煩悩日記

煩悩日記

二つのかんばせ 3(ギ×藍)

 ぐったりとしている藍染の中からギンは自身をゆっくりと抜き取り、そして腰を支えて畳の上に下ろし躯を横たえさせた。藍染は力尽きた躰を暫くそのままにしていたが、意識がだんだんとはっきりしてくると静かに上半身を起き上がらせ、ギンに目を合わせること無く襦袢を手に取るとゆっくりと取り立ち上がった。まだ火照りが残っているのか躰が赤くなっている。ギンは黙って襦袢を身にまとう藍染を観ていた。そして、占有感に浸っていた。

 この人の帯代裸を見る事のできるのは自分だけ。
 何人たりとも知ることの無い姿だ、と。

「満足か?」
 背を向けたままで藍染は事を終えてから初めて声を発した。
「こんな事をして、満足したか?ギン」
 その声は表の顔、裏の顔どちらとも違っていた。ギンは答えず只微笑みながら藍染のを後ろ姿を眺めていた。
「──満足しているのだろうな」
「満足や」
 その言葉と聞いて藍染は顔だけ振り返りギンを睨みつける。先程迄とは違い明らかに裏の顔のとても冷血な瞳。
「勘のいい藍染隊長にしては珍しく気が付かへんかったみたいやけど、ずっと藍染隊長の事を想っとったし、肌を重ねたかったんや」
 確かに藍染はギンの想いに気が付かなかった。そして身体の関係を求められるなど考えもしなかった。
「藍染隊長の傍にボクがおらへんのは厭や。ボクの存在理由が何の意味もあらへんようになってしまう」
「僕にとってギンは志を同じくする者であり、五番隊の副隊長だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「でも、藍染隊長はボクを受け入れてくれた」
「違う。受け入れてなど──」
「なら、聞きますけど何で逃げへんかったんです?」
 何時の間にか着物を直しているギンが近づいてくる。
「藍染隊長なら何だかの方法で逃げる事ができたはずや」 
 ギンは藍染の正面に立ちそう言い切った。
「それは──」
 藍染はギンから顔を反らせた。
「あれ、もしかして気が付いてはらへんの?」
 と何時もの飄々とした口調で話しだした。
「腕輪を途中でこっそり外しとったんやで」
 そう言われ藍染は左手首を確認すると確かに嵌められていたはずの腕輪が何時の間にか無くなっている。
「何時……」
 外されたた記憶が全く無い。普段なら呼吸をすることと同じ位、簡単に判るような事なのに全く気が付かなかったことに少し驚いた。藍染の顔は意識しているのかしていないのか表の顔の表情になっている。言葉が見つからず、藍染は頭を抱える姿を見たギンは微かに唇を上げて密かに笑った。
「先刻も言うたけど本気やから」
「市丸……」
 理性がもどりギンの呼び方が性に戻っていた。もう少し名で呼んで貰いたかったと思いつつもその事には触れなかった。
「藍染隊長も明日の準備があるやろうからボクはこれで失礼しますわ。ほな、藍染隊長。おやすみなさい」
 突然ギンに全く違う話をされて藍染はあっけにとられた。
 あっという間に退室の挨拶をして出て行ったギンに声を掛けることができなかった。しかも行為をした後なのに何事も無かったかのように何時もの調子で藍染の部屋を出て行ったのだ。ギンの予想外の行動に藍染は呆然とする事しかできなかった。
「どうしたものか……。明日、僕はどんな顔をして会えばいいんだろう?」
 残された藍染はぽつりと呟くと考え込む事しかできなかった。


「藍染殿?」
「か、──東仙か」
 要、と呼ばれそうになって東仙要は驚いた。先程も藍染が珍しく、考え込んでいるのか僅かに視線を落として歩いていた。その為か、居合わせた東仙に全く気が付かずかないことが気になり藍染を呼び止めたのだが、すぐには気が付かなかった。そして普段の藍染ならこの場では絶対に『要』と名で呼ばない。瀞霊邸内では藍染に『東仙』と姓で呼ばれている。藍染が『要』と名で呼ぶ時は我らの計画の話しをしている時のみ。それも第三者が立ち入れない状況のみに限られている。それは同胞のギンも同様だ。
 往来の中、名で呼ばれそうになった時、幸いにも近くに人が居なかったことに東仙は安堵した。しかし東仙はその驚きを顔に出すことなく藍染に質問する。
「先程からお声を掛けていたのですが、気が付かれなかったようですね。もしかしてお体の具合が悪いのですか?」
「いや、違うよ」
 そう言って何時もの柔らかな笑顔を見せた。
「藍染殿が上の空になるなんて珍しいですが…」
「折角声を掛けてくれていたのに気が付かなくてすまない。一寸考え事をしててね」
 と藍染は苦笑した。
「何か悩み事でも?」
「ん、大した事じゃないよ」
「そうですか──」
 東仙は目が盲しているが見えない分、見えている人に比べて話し相手の僅かな違いを感じる事ができる。しかし藍染に否定されたが、今まで一度も無かった藍染の僅かな違いに気が付いていた。だが、この様子では藍染は内に秘めていることを話したくないのだと察し、話題を変える事にした。その時、同胞でもあり藍染の副官、五番隊副隊長でもあるギンの姿が無いことに気が付いた。常に隊長の補佐をする立場の副隊長の姿が緊急時意外に隊長の傍に居ないことは稀だ。
「そういえば市丸の姿がありませんが……」
 その時、東仙は微かに『市丸』と聞いた瞬間に藍染の中にざわめきを感じた。逃してしまいそうな僅かなざわめき。当人もこのざわめきに気が付いていないだろう。しかも、その様子から話題を逸らすどころか確信だったらしい。
「市丸に何か用件でもあるのかい?」
「えぇ、まあ」
 と言葉を濁した。
「彼は隊舎だよ」
「隊舎ですか?」
 藍染のざわめきの理由が東仙は気になった。
「僕はこれから霊術院の授業なんだ。授業のある日は市丸と別行動をしているからね。今日は会っていないんだよ」
「そうですか」
 これ以上ギンの件に触れてはならない。それだけは確かな事だ。東仙は何も気が付いていない振りをして話を反らせることにする。
「藍染殿が霊術院で教鞭をとられているのは書道の特別授業ですね」
「あぁ、とても熱心に参加してくれるから教え甲斐があるよ」
「お急ぎの所、お引き止めして申し訳ない」
「いや、構わないよ」
 それじゃ、と挨拶を交わし二人は別れた。そして藍染の背中を見送った後に東仙はその足で五番隊隊舎に向かったのだった。



前へ
次へ


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: