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2005.01.22
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カテゴリ: 雑記





家のお庭につながれていたけど、

どこからかふらりとやってきた「おとうさん」と

恋におち、ぼくらがうまれた。


「おとうさん」は、ぼくらがうまれてからもしばらくやってきていたけれど、

おかあさんのご主人の「さいとうふじん」がひどくいやがって、

「おとうさん」をどっかにやってしまった。


「おとうさん」はもう生きていないのだと、

いつだったかおかあさんは涙をこぼした。



おかあさんは「さいとうふじん」に喜んでもらおうとおなかを見せたんだけれど、

「さいとうふじん」は、大きくなったおなかをみて、

「あらあらあらあら いやだいやだいやだ どうしようどうしようどうしよう」

と言うばかりだったそうだ。


おかあさんは、「ざっしゅ」のなかでは美人なほうで、

「さいとうふじん」はおかあさんにとてもよくしてくれていたのだけれど、

おなかが大きくなると、

きゅうに態度がかわってしまったのだと、ぼくらに話してくれた。



いやらしい犬だよ、ほんと。

拾ってやった恩も忘れて、この雌犬が。



どうしてそんなふうに、「さいとうふじん」が怒ってたたいたり、よこっぱらをけったりするのか、

おかあさんにはわからなかったそうだ。


いやらしい、ってどうゆうことだろうね、と

おかあさんはよくさみしそうに言っていた。



かあさんは、おまえたちがほしいと願ったわけじゃないのよ。

だけど、おなかが大きくなっていくうちに、なんだろうね、

こう、いとおしいっていうか…

まだ会ってもいないのにね、おかしいのだけど。


うまれてきたあんたたちは、それはそれはもうかわいくて、

玉のようで、

さいしょは目もあけらんなくて、なんにもひとりじゃできなくて、

ああ、あたしが守ってやりたい、って、そう思ったのよ。


おかあさんはぼくらのかおをべろべろなめながら、よくそう話してくれた。



おかあさんがゆいいつしんらいできると言っていた、

おとなりの、けっとうしょつきアフガンハウンドのピーコさん

(すいてい60さい。いつだったか真っ赤なちゃんちゃんこを着せられていて、おかあさんが「ピーコも、もう、かんれきなのね…」と、ためいきをついていた。)

が、ある日ぼくらのかおをみながら言った。



おい、そこのちっちゃいの。

とくに、その哲学的な顔した奴。

よくきいておけ。

おまえが生まれてきたのに理由なんかないさ。

これから先、

自分はなぜ生まれたのかなんて問うなよ。

卵はいくつもあったのさ。

たまたまお前の卵が孵っただけのこと。

だがな。

愛された記憶だけは失くすなよ。

なにより、それが真実だ。



ピーコさんは、ねつっぽく語っていたが、

ぼくには、むずかしすぎてよくわからなかった。


ぼくは、ばかなのだと、さいとうふじんも言っていた。


ぼくの兄弟は、うまれてしばらくしてから、よそへもらわれていった。


あまり「さいくのよくない」ぼくだけ、もらい手がなくおかあさんのもとに残った。



こんなばか犬、よそにくれてやればよかったのに!



「さいとうふじん」は、ぼくのよこっぱらをけって言った。



ばか、ばか、ばか!



「さいとうふじん」はなんべんも言ってぼくのよこっぱらをけった。


いっしゅん、息ができなくなって、ぼくはしんでしまうんだと思った。



ぼくなんて、いなくなったほうがいいのかな。



ぼんやりと、白くなっていくなかに、ピーコさんがいた。


ピーコさんは、5日前に死んだはずだった。


ピーコさんの周りには、きれいなももいろの花がたくさん咲いていた。



ピーコさん、きれいだね。ぼくもそっちへ行きたいよ。



ピーコさんは笑っていた。

ぼくはそのかおを見たことがあった。

お家のなかにあった、ぴかぴか光る「かんのんさま」ってやつだ。

その「かんのんさま」みたいなかおで、ピーコさんは言った。



どこも一緒だ。

どこにいても、自分は自分なのだから。



わからない。

わからないよ、ピーコさん。



目をあけると、おかあさんが泣いていた。

そのかおを見て、ぼくはこちらにもどってこれてよかったとしんそこ思った。

むずかしいことはわからないけれど、

ぼくは、ぼくのたいせつなひとを、泣かすのだけはいやだと思った。








おかあさんが死んだ。



「さいとうふじん」は生きている。





今日も、スーパーの入り口にぼくはつながれている。

ここにつながれているのは、ふあんだ。

「さいとうふじん」が買い物をしている間、ぼくはここにいなければならない。

ぼくにきづいたひとたちが、あたまをなでたり、むりにおてをさせようとしたり、

なんだかよくわからないものをなげてよこしたりする。



だれがいいひとで、だれがわるいひとかなんてわからない。



ぼくの尾っぽはしぜんと、またの下へはいりこんでしまう。



店の電気がきえた。


ぼくのご主人はあらわれない。


ぼくの尾っぽはちぢまったままだ。




朝になった。


ぼくはいつのまにか眠っていたようだ。



ご主人はどうしたのだろう。




さんどめの朝がきた。


おなかがすいて、たつこともできない。



「かわいそうに、捨てられたのね」



誰かの声がした。



ぼくは捨てられたのか。



どうでもいいや、と思った。


なによりぼくははらぺこだった。



ひとまず、ぼくをつないでいる紐をひきちぎった。



どこにいても。


ぼくはぼくなのだ。



ふあんはなかった。

とてもいいきぶんだった。



生きてやる。


生きてやる。



はじめての感覚だった。


胸のおくから、ふつふつとわいてくるものがあった。




かあさん、


ぼくをうんでくれてありがとう。



ぼくは生きる。


生きて、


生きて、


生き抜いてやる。




遠く、おかあさんやおとうさん、兄弟たちに聞こえるようにと

僕は

おおおおおおおおーんと、

遠吠えを繰り返した。










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Last updated  2005.01.28 20:44:02
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乗らない騎手@ ちょっとは木馬隠せw あのー、三 角 木 馬が家にあるってどん…
繭姐@ 一瞬・・・ 朔太郎かと思いました(笑)。竹林の地…
no name@ Re:哀しき声(05/17) あぁこれは好きです。 私に近い感じが…
にやたろう @ Re[1]:無題(12/13) 座禅鼠?さん >(さ)がきになるますね…
にやたろう @ Re[1]:去る日のゆくえ(03/23) 座禅(ツェ)鼠?さん >静かに降り積も…

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