なかちゃん@那覇の日々のくすりばこ

ドラッグのはなし(17.7.3)

脱法ドラッグ(1) 脱法ドラッグ(2)
 さて、ここではドラッグのことをお話しします。病院の薬剤師として薬にかかわる仕事をしていると、「もっともっとドラッグの怖さを伝えていかないと、大変なことになる」と思うようになりました。ここでは、ドラッグのことについて、書かせてもらおうと思います。

1.脱法ドラッグ
  これらは、麻薬や覚せい剤のように、法律で厳しく規制されることがないので、そう呼ばれることが多いようです。多幸感・快感等を高めると称して販売されている製品の呼称です。使用方法により、口から摂取するタイプや鼻腔から吸入するタイプなど、様々な種類があります。脱法ドラッグの中でも代表的な「ラッシュ」は後者のタイプに当たります。

 2.では、なぜラッシュは脱法ドラッグといわれるの?
  それは、ラッシュの成分と密接なかかわりがあるからです。
  ラッシュに含まれている成分の中に、「亜硝酸イソアミル」というものがあります。これは、医薬品として、狭心症の治療薬に使われていて、劇薬にあたります。類似した化学構造をもつ物の中に、ニトログリセリンがあります。よく、心臓の悪い方が、ニトログリセリンの舌下錠を飲んでいる光景を見ることがあると思いますが、ラッシュの成分は、まさにそれに類似しているのです。
  ラッシュを吸ったことのある方は、経験があるかと思いますが、なんか、頭がボーっとして、フワーッとした感覚に襲われる事がありますが、これがラッシュの作用なのです。ニトログリセリンは、血管を広げて、血流を良くする作用があります。ラッシュはこれと同一の薬理作用を持っています。医薬品であり、劇薬に値する薬物を、僕らは自分の快感のために吸っていることになるのです。

3.販売名に「Ma-Huang」と表示されているもの
  よく街中で売っているこれらドラッグの中に、こういう風な表示のものを見かけたことがありませんか?これには、生薬の「マオウ」、またはその主成分である「塩酸メチルエフェドリン」が含まれています。これらは、咳を鎮めたり、鼻の粘膜の充血や腫れを治療する効果があります。医薬品としても使用されていますが、含有量によっては、覚せい剤の原料として、覚せい剤取締法により流通や所持が厳しく規制されています。覚せい剤の副作用の中に、幻覚症状があるため、本来これらの脱法ドラッグは厳しく規制されるべきものです。現に、東京都健康局が行ったこれらの脱法ドラッグの成分検査でも、規制含有量スレスレ、またはオーバーしたサンプルも見られたそうです。

 4.一般的な感冒薬にも…
 鼻炎用の内服薬や、鎮咳・去痰薬等に含まれている「塩酸フェニルプロパノールアミン」(成分名で「PPA」と表示されていることが多い)も、含有量が50%を超えるものも、覚せい剤原料として規制されます。埼玉保険金殺人の凶器に使われたのは、この成分を含有する風邪薬(総合感冒薬)によるものとされています。また、咳止めシロップの中にも、麻薬に類似した成分が入っていることもありますので、注意が必要です。

5.最近話題の「5Meo」って
  最近話題になっている「5Meo」。宣伝文句を見ても、「合ドラ最強」の謳い文句が出ていて、かなり引いてしまいましたが…。この化合物は、分類上、「フェネチルアミン系」と言われます。日本や欧米では、医療上の用途では用いられていません。これらと同類の薬物の中に、「メスカリン」というのがありますが、すでに麻薬として法的に規制されています。5Meoはこのメスカリンと、基本的な化学構造が同一なので、メスカリンと同様の効果を起こす危険性があります。強烈な幻覚作用を持つ反面、薬の作用が切れたときに、錯乱状態に陥る危険性もはらんでいます。今後、麻薬成分に指定される可能性が高くなっています。今使用している方、悪いことは言いません。すぐやめましょう!

 6.医療用に使われる麻薬について
  麻薬って、確かに使い方を間違えると大変なものですが、医療の上では、大変重要な役割を果たしています。医療の上で使用されるのは、特に癌による激しい痛みを和らげる目的で使われます。また、糖尿病による神経由来の痛みを和らげる目的で使われることもあります。さらに、手術時の痛みを和らげる目的にも使われます。ただし、その場合には麻薬管理者(主に薬剤師)による厳重な管理が必要になります。
  現在、医療用で使われるものには、モルヒネの注射を筆頭に錠剤・坐薬・散剤と多岐にわたります。散剤の場合には、ワインと単シロップを加えたカクテル剤として調剤します。最近では、安定した薬剤の放出とQOL(生活の質)の向上を目指して、パッチタイプの貼り薬も販売されています。

 7.マジックマッシュルームについて
  これはいわゆる「幻覚キノコ」と呼ばれるものです。これらの植物には、サイロシピンまたはサイロシンと呼ばれる化合物が含まれています。昨年の6月に、麻薬や向精神薬に関する法律が改正され、マジックマッシュルームも麻薬原料植物として、厳しく取り締まる対象品目に加えられました。これらの流通や販売については、罰則を含めた厳しい措置が執られるようになっています。
マジックマッシュルーム
 これがマジックマッシュルームです。見るからに効きそう…

 8.最近、とみに目立つ事例
  ここ最近目立つ脱法ドラッグの事例としては、これらドラッグの中に、なんと「クエン酸シナデルフィル」が含まれているとか。これは市販名「バイアグラ」の成分です。マスコミ報道でも有名になりましたが、勃起不全を解消する薬として、世に出て久しいものがあります。ところが、この薬剤は、血圧を下げる薬と併用すると、過度に血圧が下がりすぎるという危険な副作用もあるため、医師の処方箋のもとに厳重に処方される薬剤です。これが最近、摘発される脱法ドラッグの中で、その割合がとみに多くなっている例が見られています。安易に快感を求めて、SEXで使用している例が多いと思いますが、これは大変です。

9.緊急更新!ここ数年間で摘発量が倍増、エクスタシー
  もちろんこの「エクスタシー」は俗名です。この正式名称はMDNAといいます。麻薬及び覚せい剤等取締法で合成麻薬に指定されており、当然所持している場合には逮捕の対象になります。化学構造がメタンフェタミンやアンフェタミンといった覚せい剤に酷似しており、多幸感を示す一方で、強烈な幻覚作用を示します。もちろん連用性もあるため、厳密な取締りが求められる薬剤です。最近では、錠剤など手に入れやすい形での流通が増えているため、若者に急速に広がる恐れがあります。

 10.5meoについての追加情報
  以下のとおり、5meoについての追加情報を掲載しました。身を守るのも、身を破滅に招くのも、あなた次第です。自分の選択にはきちんと責任を持ってください。

  5-メトキシ-N,N-ジイソプロピルトリプタミン(5-MeO-DIPT)
   [薬理作用]:幻覚作用を示す。
   [用途]:日本及び諸外国で医療上の用途はない。
   [危惧される健康被害]:麻薬に指定されているエトリプタミン、DET
   (N,N-ジエチルトリプタミン)、DMT(N,N-ジメチルトリプタミン)、
    サイロシン及びサイロイビンと類似した化学構造を有するため、依
    存性を有するおそれがある。吐き気、視覚・聴覚に異常をきたすお
    それもある。
   [その他(規制等)]:麻薬に類似する構造を持ち、デザイナーズドラ
    ッグとして近年乱用されはじめた化合物である。 


 (参考)脱法ドラッグのはなし


 余談ですが、このページを立ち上げたせいなのかもしれないけど、時々ドラッグ勧誘の迷惑メールが来ます。来たら即削除しているのですが、あまりにひどい場合には、このページは切らざるを得ないのかな?などとも思ってしまいます。でも、そうしたら僕は「負け」だと思うので、それはしないでしょう。曲がりなりにも「薬の専門家」なのだから、専門家がどこまで普及・啓発に努められるか、試行錯誤しながら進めたいと思います。そしてついに、大変な体験をした方から、掲示板のほうに書き込みがありました。その方も幻聴や幻覚、カラダが重いといった副作用に悩まされているようです。そういう報告を受けて、ますます「アンチ・ドラッグ」に対して敏感にならなくては…と思うようになりました。

 さらに余談。今年の4月、日本最大の地方自治体・東京都が、ついに「脱法ドラッグ取り締まり条例」を制定しました。この条例制定によって、いわゆる「5meo」が麻薬に準じた扱いを受けるようになりました。さらに、この条例制定の流れは、あっという間に全国各地に飛び火しています。僕たちは、「薬の番人」としての役割もしっかり果たさなくては…と思います。



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