@ななをのごはん(再)

にせもの老人


野菜の煮物が好きで、お漬物があれごはんがいくらでも食べられます。
魚は好きなんだけどお肉はあまり食べません。
いった大豆やソラマメが大好きでパンよりごはんが好き。

うちの5歳児です。

食嗜好がお年寄りです。
食嗜好だけじゃなくて行動もお年寄りです。
好きなテレビを見るときは必ず正座します。昭和初期の人間みたいだ(笑)

でもね、私は小僧の中にはばーちゃんが入ってると思ってる。

数年前ばーちゃんが亡くなった。昔から苦労して生きてきた人。自分の事よ
り他人の心配をして泣くような人。やさしくて大好きだった人。

亡くなる数年前からかなりボケてきちゃって、面白い事をたくさん言って
た。それでもみんなばーちゃんが大好きで「ばーちゃん、ばーちゃん」と、
病院と自宅を見舞いに行ったりきたりしていた。昔の人は頑張りやさんだか
ら、痛かろうに苦しかろうに、みんなが言う「がんばって、生きて」の声に
一生懸命応えてチューブや酸素マスクをたくさんつけて一生懸命生きてた。
話すことも出来ずに、たまに応えるようにうなずきながら。

ある日ふと、ばーちゃんの足を見た。寝たきりになってむくんでしまった足
の色が血の気もなく、それなのに内出血のようにあざだらけになってた。手
も元々細い血管に毎日点滴や注射を打ってあざだらけで痛々しい。

太陽の下で力強く畑を耕し、瑞々しいトマトやキュウリを作って、空いた時
間は草むしり。そんなばーちゃんは今、ここで必死にみんなの「がんばっ
て」に応えている。「がんばって」か。こんなに苦しいのに、これ以上何を
頑張ればいい?

私はばーちゃんの、まだ生きてるのに冷たい手を握って小さな声で言った
「ばーちゃんは頑張りやさんだからさ、みんなの声に一生懸命応えようとし
てるんだよね。苦しいよね。つらいし痛いよね。もう無理して頑張らなくて
いいよ。そのかわり私に縁があるんならもう一回ここに戻っておいで。昔か
らあんた苦労ばっかりしてきたでしょ。新しい人生はせめて苦労させないよ
うにしちゃるけん、もう無理せんでいいよ」 ばーちゃんは手を少し握り返
してきた。涙が出た。

それから2日して、ばーちゃんは空に散歩に行った。いっぱい泣いた。
死んだことが悲しかっただけじゃない。楽になれたのにホッとしたんだ。も
う無理やりチューブを入れられて出血もしなくていい。大嫌いな注射もされ
なくていい。たくさんのチューブから解き放たれて、ふわり。ばーちゃんは
身軽になって空への散歩に旅立った。

亡くなってからバタバタが一段楽した頃、小僧はここにやってきた。結婚し
てから7年、子供が授からなくてもうすっかり諦めていたのにだ。
なんの前触れも無くいきなりばーちゃんと入れ替わりにやってきた命。おか
えり、ばーちゃん。そう思わずにはいられなかった。苦労させんけんね、可
愛がってもらった分いっぱい恩返しするけんね。私はおなかの中にやってき
たちっこい人にそう約束した。

出産のとき立ち会ったANIは小僧が出てきたときに顔を見て「あ、秋乃さん
だ」と思ったらしい。そのときもう一度やってきた日の約束をした。もう5
年も前のことだ。

今では幼稚園にも行くようになったし、やんちゃが過ぎる事もあるけど、た
まにふと、子供らしくないことを言ったりするのではっとする。自分が約束
を忘れていないかと。淋しい思いや不自由な思いをさせてはいないか?日々
ひとり反省会だ。

そして中にばーちゃんがはいったにせもの老人は明日はダイエーに行くと言
ってはしゃぎながら寝た。仕方ない、連れて行くか。


そしてときどきこう思いながら小僧の寝顔を覗き込むのだ。
「ねぇ、ばーちゃん。私、約束守れてるかな?」




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