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-小麦粉記-
図書室に、月見~中條~
学校の着いたのは、約束の10時をかるく30分過ぎた頃だった。
中古のカブの肺炎みたいな音を響かせながら急いで家を出て、学校の近くの駐車場に駐車する。どこの誰だか知らないけれどかなり立派なスポーツカー(しかも真っ赤)があったのにはびっくりしたけれど、落ち着いて眺める間もなくフェンスを飛び越えて学校までの道をショートカット。上履きに履き替えることもせずに一段飛ばしで階段を登った。あいもかわらずほこりっぽい。
図書室のある3階まで一気に駆け上ったあと、息を整えるために今度はゆっくり歩きつつ、ポケットから図書室の合鍵を取り出す。たぶん、この鍵は無駄になるだろうという感じがする。司書室には元咲がいるだろうし、そうしたら鍵は先生が持っている。青柳もそのことは重々承知しているだろう。
あんな夢を見るから悪いんだ。
青柳のアソコにシールドを突っ込んで、音楽を聴くなんて、サイアクなのかサイテイなのか、それともサイコウだったのか。
─中條……私って、どんな音がする?─
あほか。
第一、青柳と一緒に帰っただけで(しかも会話もなけりゃ雰囲気もない。ただの荷物持ちだ)、その日の晩にそんな夢を見るなんて俺は中学生かっつーの。
目が覚めたら9時45分で、寝巻きは汗をだっぷり吸って気持ちが悪く、その上ムスコはこれ以上ないくらいにギンギンだった。
廊下の突き当たりの角を曲がり、図書室の扉が見えたところでいったん停止する。
青柳になんて言い訳しようかなぁと少し頭をめぐらせていると、ふと違和感があった。
何かおかしい。
いったん目を閉じて、3秒数え、ゆっくりと目を開ける。
カウンター前の電気がついていない。
青柳はいつもカウンター前のテーブルに座るから、どれだけ天気が良くても本棚が邪魔をして日の当たらないそこの電気をつける。青柳がいるかどうかは、それで判断できる。
ということは、もしかしたらもう帰ったのかもしれないし、まだ来ていないのかもしれない。まだ来ていないのだったらそれに越したことはないし、もう帰ったのだったら、どうしよう。というかそもそも、俺と青柳は一体どういう関係なのかイマイチよくわからない。
昨日、確かに青柳は「10時には図書室、開けておいて」と言った。けどよく考えりゃ別に俺がいなくても元咲先生に鍵を借りれば図書室は自由に出入りできる。もし俺が10時、もしくはそれ以前に学校に着いて鍵を開けていたとしても、それで青柳と何かをするわけじゃないだろう。いつもの通りほとんど口も開かずに本を読むか、寝てるかだ。そのことは嫌ではないし、むしろ無理に会話をしなくてもいいのに、一人じゃない安心感がある。もしこれで積極的な会話をしようとしたら、たちまち俺と青柳の微妙な空間はがらがらと壊れてしまうはずだ。今のところは、これでちょうどいい。会話をしたとしても、昨日程度の他愛のない、素っ気のない位がいい。
たぶんそれは、逃げだろうと思う。
でもまあ、それも後いくらもしないうちに終了だ。卒業っていう時間的ピリオドで、俺と青柳の関係はキレイさっぱりなくなってしまうはずだ。街であってもちょっと目を合わせるか、気がつかないかもしれない。そういうもんだ。
ふぅと一息ついて二歩進み、手に持った鍵を、扉の鍵穴に突っ込んだ。ゾリゾリと金属が擦れて嵌る音が響く。90度ひねると、カタァンと気持ちのいい開錠音が鳴る。そのままいつものように鍵を外して取っ手を倒し、バァンと扉を蹴り開けた。
案の定、図書室はしぃんと静まり返っていた。左の奥に、場違いなアンプが鎮座している。入り口近くに、何か黒いモノが落ちているのを見つけて拾ってみると、ピックだった。
誰だろう。そう思ったとき
「……だれ……?」
背後からくぐもった声が、首筋を撫でた。
思わずバッと後ろを振り向いたけど、誰もいない。背中がぞわりとあわ立った。
出るなんて聞いてねぇぞ、こんな昼間から!
「…ちゅ…じょう?」
「へぇっ?」思わず声がひっくり返る。この幽霊、俺の名前まで!?
「ちゅうじょう? 中條なの?」
あれ、
「元咲、センセ?」
「中條! あぅあぅあぁぁ、よかったよぅ、中條、中條、ねぇ、ここ開けてよ中條! 青柳に閉じ込められちゃって、中から開かないし、3階はもう誰もいないし先生方は授業中だし携帯の充電切れてたし、物凄い音出してたしねぇもうおかしくなっちゃうよ中條、あけてよぅ」
声のする方、司書室のドアノブを回してみると、なるほど開かない。でも確かここ、中から開けれるだろ。しかも青柳に閉じ込められたって、なんだよそれ。
「はやくぅ!」
頭をよぎった疑問をひとまず脇に置き、切羽詰った元咲の悲鳴にポケットからもう一本の鍵を取り出して、ゾリゾリ、カタァンと鍵を回し、ドアを開けた。
「中條!」と、泣き腫らした目をした元咲が一瞬俺を見つめて一時停止し、そして物凄い勢いで抱きついてきた。
まじかよ。
どうすりゃいいんだこういうときって!? とりあえず、柔らかい髪を撫でてやると、元咲は一層俺の胸に顔を埋めてくる。腕も腰に回して、ぎゅっと掴んで離さない。
これは、死ねる……!
ふわぁっとシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。華奢な肩が俺の腕の中で震えていた。やばい、このままだと、ヤっちまいそうだ。卒業記念にお姉さん教師と図書室で一発、ってか? 今までの付き合いで処女だということは確定している。おいおい、いくらなんでもそれは設定が細かすぎるエロビデオみたいで、どうにかしちまいそうだよ。
前にも一度、ヤバイ雰囲気になったことはあった。
ザンザン降りの嵐の日で、バンドの練習も休み。図書室には俺と、元咲の二人だけ。
どっちかというと、仕掛けてきたのは、元咲のほうだ。25歳の金属バットを振り回すのが趣味だという英語教師兼中部高校図書室火元責任者 元咲絵里子。入学してから謹慎処分を3回食らい成績は中の上、トラブルメーカーバンドのヴォーカルで図書局員 中條里三。
彼女の父親を除けば、元咲センセイと一番長い時間一緒にすごしている男は、俺だ。私立の女子校を幼稚園から大学まで見事なまでのエスカレーター。男の免疫がまったくなく、かつ俺自身もまともな女と付き合ったことのないある意味純情な不良学生だ。なるべくしてなったといえば、そうかもしれない。あの時、青柳が図書室に入ってこなければ、確実に俺と元咲センセイは、司書室で一発やってだろうと思う。
「元咲……」
肩にかけた手に力をこめた。
「へ?」と、真っ赤にはらした目を不安そうにして俺を見上げるセンセイ。その顔を見て、一発ヤろうとおもったそのとき、パタパタと足音が聞こえたと思うと曲がり角の向こうに、橘と小倉がぽかんとしながら俺たちを眺めていた。
なん、なんだろうな。このタイミングって言うのは。
「ぇ? ゃ、やだ!」と、橘たちに気がついた元咲が慌てて俺から身体を離し、パタパタと司書室の中に逃げこんだ。まだほんのりと元咲の温かさと匂いが残っている。綿のカーディガンに、涙のシミが残っていた。
「お邪魔ー、だった、かな?」と橘。『とりあえず何か言わないと耐えられない』という感じ。
「あー、いや、どうだろう。なんにしても、結構、ギリギリのタイミング、だった、かな」
今度は小倉が口を開く。
「2年目のの新人教師と卒業前に一発ヤろうって奴か? まぁ、確かに元咲は可愛い面をしてる。しかも、処女だ。見りゃわかる。しっかし、中條君もなかなかやるねぇ。一発やって、卒業したらメールが入っても知らんふりしながら、溜まってきたらイキナリ登場して押し倒すんだろ。いいねぇ、俺もまぜろよ、中條」
小倉の顔は、イヤーな感じにニヤニヤと歪んでいる。司書室で元咲が『恥ずかしさの極み』みたいな声を出した。
「にしても、図書室にアンプがあるなんてなかなかお目にかかれない光景だよなぁ」
元咲が荷物をまとめて職員室かどこかにぱたぱたと走り去ったあと、とりあえず俺たちは3人で図書室に居座り、タバコをふかしていた。図書室に常備してある灰皿に水と消臭剤の液を入れて(これは元咲が「図書室で問題があったら私がまずいからせめてもの努力はしないといけない」という理由でペットボトルに作り置きしていた)、ついでに窓も開ける。これがなかなかに寒い。まだ外にはちょっと雪が残ってるくらいだ。決して窓を開けていい季節じゃない。
「窓、閉めるべ。もう俺たち卒業するんだし、いまさらどうってことねぇだろ」と橘が窓を閉めた。タバコのけむりが、風に飛ばされずにフワフワと俺たちの周りを漂っている。この副流煙って、嫌いなんだよね。目とか鼻とかにしみるし、主流煙より害がキツイというような話も聞く。それに、喉にだってよくはない。
「で、中條」と、小倉がタバコを灰皿に落として俺に向き直った。
「お前さ、いつも図書室にいたのは青柳とイチャついてるんじゃなくて元咲と」
「違うわ。しかも青柳とだってほとんど会話もなかった。そりゃ青柳と元咲とどっちが仲がいいってきかれたら元咲だけどさ。別に、何も無かったよ」
「それはそれでお前も異常だよな、中條。その間ずっと右手でムスコを慰めてたってわけか。きもちわりぃ」と橘。
「やかましい。テメーみたいに手当たり次第に女をつまみ食いするほど乱れた性活は送ってねーし、小倉みたいに「拒食症」の女が趣味だなんておかしな頭も持ってないんだよ。お前らと一緒にすんな」
「ばっか、俺達だってドーテーを散らした時はフツーだったっつーの。なぁ、小倉」
「あぁ。中2のとき二人で白愛女子の高校生を拉致ってカラオケボックスに連れ込んだ後、橘がヴァージンで俺がアナルヴァージンをいただいた、それだけだ。あの人、たまに俺にメールくれるぜ。この間婚約したってさ」
こいつら……。
その後、しばらく取りとめのない話をしていた。中身のないしょうもない話を延々と、それこそ日が暮れるまでくっちゃべっていた。灰皿からタバコがあふれて、机の上にはいくつか焦げ跡を残している。強烈な夕陽が図書室の窓からモロに入り込んでかなり眩しかった。
「俺さ、中條」
と、さっきまではオナホールとホンモノの感じの違いを力説していた橘が、きゅっと顔を引き締めて話し始めた。
「俺さ、いまバイトしてるスーパーで、春から正社員で働くのよ。バイトと違うから、朝から晩まで、途中何度か休憩があるにしてもほとんど一日中出ずっぱりさ。授業と違ってサボることも出来ないし、礼儀だってちゃんとしなくちゃならねーし。正直、続くかどうかわかんねぇんだよ。たぶん担当は引き続きの精肉でさ、毎日毎日肉を切ってはトレーに乗せてパックする。それだけの毎日になると思う。つーかそうなる。今まではバイトだからやっていけたさ。あくまでもバイトであって、それが生活のメインじゃないからさ。でもよ、今度からは、それが生活のメインになっちまう。肉を切ってパックすることが、橘光紀の生活のメインだ。わかるか? 考えただけで、耐えられねー気がする」
そういって橘は最後のタバコに火をつけ、深々と吸い込んだ。
橘の後を継ぐように、小倉も口元をゆがめて、俺にタバコのけむりを吹きかけた。
「俺はさ、知り合いの飲み屋の店員だよ。そこのマスターがペット吹きで、夜は客相手に俺のピアノとセッションするってさ。午前中はマスターの奥さんがピアノの練習をつけてくれる。中学の頃からグレまくってた俺にしちゃあ、上出来すぎるほどシアワセな進路だ。音大なんかには行けねぇけど、好き勝手にやらせてくれる財力があるだけでも、こうも人生は不公平だ。そうおもわねぇか? かたやスーパーの精肉担当で、かたや好きなことをしながら好きな仕事が出来て、そして中條は」
「財政難の家庭を支えるために進学を断念して訳のわからん貿易会社、か。そしてドラムはT大進学、ベースは行方不明。『月見やぐら』も様変わりだな。元はといえば、軽音の部室で隠れてタバコを吸ってただけの赤の他人が、橘のせいでバンドになった」
せいで、とはひでぇよなぁと橘がケラケラ笑う。
小倉が寄りかかったせいでスイッチが入ってしまったベースアンプが、何かを待っているような低いうなり声を上げていた。
「ちょっと待ってろよ」と小倉が図書室を出てゆく。飲み物でも買ってくるのか、タバコが切れたか、どっちかだ。
「中條はさ、耐えられる?」と、小倉がいなくなって少し静かになった瞬間に、そう橘が切り出した。
「仕事のこと、か?」。
「うん。これから、この高校のぬるいところを抜け出して、働き続けることにさ。人生のメインが仕事になって、あと50年近く、俺たちは働き続けなくちゃいけない。いままでだったら、別に授業を受けずともよかったさ。寝るか、曲の構想練ったり、スコアとにらめっこして編曲してたり、それでよかったんだ。元から大学に行く気なんて無かったし、そんな金もない。だから、学校へ通っていても、日常の中心って奴が音楽でもよかったんだよ。学校をサボって、ギターをやってても、許された」
そんな橘に、俺は何も言わずにタバコを消した。
「でもさ、これからはそんな甘ったれたことは、許されないよな。社会の歯車って奴に、身体をめり込ませなきゃならない。仕事をサボったり、別のことにうつつを抜かしちゃいられないさ。今までは親が俺たちを食わしてくれて、授業料も払ってくれた。受け身の立場だった。けど、今度からはそうは行いかない。受け身じゃなくて、給料をもらう立場になる。音楽をただ聴いている立場から、初めてスモークオンザウォーターを弾いたときの衝撃っつーか、それ以上の転換なんだよ、中條」
あれは、まだ入学してからそんなに経っていないころだった。
「人間、何をするにも感動することが大事なんだよな。感動」
授業を抜け出して、空いていた教室へタバコを吸いに行ったとき。ちょうど橘と鉢合わせたときのこと。
「お前さ、体育の授業で一緒の中條だろ。いっつも本読んでる」
「ん、そうだけど」
「中條さ、本を読むのって、楽しいか?」
「まぁ、ね。楽しくなかったらそこまでして読まないって」
「そっか」
そういって橘は、壁に立てかけていた傷だらけのエレキギターを手に取り、どこかで聞いたことのあるフレーズを弾き始めた。アンプに繋がっていなくとも、世界で一番有名なロックのイントロは聞くことができる。
「中條、お前は本を読むだけじゃなくて、書いたりはしないのかよ」
俺は、返事をしなかった。
「俺はさ、音楽を聴くだけなんて、もったいないと思ってる。受け身でしかいられないときに見える世界はさ、小さすぎる。一方方向でしか見られない。だけどさ、音楽を作る立場になった瞬間に、今までいた世界の壁がどんどん壊れていく。本だって、そうだと思う。ただ読むだけじゃなくて、書いてみろよ。感動するから」
「なんでイキナリ名前もしらねぇ奴にそんなこと言われなきゃならねぇんだ?」
「いや、なんとなく俺、前からお前のこと気にいってたからさ」
橘はそういって、床においてあったかばんから一枚のMDを取り出した。
「暇があったら、でいい。なんかテキトウに歌詞とかその辺、つけてくれね―かな」
すっかり灰になってしまったタバコを捨てて、橘からそのMDを受け取る。
「ま、べつにいつでもいいし、やらなくったっていいけどさ。人間、大事なのか、感動なんだよ。なんにしても。感動で、動いてる」
それが俺と橘の最初で、後々ライブで一番最後に演奏し、「月見やぐら」というバンド名の元にもなった曲が出来るときだった。
何も書いていなかったMDのラベルに『月見のやぐら』とタイトルを鉛筆書きして、破ったノートの1ページと一緒に手渡したのがその3日後。小倉と橘と中條が、軽音楽部の部室に集まっていたときだった。ドラムとベースがそろうのはまだその1ヶ月あとの話。
橘の話になんと返そうか迷っていたところに、バタンと図書室の扉が開いた。そこからつかつかとはいってくるのは、小倉だ。右肩にキーボード、左肩にはギターを掛けている。反射的にアンプを見る。さっきから相変わらず、ヴーンと、何かを待っているような唸り声を上げていた。
「なぁ、小倉。まさかおまえ、ここで一発やらかそうって言うわけじゃ、ないだろうね」
「なぁ、中條。ここにギターとキーボードと、でかいアンプとコンセント、それに防音されてる部屋がある。さらに言うとピアニストとギタリストとボーカリストがそろってた。やることは、一つっきゃねーだろ」
そういいながら小倉はその辺の机を引っ張ってきてキーボードをセットし、橘もいつの間にかギターを取り出し、アンプにつないでいた。
図書室に、橘がテキトウに弾いたリフが響く。
しばらく感じていなかった、アンプから出るびりびりとした振動が身体に当たって、むずむずと肌があわ立つ。小倉がキーボードの音量を最大にする。
「中條?」と、いつかはじめてライブをやったときにやった曲のイントロをアレンジしながら橘が俺のほうに向き直った。
「俺も、小倉も、中條がバンドを抜けたあの事件については、本当に反省してる。マジだ。だから俺もあれから足を洗ったし、小倉だってそれまでのコネクションを消去して1からルート開発したくらいだ。まぁ、いくらそんないわけをしたところで、中條がどう思ってるかはわかんないんだけどさ。ただ、いま言ったみたいにさ。もう俺たち、好き勝手にゃできないんだよ。学校に通うことはなくなって、仕事場に出勤して、働かなきゃだめだ。それも、俺と中條はほとんど不本意な形でだ。それで、俺がもつかどうかは、かなり薄いと思う。仕事のことしかなくなったときに、俺は耐え切れずに、やめると思う。だからさ、中條。なにも別に、毎日やろうっていうわけじゃない。週に1回でも、いいんだ。もう1回さ、」
「橘」
「ん」
「もう、あの事件については、俺ん中じゃ片はついてるんだよ。もう怪我も治ってるし、アイツもとっくの昔に立ち直ってるさ。だから、もうお前らのやらかした失態についてとやかく言うことなんて、ねーんだよ」
「じゃあさ、中條」
「それでも。それでも、もう今の俺たちは、あの頃の『月見やぐら』じゃない。俺がへそ曲げてる間に、すっかり変わっちまったさ。今だって、こうやって残ってるのは、3人だけだ。この間、神崎に言われた通りなんだよ。どれだけえらそうなことを言ったところで、たった5人しかいないバンドだって言うのに、もうばらばらで、音楽なんてやる以前の問題だ。橘も、小倉も、もうわかってんだろ。大概の映画は、続編が作られると、クズになることが多い、ってさ。お前らは、いつか俺たちが上手く行ってた頃を単に忘れられなくて、中途半端にぶら下がってるだけさ。もう二度と、あんなふうには、ならない」
橘も小倉も、手を止めた。図書室から音が消える。すっと温度が低くなった目が二人分、俺のことを睨んでいる。
「でも、それでもいいっていうなら、俺はマイクを、握りたいさ」
「へ」と、橘がピックを取り落とした。
「いやさ、こういうのは、もう病気だよ。病気とか、クスリの類。一回感染しちゃったら、なかなか、止められないね。さっきも、橘のギターの音をアンプから聴いたら、ぞくっちまってさ」
カーテンを閉めない図書室の窓からは、だいぶ柔らかくなった日差しが入り込んでいる。扉は、締め切ったまま。ふと元咲のことが頭を掠めたけれど、ギターの音に消された。
橘と小倉の、ギターとピアノの掛け合いのリズム。三年間身体に刻み込まれてきた拍子が、ごく自然に息を吸うタイミングを教えてくれる。
卒業前の図書室に、いつかの懐かしい曲が、響いていた。
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