なかちゃん@那覇の日々のくすりばこ

魂の歌姫・Coccoの軌跡(あしあと)

魂の歌姫・Coccoの軌跡(あしあと)

Cocco復活の1枚焼け野が原

 2001年4月20日、いまや伝説となった「ミュージックステーション」でのラストライブで「焼け野が原」を歌い終わった後、泣きながら「愛してます…」と投げキッスをして、僕たちの前から消えた魂の歌姫・Cocco。あれから2年、その間に絵本「南の島の星の砂」を発表したものの、いったいどこで何をしていたのか、まったくもって謎だった彼女が、2003年8月15日、突然僕たちの前に戻ってきました。「魂の放浪者」とでも言ってよかった彼女が、まさに「降臨」した瞬間でした。そこで歌った「Heaven’s Hell」はあまりにも痛くて、でもどこか優しい彼女の歌そのものでした。そこで、ちょっと衝動的ではあるけれど、彼女への想いを綴ったページを立ち上げたくなりました。僕もコアなCoccoファンとはいえないので、「初心者のためのCoccoファンページ」を目指して書いていこうと思います。自分で作ったMD「Coccollection」1&2の収録曲への思い入れを書いていきますので、頑張って読んでみてください。

1.まずは彼女の人となりから
 ①名前は「真喜志智子」とか、「眞喜志こっこ」とか言われているそうです。ただ、間違いないのは、彼女が沖縄芝居の名優・真喜志康忠(まきしこうちゅう)の孫娘であること。これは、雑誌「SWITCH」のインタビューからでもうかがい知ることができます。

 ②ニックネームは「あっちゃん」。飽きっぽい自分を「あきあきあっちゃん」と自称したのが由来のようで、彼女は自分のことを「あっちゃん」と言っています。また、「姫」というあだ名もあるようです。

 ③Coccoの由来については、琉球大学の教授が名付けたそうです。メソポタミアで文明が栄えていた頃、「自由の女神」を意味していたそうです。また、お姉さんに名前をつけてもらったという説もあるようです。

 ④その他の人となりはこんな感じです。誕生日は1977年1月19日の山羊座生まれ。出身地は沖縄県那覇市。出身校は、沖縄県立開邦高校芸術科美術コース(県内有数の進学校です)。性別は彼女曰く「熟女」。血液型はO型。肩書きはうたうたい、ナチュラル・ボーン・バレリーナ、そしてラブピンクレンジャーです。一時期「ゆいレール撲滅委員会委員長」も務めていたこともあるとか…。


2.Coccollectionの解説
 僕は彼女が活動を停止したあたりの頃、オリジナルでMDを2枚作りました。そのタイトルは「Coccollection」1&2。なんてベタな…と思われた方もいるでしょう。1は主にシングル曲と初期の名曲、2はラストアルバム「サングローズ」の曲が中心です。ちょっと長くなりそうですが、この曲一つ一つのライナーノーツを書いてみようと思いました。ただ、彼女の歌というのは詞・曲・ビジュアルすべてが揃って、はじめて一つの世界として表される曲が多い気がします。そんな中で、なんとか自分の記憶をたどって、それぞれの曲への思いを書いてみようと思います。

(1)Coccollection 1(シングルの大半と、初期の名曲)
 ①けもの道
 のっけから彼女の世界が炸裂する曲をスタートに持ってきました。PVの中で、誰かの死体を運んでいく彼女の姿と間奏の間の絶叫、そしてエンディングでの高音ファルセットで、Coccoワールド全開な曲。次の「カウントダウン」に通じる世界観(愛するものへの復讐)を持った曲です。

 ②カウントダウン
 衝撃のメジャーデビュー曲。愛する男を他の女性に盗られてしまった主人公の復讐劇。結果的に最後はこの男は殺されてしまうわけですが、女の情念の凄まじさが彼女の詞にあふれています。「跪き手をついて私に謝りなさい」「力なくしなだれて、『私を愛している』と呟きなさい」「その鼻をへし折って、倒して蹴り上げるわよ」「言い訳が見物だわ 今さら何を言っても遺言だけど」「さぁ 立ちなさい!撃ち殺されたいの?」と、この男を愛するがゆえの常軌を逸した愛情表現。そして「3つ数えるまでに天使に会える さぁ、眼を閉じて 撃ち殺してあげる 3,2,1」の後に聞こえる銃声と人間の息づかい。これが男の最後の虫の息なのか?それとも、女の銃を撃ち放ったあとの息(『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子の「カ・イ・カ・ン」のようなもの)なのか?いずれにしても、究極の愛情表現の歌であることは間違いないでしょう。

 ③がじゅまるの木
 「ワンツーパンチ」というCocco本人の声のあと、リコーダーの音で始まるこの曲、思わず「かわいい」と脱力してしまいそうなんですが、実はこれこそが彼女の狙い。沖縄で販売されているある食品のCMソングを思わせる木琴の響き。沖縄人の心に琴線に訴えそうなこの曲の感じ。そんなかわいいメロディーに隠れたこの曲の歌詞の内容はあまりにも痛すぎます。家族みんなで暮らしている頃、「ママが焼いてくれたケーキ」を食べて、ある朝目覚めたら一人ぼっちになっている自分がいる。パパの肩車の思い出と顔の髭ですりすりされた思い出に苦しむ自分がいる。そのあと曲がりなりにも生きてきたのに、忘れかけていた「ママのケーキの味」をひょんなことから思い出してしまい、「もうたくさん」と壊れそうな自分を押さえつけて、きつくきつくあのがじゅまるの木に縛ってほしい。朝が来た時、私は生きているのかな?あの木の上で…という内容。実は彼女の歌には、こういう内容(かわいい曲なのに、内容は痛すぎ)の曲がけっこうあります。実は、次の曲もそんな感じの曲です。

 ④My dear pig
 Cocco本人の豚の鳴きまねで始まるこの曲。ホンキートンクピアノを使ったりリコーダーを使ったりと曲調はかわいいんです。でも、この歌詞もやっぱり強烈!自分のかわいがっている子豚ちゃんにyummyなごちそうを食べさせて目いっぱい肥らせたあと、日曜の教会礼拝のあとすぐにソーセージにして食べる、と。それも愛しているからこそ一人で、それも一滴の血も残すことなく食べるという、マザーグースも真っ青のこれまたきつい内容の歌。この曲を初めて聴いたとき、思わず「豚つぶしの歌だ~」と口走ってしまったほど。今は見られることはほとんどなくなりましたが、お盆や年末年始になると、食用に使う豚を殺して、食肉として解体する作業が「豚つぶし」なんです。さすが生粋の沖縄人、Cocco恐るべしという感じでした。曲調のかわいさにつられて、妙に耳に残ります。

 ⑤あなたへの月
 ハードなメロディの影に、「月」の持つ憂いとはかなさを載せて、彼女独自の世界観で仕上げた曲になっています。明るい「太陽」と比較され、「陰」のイメージがつきまとう「月」。彼女は自分を月に例えて、「朝日に負けてもここにいる」「『私を抱いて』と叫ぶ」一本芯の通った強い女性の姿がここにあります。

 ⑥雲路の果て
 「この眼さえ光を知らなければ、見なくていいものもあったよ」「身体があぁ、あなたを知らなければ、引きずる想い出もなかった」というフレーズで、いっぺんにこの歌にひかれてしまいました。人間一人一人の表の部分と裏の部分を知るという、生きていくうえでどうしても避けることのできない「性(さが)」の辛さを、ハードなメロディに載せて歌っています。

 ⑦うたかた。
 彼女の歌には「ウナイ」や「クムイウタ」のように、故郷である沖縄を思わせる言葉が含まれています。この歌にも「ウージ」(方言で「さとうきび」のこと)というフレーズが出てきます。この後にも出てきますが、名曲「Raining」と対をなす関係にある曲でしょう。少女から大人へと育って行く過程での危うい成長のあとが見える曲です。子供であることの怖さと、大人になることへの怖さが共存している危うさでしょう。

 ⑧樹海の糸
 彼女の曲の中でも、メロディの美しさという意味では1,2を争う名曲と言っていいでしょう。捨て曲なしといわれる作品群の中でも、その美しさは秀逸だと思います。さらに、その詞の世界も、激しくも美しい「純愛」の詩と言っていいと思います。「永遠を願うなら一度だけ抱きしめて、その手から離せばいい」「溢れ出る憎しみを織り上げ、『私を奏で』、『あなたを愛し、歌う』」「やさしく殺(あや)めるように」。最終的にはこの二人は、死ぬことでお互いの純愛を貫こうとしていますが、絡まる糸のように、深く深く愛するという彼女の世界観が全面に溢れている作品と言えそうです。

 ⑨遺書。
 「もしも私が前触れもなく死んでしまったら、あなたは毎晩泣くでしょう。その時にはドレスも手紙も一つ残らず焼いて、灰になった私の体と一緒に海に流してほしい」「万が一意識さえない病人になった時には、あなたのその腕で私を終わらせてほしい。その時には一緒に泳いだあの海へ私の灰を帰してほしい」「いつか新しい恋を始めたとしても、私の誕生日にはこの海へ来て、私のことを想いだして泣いてほしい」…過激なタイトルとは裏腹に、この曲に溢れる究極の愛情は、彼女でないと表現が難しいでしょうね。ある意味「カウントダウン」に通ずる部分もありますが、激しく純粋な愛情を限りなく散りばめた名曲だと思います。

 ⑩Raining
 僕のもっとも好きな歌です。活動休止が決まって、彼女の作品を聴き通して、改めてそのすごさを実感した曲。この曲の筋立ては、彼女の高校時代の実話に基づいているそうです。腰くらいまであった長い髪を、翌日シンニード・オコナーばりに丸刈りにしてきたとか(ママ譲りの赤毛を二つに束ねて三つ編み揺れてた なぜだったのだろうと今も思うけれど、まだわからないよ 静かに席を立って ハサミを握りしめて お下げを切り落とした)。そのあと、「髪がなくて今度は腕を切ってみた 切れるだけ切った」というフレーズがあります。これも恐らく実話でしょう(「Drive you crazy!」のPVを見ると、切り傷のあとがいっぱいあります)。でも、これだけ痛すぎるフレーズがあっても、この曲が「癒しの曲」といわれるのは、なんといってもそのあとのフレーズがすべてを物語っているでしょう。

 「それはとても晴れた日で、未来なんていらないと思ってた 私は無力で言葉を選べずに 帰り道のにおいだけ優しかった 生きてゆける そんな気がしていた 教室で誰かが笑ってた それはとても晴れた日で…」

 なんかこう、絶望の淵からすべてを解放してくれるような、そんな優しさがこの曲には溢れている気がします。この曲で救われたという人が多いのがわかるような気がしました。Coccoの曲を聴いてみたいという人にはおすすめの1曲です。

 ⑪ポロメリア
 彼女の歌には、情念のこもった激しい歌と、(歌詞は痛くても)限りない優しさを秘めた歌の2つのタイプの歌があります。この曲は後者の代表曲といっていいでしょう。曲全体を通じて流れてくる限りない優しさが印象的なこの曲。「さよなら かわいい夢の匂い」と言うフレーズが僕の一番のお気に入りと言っていいかな?

 ⑫強く儚い者たち
 彼女の出世作と言っていいでしょう。僕もこの曲でCoccoというアーティストの存在を知りました。南の島を連想させる歌詞とメロディーラインで、確かJALのハワイキャンペーンのCMソングになっていたと思います。だけど、この曲の内容は、ハードなギターのイントロ同様、あまりにも痛すぎな内容です。僕はそれにやられました。嵐の中を彷徨って、突風の中生き延びて、いとしい「お姫様」の元へようやくたどり着いたと思ったら、そのお姫様は、「あなた」の知らない誰かと腰を振っている…という内容。遠距離恋愛の悲哀を歌った歌のようにも聞こえます。「あなた」も「お姫様」も、強く、はかない存在として描かれています。さわやかなメロディーラインの陰に隠れた、痛烈な内容。これぞCoccoといえる作品でしょう。

 ⑬晴れすぎた空
 愛していた人が遠くへ行ってしまう。その人と最後に会って、激しく愛し合っている時に、どうしてその人を殺めてしまわなかったのだろうか…?という、恐ろしい悔恨の気持ちを歌い上げている歌。「カウントダウン」のように殺すまではいかなかっただろうけど、本当はそうしたかった…。人間誰しも、こういう恋愛感情を少なくはあっても持っているはず。それを歌にして載せてしまう彼女の野太さ。Coccoが愛されるのは、そういう感情の代弁者的なところがあるからなのでしょうね。

 ⑭水鏡
 「けもの道」とほぼ同時期に作られたと思われるこの曲。何かこう、Cocco自身が、何かのトラウマに陥っているような感覚に聴く側が襲われてしまう感じの曲です。「あなた」という別人格の歌が聞こえないように耳をふさいでも、「あなた」の指が染み付いても、結局「からまる舌を切り落とした」のも、「もつれた腕に爪を立てた」のも、「今さら水面にゆがむ」自分の影だったので、「さぁ、わたしは何処へ?」と自分に問いかけるこの歌の主人公。何かこう、多重人格的な痛さを感じてしまう曲で、あとからじわじわ痛さが伝わってくるような感じですね。

 ⑮羽根~lay down my arms~
 加藤晴彦主演映画「回路」の主題歌。活動中止発表直前に発売されたこの曲、詩の内容を通して読んでみると、活動中止を暗示させるようなフレーズが並んでいるのに驚きました。これと「焼け野が原」「風化風葬」の3曲を並べて聴くと、彼女が活動中止を決めるまでの心の動きが読めるようで、胸が締めつけられます。この曲の「もうすぐ散るよ 羽根は燃え尽きて空へ帰る」、「焼け野が原」の「とても寒くて歩けない もう歩けないよ…」、そして「風化風葬」の「すがりついた昨日を 振り払って私は星を辿る」あたりに、その当時の彼女の今後を暗示させるような予感がして、別の意味で切なくなりました。彼女は「風化風葬」のライナーノーツで、別物だった歌手「Cocco」と沖縄人「こっこ」の境目がようやくなくなって、この曲を沖縄の空に放してやりたいという心情を述べていますが、「羽根」のプロモでは、ラスト前のコーラスで、「Cocco」と「こっこ」が向かい合って歌うシーンがあります。彼女の心情を踏まえてこのプロモを見たときに、否応なく切なくなりました。

 ⑯Heaven’s hell(沖縄・ライブバージョン)
 2年ぶりに沈黙を破った彼女の復活の歌。こんなにも力強く、でもこんなにも切ないほど故郷・沖縄を愛する彼女の姿に涙が止まらなかった。彼女はこんなにも「歌うこと」を渇望していたんだ…ということを改めて思い知らされた曲。彼女のことを「マリヤ様」と言っていた友達がいたとき、しょうじき「なんでよ~?」と思ったけど、こうやって(この曲まで含めて)すべての曲を通して聴いてみたときに、なぜそう思えるのか、少しだけどわかった気がします。



(2)Coccolection 2(「サングローズ」の収録曲中心)
 ①珊瑚と花と
 ギターの爽やかなメロディで始まるこの曲。でも、通して聴いてみると、いきなり初っ端から胸を締め付けられるような歌詞が並んでいます。彼女が生まれて、“こっこ”から“Cocco”として生き、それに疲れて故郷である「珊瑚と花の島」に流れ着く様は自らの足跡を表しているようで、辛いものがあります。名曲「遺書。」と対をなすような仕立てのつくりになっています。

 ②かがり火
 ハードさ満点。これぞCoccoワールド全開といっていい曲です。破壊的なメロディと歌詞のオンパレード的なところも彼女らしいですね。「あなたに届かない恋ならいらない」あたりは、「カウントダウン」や「けもの道」あたりに通ずるものがあります。思いっきり首を振って、髪を振り乱して歌いたい曲。

 ③やわらかな手
 これもハードさ満点の曲です。別れた恋人との愛の日々を思い出して、「あなたの温もりを知ってしまったこのわがままな手の動きを何とかしてほしい」と歌う姿は、まだこの恋人への愛が残っていることを思わせる内容で、少々つらくなります。これがしっとりしたメロディだと痛さ倍増ですが、こういうハードなメロディだから、あまり強烈な痛みは感じないのかもしれませんね。

 ④美しき日々
 ストリングスの美しいメロディーが印象的なこの曲。でも、痛さ満載の歌詞はさすがという感じですね。特に冒頭の「望まれてもないのに、殺されもしなかった」というワンフレーズがすべてですね。この曲に出てくるヒロインの満たされない思いと、いっぱいの虚無感をこのワンフレーズで表現していると思います。

 ⑤歌姫
 メロディはかわいいのに、強烈な歌詞。「がじゅまるの木」や「My dear pig」の流れを汲むこの曲。「歌姫=Cocco」であり、彼女自身を表しているこの曲ですが、まぁこれでもかというくらい、強烈な歌詞のオンパレードです。「卑しい歯並びで笑う、へこんだ胸なのに痛む、笑えない笑顔で今日も笑う」「私は?醜いからブスリ」「膨らむ胸に銀の針グサリ」と来て、最後に「お行儀よくお辞儀をしたら、さよならを言わなきゃ」。そして楽しそうに「みんな さよなら」と言うもんだから、「ちょ、ちょっと待って!行かないで~!」という感覚にされてしまいます。2分足らずの曲なのに、強烈なシュール感満載の曲です。

 ⑥つめたい手
 「けもの道」のカップリング曲。ある意味この曲と対比をなしているような感じの曲。「あなただけ傷ついていく」ように重ねたこの「冷えた手」という表現が秀逸です。加えて、この曲の作曲は、彼女のプロデュースを担当していた根岸孝旨。自作詞・曲が多い彼女の曲の中では珍しいのですが、それがかえって新鮮な感じがします。

 ⑦アネモネ
 アコースティック・ギターの音色で始まるこの曲。メロディの美しさとは裏腹に、歌詞の内容はあまりにも痛すぎます。「焼け野が原」のカップリング曲ですが、この曲は落ちついた感じの「焼け野が原」というような感じ。愛し合っていた二人の姿と言うのは、実はすべて虚無な存在であり、「目を閉じてしまおう もう目を閉じてしまおう だって見えないから もう何も 見えないから」と歌い、「夢を見たアネモネ それでも闇は闇のまま I close my eyes 」と、ささやくようにいっぱいの絶望感を歌っていて、より痛切な感じを抱かせてしまっています。

 ⑧Rainbow
 この曲も「焼け野が原」のカップリング曲。でも、この曲は最後に収録されていて、彼女が僕らの前で見せる歌というのは、本当にこの曲が最後なんだと言う、寂寥感をたっぷり含んだ歌です。「きっと僕たちはただ、違う空の下で ずっと夢見てた場所へ旅を続けてる」という歌詞に、彼女の思いが見てとれます。彼女にとっての「違う空の下」は東京であり、「ずっと夢見てた場所」というのが沖縄だと思います。ただ、救いだったのは、「旅を続けてる」と結んでいること。彼女の「旅」、すなわち歌い続けることは終わりでないことを表しているような気がしてなりません。いや、そうだったからこそ、あの「8月15日の奇跡」は起こったような気がします。

 ⑨星に願いを
 「血飲み子ちゃん」という歌詞にKOされてしまいました。「姫(Coccoはファンからこう呼ばれています)」らしい、かわいいタイトルなのに、まぁなんてすごい歌詞を…。例のごとく「血飲み子」=Coccoですが、サビの部分の流れるようなメロディがいいですね。でも、星が激しく降ってきて、月さえも落としてしまうのであれば…やっぱり怖い。その怖さを気に入っている自分も…ちょっぴり怖い(苦笑い)。

 ⑩寓話。
 活動休止後に発売されたベスト盤に収録されていたこの曲。出だしの歌いだしはすごく可愛いのに、サビの部分ではCocco節炸裂のこの曲。「羽根」や「虹(Rainbow)」と言うように、彼女の過去の作品が出ています。「このお話の主人公のお姫様は私」と歌っているように、彼女は自分の「歌手」としての活動を他人事のように振り返っています。でも、最後に「どうか 私を忘れないで」と歌っているところが、かえって胸を締めつけられる感じがします。

 ⑪卯月の頃
 ピアノ1本の美しいメロディにのって奏でられるこの曲。「擦り切れてしまうと言って、結んだ小指を切り離してしまった」。彼女はどんな思いで、このフレーズを書いたのだろうか?こんなにも痛い歌詞なのに、こんなにも包み込むような優しいメロディは、どこから溢れ出るのだろうか?「Raining」にも通じる、究極の癒しの歌だと思います。

 ⑫幸わせの小道
 この曲もベスト盤に収録されていた曲。アコースティックギターとリコーダーのメロディがすごく印象的です。街の若者が、森で見つけた美しい少女に恋をして、街へ連れて行くものの少女は街の生活に馴染めず、若者に「森に帰してほしい。そうでなきゃ死にたい」と懇願します。結果的にこの二人は「死」を選択してしまいますが、「添い遂げる愛」という形では、最高の終わり方をしたのではと思います。だからこそ、その二人は、きっとこの小道で幸せに生きているのだと…。

 ⑬焼け野が原
 彼女のラストシングル。いろんな意味で衝撃的なラストシングルでした。まずジャケット写真。白い花に囲まれた彼女のたたずまいはまさに「遺影」そのものでした。そしてPV。この曲が彼女の「最高傑作」と呼ばれるのは、このPVによるといっても過言ではないと思います。街の雑踏の中、彼女に降り注ぐ白い花が群衆に踏み潰されても、「ねぇ、言って ちゃんと言って 私に聞こえるように大きな声で もう泣かないでいいように」「抱いて ちゃんと抱いて この身体に残るように」とあらん限りの力で歌う彼女。「どこまでも行ける気がしてた でも寒くて、とても寒くて歩けない…もう歩けないよ」と泣きながら歌う姿には胸を締め付けられました。それに加えて、最後のシーン、彼女が故郷・沖縄のたたずまいの中、走って消えていく姿は、もう涙なしでは見られません。ありがとう、辛かったらもういいよ。止まっていいよ。私たちファンにそういう思いを抱かせてしまうほどの渾身の1曲。

 ⑭コーラルリーフ
 ラストアルバム「サングローズ」のラストを飾る、すなわち、歌手・Coccoの最後を飾るにふさわしい、スケールの大きな曲。「愛してる?例え聞こえないとしても わたしはここで手を振るから」「焼き付けて その足で その瞳で」というフレーズに、彼女のいろいろな思いがすべて詰まっているような気がして、ああ、本当にこれで終わりなんだな、本当にCoccoはいなくなってしまうんだなと痛切に感じた曲です。暖かい別れなんだけど、その分すごく切ない別れ…。「サンゴ礁(コーラルリーフ)」に託した故郷・沖縄への想い。それがあったから、彼女は絵本を書き、ゴミを拾い、そして1度は封印した「歌」を歌ったのかもしれません。

 ⑮風化風葬
 沖縄限定で発売されたのち、あまりの大反響に「サングローズ」にも収録された、彼女屈指の名曲。皮肉にもその頃(ちょうど僕が沖縄に帰ってきた頃ですが)から、僕は彼女の歌が手放せなくなりつつありました。この曲を発表した時、彼女は便箋8枚分にわたる「沖縄」への想いを綴っていました。今までは「こっこ」と「Cocco」は別物だと感じていたけど、それをやっと「同じもの」と見ることができるようになって、この曲を沖縄の空に返してやりたいと思ったこと。振り返ってみると、それは彼女なりの「活動休止」のメッセージだったのかもしれません。「でも大丈夫 あなたはすぐに私を忘れるから…忘れるから…忘れたかな?」というフレーズを聴いて、僕自身同じような体験をしてたからでしょう、あっという間にKOされてしまいました。その当時はすごく痛く感じたこの歌、でも、時間の流れってすごいですね。それだけ自分も成長したのだと思うけど、この曲を「優しい」と感じられるようになっている自分が、今ここにいます。

 ⑯Heaven’s Hell(レコーディング@東京)
 「8月15日の奇跡」を生んだこの曲。ドキュメントDVDの初回特典版についているCDには、ライブのほかにスタジオレコーディングしたバージョンも収録されています。このバージョンもライブに勝るとも劣らない素晴らしい出来です。ただ、違うのはこれまでとは全く違うミュージシャンたちと(「くるり」のメンバーとか)組んでいること。今後の彼女の動きには、要注目ですね。


 さて、以上のように思いつくままにそれぞれの曲の雑感を書いて来ましたが、2003年の年末に、なんと「Coccollection」3を作ってしまいました。その曲たちについても、改めて書いていこうと思います。たった3枚のアルバムと1枚のベスト盤、11曲のシングルを残していったCocco。でも、その軌跡(あしあと)はあまりにも大きくて、衝撃的でした。これからの新しい彼女の姿を、暖かく見守っていきたいと思います。



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