-小麦粉記-

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掲示壁 ver.1


 そこから性格が悪いだの良いだのという口喧嘩に発展。普段は鉛筆とシャーペンの優劣なんかを言い合っていたのに、相手の性格の話が出てきた時点で、少し加熱し過ぎていたかもしれない。
言いたい事を言ってお互いスッキリ仲直り、のはずのいつもの口喧嘩が、今回は彼女の一言にキレた俺のせいで学校を出た後も俺の心の中は嫌なモノが渦巻いていた。
─何よ。折角告白されたのに、それ全部断って、俺って格好良いとか、そんな風に思ってるんでしょ。ほんと、性格悪い男。─
 「くそっ!俺の気も知らずに勝手な事を!」
家までの道のりを歩いた位じゃ、この苛々は収まりそうに無い。そう思って遠回りの始めて通った道で、俺は奇妙な壁を見つけた。
線路沿いにずーっと続いているコンクリートの壁。それだけならただの壁なのだけれど、その表面は文字で埋め尽くされている。そして一番端のブロックに「利用説明」があった。
─掲示壁・悩みや相談、それに対してのアドバイスを書き込みましょう。一ヶ月で古いブロックの書き込みは消されます。─
「掲示、壁?」ネットの掲示板と同じようなものらしい。探すと消されたばかりのブロックがすぐ見つかった。そして、気が付いたら、俺は手にペンを握り締めていた。
─くだらない事で、好きな人と喧嘩してしまいました。好きだ、と告白すればきっと解決するのですが、それが出来ません。どうすればいいでしょうか。─・・・阿呆らしい。と思いながらも返事を期待している、俺がいた。

 次の日。彼女は俺の顔を見ようとせず、俺も変な意地がでて特に話しかけようと思わず、そのまま放課後を迎えた。帰り道、迷うことなく掲示壁に向かい、そして俺の書き込みに対する返事が書き込まれていた。
─私も好きな人と喧嘩して、きっともう嫌われちゃったところです。私みたいになる前に、ちゃんと告白して仲直りした方がいいです─
あまり綺麗な字ではなかったけれど、それなら俺だって同じようなものだった。
─返事、ありがとうございます。では、どのような告白がいいでしょうか。具体的にぐっとくる告白、みたいなのを教えてください─
翌日も俺と彼女の間はギクシャクしたままだったけれど、掲示壁には返事が来ていた。
私は・・・、と書かれていた告白の文句をしっかりと胸に刻み、お礼の書き込みをした。

 その日、俺は彼女に謝るとともに告白する決意を決め、もう一度その告白の文句を確かめるために、掲示壁へ行った。夕焼けに染められた掲示壁には、一人の女の子の姿があった。そして俺は息を呑み、その気配に気が付いた彼女も、壁にペンを走らせる途中、顔を俺に向けた状態で、固まっている。
俺は、一歩踏み出して、一つ息を吸い込む。

 大丈夫だ。だって俺は、彼女が待っている言葉を知っているから。

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