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-小麦粉記-
図書曲スケルツォ・・
最後にのこったりんごが、こくんと喉を落ちて行った。
「い、池ノ内。おまえ、今…」
誰かに揺り動かされたとおもって目を開けたらりんごをくわえた池ノ内がそこにいて、そのままりんごを食べてしまって、くちびる同士がくっついて。
キスだ。
池ノ内は、熱でも出したんじゃないかっていうくらい赤くなっている。風邪、うつったんじゃないだろうかと心配になった。
「先輩」
「・・・・・」
「先輩はいまわたしとキスをしました。しましたね。それはもうばっちりと」
しました。というより、されました。
「責任とってください」
・・・・・責任を、とれ?
「そもそも先輩がわるいんですよね。人をその気にさせるようなことばっかりやって。世話やいてくれたり、頭なでてきたり、帰りに送ってくれたり、小説みてくれたり、そんなことばっかりやってえさちらつかせて、いざわたしがえさにくいついて、キスしたって言うのに、その後なんにもかわりがないし」
あのときの、ゲリラキスか…。だってどうすりゃいいていうんだよ。
図書室でうたたねしてたらいきなり後輩にくちびるうばわれちゃったって俺はどうすりゃ良かったっていうんだよ。襲っちゃえばよかったのか?
「さぁ先輩。後には引けません。選択肢二つです。わたしと縁を切るか。このままわたしに襲われちゃうか」
そういって池ノ内は化粧台の引き出しを開けやがった。なにがはいってるのかくらいは覚えている。
まだ力がはいらない体を無理やり起こして布団から這いだす。悪寒と、頭痛が、一気に来た。こいつは、いま、どういう状況かわかってるのか?
「だって先輩、先輩、何にもしてこないんですから。あんなことしたのに、ふつう怒るとか、勢いに任せてやっちゃうとか、そういう行動するとおもったのに、何にもしてこないし」
こいつは、いま、キスされた直後の俺が、どういう状態か、わかってるのか?
俺が今、俺と池ノ内しかいないアパートの一室で、限りなく危険な状態にあるのが、わかってるのか?
「先輩、私って、魅力ないですか?やっぱりムネとかあったほうがいいですよね。先輩は、私のこと、女の子として、みてないですよね?別にいいですけど、だって、こんな状況でも、先輩は」
引き出しをがたがたするのをやめて、背中で俺に話しかける池ノ内の肩を掴んで、振り向かせる余裕がなかったからそのまま引きずり倒した。
「きゃっ」と倒れこんだ池ノ内をあおむけにひっくり返してそのまま肩を抱きながらおおいかぶさる。ごうごうと体の中で火が燃えてるみたいにあつくて目の前が白くなりかけるのを必死でとどめて、右手を池ノ内の頭の下にもぐりこませた。左手は肩を抱いたまま。
俺の体の中で、池ノ内の体がビクンとふるえて、ガチガチにこわばった。体を起こしてすきまを作ると、縮こまってぎゅっと目を閉じている。さっきまできわどいことをいっていたくせに。
朦朧としているけれど、意識はしっかり池ノ内を捉えている。ただ一つだけ、今の行為に言い訳できるとしたら、熱のおかげで、ぐちゃぐちゃした、非道い、最低な、裏切りの、欲にたぎった今まで抑えていた感情がどろりとあふれてきたことだろうと思う。決してうかされてなんかいない、普段から溜め込んだ、池ノ内という小さい後輩に向かっていた、征服的な欲求が。
でも、引き金を引いたのは、池の内だ。
小さくなって震えている池ノ内を抱えたまま布団に移動して、乱暴に池ノ内の唇をなめる。わずかな抵抗を押さえつけて、キスなんていう多少ロマンティックな響きが入る好意ではなく、欲望そのままなめる行為を執拗に繰り返す。池ノ内から、すこしだけ香水のにおいがした。それを吸い込んでから、俺の顔を遠ざけようとする手を掴んで、万歳させるように押さえつけ、片手で両手を拘束した。じたばたしていた足も、ひざを使って、それでも一応痛くはないように押さえつけて、無防備な格好にさせた。俺の拘束に抵抗しようと体を動かすけれど、池ノ内ごときの力で俺の力にかなうわけもなく、逆に嗜虐芯を掻き立てる。
あぁそうさ。
池ノ内のことをずっとこうしたいと思っていた。
はじめ出会ったときの、妹みたいに思っていたやさしい感情はもうほんの少ししか残っていない。池ノ内の小説を読んで、池ノ内が一生懸命原稿用紙に鉛筆を走らせているのをじっとみつめていた。小さくて、努力家で、意地っ張りで素直じゃないのに、ときたま無邪気に、俺のことを信頼した顔を見せやがる。その信頼されている顔を見せられなかったら、きっともう少し早く、そう、あのキスされていたときには、図書室でこうなっていたかもしれない。
必死に抵抗している池ノ内の目から涙が流れた。顔は羞恥で真っ赤で、それでも声をだしていない、俺の唾液にまみれたくちびるからは荒い息がこぼれている。
池ノ内が悪い。
ゲリラキスを仕掛けてきて、そのあと抱きしめたのだって、ほとんど限界だった。
池ノ内が、欲しくて、たまらない。
早智子先輩にはいだかなかった、むき出しの性欲。
愛と性欲は両立できない。今の俺は、池ノ内のことを愛してなんかいなくて、その小さな身体はいとおしくなんかなくて、欲情の対象でしかない。
ただそれが、その辺の女に抱く欲情じゃなくて、特別に高ぶる欲情だ。
俺は、池ノ内のことが、好きだ。
その好きの派生した先が先輩に抱いたような「愛」ではなく、「性欲」だったという話。むしろこっちのほうが自然だ。「愛」なんて、そんなの、繁殖に必要ない。愛がなければ妊娠しないわけじゃない。より多くの子孫を残すために、ただ一人にささげる「愛」なんて邪魔だ。だから池ノ内、俺は…
ずっと溜め込んできた、表に出さなかったなにかがどんどん溢れてくる。
汗をかいた首筋をなぞって、胸へと手を下ろしてゆく。初めて池ノ内が目を見開いて「だめです先輩…そんな、だめ、まだ、せん…」と懇願する。たぶん無表情になっている俺はそれを無視して、池ノ内の薄い胸に手を乗せた。小さくても、十分柔らかい。ブラジャーの感触が手のひらに残る。池ノ内の顔は、これ以上ないくらい赤くなっていて、布団にしみを作るくらい涙を流して俺から目をそらしていた。
胸から手を離して、あごを掴んでその顔を無理やり正面にさせる。
「なぁ池ノ内。だれが、だれを襲うって?」
話しながら、ひざで足を割り開く。「あ、あ、あ…」と言葉にならない悲鳴を池ノ内があげた。
「お前は俺に何を求めているんだ?キスをしてみたり、襲っちゃうなんていってた割りに、こんな風にされて涙流してるじゃねえか。…お…ぃ。お前は俺にどうして欲しいんだ?俺は、他の男どもがするような恋愛なんてできないぜ?愛しているか、いまのお前みたいに無理やりにでも襲うか、どっちかだ。お前はどうされたかったんだ?ふつうの男連中にされるみたいに、やさしくキスされてみたかったのか?好きですって言って、まずは手をつないでみたり、デートで映画を見に行ったり、喫茶店にいってみたり、一日中とりとめのないことを話してみたり、そういうことをして欲しかったんだろ?今まで俺がやってきた「部活の先輩」じゃ物足りなくなって、キスしてみたりしたのか?いいぜ、池ノ内、俺はお前のことが好きだよ」
それまでおびえきった表情の池ノ内が、最後の一言を聞いて凍りついた。もっとも言って欲しくなかったことをきいたのかのように。その表情を堪能しながら、あごから離した手を無残に開かれた池ノ内の足に滑らせる。予想以上にすべすべしていて、みずみずしくて、小刻みに震えていた。
もう冗談じゃ済まされない。
部活の後輩に、しかも二つもしたの後輩にこんなことをして。なにより、もう、俺が気持ちよくて止められない。中学のときにこういうことをした奴らよりも、ずっと気持ちいい。池ノ内を力で押さえつけて、それだけでもうどうしようもない。
制服を乱暴にたくし上げて、下着をさらす。中学生みたいなスポーツブラを押し上げる。池ノ内の呼吸が止まり、その隙にもう一度、今度はうつぶせになるようにひっくり返す。布団と胸の間に手を滑り込ませて、ほとんどない胸を、なでる。
いつも見ていたポニーテールは乱れてそのしたのうなじも赤く染まっている。一番気に入っていたうなじに顔を押し付けて、池ノ内の匂いを吸った。池ノ内の肌を味わった。胸への刺激とうなじの刺激があるごとに、池ノ内の体がぐっ・ぐっ・ぐっとびくついた。
「池ノ内…お前、今日は、どうするつもりだったんだ?いきなり押しかけてきて、きわどい言動をしてみたりして、俺がその気になったら泣きながら、今こうやって俺にされてる。想定外とは言わせないぜ池ノ内…あれだけ誘うようなことしておいて、さ。もうとまらねぇぞ、俺は。もうとまらねぇけど、ほんとは俺にどうして欲しかったのか、言ってみろよ」
全部、砕いて、奪うから。
「あ、わ、わたしは、ただ、」
手で、下着の上から感触を確かめる。いつの間にか池ノ内の抵抗がない。
「わたしは、先輩に、ふつ、うの男の、子みたいな、ことを、して、欲しかった、んじゃ、なくて」
ビクンと一ひときわ池ノ内が震えた。
「そんなの、せんぱいに、してほ、しかったんじゃなくて、」
俺のアレは、もうどうしようもないくらいぎちぎちで、池ノ内のお尻に当たって震えている。
「せんぱい、に、きすしちゃった、のは、そんなの、じゃなくて、」
目の前が、なんでか曇ってうく。熱が上がったらしい。体も思うように動かないのがもどかしい。腹が立って、腹が立って、池ノ内をあおむけにして、パジャマの上をはだけて、胸と胸とを密着させて、というより、倒れこんで
「でも、せんぱいに、そういう、ことしちゃった、のは、ぁ、せんぱいの、こと、みてて、どうしよう、もなく、なっちゃって、」
まだ池ノ内の体を味わいたいのに、体が言うことをきかない。ココロが行くことを聞いてくれない。土壇場で、池ノ内の、信頼した顔が浮かんできて、小説を読んで、直しあっているときの、池ノ内の本気の顔がみえてきて、俺ができる限りの小説の技術をおしえて、それに全身で反発しながらどんどん文が上手くなっていく池ノ内が、そして、もともと持っているストーリーがどんどん的確に言葉で表されて、池ノ内って言う人間がわかってきて、それが楽しくて、楽しくて。
池ノ内っていう人間に惹かれていって。
「小説、を、している、ときが、いちばん、よくて、せんぱいと、でしかできない、ことだった、し」
池ノ内とでしか、あの時間はできなかった。
「もっと、せんぱい、と、いっしょに、したくて、もっとせんぱいのこと、しってみたくて、だってせんぱいのこと、すきだった、すきになっちゃってました、から、」
池ノ内の胸をさわっていた手は、いつの間にかシーツを握り締めて、のどが、つまって
「でも、なんだか、あせっちゃったみたいですね、わたし。せんぱいにふれたら、そうなれるっておもってて、キスとかしたら、先輩もそのきになってくれるかも、なんて思ったりして」
詰まったのどから、なぜかおえつがこみ上げてきて
「わたしはただ、先輩と、もっと小説したかっただけなんです。先輩とでしかできなかったから。先輩と、小説、したかったんです」
俺は、池ノ内にこんなことをしたかったのは本当だけど、でももっと別のことが、一番、池ノ内としていたかったはずねのに、だから、進路のことも、考えて利子たって言うのに、
「ごめんなさい、先輩、先輩の望んでた女の子じゃなくて。でも、」
もう、じょうだんじゃないことをしてしまって。あぁくそ、ねつで、頭の中が暗くなってくるし…
「でも、わたし、小説できなくても。もう、先輩のこと、愛しちゃってるみたいですし、先輩となら、しても、いいです」
池ノ内の腕の中に抱かれる感触の中で、視界がどんどん暗くなっていって、ぐーっと、意識が、真っ暗の中に、落ちて行った。
「俺も、池ノ内と、小説、したい」
そういえたかどうか、自信がないままに。
ひどい寒気で目が覚めた。
布団はしっかりかぶっていて、汗もだくだくと出ているのに、ばかに寒い。こんなに寒気がするのは、何年ぶりだろう。背骨を引っこ抜かれてに氷の棒を入れられたみたいだ。
誰かが額に乗っていたタオルをとって、新しいタオルをしぼっておいてくれた。体は悪寒でどうしようもないけれど、ひたいいのたおるだけは気持ちがいい。
「先輩…?起こしちゃいました?」
薄く目を開けると、見慣れた後輩の逆さになった顔が、俺のことをのぞいている。なんで池ノ内が、俺の看病なんかをしてるんだ?と考えて十秒。十秒も思い出さなかった俺、重病。思いだした俺の罪状、後輩に対する欲情。
「あ、黙っててください。動かないで、そのまま、じっと、布団の中でねてやがりください」と池ノ内に布団の中に押し戻される。
「はい先輩。口をあけて」
なんだかよくわからない。たしか俺は、池ノ内に…。それがなぜ、どうしてコイツは俺の口に「ふぅふぅ」さましたおかゆを食べさせようとしてるんだ?
「早く、口をあけてください」
「池ノ内、おま、はぶっ、ん、ん、ん、んくっ」
しゃべるまもなくおかゆを流し込まれた。味は「焼き味噌卵」。やっぱりおかゆにはこれが一番美味い…ってそうじゃなくて
「いけ、うむっ、ん、ぐ、ん…んぐ」
「どうですか?」
「いや、うまい、けど、お前…」
「ストップ。起き上がらないでください。うごいたらおかゆを顔面にこぼしちゃいますから」
俺はだまって、池ノ内も黙ったまま、おかゆを食い終えた。
食べさせてくれていた池ノ内の手は小刻みに震えていて、目は充血して、はれていた。
全部、俺のせいだった。
手にはまだ池ノ内の感触が残っていて、目には白い池ノ内の肌が焼きついていて、体には池ノ内のあったかい体温が残っていた。
あったかい、体温が。
入局した頃に、俺が池ノ内に言ったセリフを思い出す。
「お前は十分あったかいよ」と、俺を、俺としてみてくれた後輩にむけていったセリフ、そのセリフを、おれ自身で裏切って、きっともう、池ノ内は、俺に対して、冷たくなっている。
俺が何をしたのか、おれ自身でわかっているのに、それでもまだ池ノ内のあの気持ちよさで興奮できる下劣な俺が、憎らしい。
池ノ内が布団の横に座ったのが見えた。ぎゅっと堅く握られた手は力のこめすぎでひざの上で白くなっている。制服はしわくちゃで、髪も乱れたままで、ポニーテールはほどかれて、おろしている。
「先輩」
「池ノ内」
声が、かぶった。
「先輩、まず私が話します。黙ってきいててください。あと起き上がらないでください。…こわい、ですから」
こわい。
出会った頃のこわいとは違う、実経験を基にした、こわい。イメージでない、こわい。
「まずは…キスして、ごめんなさい。図書室のときも…さっき、のキスも、どうか、忘れてください。私が、悪いですから。先輩のこと、ばかにしてました。キスしちゃっても、いいよね。みたいな感じで、簡単に、キスしちゃって。わたし、男の人とつきあったこととかないから、キスとか、どういうものなのかとか、わかんなくて、先輩が…あ、あんなふうに…なるなんて、全然思わなくて、と「いうか、先輩に、わたしのことを女の子としてみてくれないっていってましたけど、逆にわたしが先輩のことを男としてみてなかった、先輩なら、大丈夫だと思ってたりして」
そう、俺はその信頼を、みごとに裏切った。
「先輩となら、そうなってもいいっていいましたけど、やっぱり、無理だと思います。今は、ちょっと、無理です。わたしは、今は、先輩と小説ができれば、それでいいです。ごめんなさい、先輩、その気にさせるようなことして、その上先輩を拒絶して…でも、先輩、私のこと、嫌いにならないでください…ね?わたしには、先輩しかいないのに、先輩に嫌われたら、原稿も見てもらえないし、的確な批評もきけないし、帰り道、寂しいし…ムチャいってるのはわかってます。でも、きっといつかは先輩とそうなれるように頑張りますから…今は、私と、小説、してもらえませんか?先輩とわたしだけができることで、がまん、してもらえませんか?」
「池ノ内、お前…」
「わかってます!ふつうだったら一刻も早くこの部屋をでて家に帰ってシャワーを浴びてベッドに突っ伏してしくしくするのが正解だし、先輩だって、そういうことしようとしたら抵抗されて泣き出した女のことなんて見たくないのだってわかってます!わたしが、ちゃんと、誘惑じみたことした責任とって、最後まですればよかったんですけど、ほんとに先輩に、その、されて、いやでした。こわくてこわくて、声も出ませんでした。ごめんなさい!でもっ!でも、でも、先輩だって言ってくれました!「小説、したかった」って!あんなことされちゃっても、その一言だけで、いいんです。今は先輩に立ち上がられるだけで大声上げる自信がありますけど、でも、わたし、先輩のこと、好きですから、小説っていう、先輩とでしかできないことを見つけちゃって、もう、他の人なんかじゃだめなんです!先輩とじゃなきゃ、ダメなんです!…先輩と、小説したいんです。こんな風にしたのは、先輩のせいですからね?わたしを、避けないでくださいね?」
「池ノ内、お前、何いってんのかわかってんのか?」
強姦未遂した男に向かって、嫌わないでくださいなんて、こいつは、あほうか?抵抗しちゃって、ごめんなさいだと?こいつは、あほうか?もう、だめだっておもってたのに、なんだってこの後輩は。
「いままでみたいに、いえ、いままでよりちょっと仲良く、やさしく、厳しくしてください。わたし、先輩のこと、好きなんですから。先輩もわたしのこと好きになって、好き好きの両思いになって、この出来事も昔そんなことがあったねって、笑えるようにしてください。先輩の、責任です。このまま一生トラウマ背負ってそういうことができない女にしちゃうのか、それとも笑って、今度は自然にそういうことができる女にするか、それは先輩にしかできません。というか、後者をえらばないと、わたし、ばらしますから」
そういう池ノ内のては、まだ、ふるえている。
「ふつうこういうのって、そういうことあってから三日くらいは間を空けてからするもんだと思うんですけど、間違ってもそういうことがあって三時間以内にすることじゃないと思うんですけどね?先手を打っておかないと、わたしが、だめになっちゃうかもしれなくて、たぶん、先輩にあえなくなると思うから…」
なんでこんなに、ばかなんだよ。俺が、全部、わるいっていうのに、こんな最低の俺に嫌われたくないなんて、そんなこと、まだ声だってちゃんと出せてないくせに、この、ばかは。
「ひとつ言っておきますけど、今回のことに罪悪を感じてむだにやさしくとか丁寧にとかそういうふうになったりしないでうださいね、いやですから」
俺なんかは、さっさと消えちまおうかとも思ってたのによ。
「…なに、なんで泣いてるんですか、先輩」
そりゃおまえ、俺が、情けなくて、お前が…だからだよ。
「池ノ内」
「はい」
こんな俺を、最後まで、俺としてみてくれて、お礼とか謝罪とかもうそんなんじゃなくて、一言、池ノ内に言える言葉を、投げかける。
「ちゃんと、カバンに、原稿入ってるんだろうな」
泣きはらした目で、池ノ内が、にっこりわらった。
「もちろんです、先輩。学園祭、あさってからですよ。小説、しましょう」
「小説、しようぜ、池ノ内」
雨降って地固まる、というわけにはいかないけれど、
局部集中豪雨土砂崩れのあとに地面の下から見つかった、絶対揺るがない「小説って言う岩盤」が、俺たちにはあった。
1日眠ったらだいぶ身体の調子が良くなった。
さすがにいろんな意味で、ほんとにいろんな意味で池ノ内を泊まらせるわけにはいかなかったので一旦家に帰して、昼から冊子の編集作業に入った。
「最後の章の始まり、文がくどい。もっと削っていい」
「えー、だってここけっこう大事な部分じゃないですか」
「読み手は頑張ってくれないぜ、池ノ内。大事な部分なら、もっと読ませるように工夫しろ。説明口調じゃめんどうでついてこないから、インパクトのある言葉を効果的に使え。この部分と、この部分の言葉なんかを」
「…そうですね。…わかりました。…そうします」
まだ熱はあるし、パソコンの画面が見にくい。だるさは取れたものの頭がガンガンしてうまく働かない。
池ノ内は俺からしっかり一定の距離を保って、「ムカツク」とこぼしながら原稿を持って行った。あらためて俺がやらかしたことと、池ノ内の、なんだろう、やさしさでもない健気さ?を認識する。襲われかけた先輩の部屋にとどまって小説の編集を続ける池ノ内は、別に神経が図太いわけじゃない。
─先輩のこと、愛しちゃってますから─
熱が、上がった。
─わたし、先輩のこと、好きなんですから。先輩もわたしのこと好きになって、好き好きの両思いになって、この出来事も昔そんなことがあったねって、笑えるようにしてください。─
熱が上がって、布団の中にぶっ倒れた。
─ばらしますから─
死にそうになった。
俺の机でカリカリ原稿に鉛筆を走らせている池ノ内に視線をやる。
あんな状況で、告白、かよ。しかもそういうふうにならなかったら、さっきのこと、ばらすって、あいつ、ほんとに、女の子だろうか。って、あいつが女の子だってう事は、繊細な女の子だって言うことは、さっき身をもって実感しただろ、俺。
「先輩、書き直しました」
たしかに、身をもって。実感、した。しかも、まだ、身体と脳味噌の一部は、実感したいと思ってる。くそ、こんなんじゃだめだめじゃねぇかよ俺!池ノ内は、こんなにまで譲歩してくれたって言うのに!
「先輩!」
「え?」
「だから、書き直しました。これで、いいですか?」
心臓がしぼんだ。あせってしまって、ろくに原稿に目も通せない。
「あ、あぁ、いいんじゃないのか?」
「…先輩、ちゃんと、読んでください。それ、別の原稿です。さっきから、その、わたしのことみてるから…」
「あ、うわ?っと、わり、ごめん。ごめん、池ノ内、」
池ノ内が、痛そうな顔をした。
「やっぱり、ムチャでしたよね。ごめんなさい先輩。これじゃわたしはただ先輩にストレスかけるだけですね」
「違う、池ノ内、そんなんじゃ」
「いえ、わたしが無理言ってただけです。ごめんなさい。無理やり小説しましょうなんていわせて、わたしのわがままでした。それじゃ、わたし、今日は、帰ります」
「ちょっと待て、いけ」
「さよなら、先輩」
パタパタと走って荷物をあ片付ける池ノ内の顔から、たしかに、なんかが、こぼれ落ちた。
このまま帰したら、もう、俺のところには、戻ってこない。
そんな確信があった。
行かしちゃいけない。
ガンガンと警鐘を鳴らすみたいに痛むからだの悲鳴をむしして、玄関で靴をはこうとしている池ノ内に追いついて、その手首を掴んだ。けど、それが、悪かった
手首を掴んだ瞬間悲鳴を上げて池ノ内は座り込んでしまった。
「…先輩、あの、ちょっと、はなれて…」
急いで手を離して二歩さがる。
「どうして、とめるんですか」
「…もう、戻ってこないようなきがしたから」と、素直に答える。安っぽいドラマみたいなセリフだとおもったけど、まっすぐ言った。
「…安っぽいドラマみたいですね、そのセリフ」
案の定突っ込まれた。
「あのさ、ちょっと、俺の話聞いてほしいんだ。そのままでいいから」
「…はい」
一回深呼吸をして、小説を書くみたいに、ゆっくりと、言葉を選んで
「正直に言うと、俺は、お前が信じられねぇんだ。大事な後輩を傷つけてしまって、もしかしたら、本気で惚れそうになってた女の子を傷つけて、もう二度と俺の前には出てこないだろうなぁって、思ってた。それがさ、向こうのほうから、避けないでくださいなんていわれて、素直に喜んでいいのか、わかんない。お前と小説を書きたいって言うのは本当なんだ。本当に、お前と小説書きたいと思ってる。今も、これからも」
「…先輩」
池ノ内が姿勢を直して俺のほうを向いてくれた。
「…ほんとに、悪いとおもってる。どうも、昔から、好きな女ができると、我慢できなくなるって言うか、そういうことしちまうんだよなぁ、俺。ほんとに、情けない。最低だって。でもさ、池ノ内。俺、いまお前にいなくなられたら、たぶんどうにかしてしまう。勝手な話だけど、お前がいないと、だめになりそうだ。軽蔑してもいい。こうやって話してるいまも、身体のどっかがお前のこと欲しがってる。さっきの続きがしたいと思ってる。男だし、俺、ばかだし。でも、俺、我慢するから。今は、どんな形であれ、池ノ内と関わっていたいんだ。小説を書いて、おまえと一緒に小説書いていたいと思ってるんだ!今の俺には、もうそれしかねぇんだ!言葉も足りなくて、感情もコントロールできなくて、ないないづくしの俺にも、たった一つだけ、小説だけがお前との接点なんだ。池ノ内だけの、接点なんだ」
いつの間にか、ぼたぼたと涙みたいなものが、玄関の床に落ちていた。声だって、ぐしゅぐしゅの鼻水声で、かっこわりぃ。先輩だって言うのに、後輩の前でなくなんて、情けねぇ!
「頼む!池ノ内!俺の前から、いなくならないでくれぇ!せめて、せめて小説だけでも、俺と付き合ってくれぇ!ください!」
頭が、玄関の床につく。俺、後輩に、土下座してる。なぎながら、叫んで、土下座している。
「お願いします池ノ内さん!許してくれとは言いません!だけど、俺の前からいなくならないでください!どうか、俺を、一人にしないでください!もう、惚れた人が、いなくなるのは、いやなんだ!いやなんだぁっ!」
何を口走っているのかは、わかってる。こんな、ぐちゃぐちゃな告白なんて、サイアクだけど
「どうかぁ!池ノ内の小説を、読ませてください!お願いします!今も、これからも、読ませてください!それ以上は、望まないから、たったひとつの、小説だけでも…」
「いやです」
頭をつけている床の木のすじが、六本だった。
全身から力が抜けることも、何かが爆発する気配もなかった。土下座したままで、時間が止まったみたいに、動けない。
「いや、です」
妙に冷静な脳味噌は、タイムラグをくれる余裕もなく、その言葉の意味を、確認した。
「…そ、うか。わる、かった。すまん、こんな、ところでよびとめて。気をつけて、かえってくれ」
と、血が出そうな胸から最後の言葉を搾り出した瞬間、ゴチン!と後頭部に何かが振り下ろされた。目から火花が散る。
「いやですよ先輩!(バシッ)なに、やってんですか!(バシッ)さっさと(バシッ)顔上げてください!」
一言ずつにぶん殴られるので顔を上げようにも上げられない。
「なに!(バシィン)後輩にむかって!(バシィン)土下座なんかしてるんですか!(ばしぃん)先輩ならもっとしっかりしてください!(バゴン)さきのアレの続きを無理やりするくらいの気概はないんですか先輩!(ゴツン)この、へたれが!!!!!」
ナントカ上げた顔を、思いっきりフルスイングでひっぱたかれた。ばちーんとめちゃめちゃいい音が鳴る。衝撃で横を向いた先にあった鏡に映っていた俺の顔には、ばっちりと池ノ内の手形がついていた。俺の左頬が、真っ赤っ赤だよ、池ノ内。ナイスビンタ。
「小説だけで終わりなんて、そんなのいやですよ!いったじゃないですか!わたしは、もっと先輩のことを知りたいし、もっと先輩と付き合いたいって。ほんとならわたしがうじうじしなきゃならないのに、どうして先輩は我慢できないんですかこのおたんこなす!こっちだって泣きたいのこらえて一生懸命告白したのになんですか先輩のこのざまは!後輩に向かって泣いて土下座して「どうかいなくならないでくださぁい」なんてばかじゃないですか!?あほうですね!先輩の様子がおかしいし、先輩の前にいたら、やっぱりストレスかなと思って、ほんとに泣きそうになってたのに、まだお前のことが欲しいなんてカミングアウトされるし。わたしだって、先輩のこと、好きです。大好きです。たぶん、もう、それでいいじゃないですか。先輩だって、わたしに、その、ほ、惚れてるって、言いましたよね」
何でだろ。後輩に怒られてるっていうのに、嬉しくてたまんねぇ。こんなに直線で、俺に向かってきたやつなんて、いなかったのに、この後輩は、臆することなく、俺に向かってくる。俺にビンタを食らわした奴なんて、池ノ内が初めてだ。もう、こいつしか、いない。俺には、池ノ内しか、いないんだ。
ほんとは、もっと前から気がついてた。
二冊目の冊子を作ったときから、たぶん、俺は池ノ内のことを、そういう風に思ってた。じゃなきゃあんなことも言わなかったし、嫉妬だってしなかったさ。
「池ノ内、お前、それでいいのか」
「いいんです。もう、いいですから」
「そ、か。なんていえばいいんだろうな、こういうときは」
「そうですね、先輩らしく黙ったまま、パソコンに向かえばいいんじゃないですか。俺について来いっていう感じで」
池ノ内の言うとおりに、だまって部屋に戻って、パソコンに向かった。池ノ内も、机のイスに座る音が聞こえる。学園祭は、もう明日だ。時間の余裕は、もう全くない。けど、妥協はしない。これでいいか、なんて気持ちで作った俺たちの作り話なんて、だれも金を払ってまで読みたくなんてないはずだ。誰かに向かってつくるのなら、その誰かを本気にさせるように、こっちも本気でウソをつかなきゃならない。金をはらってまで騙されたくなるようなウソを、作らなきゃならないのだ。だから、今は、何をしてしまったかはわかっていても、それを棚上げにしてもいいんじゃないかと思う。凄く勝手な話だけど、今は、池ノ内と小説を作っている今は、そのことに本気にならなきゃならない。余計なことは考えないで、もう頭には小説しかないくらいに。
「だからさ、池ノ内」
パソコンに打ち込みながら、背中で話した。
「今は、とりあえず小説を作ろう。本気で、みんなが喜んでその物語に浸ってくれるような小説を作る。金を払ってまで読んでくれるような小説を書く。コレが終わったら、ちゃんと、昨日のことも、俺の感情も、全部ケリをつけるから。今は、俺も、この作業に没頭するから、小説だけの時間にしてほしい」
「…そうですね。余計なこと考えてたら、うまくかけませんし。わたしも、今は、小説だけに意識をかけます。本気で、書いてみます」
そういって、池ノ内は書き終えた原稿を持ってきた。
そのラストシーンの原稿をパソコンに入れて、後は全体を修正する。実際この修正作業が一番時間がかかる。池ノ内も本気だし、俺も本気だから、意見はぶつかるし、なかなか鉛筆が進まないこともある。最後の一枚をパソコンに打ち終えた俺の隣に、それを待っていた池ノ内がちょこんと座った。ほとんど距離がない所に。さっきまで、一定の距離を保ってたっていうのに。
「それじゃ先輩、始めましょうか。推敲修正書き直し作業。先輩とじゃないと、できませんからね」
池ノ内と二人でパソコンの画面で言い合って、直してゆく。
二人で一つのものを創ってゆく。
余計なものは一切なくて、ただ本気で、小説があるだけ。
それがセックスやキスよりもずっと気持ちがいいと、俺の肩に寄りかかって修正案に不満をもらす池ノ内を論破しながら、そう思った。
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