煩悩日記

煩悩日記

希望


何時ものドア。
そして
何時もと同じようにドアの上に掲げられている『国語科準備室』の文字を確認してから一呼吸して目の前の取っ手に手をかけてドアをスライドさせ入室した。

少し雑然とした部屋の主は視線を上げないままだった。
いや、彼は視線を上げる必要がないのだ。
誰が来たのかは廊下に響く足音で理解していたから。
視線は相変わらす卓上に向いていたが、こちらが
「失礼します」
入室を断りを言うとほぼ同時に
「土方くんどうかした?」
と、名前を呼んだ。
「クラスの提出物を持ってきました」
「あぁ、ご苦労様」
そう言って初めて顔を上げ少し笑った。
「2学期最後なのに悪かったね。助かったよ」
「いえ…」
受取った提出物を簡単に確認している間の静寂が気になった。
2学期最終日だからなのか生徒は早々に学校を切り上げてしまったらしく、普段ならうるさい位に騒ぐ声は聞こえなかった。
唯一聞こえる時計の秒針の音がとても大きく聞こえる。
この静寂が耐えられず思わず話しかけた。
「先生は此処で何をしてたんですか?」
「3学期の準備」
「え?もう?」
「だってよ、おまえら3Zは今学期は何とか終了できたけど、3学期で単位落とされて卒業できなかったら今まで俺の努力が水の泡だよ。パー」
以外だった。
学生と同レベルの担任は学生同様冬休みを謳歌すると思っていた。
「うん、大丈夫だ。ありがとう」
卒業まであと3ヶ月。
卒業式は3月の頭だから正確には2ヶ月程しか無い。
「先生」
「ん?」
「俺たちの卒業は楽しみ?」
「当然だろ。教師として教え子が巣立つのが嬉しくない奴がいる訳ない。それにお前達は今までの生徒の中で1番手間がかかったから尚更だ」
当然の答えだ。
そう思うと少し寂しい気分になった。
「……そうですよね」
「どうした?難しい顔して」
「そう言いながら卒業したら『はい、さよなら』でその生徒達の事は忘れて新しく迎えた生徒の事しか考えなくなるんだろ」
「そんなことはないよ」
「俺は嫌だ」
溢れる感情が抑えられない。
「え、卒業してくれないの?それは困…」
「違う!」
思わず出た大きな声は思いのほか相手を驚かせたようだった。
「どうしたんだ?土方くんらしくない」
「俺は先生の事が好きだ。
 卒業しても遭いたいし、忘れて欲しくない!!ずっと一緒に居たい!!」

再びの静寂。
しかしそれは相手の返事によって破られた。
「それはできない。俺とお前は教師と生徒の立場。
 土方くんの思いに答える事はできない。今は聞かなかった事にするよ」
「なんだよそれ」
答えに少し期待した自分が馬鹿だった。
正確にはいい返事が貰える確信があった。
今までの互いの言動で相手も自分と同じ思いだと思っていたのに拒まれた。
「勝手に俺1人で舞い上がっていただけなのかよ。
 なんだったんだよ。今までの共有してきた時間は!俺は…」
「土方くん」
「先生も俺の事を考えてくれていると思っていたのに!」
「土方くん」
「何だよ!変な慰めの言葉なんていらねーからな」
それは突然だった。
興奮したのを宥めるようにそっと抱きしめられた。
「離せよ!こんな事しないで諦められるようにいっそうの事嫌いって言えよ!!」
「土方くん、人の話はちゃんと聞いてなきゃ駄目だよ」
「聞いてたよ!」
抱きしめたれている腕を振りほどこうとしたがより抱きしめられ放れる事ができない。
「いや、聞いていない」
「聞いた」
「じゃあ、俺は何て言った?」
と優しく耳元で囁いた。
「…え、……『土方くんの思いに答える事はできない』って」
「そう、それから?」
何時の間にか興奮状態は落ち着いていた。
抱きしめられるだけでこんなにも落ち着く事ができたなんて不思議だ。
「それから『聞かなかった事にする』」
「やっぱり聞いていない」
聞いていない?ちゃんと聞いていた。
いや、否定された言葉は心に刺さっていてハッキリと覚えている。
「間違っていない」
「何か忘れてるよ」
他に何か言われた?
幾ら記憶を手繰っても思い当たらない。
するとまた耳元で小さく優しい声で囁いた。
「俺はね『今は聞かなかった事にする』と言ったんだよ。土方くん、よく考えて」
普段はだらだらした喋り方なのにこの時だけは教師らしい口調だった。
「…何を考え……、ん?
『今は』??」
「ご名答」
そう言われてもまだ理解できない。
そっと頭を抱き寄せられる。
「今は教師と生徒の立場だから駄目だ。けれど、卒業したら…今と違うだろ」
「先生、それって…」
「だから、特に土方くんの卒業が楽しみなんだ」
「じゃあ、待ってていいのか?」
「あぁ、ただし在学中は駄目だ。分かっているな?」
「はい」
なんだ、そうだったんだ。
「さぁ、もうすぐ暗くなるから早く下校しなさい。気をつけてな」
そう言って抱きしめられていた体を反転させると背中を軽く押してドアへ促した。
「先生」
「何だ?」
「俺、卒業できるよう努力します」
「あぁ、待っているよ」
その言葉を聞いて安心して国語科準備室を退室した。
3月になれば先生と一緒に居られる。
卒業まであと少し。
短くて長い時間だけれど、とても待ち遠しかった。
その時は桜が教えてくれるから…。



その頃の『国語科準備室』

その部屋の主は大人の余裕を見せていた緊張感が切れたせいか1人悶えていた。
『うわ~、先に言われちゃったよ!
 今まで考えていた卒業式が終わった後の俺のシナリオが駄目になったな。
 ってか、今日はヤケに素直だったのが可愛かったな~。

 あっ!
 卒業式が終わったら土方くんの保護者に挨拶に行かないといけないな。
 ちゃんとスーツ来て手土産持って行って
 『結婚を前提におつき合いさせて下さい』
 ってお嫁にもらうんだから土下座した方が……』

桜の季節まであと少し。(終)




はい、3Zの銀土SSでした。
3Z設定の方が土方くんが18歳の設定なので少し積極的です。
銀魂バージョンの銀土ではありえねぇ…。
いいね、高校生は真っすぐで。
書いてて楽しかったです。

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