旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

ギャバンの≪現金に手を出すな≫


≪現金に手を出すな≫

女優と違って男優は年を経ても年相応の役を自然にこなし、
またそれが魅力ともなる.

女優はそれがなかなか難しいのはわかる。
だから永遠の処女といわれた原 節子が40代前半にして
引退したのは男性フアンにとっては淋しいが永遠に
その容貌容姿が脳裏に焼きついているから却っていいという声を
聞いた。
だから、主役級の女優が年を取っても若作りをして
UPに耐えないさまをテレビで見るとなんともいい難い思いをする。
やはり年相応の役をするのには相当の覚悟が要るのだろう。
しかし男性でもそういう役者がいた。

旗本退屈男の右太衛門さんである.
さすがに晩年映画でこそ退屈男はやらなかったものの
60ン才で白塗り仮面をテレビでやってしまった.

皺の中にドーランが入り込んでみるに忍びないという思いをした。
どうしてもっと年相応の役をやろうとしないのか.
年を取ったとて、人生の深い味をたたえたいい役がいくらでもあるのに..。

現にフランスのジャン.ギャバンがそれを見事に実証している。
望郷のぺぺの頃はまだ若若しくて男臭さの魅力があった。

今日紹介するのは
≪現金に手をだすな≫ーーゲンナマと読んで下さい。

颯爽という威勢の良さはないが
かわりにどっしりとした貫禄が出て、年輪の重さを感じさせてくれる。
近年ではショーン.コネリーがこういう役の変わり身が自然体で
そして前よりも魅力を増すといういい例である。

この映画ーー決してギャングものらしい派手なアクションでは
勝負をしていない.
同じギャングでも、すでに盛りを過ぎ、老境に近づいた
几帳面なギャングの生活感覚が随所に出ていて
実に面白い。

毎晩寝る前にきちんとパジャマに着替え、歯磨きを丁寧にする.
こんな老ギャングの描写など今まで見たことがなかった。

主題曲の”グリスビーのブルース”は最高だぜ!

ストーリー

巴里オルリー空港から五千万フランの金塊が盗み出された。
マクス(J.ギャバン)と、リトン(ルネ.ダリー)の
二人が組んでの大仕事であった.

二人ともすでに盛りを過ぎ、これを最後に平穏な暮しに
入ろうという算用、それがうまく成功したのだ。
だが人の好いリトンはあまりの嬉しさに
クラブの女給ジョージ(ジャンヌ.モロー)に喋ってしまったのだ。

彼女の情夫、麻薬密売のボス、アンジェロ(リノ.バンチェラ)
はその話を聞き、リトンを脅かしてその塊をせしめようとした。
しかしマクスは危うく難を逃れたリトンを自分のアパートに
匿ってやる。

男所帯のマクスは、パジャマに着替えさせ、最後には歯ブラシを
与えて歯を磨かせるのである。

そして、アンジェロに知られた以上、金塊を早く現金(げんなま)に換えてしまおうと相談する。
翌朝、
マクスは叔父の事務所に金塊の売りさばきを頼みに行く。
叔父も心得ていて、近日中に3千万フランを渡そうと
言ってくれた。
だが、アパートに帰るとリトンはアンジェロに拉致されていた.

マクスはリトンの間抜けさに歯ぎしりをしながらも、
見殺しに出来る性格ではなく、せっかくの金塊をアンジェロに
渡すのである。が卑怯なアンジェロは、引き返すと
見せかけて、別の子分にマクスを襲わせた。
老いたりとは言え、マクスはイカッタ!

逃げるアンジェロの車をめがけて発砲し、激しい銃撃戦になる。
リトンは敵の銃弾に倒れた。アンジェロの車も炎上!
車中の金塊は諦めざるを得ない。なんと言う詰まらないことだ!
骨折り損のくたびれ儲けならまだしも、
リトンは命を落としてしまった。

マクスの肩は沈むのである。
しかしマクスは何も言わない。
ただ、老眼鏡をかけて黙って街へ出ていくだけであった。
そんな彼にはもはや、夢も希望もない.
ただ、男だから愚痴を言わないだけだ。

初老のギャングの寂しさが伝わってくるのみだ.

見所はやはりギャバン演ずる老ギャングの圧倒的な存在感に
尽きる。

どこかとっつきにくくこわもてだが、礼儀正しく、朴念仁に
見えてちゃんと女性にもてている。

ギャバンにしびれるかどうかの映画である。
ギャングを演っても、刑事を演ってもサマになる彼の魅力は
人間臭いという一語に尽きる。フランスのギャングは
アメリカ映画に登場するギャングと違って一味もふた味も違う
面白さがある。
若き日のジャンヌ.モローが輝いている。
ギャング映画の佳作以上、上等作である.

制作  仏 1954年度
監督  ジャック.ベッケル






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