光景があちこちで見られた時代である。
子供達がテレビを欲しがって、買う買わないで
ちょっとした事件...。子供達がハンガーストライキを
起こし、
厳格な父も終いにはついに買ってしまうという
ユーモアを交えながら描いた作品である。
文化住宅?と言ったっけ。
昔で言えば長屋なんだけれど、
同じ作りの平屋の家が何軒か...そう社宅のような建て方で
固まっている。
その隣近所の関わり、お付き合いの中で、
誤解も生じたり、
他所のお宅の内情が見えそうで、見えないあたりも
上手く描かれていて、懐かしい。
ある一家に、叔母に当るおねえさん(久我美子)が
同居していて
会社から帰ってきて、”どう?若乃花、勝った?”と聞くと
お向かいで見てきているのに、”知らないよ”と
答える子供達。
お向かいに見に行くのを母親に止められているから
答えられないのだ。
この頃の小津作品に必ず登場した洒落た団地も登場する。
お向かい、ご近所5件の家のお付き合い、関わりを
さり気なく描いているが
若い方たちが観るには、
市井の人々のこの頃の生活が
非常にわかりやすいと思う作品です。
12歳のお兄ちゃん役の男の子、設楽幸嗣は
当時人気の子役(黄色いカラスに出演している)で、
小畑やすし、鰐淵晴子、松島トモ子といった子役達と
同時期に活躍していた。
少女、少女ブック、少女クラブ、なかよし、といった少女雑誌、
少年ブック、少年クラブと言った男の子用の月刊誌が人気で
そのグラビアなりを飾っていた。
そして、登場する押し売りの類。
石鹸、歯ブラシ、かみそりを売って歩く人たちが
うちにも現実に来ていた。
今の訪問販売と違って、ムショ帰りだとかの強面の
おっさん達であった。
これもしっかりと登場している。
そして、子供達は、テレビだが、ご婦人方は、洗濯機が欲しい。
町内会費の徴収で渡したの、貰ってないなどと揉めたりと、
うん、あった、あった、そんなこと。
さて、ここでもお着物は、しっかりと普段着として登場。
三宅邦子、杉村晴子といった常連さんに
長岡輝子などが小津好みの紬をさらりと着こなし登場。
何時ものように無地や、格子柄、縞柄と言った味わい深い
紬である。
茶羽織というものがその頃はやっていて、
着物の上に短い羽織を羽織って、白い前掛けをしている。
真っ白な割烹着も登場する。
ちゃぶ台に火鉢、白い笠の白熱球、茶箪笥。
アルミのお鍋で、おみおつけを・
その頃はセーターなど、
私たちも母の手編みを着せられていたが、
ここでも男のふたり兄弟はお揃いの母の手編みのセーターを
着せられている。
父(笠 智衆)はテレビ、テレビという子らに、
贅沢だと、厳格に説教するが、子供達は、ある程度までは
口答えをするがそれ以上にはならないところで黙る。
まだ、親の権威が残っていた。
”男はぺちゃくちゃとしゃべるものじゃあない!”。
子供達は二日でも、三日でもしゃべらないぞ!
テレビを買って貰うまではとハンガーストライキと、
だんまりに出る。
母(三宅邦子)は”その方が良いわ、静かで”
とさらりとしたもの。
おねえさんがお土産に銀座でケーキを買ってくる。
今では珍しくもないが、その頃は特別の日だけだった。
お隣のご主人が電気屋さんに勤めていて、
しきりに掃除機を勧めたりと世相が反映していて面白い。
”月賦でもよろしいですよ”と、
月賦と言う言葉も懐かしい。
だんまりを始めた事から、ご近所にも
お早よう の挨拶をしないことから
大人の誤解を招くことに発展したりと
静かな間違った思惑が広がる。
面白いのはこんな文化住宅の各家は
いつも整然と片付いていて、散らかった家がない。
日本人は清潔好きだと言われるが整頓好きではないと
思う。
現実には片付いていない家のほうが多い。
だが、小津作品に登場する家の中は、
どんな貧乏所帯でも整頓だけはきちんとされているのも
興味深い。
これといって、盛りあがりがあるわけではないのが
小津ドラマである。
昭和20年代、30年代、と作品それぞれに
きちんと、その生活水準や、生活様式が描かれている。
それを見れば大体年代が、想像できるのである。
小学校での授業の中で
赤銅鈴の助や月光仮面といった言葉が出てくる。
だんまりを決めたふたりは授業中もだんまりを通し、
ハンガーストライキをして、空腹も限界に来たふたりは、
お結びを作り、アルミのやかんにお水を入れて、
河原の土手で食べるいじっぱりはほほえましい。
反抗もこれぐらいのものまでは可愛いものだ。
学校でもしゃべらないのを心配した担任の教師が
訪問するが、笠オヤジは”びしびし,ひっぱたいてください”と
教師に願う。
家庭と学校の関係もこの頃は信頼関係にあったことが分る・
学校の給食費を母に意地でも言えないお兄ちゃんは
家族にゼスチャーで伝える。
これもNHKで当時人気番組だったゼスチャーを
思わせる。
夕飯時になっても帰ってこない子供達を
近所の団地に住むお兄さん(佐田啓二)が
探しに出かけ,二人を連れて帰ってくる。
”駅前の街頭テレビを見てましたよ。”と。
結局、大きな箱に入ったテレビが父によって届けられるのですが、
喜ぶ子供達に
”しっかりと勉強するんだぞ!”と言う父に
きちんと”ありがとう、するよ!”と答える。
チビは”愛してるよ”とテレビで覚えた言葉を発するのであった。
我々世代の人間にはとても落ち着く作品です。
その時代の人が、その当時の世相を
描いているからうそや矛盾がないのだ。
12月にBSで放送されます。
どうぞ、ご覧になってくださいね。
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