Laub🍃

Laub🍃

2011.10.03
XML
カテゴリ: .1次小
双子には二種類の生き方があるらしい。
 お互い似ようとする双子か、お互い似ないようにする双子か。

 幼馴染のラーニには双子の妹が居る。
 ラーニ自身は否定するけど、よく似ている妹が。

 双子と言う特別な存在に憧れていた俺は、よく沈み込む彼に言ったものだった。

「いいじゃん、ガルミーは可愛いんだから。うちのクソ生意気な妹とは大違いだ」
「僕からしたら君とフルルさんのほうがよく似てるけど」
「おい…」
「ごめんごめん」


 いつも、真似される自分に憧れられている頼られている嬉しさと、真似されることで自分と自分が得る筈だったもの、成績や親の関心もろもろを持っていかれる恐れの間で揺れているとラーニはいつだか言っていた。
 正直俺と妹にもそういうことはよくあったが、生憎俺達の仲は険悪だったのでお互い「あいつには絶対似ない」と思って生きていたから、取り敢えず外見だけは似ていなかった。

 ラーニとガルミーはその点そっくりだった。
 何故性別が違ってここまで似ているのか。
 おそらくそれは、似ないように変化していくラーニの臆病な個性と、似ていないと不安で追いかけざるを得ないガルミーの臆病な個性に由来していた。

 ややうっとうしい前髪の長さも小動物のような目付きも真面目に不器用に物事に取り組む姿勢も相手を上に置くような声の出し方も。

 表情だけが違っていた。

 ラーニは幼い頃、いつも何かと後ろをついてくるガルミーに対して微妙な顔をしていた。
 そうして新しい世界を求めて俺の後ろをついてくるのだから少し歪だと思わないでもなかったけれど、俺は言わなかった。

 言わないうちに、この日を迎えた。

「僕の妹を泣かさないでよ」


 当然のように昔から居た幼馴染と違って、目の前の少女はそこまで親しくはない。
 俺達は、幼い頃から宿舎暮らしになっていたのだから当然と言えば当然だが。

「これからよろしくな、ガルミー!」
「……ハイ」

 けれど、いつもはにかみながら微笑む彼女の顔は、どこか曇っていた。






「一緒に逃げるぞ、ガルミー!」

 予感は的中した。
 酔っぱらって顔を真っ赤にした男がばんと教会の扉を開け、戸惑いつつもガルミーに手を伸ばす俺を参列者…俺の友人が止めに入る。

「悪いが、駄目だ。お前の所であの子は幸せになれない」
「だからって、あいつの所だと幸せになれるってのか?」

 男の顔には見覚えがあった。確かガルミーと同じ宿舎の貧乏人の息子だった。

「……なんでか、分からないか?」

 友人はそれだけ言って、俺を突き放した。
 祭壇に倒れ掛かる俺を、ラーニが支えてくれた……が、体格差からか、一緒に倒れ込んでしまう。
 後頭部の向こうのラーニに声をかけると、「大丈夫」と返してきた。

「本当に大丈夫か……ありがとう……ラーニ」

 参列者の顔をまともに見たくない。
 どうにか起き上がって、ラーニの方だけを向き、手を貸す。

「……ううん。僕も、非力だったから。……それに、このことについても、想像できてなかったから」

 けれど、そう言うラーニの顔はどこか満足気だった。
 その理由について深く考えることなく、俺はぽつりとこぼした。

「……ずっと我慢してたのかな、ガルミーは」
「そうだろうね。気付けなくて、悪い事をした」

 そこで俺はやっと、ガルミーに淡い気持ちを抱いていたことに気付いた。

「代わりだったんだ。口実だったんだ、一緒に居る為の」

 ぼそぼそとラーニがつぶやく。

「……?代わり?」
「いや……何でもないよ」

 俺の目をかわすようにして、ラーニは立ち上がる。

「……お前も、なんだ、その、彼女とかいたりするのか?……俺を、置いていくのか」

 自分でもおかしいと分かっていたが、唐突に不安になり、訊かずにはいられなかった。

「ううん。……ほっとけないし」

 それを言われるのはお前の方じゃないか。俺より背が低くて体力もないくせに、生意気な。
 そう思う俺に有無を言わさずに、ラーニは俺の手を引いて、参列者の目線から連れ出すようにして教会を出た。まるで、あのふたりにならうように。

「そういえばさ。ネズミの花嫁、って話知ってる?」

 ネズミのように弱くて小さくて賢いラーニ。
 そんな彼がネズミにまつわる話を言ってくることに戸惑いを覚えるが、どうにか平静を装って答える。

「ああ。どっかの国のお伽噺で、色んな場所で太陽や風など婿を探すが、最後には同じネズミの」
「そう。だから、ガルミーはね、自分と似た生き方をしていた人についていったんだ」
「……?ああ」

 よくわからないけど、頷いておく。何故だかここで深く問い詰めると、後戻りできない気がした。

「僕も、ネズミだ。ネズミと、結ばれる」
「……?」

 それは、まさか、ガルミーと…いや、違うよな。だってガルミーは出て行ったし、そもそもこいつは似ないようにしていたわけで。ガルミーにとっての追いかける存在がラーニだったということか。

 疑問符を大量に頭に浮かべる俺を見て、ラーニは笑った。

「お互い、しばらくは女の人なんて目に入らないくらい大変だけど……支え合っていこうね」
「あ、ああ」

 何故だかそれが、俺が言い逃した祝詞に似ているような気がして。
 少し気恥ずかしくなりながらも、俺は差し伸べられた手に、手を重ねた。

 掌の温度は奇妙に熱くも冷たくもなく、俺と似通ったものだった。
http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51996332.html






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.04.23 11:33:13
コメント(0) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: