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-小麦粉記-
章のよん
土曜日。今日もバカみたいな暑さ。こう晴天が続くと、ねぇ。いいかげん、雨降れって。
朝起きたら携帯に涼子からのメールがはいっていた。俺の携帯に入っている、数少ないアドレスの一つだ。六件くらいしか登録していない。その中でもメールをしたのは涼子くらいだった。
「一時くらいにススキの下公園に行くから。」って。
心臓がズキッってするのを、感じた。涼子と待ち合わせっていうことに、珍しくどきどきしてる。
高谷との約束は五時だったからたぶん大丈夫だ。四時間もこのクソ暑い夏にバスケを出来るほど、涼子はもちろん僕も丈夫じゃない。というかそんなことしたら誰だって熱射病になるし。
お昼をたべて着替えを完了。
「陽輔―? どっか出かけるの?」と姉貴がやってきた。
「ん、ちょっとね。晩飯までには帰ってくるから」
「ふぅん。今日お姉ちゃんと買い物行く約束だったの、知ってた?」
…マジか?覚えてねぇぞ、そんなん。どうしよう…
「ウソだけど」
うそかよ
「でもさ、もしホントだったら、どっち優先した?」
…姉貴に背中を向けたまま、少し考える。
「…さぁ。 でも、どうだろ。わかんない」
そういうと姉気は「そ」と一言いって家の中に引っ込んで行った。
炎天下の下に思いっきりペダルを踏み出す。
心臓が余計にずきずきして、セミの声なんかより、ずっとうるさかった。
公園に向かう道すがら、これから待ち合わせをしている人について思い出しながら坂道を下っていた。
小学校を卒業するまで、ほぼ物心付いたときから涼子とは馴染みだったけれど、そんなに遊んだ記憶はない。小学校に上がる前は親に連れられてきた涼子と、よくボードゲームをしたのを覚えているけど、小学校に上がって男の友達が増えてからは、もっぱら外で遊んでいた。あの頃の涼子は、あんまり外に出ない、大人しい引っ込み思案な奴だった。学区の違いでかよう中学校がばらばらになってからは一度も顔を合わせてなかったけど、高校に入ってみたら、あんなにいい女になっていたから、正直本人かどうか疑ったね。なんでも人に言われてから動いていたおっとりした奴が、今では有能なクラス会長。行事ごともクラスの連中をぐんぐん引っ張って、てきぱきとそれぞれに合った仕事を割り当てる。完璧に近い会長。そして美人。そんな立派な会長には、結構ラブコールが多いみたいだけどまだフリーらしい。
だいたいだれにでもわけ隔てなく、よく話し、よく笑い、よく怒っている彼女は、僕が知っている昔の柴崎涼子とはまったく変わった好人物へと、たった三年間見てなかったうちに成長していた。
特に涼子の、相手の感情を汲み取る、というか空気を読む能力には誰もかなわないと思う。相手がこぼした「一」の言葉から「十」を読み取り、「二」で返すように見せながらさりげなく「八」で返している。周りの連中が気づいているかどうか知らないけど、僕は「あぁ、涼子は僕の知らないうちに、成長したんだなぁ」ってちょっと落ち込んだ。
なんで落ち込んだって?それは僕が涼子とは正反対の変化をしてしまったから、かな。
「九堂と話すとどうも話が繋がりづらいっていうか、お前冷たいんだよな。会話に。この間だって折角桜子ちゃんが一生懸命話しかけてんのに「あぁ。」とか「うん。」とかさぁ。そっけないじゃないの?俺たちはお前のこと知ってるからいいけど、初対面でそれやると、印象悪いぜ?」
もうそろそろ忘れてもいいような気がするけれど、二年前に言われたこの言葉は、僕にとってショックだったらしい。いまだに頭にこびりついて離れない。
僕の欠点。会話の繋がらなさ。意思疎通の下手さ。気持ちを伝えることのつたなさ。
いまの涼子が身に付けているいいところを、全く正反対にした性格の僕は、自分でも結構ダメ野郎だと思う。小学校のときは普通、いや普通以上に人との付き合いはよかったんだけど、中学の三年間のうちに、何故かこうなってしまっていた。自分でも理由はわからない。卒業する頃には、もう僕は女の子一人満足に付き合うことすら出来ない、腑抜けた野郎になってたってわけだ。桜子ちゃんはまじですきだったんだけどなぁ。
その後僕は、その言葉にどうすることもなく、いや、どうしたらいいのかわからないうちに、高校に入学した。したはいいものの、そっけなさと会話の噛み合わなさ、おまけにちょっと不良っぽい容姿もあいまって入学三日で孤立した。一日中口を開くことなく、休み時間も一人で本を読み、お弁当も一人で食べて、一人で下校。挨拶をするような友人もいない。おなじ中学からの宮内は、一年のときはクラスが違い、本当にたまに話すだけ。
そんなときに涼子が話しかけてきた。確かこのときはまだ、俺のことを「陽輔君」って呼んでたんだっけ? 「陽輔君・・・だよね?九堂陽輔君。覚え、てるかな。ほら、小学校のときによくお世話になった親戚の柴崎涼子だけど…」って。クラスのみんな、目、丸くしてんの。「嘘、なんで柴崎が九堂なんかに話しかけてんだ?」みたいに。一応クラスで自己紹介はしてはいたんだけど、お互い顔が見える位置じゃなくて、その上「涼子」「陽輔」っていう名前しか覚えてなかったから、同じクラスだって気がつかなくても当然・・・か? いや、涼子はちゃんと気がついてたんだよな。俺が、悪かったんだ。
ススキの下公園についたときには、もう涼子が日陰に座って、僕の事をまっていた。目を惹く真っ赤なジャージに、このクソ暑いのに黒のTシャツときたもんだ。僕に気がついて恥ずかしそうに手振ってんの。また心臓がズキリって、痛む。そんな、仕草、するなよ。
高谷とは違う感じで、ココロが揺さぶられる。欲情や陵辱じゃなくて、安心と懐かしさがあった。
って、何考えてるんだよ。
いろいろ考えながら来たからもしかしたら遅れちゃったか? と思って時計を確認したけど、まだ12時半。三十分も早い。
「久しぶりのバスケだからさ、ちょっと張り切っちゃって。早めに、来ちゃった」
「来ちゃった、っていつから、いたんだ?」
「ん、十分前から」
「・・・待ち合わせより四十分も早いじゃないか。なんでそんなに早くに」
「そんなこと言ったら九堂だってかわらないでしょ。三十分も早いんだから。なんでそんなに早く来たの?」
「涼子と待ち合わせっていうのに、ちょっと緊張して早く来た」
「…………なんでそういうこといえるかな」
当たり障りの無い、いつも会話。ただ、周りにクラスの連中はいない。何を話そうか必至に考えてる僕に、自分で驚いてる。ここ最近、こんなにも「ことば」をつむぎだす努力を、したことが無かったっていうのに。きっといま、顔引きつってるわね。みっともないくらいに。
涼子はというと、いつもどおり、よりちょっと明るそうに見えるのは、僕の勘違いか。
「ごはん食べたのかよ」
あぁなんかもっとましなこと言えないのかよ僕は!
「一応ね。運動するからあんまり重たいもの食べてない。九堂は?」
「食べた。」
「何食べたの?」
「ジンギスカン丼。美味いぞ、ジンギスカン。あれはな、北海道人の傑作だな。文化勲章モノ」
我ながら、呆れた会話だ。文化勲章とかもう意味がわからん。
「へぇ、ジンギスカン「丼」ね…。初めて聞く料理だけど、ちょっと美味しそう。一回食べてみたいな」
一回食べてみたい? よせよ、無理して僕に合わせなくったって、いいっていうのに。どんな話だってちゃんと聞いてあげる、そして返答する。さすがクラス会長様、様だ。
まぁ、いいか。どこぞの神様なんかよりもずっと平等なクラス会長と話をしていたって、同じクラスの一人としてしか対応されないんだ、いくら話しても、全然話をしなくても、涼子は、僕にそれ以上のものを感じない。まして小学校のときに遊んだ九堂陽輔という人間は、こんなに情けない野郎なんだから。
「あぁ、じゃ、やろうか。」
「え?…ジンギスカン?」
「1on1だよ。何のために来たんだよ、ここに」
「あ、うん・・・。そうだ!今度ジンギスカン、」
みんなに平等、って言うのも難儀な正確だな。もう俺なんかに合わせてジンギスカンの話を続けなくてもいいって。…と、目の前の涼子に心の中で呟いてみる。
「あー、ジンギスカンはもういいよ。さ、始めようぜ」
一瞬涼子が下を向いた。すこし、強引に切り上げすぎたかもしれない。ちょっと、卑屈になってるかもな、僕。
そう思ったときにはもう上を向いて「わかった!じゃ、始めましょ。」っていってコートの方に走っていく。
「おーい、早くきてよー!」
「今行くー」
涼子と1on1をする。何かココロにつっかかるモノがあったけど、まだ運動してないのに、僕の血液を送り出すポンプは最速稼動してるのよ。どうしたもんだろう、これ。
ズッ、ザッ、ズッ。パイン、パン、パン!
本来バスケットは体育館でやるスポーツだ。だから普通はキュッキュッキュッ、とかダムダム、ドンドン。っていうおなじみの音が鳴るんだけど、ススキの下公園のコートはコンクリート。バッシュは体育館のように気持ちのいい音がならない代わりに、硬いコンクリにドリブルするボールは小気味のいい音が鳴る。この音が、僕は好きだ。
開放感、というにはあまりに開放的過ぎる、真夏のススキの下公園バスケットコートに、僕と涼子は汗を飛ばして一対一。フェイク/ターン/ディフェンス/オフェンス/気合/根性/ドリブル/シュート/切り込み/ブロック/気温/湿度/汗/涙/筋肉/骨格/胸/感触/柔らか/硬めのマシュマロ/不可抗力/殴り/弁解/蹴り/金的/悶絶/罪/罰/ボール/ゴール/跳躍/跳躍/跳躍…。
いままで二年間、ずっと一人でシュートしてた僕が忘れた、誰かとバスケットをするって言う感触が、下手くそなドリブルも、下手くそなターンも、涼子のフェイクに引っかかる悔しさも、何もかもが、愉快に感じた。誰かとバスケすることが、どんなに楽しかったのかようやく思い出す。
涼子もはぁはぁいいながら、絶対的に笑顔、笑顔、笑顔。なんの作りも無い、心のそこから愉しそうに僕を華麗なフェイクで抜いていく。必至についていく僕のディフェンスを、ダブルクラッチなんてそんな技使いながら、千切れたチェーンネットにカジャンと決める。
見えるのはゴールと、ボールと、涼子と、山と、がぁん、って広がる空だけ。聞こえるのはドリブルと、ボード、ネットに引っかかったりぶつかったりするおと、セミの合唱だけ。
今の俺たちにとって、世界は、ススキの下公園の二人だけだった。
一時間。休憩を挟みながら一時間の一対一で、僕も涼子もへとへと。それでも僕のほうはまだ動けるけど、涼子は完全にへばっちゃった。
「もう、無理ぃ…。」って崩れ落ちた涼子をなんとか荷物のある日陰のところまで運んで、今は濡らしたタオルを額において二人でごろ寝。涼子を運んだときの感触と、一対一をやってるときに「偶然」触ってしまった胸の感触が、まだ手にまじまじと残ってる。やば、勃っちゃいそうだよ。へとへとになったときって、何故か元気になるよな?
身長や体格、経験の差はあったものの、涼子はそれなりに強かった。何よりフェイクが巧い、フェイクが。俺がだまされやすいのもあるんだけど、それを差っぴいても抜かれる。体だけじゃなくて、意識にフェイント掛けられてる感じ。涼子がボールを持って僕と向き合う瞬間、涼子の目、腕、足、そして雰囲気が右に傾く。ここでは引っかからない。思ったとおりすぐに左に切り替えて涼子がボールを移動させるのにあわせ、僕も左足を一歩出した瞬間。空中で手首を返しボールを右へドリブル。あっさり抜かれて、ゴール下シュート。カジャン!って。この二段仕込のフェイントが全然読めなくて、負けたほとんどがそれだったと思う。二年も一人でやっていた分、抜くとかフェイクとかディフェンスが鈍ってる以上に、涼子は上手だった。
運動もできるようになってるし、全く、かなわない。「陽ちゃん、陽ちゃん…オセロしよ?」って言ってた奴と、一対一でここまで本気になれるとは、思わなかった。それに、胸だ。胸。おっきーの。胸が。僕がディフェンスしてるときに、こう、不可抗力で触ったというか揉んじまったんだけど、アレは、ちょっと、やばいよ。
相変わらず大合唱のセミの声を聞きながら、しばらく黙って二人で休憩。コートの上にズバァーンって感じに青空が広がってて、千切れ雲が流れるくらいのちょうどいい風が吹く。要するに、凄く爽やかって言うか、落ち着くというか、気持ちがいいの。一生懸命体を動かして、体中が適度に火照って、このまま目を閉じたらどっか飛んでイきそうな、そんな感じ。
涼子も僕とおんなじみたいで、目を細めて優しそうな顔してる。思わず見とれちゃって、目が離せない。前から美人だとはしってたけど、なんか、今日のこの涼子の表情は、ドキッと来た。
視線に気づいた涼子が「ん、なに?」って僕に振り返る。
「あ、いや、別に」
「何よ、人のこと見て「別に」は無いでしょ。ん?もしかして、見とれてた?」
どう答えるか、ちょっと考える。で、
「うん。見とれてたよ、涼子のこと。優しそうないい顔してるな、ってさ」
「はぁ!? ちょっと九堂、ばっ、なにを、」
案の定照れやがった。
「いや、学校じゃあんまりそういう表情、しないだろ?」
あんまりこういう表情をしない。よく話し、よく笑い、よく怒る、人望厚いクラス会長だけど、僕が見るにほっとしている表情は少ない。昔みたいな、ほっこりした笑顔を見たことが無かった。笑うか、悲しむか、怒るか。だいたいこの三つの表情で毎日を過ごしてる。もしかして、無理に表情作ってみんなに対応してるんじゃないだろうな…って、そんなこと僕が言えた口でもないか。
「ん。まぁ、ね。でも九堂だって学校じゃみせないじゃない、さっきみたいな顔」
さっきみたいな顔?
「一対一やってるときみたいな、凄く愉しそうな顔。生き生きしてた。小学校のときはいっつもあんな顔して走ってたのに、高校で会ってみたら根暗になってるから、なんか拍子抜けしたんだけど」
「俺は・・・・俺はいいんだよ。別に根暗でもないし、人と話さないだけ。それを言うなら涼子だってずいぶん変わったじゃないか。引っ込み思案だった奴が、バリバリのクラス会長をこなしてさ。小学校のときの涼子をみんなに言っても、誰も信じないだろ」
「ん。わたしもいろいろあったのよ」
「…でもさ、お前、なんで僕のこと、「九堂」って呼ぶんだ?昔は「陽ちゃん」とか「陽くん」なんて呼んでたのに」
さりげなく、前から気になってたことを聞いてみる。
「・・・さぁ。何でだと思う?自分の胸に手を当てて考えてみたら?」
「原因は俺なのかよ」
「半分ね」
それ以降、二人とも話さない。嫌ではない沈黙。優しくもなく、かといって気まずくも無い、ただ気持ちいいかぜと時間が流れてた。けど、結局その「俺の原因」、わかんなかったな。
「ねぇ、今日これからあいてる?」
二人とも着替えて(僕はいつものようにその場で着替えたけど、涼子はそういうわけにも行かないのでトイレで着替えた。ちょっと覗きにいこうとおもった。けど、断念した。)から、涼子が僕に背を向けたまま聞いてきた。時間は午後三時。高谷との約束は五時。
「んとね、五時から用事入ってる。高谷とここで待ち合わせ。」
「ん、風音と?」
「そう」
「九堂・・・そうだ。久しぶりに「陽輔」って呼んであげようか?」
なんだ、いきなり。
「陽輔、風音に惚れたりしたの?」
いきなりっ?
「惚れたって言うより、欲しい」
涼子が、がばっ!って僕に振り向く。
「って、欲しいって、それって、なに? どういう意味? まさか」
「…あまり言いふらすなよ?涼子はどう思うか知らないけれど、俺は今、小さい頃からの付き合いのある涼子に対して言うから。涼子は、柴崎涼子としてか、クラス会長としてか、どっちの立場で聞いても構わない。俺は、高谷風音に欲情した。あの高さを持つ彼女が、欲しいと、喰ってしまいたいとおもった。それだけ」
涼子が、一瞬凍りついたような表情をした。
「俺似もなんだかよくわかんないんだけどね」
「ん、そ。それならいいの。じゃあ陽輔は五時まで暇なんだ。・・・二時間、微妙な待ち時間ね。ちょっと買い物付き合ってもらおうとおもったんだけど、二時間じゃ無理かな。自転車だといって帰ってくるだけで一時間かかっちゃうし」
なんて、無理やりな、きり返し。
「あーあ、折角久しぶりに遊べると思ったんだけど」
「お前さ、何で俺・・・・いや、なんでもない。さっきの話、忘れてくれるか?で、もし暇だったら、ちょっと話に付き合ってくれよ」
「それはクラス会長の私への相談?それとも柴崎涼子としての私への相談?」
「え?」
「なんでもない。いいよ、暇だから。そのお話、付き合ってあげましょ。」
僕が涼子へ相談した内容は
「なぁ、パスって、何だと思う?」っていう、この間高谷にだされた宿題。
「パス?味方にだす、パスのこと?」
「たぶん。」
「ん?たぶんって何よ。」
「いやさ、高谷に「パスについて考えてみて」っていわれたんだよ。今日の五時までに」
一瞬、涼子の気配が、変わったようなきがする。涼子と高谷・・・仲、いいんだよな。
「・・・そう、風音と、ね。…じゃあさ、五時までパス練習しようよ。わたしが「パス」について何か話したところで、風音の言う「パス」について陽輔はわからないと思うから、とりあえず、パス、しよ」
僕たちはボールを持った。
バスケットのパスで大事なのは、回転だ、って聞いたことがある。
パスを出したときに手首のスナップを利かせて「ビュッ」って感じに出すんだよね。そうするとバックの回転がかかって、ビューンって飛んでく。巧い人だともの凄い回転かかってまっすぐに、ほんと地面と平行にパスを出す。横から見てるとなにかの芸術みたいに美しいんだ、パスが。まさに、ビーム光線。何描いてるのかよくわかんない近代美術をみるよりも、バスケの上手な人のパスを見るほうが、絶対、お得だよ。ホント。
で、涼子のパスは、ホントそんな感じ。まっすぐ、力強くて、けど受け取る相手の一番取りやすい、最高級のパス。そういや「パスとドリブルが得意」なんて言ってたっけ。
対して俺のパスはというと回転もあんまりかかってなくて、なんかゆるい放物線、しかも弱い、その上たまに涼子の足元なんかに落ちる、取りずらいパス。
最悪じゃん。下手すぎだよ、俺のパス。パスをする相手がいままでいなかったとはいえ、完璧俺のほうが下手だったから、ちょと落ち込んだ。だって、ねぇ。わかるっしょ?
それでも涼子は、割と愉しそうに俺とパス練習に付き合ってくれていた。まぁ「パス練習しよ」なんていったのは涼子なんだけど、かれこれ一時間だ。一時間、ずっと黙ってパスしあっている午後四時の僕と涼子は、傍目からみたら、結構笑える。そんなときに、涼子がようやく口を開いた。
「あのさ、「パス」で一番大事なことって、なんだか考えたことある?」
突然の質問。おもわずあんまり考えないで、さっき考えてたことをそのまま口にだした。
「手首のスナップ。ボールの回転。強さ、取りやすさ。ってところじゃないのかな?だから涼子のパスは、めっちゃ巧い。涼子さ、ホントにバスケ部じゃなかったのか?」
僕の答えを聞いた涼子は「あはは。褒めてくれるのは嬉しいけどね」と前置きして
「その答えじゃ25点ね、陽輔。辛うじてあってるのが、取りやすさってところ」と、そういった。
答えながら僕が出したパスをパシンと受け止めて、こんどは僕に返さないで話を続けた。
「私はバスケ部じゃなかったのは、本当。でもね、ちょっとしたバスケットチームにちょくちょく参加させてもらってたんだ。市内のバスケが好きな人が集まってやってるところ。風音のお母さんがそのまとめ役みたいなひとで、私みたいな初心者にも、みんなでバスケットを教えてくれたの。私が引っ込み思案な性格から今みたいに明るくなれたのは、あの人たちのおかげ。まぁ私のことはこの際いいんだけど、教えてもらったときにパスの大事なことって、上手なパスってどんなパスだと思う?って聞かれてさ。私も陽輔と対して変わらない答えをしたら「まぁ見てなさい」って、試合始めたんだよね。
試合を見ろ、といわれてもどこをどういう風に見たらいいのか全然わかんない。試合ならいつも見てるし、今日の試合が特別違うわけでもない。いや、もしかしたらいつもとは違うことをしているのかもしれないけど、それが私にはわかんない。どうしよう、わかんない。折角教えてくれてるのにわかんない馬鹿な子なんて、愛想尽かされちゃうかもしれない。そう思ってしまったら、涙腺がだんだんで来る。あぁ、また泣いてしまう。そのとき、ポンと頭に手が載せられてたのよ。見上げたら優しそうなおじさんがいて、コートの方を指差して話しだしたの。
「いいかい。よく見てごらん。あの19番の人のパスを。ほら、人じゃない、場所に出してるだろ?そしてそのパスに味方を飛びつかせてる。すると、ほら、決まった。よし、もう一回見てみよう。こんどは色違いの6番の人と13番の人。ボールを持ってる6番の視線をみてて・・・ね。あれ、アイコンタクト。目で見て、パスを出すだけで完璧に流れを掴んで得点を決めてる。」
それだけ言ってそのおじさんはどこかにいてしまった。っていう話。」
涼子がこんなに饒舌に話しているなんて、初めて見たかもしれない。
「まぁ、要するに。パスで大事なことって言うのはさ。確かに陽輔のいう技術的なものも大事かもしれないけど、やっぱり「パス」って言うくらいだから相手を意識しないといけないと思う。だからさ。」
そういって僕にパスを出す。それも僕よりちょっと前へ、バウンズパスで、コートのほうに。おもわず飛びついて片手でキャッチ。そうしたらもう涼子は、走り出してて、もうなんだかわからないけど、良子にパスして走り出す。二人でコートの両サイドをパスしながら駆けていく。ゴールが、もう近い!いつもと、なんか違う感じ。ススキの下公園のコートはいつもと変わらないのに、はしってる俺の目には、いつもよりも空が近くて、ダンクシュートなんて、ぜんぜん高くないようにおもえた。
結局僕が最期にキャッチミスして、シュートできなかったんだけど。
「それじゃあ、また明日ね。九堂。」
そういって、涼子は俺に背を向けた。
「九堂、ね。」
公園の出口辺りで、涼子がもう一度振り返って言った。
「ねぇ。バスケやってる間、「僕」じゃなくて「俺」になってるって、気づいてた?」
って。
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