-小麦粉記-

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第七楽章上 new!!


委員長・科川の酔った声が波の打ち寄せるすずしろ浜に滅茶苦茶よく響く。
「まぁだ肉はあるからネェ!あと一時間!ぜぇぇぇったい損しないように食いまくらないとぉぉぉ!」
「「いぇぇぇぇええい!」」
「アルコォルもばっちり入ってきたところで!なんか生贄ゲゲームしたくなぁい?」
「「したーい!!」」
 おいおいなんだよその怪しげな「生贄ゲーム」ってのは・・・。みんなアルコールが回りすぎだぜまったく。
見回してもさっきまで別の場所で話し合っていたらしい月見と侘須牙の二人が誰も使ってないバーベキューコンロを使って食い損ねた分をくっているほかは大体の生徒が嫌に紅い顔で科川と一緒に騒いでいる。どうやらあの二人はうまくいったみたいだな。いやしかしあのディープキスには驚いたぜ。しばらく学校中の話題のかもだな。
あと酔っていない人間は、疲れた顔で科川がこけそうになるのを支えている赤井川くらいなものだ。
俺の隣で「伊勢ぇ~えへへへへー。頭つるつるー!大好きー。」などと普段なら間違ってもそんなせりふを吐いたためしの無い斉藤が、例に漏れずかなり酔っ払っていた。
彼女とはいろいろな苦心の末ようやく交際に至ったのだが、いかんせん強い。並みの男なら負ける。ただ単に良くある「男勝りな性格」というのではなく、いやそれはもうそうなんだけど、実力的に喧嘩に強い。
一応女の子だから腕力があると言っても知れた程度なのにいざやりあってるのを見たら、半端じゃなく強いのだ。
別に格闘技をやっているわけではないらしい。ただ、斉藤 宮子という人間の生まれ持った基本アビリティが戦闘に特化してしまった、というほか無いぜ。
最小限の動きで急所をとらえ、一撃で相手を無力化する彼女は、美しかった。

なんて馬鹿なことをフツーに考えてしまっている辺り俺も酔っているのかもしれない。

歴土家の一人息子としてこの帝都の住んで16年。
小学校、中学校と金持ち連中の集まる私立校に通わされていたがあの馬鹿連中とは付き合っていられない!と両親に頼み込みようやく入った帝都公立第壱高等学校で、一番最初に知り合ったのが月見 鈎夜という変わった苗字の奴だった。が、変わっているのは苗字だけじゃなかった。
桐坂中学出身 手に負えない少年少女の収容所と名高い桐坂中学
なぜそんな奴がここにいるのか。というか見た目はかなり普通なんだが?と、興味を持った俺は無理やり作った自衛軍に彼を強制参加させ、なんだかんだで変質者を捕まえたりしたこともあったりする。コンビ的には相性がいい。
そんな月見に、俺はある疑問を抱いている。

奴の時折見せる、基の人格を失ったかのような狂暴性、だ。

いつの間にか俺の腕に抱きついたまま寝込んでしまった斉藤を支えながらビールを飲み干して空き缶をぐしゃ、と握りつぶす。
いつもの俺なら喜んで科川たちとはしゃいでるのだが、何故か今日は妙な考えが頭をちらついて、せっかくの祝賀会なのに楽しめネェぜまったく。

今回の大会で俺がもっとも危惧していたこと、それは本来行われるはずだった格闘試合で、月見がブチぎれてしまうことだった。
どうも奴は自分以外の誰かから殴る、蹴る等の暴力を受けたときに自制が外れる傾向にあるらしい。そのうえ自分でそれをわかっていて止められない、というような感じだ。バスケの練習のときに、一度きれて、さいわい相手は怪我も無かったが、月見は逃げ出している。前にも同じようなことがあったみたいだ。
いったんきれた月見の表情は、全く人間味ってモノがないような、見られるだけで殺されちまうような目だった。

「おーい、歴土!お前もこっち来てくわないかー?」
おっと、月見本人のお呼び出しだ。・・・ちょっとドキッとしたぜ。
「おうよ!いまいくから!」
寝ている斉藤を背負い、月見のほうに行こうとしたら、
「はい今回の生贄は歴土と月見君のコンビー!」
「「おいぇーー!」」
どうやら生贄にえらばれたらしい。ちょっとでは済まされない嫌な予感がするぜ・・・。月見のほうもぴたりと動きを止めて俺と目を合わせる。
「ここはもう行くしか選択肢が無いだろ。酔った連中には逆らわないほうがいいのさ」
「・・・そうだな。っていうか生贄って何だよ。」
「さーぁ、知らね。ろくなことじゃねぇってことは、こいつらの目が保障済みだ。」
科川を筆頭にらんらんと目をかがやかせるクラスの酔っ払い連中に恐怖しながら、俺たちはおとなしくしたがうことにした
「「サクリファーイス!!!」」大合唱だよ。


 おおよそ思い出したくないあの醜態は、月見は兎も角、クラス一のお調子者で通している俺にとっても酷い内容で、しかもクラスの連中の前でだ。
あぁ、なんか穢された気分だぜ・・・・・・。

なぜ男同士でキスしねばならんのだ!?

相手が月見だったからまだ良かったものの・・・・・いやまて、俺に「やおい」の趣味はダニほどもねぇぞ?相手が柔道部の中西でなくてよかったぜ・・・・・。もしあいつだったら俺は今間違いなくあの海にランニング・ハイだぜ。斉藤に見られなくて、良かったぜ・・・。

狂乱と、愛と、キスと、何かにまみれた残りの一時間は、あっという間に過ぎていった。




 少しかけた綺麗な月が、煌煌と夜の空気を藍色の白で染めていた。
クラスの男子全員で月の光がさざめく海に盛大に放尿しアルコールを放出。女子は知らない。近くのトイレ(綺麗だと評判だった)で済ませたのだろうか。
・・・そんなことはどうでもいいんだけど。
宴会からの帰り。
歴土は酔いつぶれた斉藤を担いで、赤井川は同じく酔いつぶれた科川に肩を貸して帰っていった。
他の男共も大多数が酔いつぶれた女子連中をエスコート?して帰っていって、きっと休み明けの月曜日は赤面レッドマンデー状態だろうさ。
 アパートへの道のりを侘須牙と歩く。
幸いどっちもアルコール分解酵素が多量にある体質らしくて、気持ちのいい酩酊感で夜風の中を歩く。
明日からは八月になる。一週間経てば九月の三週まで夏休みだ。

・・・・・。

アレは、告白か?そして、アレは承諾の意図をもったアレなのか?

最初のアレは、俺からのキスは、告白、だ。少なくとも俺は告白の意図を込めていた、と思っている。

二回目の、まさかの侘須牙からのキスは、承諾、なんだろうか。というかそれ以外考えられないのは、きっと俺の自意識過剰というかうぬぼれ、では無いと思う。

あの後は「「エヘ・・・。」」なんて笑いあって焼肉を食ってたけれど、今この二人きりで歩いてる状態で、俺はどうしたらいいと思う?なぁ!?
・・・いけねぇ。酔ってるせいで誰もいないのに誰かに尋ねはじめた。
その侘須牙と言えば、長い髪をサラリサラリと流して、お酒の酔いで頬を染めて機嫌よさそうに俺のとなりを歩いている。
俺も、機嫌がいい。・・・どうしようかと悩んではいるけど。
この際酔った勢いで手でも握ってみようか。俺の手に包帯を巻いてくれたあの白くて綺麗な柔らかい手を。
・・・・・・・・・・・・・・。
アパートまでの道のりも、もう少なくなっている。

いくか、いかざるか。
いくか、いかざるか。
いくか、いかざるか。
いくか、いかざるか。
いくか、いかざるか。

いけ。

さりげなく近寄って歩く。
そしてその手をきゅっ、っと掴んだ。
侘須牙は黙って握り返してきた。
無言の帰り道。そこに言葉はなく、体温だけが、会話していた。



ちゅんちゅんちーちーと平和に鳴くすずめの鳴き声をかき消してメスを求めて絶叫する愛と本能に餓えた蝉の鳴き声で目が醒めた。
昨日は手を繋いだまま帰宅。「じゃあ」なんて言って別れて、といっても隣なんだけどさ、そのまま疲れと酔いで就寝。
八月一日の土曜日になっている。
「・・・・・ぐあ、俺は昨日なにをしたんだ」

ぴーちくぱーちく平和に鳴くすずめの鳴き声を消さんとばかりに短い成虫生活を全力で鳴く蝉の声聞で目が醒めた。
昨日は手を繋がれたまま帰宅。「じゃあ」なんて言って別れて、といっても隣なんだけれども、そのまま疲れてたし酔っていたから布団にくるまった。
八月一日の土曜日の朝になっている。
「・・・・・うわ、私昨日、自分からキスした・・・・・?」

「「し、信じられない。」」

―どうやって顔をあわせばいいんだろう―

まぁいい。取り敢えず朝飯だ。
ベーコンをフライパンで香ばしく炒め、その上に卵を割りベーコンエッグを作り、そのフライパンで茹でてあるほうれん草をバターで炒める。
炊飯器に残っていたご飯を盛り、菜っ葉の味噌汁を温める。
いつもの朝飯、いつものじゃない心境。
「・・・そういえば侘須牙はカレーとシチューしか作れなかったんだよな。一応俺が教えたって言っても肉じゃがとかその辺の割と簡単な(でもその分おいしさに差が出るけど)料理しか教えてないし。今何食ってんだろ?」
一応昨日のことも踏まえて、気にしたほうがいいのか、それともそんなことはおこがましいのか。
ほとんど男ばっかりの中学、数少ない女子も怖かったし。「ちょ、鈎夜―。金貸してクンねー?返すからさー、いつか。きゃははは!」ってそんな手ごろな竹やりもって囲まれたら、怖いぜ?まじで。
女の子との距離のとり方がイマイチわからない。さて、どうしたもんだろうか。

1:侘須牙の部屋に行ってみる
2:このまま自宅待機
3:朝なのに夜這い

・・・・・・・・。まず「3」を一瞬でも考えた俺のフラストレーションを抑えるにはランニングだ。それしかネェ。それからシャワー浴びて侘須牙の部屋に行こう。
行けるのかな、俺。というか何をしに行くんだよ?
とりあえずジャージに着替えて結構な炎天下に備えてタオルをバンダナにしてかぶる。水を少しだけ飲んで馬鹿みたいにギラつくお天道様のなかに飛び出した。
絶叫する蝉共。
ストレッチを終えて合計五キロのコース(推定)の最初の一歩を踏み出す。
さぁもう戻れない。体がどんなに苦しんでも、どんなに運動を拒否しても、どんなに筋肉が危険信号を出しても、目の前に白いもやが現れて意識が無くなる寸前まで肉体を酷使し、虐げる。これぞ運動の極意。
まぁたかが五キロのランニングだからそこまでなる必要も可能性もあんまり無い。ダッシュじゃあるまいし。
走るリズムに合わせて息を吸う・吸う・吐く・吐く。一定の単純作業の持続。相変わらず日差しが強くて脳みそが蕩けそうだ。余計なことは考えず、このリズムを狂わせないように、走る・走る・走る。
順々に通り過ぎて行く街路樹に軒先に撒かれたうち水。どこぞの玄関で風鈴がなる風が吹く。
一時的な苦しみを逃れた後にやってくる昂揚感。どこまでも走れると感じる開放感。肉体の苦痛など全く気にならなくなる爽快感。
ランナーズ・ハイ
・・・・・アッパー系の麻薬、マリファナなんかをやってもこんな感じなんだろうかなどと脳内で無駄口を叩ける余裕。

全く。

これだから走るのは、嫌いになれない。

と、気付いたらもうアパートだった。
「あ、暑ぃ・・・・体が熱いぜ・・・・・。」
ガレージで水道のホースを伸ばして盛大に頭からぶっ掛ける。炎天下でランニングした後にやる水浴びって、最高。冷たい!思わずヒザがカクンとなって、シュウシュウと俺が浴びた水を蒸発させているアスファルトに寝転がった。この匂い、昔からすきっだったなぁ。
「はぁはぁ、ぁは、はぁはぁはぁ・・・・はっ」
花もてる夏樹の上をただ時がじいんじいんと過ぎて行くなり
そんな短歌が国語の教科書にあったなぁなどと考えていたら視線を感じて、ひょいと起き上がって周りを見渡すと二階の手すりのところで真っ黒なワンピースを着た侘須牙がこっちを眺めていた。
「や。おはよう。」なんとか息を整えて挨拶をする。
「おはよう。・・・よくもまぁこんな暑い日にランニングに行く気になるわね?貴方、熱中症になるわよ?」
「そうなったらお前の部屋に運んで介抱してくれよ」走り終わった後で気分がいいから、ふだんはあんまり使わない軽口を叩ける。
「・・・そうね。なんだか今日は、なんというか、何をすればいいかわからなかったから図書館にでも行こうかと思ってたんだけど、まだまだ時間あるから檸檬水でも飲む?さっき作ったんだけど。」
やたらと長い前振りだったけど、檸檬水はありがたいので頂戴することにする。侘須我からのお誘いか、なんて心が躍った。
「あぁ頼む。さんきゅ。じゃあ今着替えるわ。」
「用意してるから着替えたら部屋に来て。・・・・髪、ちゃんと拭きなさいよ?」といって侘須牙は部屋に戻っていった。
いそいで部屋に戻ってびしょびしょのTシャツを洗濯篭の中にどしゃ、っと放り込む。バスタオルで髪をガシガシ拭きながら涼しそうな服を探すが、くそ、ジャージしかネェのかって。しかたなく一番上等なジャージをはいて南国の綺麗な模様が入った麻100%のTシャツをかぶる。
「・・・・・・・変、じゃないよな。」
いちおう身だしなみとして口をゆすいで、水を浴びたばかりだけど制汗ススプレーを軽く噴射。これで、よし。
しぬほど乾いた咽喉がひりつく。何故水を飲まないのかって?この咽喉に通る最初の恵みは侘須牙の檸檬水であってほしいからさ。
サンダルをつっかけて隣の部屋のドアをノッック。
「はいって。」
「お邪魔します。」
相変わらず小綺麗な部屋だ。それに、なんかいい匂いがする。
「はい、どうぞ。檸檬水。」
今に置かれた小さめのテーブルの上に大きなガラスの容器が置かれてあって、小さいコップと大きいコップが用意されている。
レモンのスライスが、氷と一緒に浮かんでいた。
火照った体に水の冷たさとレモンの爽快な香りが駆け抜ける。ぱぁっ!と頭が冴え渡って、しゃきっとした。あっという間に飲み干してしまう。
「あー、最高だ。ほんとにおいしい。まだもらっていいよな?」
「えぇどうぞ。全部のんじゃっても構わないわよ。まだレモン余ってるし。」
小さいコップで檸檬水を飲む侘須牙の真っ白な咽喉がコク・コクと上下する様に、一瞬見惚れてしまう。なんか、ワンピースの黒と相まって、凄く艶やかだ。
それにしても侘須牙のワンピースは、反則気味に似合っていた。いっつも黒ばっかり着てるけど、学校ではだいたいズボンだからスカートから、普段は見えない白い足に目が行くのを抑えるのが不可能だ。彼女がワンピースを着たことに特別意味はないと思うのだけれど、とりあえず素直にほめてみることにした。
「ワンピース、似合ってる・・・可愛いな。」
舌が少しもつれる。
!ここまでストレートに言っていいのか!?いや悪くは無いと思うけど・・・・・。と、侘須牙の顔が一気に紅くなる。
「そ、そう?まぁ、新しいし。うん。ありがとう。」
なんだか嬉しそうだから、よかったのだろう。なにやら気持ちのいい、シャワーを浴びた後のような気持ちになって、二人とも檸檬水に口をつけた。

三杯目のお代わりを飲み終えて、俺は一大決心してみた。
「なぁ、明日予定ある?」
要するにデートのお誘い。生まれてこの方初めてのデートの申し込みだ。
「うーん、明日は何にも無いわ。どうして?」
「じゃあさ、どっか出かけないか?」あぁもう心臓がうるさくて仕方がない。
「・・・・・そう。いいわ、行きましょ。どこにいく?」
あ、それを考えてなかった。あー、いきなり海っていうのも何だし、涼みもかねて俺の家のほうに行こうかな。山間だし結構綺麗なとこだから気に入るんじゃないだろうか。飯のほうも家に上がってもらって食べてもらおう。
「俺の実家のほうに行かないか?山で木ばっかりだから結構涼しいし、割と綺麗なところだから。昼飯は俺の家で食っていけばいい。姉貴しか居ないはずだ。」
「貴方の家ねぇ。私なんか行って大丈夫なの?いきたくないわけじゃないわ。むしろ行ってみたいんだけど。」
「あぁ、全然大丈夫だ。もし親父たちが帰ってきてても・・・いやそれは無いか。少なくとも後二ヶ月は帰ってこない。今頃ペペルーの奥地で現地の人と探索してんだろ。」
「え、鈎夜の両親って何してる人?」
「考古学者だ。マニアックな発見を何回かしてて、その線の人たちには結構有名らしいけど。そんな感じであんまり家に帰ってこないさ。それで自然に家事全般しなくちゃなんなくてさ。姉貴はめんどくさがりだからあんまり料理してくれないし。」
ところで侘須牙の俺の呼び方「貴方」と「鈎夜」との使い分けの基準はなんなんだろうか。
「へぇ、そうだったの。」とそこで侘須我はいったんコップに口をつける。
「・・・・あ、あのさ、迷惑だったらいいんだけど。また料理教えてくれるかしら。肉じゃがとちょっとした中華とハンバーグじゃお弁当の中身に困るし、レパートリーふやしたいし。」
「ん。勿論。よろんで。」
お互いの接点が出来ることは、楽しいことなんだ。かなり。俺も侘須我にちゃんと教えられるくらい腕を磨かなきゃならない。
結局そのままなんだかんだと静かなかんじで話が長引いて昼になってしまっていた。檸檬水はとっくになくなっている。
昼飯でも作ったほうがいいんだろうか。
「侘須牙、台所借りるぞ?昼飯作るから。材料何がある?」
「え、ホント?なら私も手伝うわ。えーと、冷蔵庫冷蔵庫・・・・あ。」
「もしかして、無い。とか。」
「・・・・無い、わね。」
「じゃ、俺の分も含めて買い出しだ。」
ちょうど俺の冷蔵庫も寂しくなってきたところだし。
でもって近くのスーパーにきたんだけれど・・・・・なんというか、ついてないというか、なぜこのタイミングで四人もの同じクラスの連中のはちあうのかな。
まるで狙い済ましたかのように。

「あれ、燎と月見君じゃない。何してるの?」
まず出会ったのが科川と赤井川の二人だった。赤井川がかごに野菜やら肉やらを大量にいれていたからつい声をかけたら科川もせっとでそこにいてつかまってしまった。
侘須牙の「う…」っといううめきを聞くと同時に聞こえたのが「あれぇ!月見じゃネェか!あんだテメースパーでデートかよ。俺もだけどさ。」「ちょっと!デートって・・あんまりおっきな声出さないでよ!恥ずかしい。」
歴土と斉藤の二人も買い物に来ていたらしい。
「なになにーみんな何買いに来たわけ?私たちはこれからすき焼きしようと思ったんだけど。あれ、あんたたちもすき焼きじゃない?」
と、斉藤が持っていたかごの中身を覗いた科川。
「そうよ。今日は伊勢の家ですき焼きにするつもりだったの。」
「今日はお手伝いの美香さんが休みだし、何食おうかなーって思ってたときに「すき焼きしようか」ってメールはいってよ。いやぁ、嬉しいねぇ。」
終始にこにこしていた歴土だったが、斉藤は美香さんの名前が出た瞬間眉間にしわを寄せた。
確かに歴土のことを良く知ってるし、美人で、巨乳だ。お世辞にも斉藤の胸は大きいとはいえない。よく言って、慎ましやかだ。
「・・・ちょっと鈎夜、聞いてるの?」
侘須我に服のすそを引っ張られてはっと斉藤の胸から眼をそらす。・・・ばれてないよな。
「私たちは何作るつもりなのかって。結局何にするつもりだったの?」
「あぁ、中華のシーフード野菜炒めにしようと思ってたんだけど。」
とそこで歴土が提案。
「どうせならよ、俺の家でみんな一緒にすき焼きしようぜ?月見、いいだろ?」
「そうです。ご飯はみんなで食べるのが一番いいんですよ。」初めて会話に参加した赤井川も賛成のようだ。
「どうする侘須我。食事なら明日俺の実家に帰ってからでも一緒に作れるだろ。今日は歴土の豪邸ですき焼きでいいか?」
「・・・まぁいいんじゃない。でも明日はちゃんと付き合ってもらうから。」と少し不満そうな顔だったが承諾してくれた。が、その不満そうな顔を見逃さなかった奴が一名。
「あ、何その顔?せっかく鈎夜と二人っきりで、しかもちょっと狭いお台所で一緒にご飯作るっていう名目で密着できると思ったのに・・・って顔ね。月見君、あなた優しくてそこが長所なんだけど、我慢できなくなったら押し倒しちゃうのよ?っていってもその性格からして絶対ありえないわね。だから燎がちゃんと月見君を立ててあげないとだめなんだから。最初は痛いけど月見君なら優しくしてくれると思うし。・・・あんまり声出してアパートの人に迷惑かけないように。」
・・・なんだそりゃ。
「・・・・!!!ちょ、ちょっと貴女なにを言ってんのよ!?まだ早すぎるわ!っていうか何でそんな知ったような話し方するわけ?ももも、もしかして、もう、ししし・・・・」
しどろもどろになる侘須我。・・・ちょっと彼女には刺激が強すぎたかもれないぞ。
「えぇ。したわ。ハジメと。」
さらりと言ってのける科川。それに対して秒速で赤井川に詰め寄る歴土「てめぇやったのか!?もうやっちまったのか!?俺だってまだなのにというかあんまりいちゃつかせてくれないんだよぐふぉ!」斉藤の右フックが歴土のわき腹にクリーンヒット。うわぁーそ・・・・。
「わるかったわね・・・。どうせ私の胸はまな板ですから。美香さんには勝てないわよあんな反則・・・。それは置いておいて、侘須我さんって割りと元気な人なんだ。月見君と話してるとき以外はいっつも冷たい感じがしてたんだけど、案外そうでもなかったのね。なんか親近感わいたわ。学校でもこれからよろしく。」
といって斉藤が侘須我に手を差し出した。握手のつもりらしい。
「え・・・っと、でも」
「いいじゃないか。友達は、居て困ることはないぜ?」
「う、うん。まぁ、よろしく。」
侘須我も手を伸ばして、握手を交わしていた。
「・・・・あんたも胸、結構あるでしょ。体育のとき見たもの。わざと小さめのブラつけて抑えてるだけでクラスで1,2を争えるくらい。」
あぁ、そういやあの道場での受身の練習で転んだときも、やけに柔らかかったからなぁ。あの感触、まだ手に残ってるよ・・・・。思わず「柔らかいな」なんて言って、バケツを投げられた記憶がある。
「ちぇ、いいなー胸ある人は。」
「ん?俺は胸が小さくても構わんぞ?」
「そういう問題じゃない!」

「じゃ、そういうことで早速歴土君の家に行ってみようか。月見君一回行ったことあるのよね。」
いつもどおり科川が先頭きって歩いていく。
「あぁ、かなりでかかった。しかも立派だし。アパート暮らしの俺にとっちゃ雲の上だな。」
「よせよ月見。でかいだけであまり住み心地のいい家じゃない。その上幽霊が出る。」
つるつるの頭を撫でながら歴土が言った一言に斉藤が硬化した
「ちょっと、幽霊ってどういうことよ。聞いてないわよ。」
「そりゃそうだ。今はじめて話したからな。二時くらいになるとキッチンにあるフライパンが鳴り出すんだよ。次の日行ってみると床一面に水で薄まったしょう油がこぼれてたり日めくりがめくってあったり、たまにシンクの掃除をしてくれたりする。」
「・・・・怖いけど、なんだかよくわかんないわね。何でしょう油こぼすのにシンクの掃除すんのよ。」
「知るか。幽霊に聞いてくれ。」
そんなときに久しぶりに侘須我が口を開いた
「私たちのアパートにも幽霊が出るわ。鈎夜、見たことある?」
「えぇ!?見たことねぇ・・・というか初耳だよそんな話。お前見たことあるのか?」
ぜんぜん知らなかったよ。夜中はぐっすり寝てるからなぁ。
「アパートの前の駐車場あるじゃない。あそこの水道のとこから夜の暗さでもわかる真っ黒な塊みたいなのがどろどろって感じで出てきて、そこらへんを這いずり回ってたわ。」
後ろでは斉藤が完全に硬直していたが、侘須我の話はまだ続いている。なかなかリアルな話に科川が食いついてきた。
「うわぁ、それマジ?」
「はじめてみたときは吃驚してすぐ部屋に戻ったけど、その次から見たときはちょっと観察してみたの。そうしたら四回目に見たとき一階の馬場さんの部屋にずずず、って入っていったのよね。」
馬場さん・・・一階に住んでる大柄な兄ちゃんだよな。ちょっと前肺炎で入院した・・・?
「気づいた?翌日に肺炎起こして入院したわ。」
「おいおいおいおい。そういうマジでおっかねぇ話は、勘弁・・・・」斉藤と一緒に歴土まで硬化しかけている。
しかしその前で「えっ!ホントに?うそー、怖いねー!」なんてはしゃいでる科川もいるから、世の中いろんな人間がいるもんだ。ちなみに赤井川も「へぇ、大丈夫だったんですかその人?」と馬場さんを心配する余裕を持っている。
「馬場さんは一週間くらいで退院したぜ。そんなに重症にはならなかったみたいだから。でも、そんなことってあるのか?・・・ちょっと待て、まさかその話、続きがあるんじゃなかろうな。その後に胃潰瘍で血吐いてぶっ倒れた三上さんとか、毎日ちゃんと飯食ってたのに栄養失調で病院に担ぎ込まれた山陰さんの部屋にも入っていったとか言ったら、冗談じゃないぜ?」
「うーん、山陰さんの所は知らないけれど三上さんの部屋に入っていったのは見たわ。あと安川さんが足に怪我したのもそうだし、寺内のおじいちゃんが水虫の薬を目薬だと間違ってさしちゃったのもそうだわ。」
あのあと妙に病人が定期的に出るなと思ってたら、そんなことが・・・・。寺内のじいさん、大丈夫だったのかなぁ。この間は元気そうだったけど。
斉藤と歴土はもう結構後ろに見えている。
「・・・・おい歴土!おいていくぞ!」
「・・・・もう、話は終わったのか」
「終わった終わった!」終わってなさそうだけど。
「・・・・・・・・わかった。行く。」と完全硬化している斉藤を引きずって追いついた。
「まったく。リアルすぎてこえぇよ。っていうかリアルだよ。おい、おい!いい加減目―覚ませー。もう話は終わったぞ。」
そんな歴土と斉藤を尻目に侘須我は話を続ける。
「それでね」
「終わってねーじゃねーか!!」思わず叫ぶ歴土。
「そうよ、まだまだ。それで、ある一定の法則であの黒いどろどろが動いてるのよ。」
一同、つばを飲み込む。
「・・・ま、続きは歴土君の家に着いたらね。」
全員ずっこけた。・・・・歴土に引きずられてる斉藤を除いて。

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