-小麦粉記-

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第六楽章 乱闘祭編 上


よく晴れた青空のした、生徒会からの挨拶ということでうちのクラスのまとめ役、科川 紗紅弥が台にたって声を張り上げ生徒代表挨拶をしている。
「それじゃあみんなー!焼肉たらふく食べたいかっ!!」
「「「「「おうっ!」」」」」某クイズ番組かよ。
一年生ながらその行動力と頭の回転の速さを認められ早くも生徒会で確固たる地位を築いている科川 紗紅弥は、その顔立ちのよさ、人当たりのよさから一年は無論、男女問わず二年、三年の連中にも好かれていたりする。私は好きじゃないけど。
成績も抜群で、一度教師がうちのクラスの授業の時急に体調を崩してこなかったときも、かなり上手く授業をやってのけたことがあり先生たちからの信頼も厚く、正真正銘学校のアイドルになってる。悔しいことに私も国語以外はことごとく一点差で負けている。
ちなみに焼肉とは、各学年の優勝クラスに近くの高級焼肉店「クイーン・オブ・クイーンズ」の三時間無料券が学校から配られる事になっていて、どこのクラスもその焼肉のために命をはるのだ、という。

帝壱乱闘祭。
今年からただの体育大会だった名称が変わり(中の本質は全然変わってないのだけれど)焼肉券も二時間無料から三時間無料へとグレードアップし、校長の話だと例年に無い盛上りだそうだ。
「各クラスもち点、三百点。試合に勝ったクラスが負けたほうのクラスから持ち点を奪えます。基本的に急所禁止以外のルールは無し。それじゃあみなさん、焼肉めざして頑張ってくださーい!!!!」
というわけで今日から始まった帝壱乱闘祭。
入学当初はテキトウにバレーでもやって後は本でも読んでいようかと思っていたのだけれども、あの科川がそうはさせてくれなかった。
知らないうちにバドミントンの選手にされていて(趣味がバドミントンだということをどこで知ったのだろう・・・)、しかも科川とのダブルス。最悪。
もっと最悪なのは障害&格闘死合に月見君と無理やり出ることにされてしまったことだ。
ただ夜に一緒に歩いていただけで「付き合っている」事にされ、私も大人気なくキレてしまって怒鳴ったら「う・そ・ね!」なんて、あぁ思い出しただけで腹が立つ。優勝すれば侘須牙さんの言い分を信じてあげる、だなんて。
で、私は絶対優勝してやる!と意気込んで月見君と毎晩練習してきたわけだけど。わけなんだけど・・・・・

「おい侘須牙、バドミントンの第一試合ってお前と科川の組とベータ組だろ?行かなくていいのかよ。」

なんて今話しかけてきた月見君は、最初思ったよりも、まぁ、なんというか、カッコいいよかった。
外見的にもカッコいいんだけどそれは置いておいて。
初めての練習のとき私がヘマして二人一緒にこけたときも自分が怪我してまで私を庇ってくれたし、バスケの練習で疲れているのに休まず練習に付き合ってくれた。私がどんなにそっけないこといっても困ったような笑顔で「いや、うん、なんだ、ははっ」なんて怒りもせずに。今まで私に近づいてきた人はみんな私の付き合いの悪さに離れていったけど、月見君は違った。
だめもとで料理を教えてくれと頼んだときも快く受けてくれて、おかげで私の食料事情はかなり改善されている。
この間も受身の練習のときも私をかばってくれて、胸が柔らかい、とか言われて、動転してバケツを投げたりしたけれど、
私は月見君に、惹かれているのかも知れない。
月見君は私をどう思っているんだろうか、なんて考えたりして。

「おーい、侘須牙。きいてんのか?」
「聞いてるわよ。はぁ、あんまり練習してないのよね。・・・・・科川さんだし。」
実際練習したのはこの一週間くらいだったりする。
「お前さ、科川と張り合っても疲れるだけだと思うんだけど・・・・・。そもそもお前ら住んでる世界がたがうんだからさ。」
「わかってるわよ。まぁ彼女もかなり上手だし、私だって十年はやってるから下手じゃないわ。」
月見君が感心した顔で「へぇ、そんなにやってんのか。そりゃ見ものだな。応援してるぜ。」って。ちょっと嬉しいかなー、なんて。
そんな私の月見君には見えないようにした顔のニヤツキを知ってか知らずか、科川がラケットバッグを背負ってやってきて
「うわぁーアツアツね!見てるこっちが身もだえしちゃうわ!!いいわねー私も月見君みたいな彼氏ほしぃわー。」と投げ飛ばしたくなるようなご挨拶。
「カガワサン、命日を今日にしてあげましょうか?」
「まぁ本音もそこそこにして。前から思ってたんだけどダブルス組むのにお互い苗字はなんとなく空空しいのよね。ということで名前で呼び合うことにしましょうよ。試合中の呼び合いも面倒くさいし。いいでしょ、燎。」
あんまり他人を名前で呼ぶのは好きじゃないけれど、科川がいっていることは実に正しい。
「じゃあ私は貴方を紗紅弥と呼べばいいわけ?」
「そうそう。そのほうがずっといいじゃない!決まりね」
ちょっと思いついたことがある。しばらく前から同じ事を考えてたんだけど、なかなかいい出せなくてこまっていたから。ちょうどいいから切り出してみる。
「それじゃ月見君は鈎夜で呼ぶから。そのほうがか・・・紗紅弥もいったように便利でしょ!」あぁ、ちょっと恥ずかしい。
いきなり話をふられた月見君、いや鈎夜は一瞬「えぇ!!」見たいな顔をした後
「侘須牙は、燎、でいのか?」と少し目線をそらして聞いてきた。やっぱり恥ずかしいんだろうか。
しかし「燎」という私の名前をはじめて言ったつき・・・月見君の声に少し、少しじーんとしているところにまたも雰囲気ぶち壊しの
「きゃー!初々しー!!!死んじゃうわー!私の目の前で「名前で呼び合いましょうよ。」なんて台詞、もうだめぇ!」
身をよじって悶える紗紅弥に激しい殺気を覚えて、どうしてあげようかと考えているうちに試合のコールが始まった。
さっきのにやけ顔から一転、きりっと表情を引き締めた紗紅弥が
「さて、リラックスタイムは終了。いい?私は勝つことしか考えてないからね。燎もその気でやらないと怒るから。」と真剣に言ってきた。
私も気持ちを切り替える。「そうね。負けるわけにはいかないでしょう。一試合目はどこの組?」
「んーと、あいつらはε組。片方はバドの部員ね。でももう片方はたいしたことないわ。積極的にあっちを狙えば比較的楽に勝てる相手だわ。一気に勝負かけるわよ。」
「わかった。私はレシーブ中心にいくから紗紅弥はバシバシ打ってくれる?」
「それが一番いいでしょ。オーケー。いきますか!」
科川紗紅弥 そんなに嫌いじゃないかもしれない。きゅっ!っと髪を一つに束ねてしばる。
コートに入るに月見君が「がんばれよ。応援してるからさ。」と声をかけてくれた。振り返ることしか出来なかったけれど、自然に体に力が入って、にやけてしまった。紗紅弥の冷やかしだって気にならなくて、サーブは私たちだった。

「ラヴ。オール プレイ!」審判の開始の声とともにファーストの紗紅弥がサーブを打つ。
その名の通りほぼ全試合が乱闘まがいの帝壱乱闘祭だけど、その中で唯一普通に行われる競技がバドミントン。
何よりネットで仕切られているので喧嘩の仕様が無い。同じくネットで仕切られているバレーもあるけれど、バレーはバレーでいろいろと凄まじいみたい。
相手があげてきた。さっと私が前に出て紗紅弥が後ろに下がり、スマッシュ。速い!ダブルスは基本的に攻撃が中心。守りに入ってしまうとどこに上げても打ち込まれてしまうからだ。
かろうじて反応したバド部員がネット前に落としてくる。けれどもあまりにも紗紅弥のスマッシュが強かったのか少し浮き気味で、前衛の私がちょっと押し込んでやり、得点。
「・・・速いわね、スマッシュ。女子の速さとは思えないけど。」と一応褒めておく。
「ありがと。私だって練習してきてるのよ。さ、早いとこ勝って体力温存しておこうよ。レシーブ頼んだわよ。」
「えぇ、貴方も打ちすぎて肩痛めないでね。」

その後も難なく得点を重ね一セット目を11対2、二セット目を11対3で快勝。二人ともまだ息は上がっていない。これなら行けそうだ。
「なかなかいいんじゃない?次はシードのβ組ね。ここもたいした事ないわ。にしても悪いくじ引いちゃったわね。勝ち進めば一番試合数が多いじゃない。隣んはやっぱり怨敵α組が勝ってきてるわね。あそこが休憩してる間に、私たちはβ組との試合があるのよ。決勝、疲れちゃうじゃない。」
うちのクラスγ組とα組の仲の悪さは筆舌尽くしがたく、各クラス級長、うちのはこの紗紅弥だけど、が陰謀策略をめぐらして日々水面下で戦っている、らしい。
「にしてもついでに貴方のラケット可愛げないわねー。女の子ならグリップを青とかピンクとか、せめて白にしなさいよ。全部黒じゃない。っていうかそのラケットどこで買ったのよ!?まだ日本では発売されてないというかむしろもう向こう(海外)で、廃盤になったモデルじゃないの!みして貸して触らせて折らせて。」
さりげなく「折らせて」と言ってるのはなんだろう。って、勝手に手に取ってるし。
「武骨ねー。一回カタログで見ただけなのよ。トップヘビー・・・重っ!よくこんなの扱えるわね!どんな筋力してるのよ・・・・・。」
しげしげと眺めて触っている分にはよかったけど、さすがに「なんかムカつく・・・。」とかいって膝で折ろうとする前にもぎ取る。
「ちょっと人のラケット折らないでよ!高かったんだからね!ネット通販で買ったのよ。」
「冗談冗談!折らないわよ。へぇ、ネット通販ね。なるほど・・・ってもう試合コールしてるわね。行きましょ。さっさと片付けてα組との試合に備えるわよ!!」
冗談!といったわりに顔が笑ってなかったような気がする・・・・・けど。

ε組よりも手強かったけれど紗紅弥のスマッシュの精度も上がり、私のネット前高高度殺人スマッシュ(紗紅弥ネーミング)も立て続けに決まって一セット目11対5、二セット目11対6の成績で撃破。いつの間にかクラスのみんながコートの周りに座って応援に来ていた。
「決勝まで後十分・・・休憩短くない?ちょっと疲れたわね。」
「・・・・そうね。ちょっとスポーツドリンクの類がほしい感じ・・・え?」急に冷たい感触が首筋に当てられたので振り返るとスクイズボトルを持った月見君がいた。
「疲れただろ?持ってきてやったよ。ちゃんと薄めてある。」
スポーツドリンクは薄めないと飲めたものじゃない・・・・前私が言ってたことを覚えていたみたいだ。
「・・・・ありがと。えっと、でも紗紅弥に悪いんじゃないかな。」
「いや、赤井川が、ほら。」
紗紅弥はあの気の弱そうな出席番号一番の赤井川 一を何故か激烈に気にいっているらしく、何かあるたびに赤井川君に「一はどう思う?」「はーじめっ!聞いてる?」などと絡んで困らせている。他の人間には絶対に媚びない、従わない、本音をあまり見せない我がクラスの会長が赤井川君に甘える(いやほんとに)姿は、今では普通の光景となったものの依然一学年の七不思議となっていたりする。
最近では「はじめー、お弁当作って。一の料理、すっごく美味しいから。」と毎日お弁当を作らせている有様で、赤井川君もまんざら嫌ではないらしく「うぇ、また僕ですか・・・?はぁ。」とか言いながら毎日欠かさず紗紅弥の弁当を作っている。赤井川君の料理は相当に上手らしく、月見君に料理を教えてもらったときも「あいつに習ったことも多いぜ。」といっていた。
歴土君に自衛軍に引っ張りこまれたり、紗紅弥にじゃれ付かれたりとなかなか忙しい生活を強いられている彼は、それでも健気にがんばっている・・・・って、鈎夜以外の人間とあまり話さなかったから、いちいち記憶を引っ張り出さなきゃならない私はどうなんだろう・・・。
「はじめーっ!飲み物作ってきてくれたの?ありがとう!!う~大好き!」とはじゃぎながら紗紅弥に抱きつかれている赤井川君に体育館中の殺気が集中する。まぁ、学校のアイドルに抱きつかれている人間が明らかに可愛い系の男子だったらそうなるだろうね。俺の方がカッコいいのに・・・・!って。
月見君が入れてくれたドリンクは適度な薄さで、あの元のまま飲んだときのネバネバもなく本当にちょうどいい。
紗紅弥が赤井川君にキスをしたらしく、体育館に充満していた殺気の濃度が二倍増しになった。
鈎夜が腕を組みながら「あの二人は置いておいてさ、薄さはどうよ?ちょっと薄めすぎたか?」と聞いてきた。
「ううん、ちょうどいい。ありがと。」月見君が赤井川君に殺気を送っていないのに気付いて、ちょっと安心した。何に安心してるのさ?
「それにしてもお前ら二人とも上手いな。科川のスマッシュもいいけど、たす・・・燎のレシーブは凄いな。どんな羽でも取れてる。さすが十年はやってるって感じがするな。」名前で呼んでくれていた。
「高校入ってからあんまりやってなかったからこれでもちょっと腕なまってるのよ。」さりげなく自慢してみる。
「そういや燎はいままで誰と練習してたのさ?」
「小学校に入る前から仲のいい友人が一人いるのよ。彼女今は恵稜高校に入ってバドミントンを極めてるらしいわ。全国に出るとか出ないとか。」
「へぇ、恵稜っていったらスポーツ高校じゃん。すごいな。でもってそいつと練習していた燎は自然と上手くなったわけだ。」
一年生バドミントンダブルス決勝戦・・・α組とγ組の選手はコートに入ってください。
「あ、試合のコール入ったから、行くわ。」
「おう、優勝だぜ?頑張れよ。」
「えぇ。当然。紗紅弥、いくわよ。」
「オッケー!はじめの特製ドリンクのおかげで元気二十五倍よ!α組・・・・ぶっ潰してやる!」
明日の月見君の試合のときも。飲み物作ってあげよう。

「ラヴ・オール プレイ!」
サーブ権はあっちにとられた。α組はどちらもバド部員。バスケなどは「部員は一人のみ」という制約があるが何故かバドミントンにはない。
いきなりロングサーブ!紗紅弥が大きく体を反らして頭の上でラケットを振るう、ラウンドで返す。しかし体勢が悪かったため浮いてしまう。
―来る―
相手がジャンプしながらのスマッシュを叩き込んできたところにバックハンドで体に向かってラケットを捻り巻くようにして上手く勢いを殺し、ネット前に落とす。
相手はやはりバドミントン部員、今までの人はこのネット前に落としてやると取れないが(ひとり部員もいたけど)さらにヘアピン、もう一度ネット前に落としてくる。
上手い。
上げるのが精一杯。打ち込まれる。
「ポイント!ワン・ラヴ!」
紗紅弥が「さすがに強いわね、どうする?」と作戦を立てにきた。
「そうね、まだ様子を見なきゃわからないけど、やっぱり打ち込んでいくしかないと思う。そのためには上げさせないとだめなんだけど。」
「一セット目は取られるかも知れないわね。まぁいいわ。出来るだけ打ってみるから。」
「お願い。」
サーブが来る。今度は普通のショートサーブ。なるべくネットギリギリの高さで、サイドラインいっぱいに返す。
相手の後衛が走りこんでこちらにレシーブ、けど遅い!ちょうど私の得意位置。高高度殺人スマッシュ(ネーミングは紗紅弥だから)を「らぁっ!」っと掛け声とともに相手コートに叩き込む!超トップヘビーのラケットは的確に羽をとらえてその特性をいかんなく発揮し、タァン!と羽を床に叩きつけた。
「・・・・・さ・サービスオーヴァーラヴ・ワン!」
「いいじゃん燎!その調子で!ほら周りなんて気にしないで。」
「え、周りって・・・・・!」
気付いたらコートの回りにいたみんなが唖然とした顔で私を見ていた。
しまった。
つい本気出して「らぁっ!」なんて叫んじゃった。一気に顔に血が上がる。このタイミングで「うわ燎カワイ~!」といわれると、キレるし。
えぇえぇびっくりしたでしょうね!ホントの試合はこんなもんじゃないのよ!と叫びたいのを抑えて、湧き上がる殺意を相手に向ける。
ビクッとして硬直しているα組の二人。そんなに私が怖いのか?と更にキレてみたりする。
「・・・・・紗紅弥、私後衛やるわぁ。代わって。あいつらムカつくから。殺したいくらい。えぇ、この超トップヘビーのラケットで文字通り殺人スマッシュを放ってやるから。」割と普段は使わない言葉が自然とこぼれ出てくる。
「あ、燎キレてる?いいよ、やっちゃって。ぶちのめしていいわ。」
帝壱校乱闘祭、名前は変われども長い長い歴史の中で、バドミントンが平和な競技から惨殺のレッド・ゾーンへと変貌する瞬間を作ってあげるわ。


キレた侘須牙が後衛に回ってからの試合模様は、それはそれは直視できないほどで、相手のバド部員二人がトラウマで、その後一週間部活に参加できなかったらしい。
後ろからスマッシュを打ち込んで、上がったところを更に打ち込んで、ネット前に辛うじて相手がひろった羽を容赦なく「相手の体めがけて」こう、バシッと。
一セット目二セット目ともに11対4で圧勝。
試合を終えた侘須牙の清々しさといったら南極にキシリトールの雨が降ったような(どんな?)かんじで、それはもう綺麗な表情だった。
「すっきりしたわー。」って。
まずはバドミントンで優勝して一学年の中で抜け出して勢いづいたγ組は、やはり決勝でα組と当たったサッカーで、双方合わせて二十人の負傷者を出した激戦を、唯一両チームで残っていたキーパー合戦となり、うちのクラスのキーパー夏川があいてキーパーの顔面に蹴りを入れてキル・ゾーンを制した。
しかしその後ボーリングをβ組に、野球をα組、男子バレーもα組、野球はε組が奮闘し僅差で俺たちの負け。その他もろもろの競技を合わせて
結局一日目の順位が
γ、α並立
β
ε
δ
の順番。
白熱の一日が終わって、いや俺は今日は何も無いんだけど、校門で侘須牙を待っていた。
ラケットバッグを背負った侘須牙がわざとか素なのか知らないけれど、いつもの通り俺のとなりを素通りしていく。
いつもの事なので侘須牙の後を追いかけて、並んで歩く。
「今日は久しぶりに楽しんだわ。やっぱりバドミントンは最高ね。」
やっぱりわざとらしい。普通に話しかけてきやがった。
「あぁ、学校中で話題になってたぜ?バド部のレギュラーを完膚なきまでに、文字通り叩きのめしたあの美人は誰だ?って。」
「せんぱぁい・・・・バドミントンが・・・怖いですぅ・・。」とトラウマに陥って半泣きの部員を無視して、バドミントン部の部長が「絶対に入れてやるわ!」と叫んでたし。
「美人は貴方の創作でしょ・・・・まぁ本気を出せばあんなものね。さて、残るはつき、鈎夜君のバスケと・・・アレね。」
「鈎夜が言いにくかったら月見でいいんだけど。」
「いえ、鈎夜でいくわ。」
何故かタイムラグノーカウントで応えられて、ちょっとびっくり。
「じゃあ俺も「燎」でいいんだな。」
「えぇ、もちろん。」
この日の燎は、いつもより楽しそうな帰り道だった。

乱闘祭 二日目。
本当に学校の体育祭でやる競技だろうか?と思わず疑問に思わざるをえない競技の数々に圧倒されながらもいよいよクライマックスの前のカバディを眺めながらウォーミングアップ。
最後の二種目、バスケと障害&格闘を前に「カバディカバディカバディ!!」と叫ぶ選手の声も更にヒートアップ。
順位は未だにαとγが並立かつ三位以下を大きく引き離して、事実上この二組の戦いとなっていた。
カバディの試合が終わり(最下位だったδ組が優勝した。)体育館には一年生が全員集まる。二年、三年は別の競技をしていて外。
「それでは一学年バスケットボールの試合を始めます!β組はシードを獲得して有利!並ぶγ組とα組は、くじ運が最悪のγ組が決勝に行くまでに二回戦わなければなりません!それでは第一試合!α組vsδ組!γ組vsε組!」
「おーし、みんないいか!オレたちはこんなところで負けることは絶対に許されねぇ!決勝までに出来るだけダメージは少なくしたい!この試合。悪いが前半でケリをつけろ!大量得点して後半は守りにはいって体力温存だ!ぜってぇ怪我すんなよ!いくぞぉ!!!!」栗沢が円陣を組んで叫ぶ!
「「「おぅ!!」」」
どん!と全員床を踏んで気合を入れる。観客はヒートアップ!

ピィー!
審判の笛。ジャンプボールは栗沢が飛んであっさりボールを自陣に送る。
歴土がキャッチして河田にパス。高橋に繋いで栗沢のシュートが決まり、まず先制点。
ドリブルで突っ込んできた奴を中西が柔道で鍛えた当たりでぶっ飛ばして、オレが走りこんで速攻、ファーストブレイクを決める。
そんな感の怒涛の攻撃で前半を48対10で折り返したところで栗沢作戦会議

「おっけー。いい感じだ。試合前に言ったとおり後半は守りだ。どんな手を使ってもいい。守れ!飛べ!殴れ!蹴れ!引き摺り下ろせ!勝つぞ!」
「「「おうっ!!」」」
その後の試合展開は酷いもので、一生懸命パスをまわして切り込んできたεの連中を、殴り倒し、蹴り飛ばし、ゴール下でシュートを打とうとしていたセンターの足を文字通り引っ付かんで引きずり下ろし、再起不能に。
結局59対18の大差で圧勝。
「よぉし、かなりいいスタートだぜ。この調子でβも撃破だ。でもよ、あと十分って、きつくね?」との栗沢の総括。
高橋が「まぁ仕方ないよ。でもけが人出なくてよかったね歴土君なんてギリギリでかわすんだからひやひやしたよ。」と歴土をたしなめるが「もっとギリギリでもかわせるぜ?」と取り合わない。「いや、タッチャンの言うとおりだぜ?決勝までは自重しろ歴土。」河田がいってようやく「わーったよ。決勝まで無理せずいこうか。」とこんな感じ。
実際結構危ないところが何度もあって高橋じゃないがひやひやした。
「歴土、なんかしたのか?機嫌悪いみたいだけど。」と聞いてみたら、歴土ではなく中西が「コイツな、ふられたんだよ。」と暴露。
「やかましい!仕方ないだろ!タイミングが最悪だったんだ!なぜアノ瞬間にブツを返しに来たんだよ!」
一人でキレてしまった歴土を見て説明を求めると栗沢が詳細を教えてくれた。
「月見は侘須牙と早めに帰っちゃったから見てないだろうけど、昨日の放課後に歴土が斉藤に告白をしたんだ。みんなで影から覗いてたけどあれは滅茶目茶いい雰囲気だった。歴土が「好きだ!」と告白して斉藤が応えようとした瞬間「いたいた歴土ー!借りたエロビデオ返しに来たー!」って。誰だかしらないけれどちょうど死角になっていて斉藤が見えなかったらしい。でもって斉藤が「最低。」と言い残してスタスタ。歴土が灰化。あれは見事なふられっぷりだったぜ。「最低。」だぞ?一撃即死だ。でこうなってる。」と、うずくまっている歴土を指差した。もはや目が虚ろだ。
「うわ、そいつはまた・・・。で、斉藤は今日見に来てるのか?」
「・・・・・来てた・・・・目が合った・・・・・おもいっきりそっぽ向かれた・・・・・殺す!β組殺す!α組殺す!!殺す殺すコロス!!」
と暴れ始めた歴土を高橋が必死に押さえ込んでいる。
「酷いねーこれは。斉藤はもう完全にだめなの?いい感じだったんでしょ?」
この中で女子との交流が一番多い河田「いや、オレが聞いた話によると全然だめではないらしい。だからこの大会でいいところ見せたらもしかしたらOKが出るやもしれん。斉藤自信もまんざらではなかったみたいだし。」とのこと。
斉藤美由紀 明るくてはきはきしてる、可愛い女子・・・くらいの事ぐらいしか知らないけれど、性格、容姿あいまって結構人気の女の子らしい。
そんなことをしていたら試合のコール
「γ組とβ組。コートに入ってください。
「馬鹿なことはなしてたら時間なくなったぜ・・・・。おい歴土!落ち着け!試合だ!いいとこみせるんだろ!方針はさっきと同じ!次のα戦のために体力温存!いくぞ!
「「「おうっ!」」」
ジャンプボールを栗沢が奪うが相手もすばやく守備につきゆっくり攻めることになる。
「ゆっくりぎりぎりまでパス回しだ!」栗沢の激が飛ぶ。
何度か切り込むがなかなかマークがきつく攻めあぐねていたら、そろそろ24秒。今行かなきゃ間に合わない。歴土と目配せをする。俺のいいたいことがわかったようだ。ボールが回ってきて目の前の敵に体当たり気味の切込みをかける。当然厳しいマークがつくがそれは想定内。クルンと反転。二秒前に俺がいたところに歴土が走りこむ!「歴土っ!」びゅっとパスを出して、完全にフリーの歴土がスリーポイントラインの外から綺麗なフォームでシュートを放つ。
パスッ
歴土のえがいた放物線は一寸の狂いもなくゴールの輪の中へ。まず先制点。
「いいぞー!」「かっこいー!」と観客が沸きあがる。中には「死ねぇ!」などとベータの連中が叫んでいたりした。
相手ボールになり今度はこちらが守備。
俺のマークしている奴にパスが回ってきた。馬鹿め、ピボットもせずに突っ立ってやがる。相手からボールを叩き落して華麗に飛び出す。完全フリー!後はゴール一直線!!何人かが追ってくるがもう遅い!ダァンと踏み込んでダンク気味のレイアップ!
「いいぜー月見!ナイスプレー!」これで4対0.
しかしその後立て続けにゴールを許して4対4。
その後も敵ではないと油断していたのが悪かったのか、体力温存などと余裕をかましているうちに第一クオーターを20対14で、なんと負けて終了。
栗沢作戦会議「おいおいおい!入れていくぜ!!勝たなきゃいけないんだ!この際どうでもいい!・・・・・「ぶっこめ」。」
「ぶっこめ。」殺戮許可の合図。全クラスの中で最強と目されたγ組の戦闘能力が今、解放される・・・・・。
解放、しちゃうのね・・・・・。

第二クォーター開始。
さっきまでのゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンス、もといタイマンディフェンス。
開始の笛とともにマークの相手の右太腿にヒザを入れて体勢を崩し、腹にもう一度ヒザを叩き込む。「うぐっ・・・!」っと苦悶の呻きをだして倒れこんで再起不能。周りを見渡すと栗沢がボールをキープ。ディフェンスに阻まれるもボールを相手の顔面にぶち込み、もう一人を蹴り飛ばし、巻き添えを食って倒れた最後のディフェンスを踏み台に華麗なダンクシュートを決めていた。沸きあがるギャラリー。他の連中もみんな倒れていて、起き上がる気配すらない。
「β組!ゲーム続行不可とみなし、γ組の勝利!」
審判の声が高らかに響き渡る。一方的な殺戮ショーに観客の歓声は熱狂にも似た色を帯びている。
試合続行不可に、もしくは戦闘意欲を消失した場合、相手チームの勝利となる。喧嘩主流の帝壱校体育大会のおいて当然のルール。たとえ点数が負けていても関係はなく、最強かつ最悪のルール。
コートの外に引きずりだされるβ組。意識が無いらしい。
「おーし、みんな問題は無いな。最初から「ぶっこんで」おくべきだったかもしれない。決勝までは後二十分だ。それまで各自休憩。水分補給はしっかり。手に包帯を巻くのを忘れるなよ。相手を殴ってこっちも怪我したらかなわないからな。」バスケットをするのに手に包帯を巻くなどという行為をするのは、はなからまともに競技をするつもりが無い=喧嘩。殴り合い。
取り敢えず無事に(無事に?)勝ったオレたちは一旦バラバラになり、各自で休憩することにした。
まずは水でも飲もうかな、と水飲み場に行こうとしたら侘須牙に声をかけられた。
「昨日私に作ってきてくれたお礼。作ってみたから飲んでみて。」
「え、嘘、マジで?わー有難う!さんきゅ。」
手渡されたのは昨日俺が渡したスクイズボトル。「自分で洗うから」といって持っていってしまった奴だ。
早速ごくごくと飲んでみる。 ちょうどいい感じ。侘須牙が入れてくれたこともあって、精神的にも肉体的にも激・回復。
「っぷは。うまい!いや、ほんとありがとう。燎のおかげで元気百倍・・・なんてね。ちょうどいいよ。」我ながら赤面モノのせりふだ。
「そう。よかった。鈎夜の入れてくれた薄さを目安に入れたわ。ま、次の試合もほどほどに頑張りなさいよ。私たちは最後にもう一つ大事な競技があるんだから。・・・怪我しないでよ。」紅い顔を隠してか、そっぽを向かれた。
「わかてるって。負けない程度にやってくるよ。あ、そうだ。」この間二人三脚の初回練習のとき手の怪我をしたときの手際の良さと、あの柔らかい手の感触を思い出して、ちょっと頼んでみる。
「決勝だからきっと殴りあいになると思うんだ。だから手にあらかじめ包帯を巻いておくんだけど、一人じゃ巻けないから巻いてくれる・・・かな?」
侘須牙は、一瞬びっくりした表情を見せた後、「ん、わかった。いいわよ。」とちょっと笑って了承してくれた。
ぐるぐると厚めに包帯を巻いてもらう。見事なまでに均一な巻き方で、違和感なんかは一切無い。
「はい、次右手。」
黙って右手を出す。侘須牙の白い手が俺の手のひらを掴んで包帯を巻いていく。長い髪が顔のすぐ近くにあって、いい香りがした。
最後に手の甲に結び目をつくって巻き終わった。
「はい、終わり。まぁ、応援してるわ。頑張って。」
「おぅ。じゃあやってくる。」
名残惜しい気が滅茶苦茶したが、時間なのでコートに戻り歴土に抱きしめられた。背骨がめきっっと、嫌な音をたてた。
「って、なんだお前!気持ち悪いぞコラ!離せ!馬鹿野郎!」
「月見―!俺は嬉しいぞー!斉藤が!斉藤がー!!」聞いちゃいねぇ。
「わかったー!いいから離せ!うわぁー!」
やっとのことで歴土を引き離した俺はまず近くにいた中西に説明を求める。
「斉藤がな、この試合勝ったら付き合ってあげるって、包帯を巻いてくれたらしい。」
それは・・・・よかった。
「例の件はお許しが出たらしい。ま、なんだかんだ言って斉藤も歴土が気に入ってたってわけさ。」
「だがまだ付き合うことが決定したわけじゃない。」と、興奮状態から回復した歴土が今までになく真面目な顔でいった。
「俺は、勝たねばならない。ということはオレたちは勝たねばならない!みんな、勝たねばならんのだ!!」歴土の魂の叫びに栗沢が同調する
「勝つぞおまえらぁ!このゲームには俺たちγ組の威信と誇り!そして歴土伊勢16さい!年齢=彼女いない暦な童貞男を立派な漢になれるかどうかの大事な意義がある!!ここで勝たずにいつ勝つんだぁ!」
「「「おおう!!」」」
ゲーム開始の笛。整列して礼のはずなんだけど、がんの飛ばしあい。まさに火花がでているようだ。
「もう、何も言うことはねぇ。全力でぇえ!逝かせてやれぇ!!」栗沢が怒鳴る。
「「「おうっ!!!」」」ドンッと足を踏み鳴らす。
試合開始の笛とともに、栗沢と相手のバスケ部だろうと思われる奴とがセンターサークルにはいる。そして、審判がボールを投げて・・・・!
普通はジャンプボールだから飛ぶはずなんだけど。なんだけどさ、やっぱり、こうなるのさ。
審判がボールを投げた瞬間、お互いに構えた右拳を相手の顔面へと炸裂させて、見事な相打ちで二人が回転して吹っ飛ぶ。まさかの展開に沸きあがるギャラリー。そこだけ切り取ったら安っぽい恋愛ドラマの女の取り合い「俺のほうが彼女を愛してる!」「いや!僕だ!」みたいな感じだった。
それが合図のようにボール完全無視の大乱闘。それぞれ開始時に決めたマークの相手に突っ込む。当然俺も相手が雄たけびを上げて拳を振り上げてきたので参戦。ギャラリーの応援が物凄いことになっている。というか乱闘になってるし。
俺よりも少し大きめの相手が物凄い形相で踏み込んでくる
突き出された拳をなんとかいなして、かまえる。それにしても腕の長い奴だ。間合いに入ったら簡単だろうけどなかなか入らせてくれない。
いくつかけん制のパンチを入れたけどまるで効果なし。しばらく避けたりいなしたりの攻防が続いた後、苛立ち始めた相手が大降りの右フックを出そうとした。
その、瞬間を待っていた。
大きく踏み込んでいる左足のヒザを思いっきり蹴っ飛ばす。体勢を崩しながら尚も殴りかかってくる腕をつかんで引き寄せる。十分に俺の溜めと相手のスピードが乗ったところで、得意の膝を胸から鳩尾にかけて叩き込む。
「かはっ!」っと肺から空気が押し出され、鳩尾に入った衝撃で一気に崩れ落ちた相手が、もう動けないことを確認。周りを見渡せばすぐ後ろで河田が二人相手に苦戦していた。でもって高橋がコートの外で転がっていた。
河田が一人に羽交い絞めにされて、もう一人がぶん殴ろうとしているところにそいつの脳天に上段蹴りをぶっ放す。河田も後ろから締めていた相手の腹に肘を入れてそのまま背負い投げでKOを取った。
「助かった!!やばかったぜ!」
「おうよ!高橋は大丈夫なのか?」
「多分大丈夫だ!あいつ割と頑丈だから!」
周りを見ると歴土が自分のマークを葬って快哉の雄たけび。そして栗沢と相手がまたもや相打ちになったが栗沢が何とか立ち上がり・・・・・
ピーッ!試合終了のホイッスル!
体育館中が勝利の雄たけびと怒号に包まれびりびりと振動している!
「γ組!一年バスケットボール・・・もとい乱闘に勝利!優勝!」
・・・・・・・・・。
・・・・・・
・・・



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