なかちゃん@那覇の日々のくすりばこ

「うつ病」と向き合って、生きていくこと

「うつ病」と向き合って、生きていくこと

病院薬剤師になって、いつかはこの話題としっかり向き合わなければならない宿命だったのかもしれません。それは「うつ病」です。自分の父親が、勤め先の患者さんをよくウチに連れてきていたこともあり、患者さんと接することには抵抗感がありませんでした。でも、本当の意味でしっかり向き合ったのは、自分の叔父が、軽度ながらも「うつ病」と診断された時でした。「薬剤師として、いったい何ができるのか?」そう思ったとき、心の中に浮かんだのは、「くすり」からアプローチしていこう、ということでした。このトピックスでは、薬剤師の目から「うつ病」について向かい合い、考えていこうと思っています。


 1.いまや「現代病」といっていい「うつ病」。その前に、基本的な部分からお話しましょう。

 まずは、うつ病・気分障害(感情障害)というところから始めます。歴史的な背景から、以前は「躁うつ病」と一括りされていたことがありました。これには遺伝的な要素があって、ささいなことで発病し、躁状態の時もあれば、うつ状態を繰り返したりするものです。ICD-10と呼ばれるうつ病の国際分類では「気分障害(感情障害)」の中に、またアメリカの診断基準であるDSM-4では「気分障害」の中に分類されています。このような変遷は、この躁うつ病が「基本的な障害が気分や感情の変化」であることが強調されてきたからです。
 しかし、この中でもっとも多い病象はうつ状態であり、何回もうつ状態を繰り返したり、遺伝要因が考えられる場合をうつ病と呼ぶことが多いです。ただし、現在うつ状態の患者は予想以上に多く、最近では経済状態の悪化などによっても反応性のうつ状態の急激な増加が予想されています。そのため、遺伝負因が考えられる内因性うつ病でなくても、うつ状態のすべてを単にうつ病と呼ぶことも多くなっています。

 ここで、躁状態とうつ状態の違いについてまとめてみましょう。

 ・躁状態
  感情-爽快感・易刺激性・尊大・自信過剰・楽観・攻撃的
  思考-誇大的(誇大妄想)
  意欲・行動-意欲の亢進・多弁多動・抑制欠如・興奮
  身体症状-不眠・食欲亢進・性欲亢進
 ・うつ状態
  感情-抑うつ・悲哀・孤独・無力・自責・劣等感・悲観・日内変動
  思考-思考制止・微小妄想・罪業妄想・心気妄想
  意欲・行動-精神運動性抑制・寡動・自殺企図
  身体症状-睡眠障害・食欲低下・体重減少・便秘・頭重・不定愁訴


 2.うつ病と診断される要素

うつ病にも診断基準があります。ただ、実際に心療内科や精神科の医師がうつ病を診断する際には、次の3つの軸で診断を下すことが多いようです。

(1)抑うつ気分
 憂鬱・寂しい・悲しいなどの気分が程度も強く、長く続いている場合。ひどい場合には、「もう死んでも構わない」といった希死念慮も見られます。ポイントは、それほど深刻にならなくてもいいのにと客観的に思える状況でひどく悲観的になり、しかも周囲の言葉に聞く耳を持たないというところです。
(2)精神運動性抑制
 精神機能の抑制と運動性の抑制の総称。前者は、忘れっぽくなったり、頭が早く回転しなくなったり、決定できなくなったり、といった症状です。それに対して後者では、何もやる気にならない、億劫である、面倒である、などの症状を訴えます。うつ病の一番悪い時には自殺の心配はなく、むしろ少し良くなった時にもっとも危ないと言われるのは、この運動性の抑制のためです。
(3)身体症状
 うつ病には身体症状が見られるため、内科をはじめとした身体科を受診することも多いです。うつ病が身体症状という仮面を被ったという意味で「仮面うつ病」と呼ばれている所以です。うつ病の身体症状には、食欲不振・体重減少・頭痛・頭重感・腰痛・肩こり・不眠などがあります。中でも不眠に関しては、さまざまなタイプの不眠(入眠障害・熟眠障害・早朝覚醒など)が見られますが、このうち早朝覚醒はうつ病で典型的に見られる不眠の形態です。

 このように、うつ病には身体症状を呈することが多いため、検査をしても異常所見が認められない身体症状の場合には、一応は「仮面うつ病」を疑ったほうがよいでしょう。さらに、これら3つの軸の症状には日内変動が見られることが多いです。すなわち、朝のうちは何もやる気が起こらないが、午後になるとだんだんよくなり、夜になると全く普通の状態になるが、翌朝になるとやっぱり何もやる気が起こらないというのが典型例です。この場合には朝方に強いうつ病という意味で、モーニング・デプレッションと言われます。


 3.では、躁うつ病やうつ病になりやすい性格ってあるの?

 躁うつ病やうつ病になりやすい性格としては、以下の3つが歴史的には有名です。

(1)循環気質
 クレッチマーが体型と気質を結びつけた際に、肥満体型との関係があると指摘されたものである。周囲と同調して気分が上下しやすい性格であり、躁うつ病と関係があるといわれている。
(2)執着気質
 下田光造が指摘したもので、熱中性・執着性・徹底性、律儀、強い責任感などの特徴がある。
(3)メランコリー親和型性格
 テレンバッハが指摘したもので、ルールや秩序への志向性が強く仕事上では責任感が強く、完全癖も強いため周囲から期待される性格である。対人関係でも、相手がいて自分がいる、という考え方で接する。


 4.うつ病治療薬の基本は?

 うつ病のメカニズムとしてもっとも有力なものが「モノアミン仮説」です。これは、抗うつ作用を持つ薬物には脳内でのシナプスでのセロトニンやノルエピネフリンの再吸収抑制作用があることなどから、脳内アミン機能が傷害されているのがうつ病であり、これを増強することが抗うつ薬の作用機序と考えられています。
 うつ病の治療は抗うつ薬投与が基本であり、もっとも一般的なのは三環系抗うつ薬ですが、これは効果には確実性があるものの、便秘や口渇といった抗コリン作用としての副作用が強く見られます。
 一般に抗うつ薬と言った場合、その化学構造から「三環系抗うつ薬」を指すことが最も多く(第一世代)、その後「非三環系(四環系)抗うつ薬」も開発されてきました(第二世代)。さらに最近では、 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤・第三世代)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤・第四世代)も国内で発売されるようになり、薬剤の選択肢の幅が広がりました。一方、抗精神病薬のスルピリドにも抗うつ作用があることはすでによく知られています。
 これ以外にも、気分安定薬として炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸などがあります。気分安定薬は、双極性障害(躁うつ病)の、躁病相とうつ病相の両病相に対して治療効果や予防効果を持つ薬物です。これらは具体的には、難治性のうつ病やラピッド・サイクラー(躁状態とうつ状態が非常に短期間で入れ替わる病態)などでしばしば処方されています。大まかに言えば、炭酸リチウムは比較的成人になってから発症した躁うつ病に対して、カルバマゼピンは比較的若年発症のタイプに、バルプロ酸はラピッド・サイクラーに対して有効性があるといわれています。しかし、その作用機序については十分解明されていません。

 以下に、主な抗うつ薬や気分安定薬の種類と用量を示します。

(1)抗うつ薬の種類と用量(1日投与量)

 (三環系抗うつ薬)
 アミトリプチリン(トリプタノール) 30~150mg
 アモキサピン(アモキサン)     25~75mg
 クロミプラミン(アナフラニール)  50~100mg
 イミプラミン(トフラニール)    25~200mg
 ノルチプチリン(ノリトレン)    30~150mg

 (SSRI《選択的セロトニン再取り込み阻害剤》)
 フルボキサミン(ルボックス)    50~150mg
 パロキセチン(パキシル)      20~30mg

 (SNRI《セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤》)
 ミルナシプラン(トレドミン)    45~100mg(高齢者:60mg)

 (その他四環系抗うつ薬など)
 マプロチリン(ルジオミール)    30~75mg
 ミアンセリン(テトラミド)     30~60mg
 トラゾドン(レスリン)       75~100mg
 スルピリド(ドグマチール)     150~300mg

 (2)気分安定薬の種類と用量(1日投与量)

 炭酸リチウム(リーマス)      200~1200mg
 カルバマゼピン(テグレトール)   400~1200mg
 バルプロ酸ナトリウム(デパケン)  400~1200mg


 5.薬剤選択の基準について

 (1)三環系抗うつ薬
 三環系抗うつ薬は、日本では長年うつ病治療の基本となってきた薬です。前述したように、うつ病はモノアミンの減少によって起こるという仮説が立てられていますが、この薬は、シナプスで主にセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、抗うつ効果を発言します。非常に効果の強い薬ですが、その反面副作用も多く、効果が出るまでに数週間かかります。副作用が抑うつへの効果発現の前に起こる事が多く、私たち薬剤師はその旨を患者に対して十分に説明する必要があります。
 重篤な副作用が現われた場合を除き、少なくとも1ヶ月間は同一の薬を用いて経過観察することが必要です。
 実際の投与方法は、最初の1週間は少量ないし中等量の投与を始め、重篤な副作用がないことを確認しながら2週間で最大治療量まで増量し、症状が改善されたら数週は最大治療量を維持し、その後漸減して、数ヶ月で治療を完了します。
 血液中の薬物濃度が有効域(薬の効く薬物濃度の幅)に達するまで時間がかかりますが、服薬を中断した場合の薬物濃度低下は早いので注意が必要です。
 副作用としては、口渇・便秘・眠気・かすみ目・頻脈・排尿障害・体重増加・鎮静・めまい・血圧低下・起立性低血圧などです。その中でも、緊急に対処する必要のあるものは、前立腺肥大による排尿困難、起立性低血圧による転倒、急性緑内障発作などです。



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