Laub🍃

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2012.07.15
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カテゴリ: .1次メモ


 俺は彼はいずれそうするだろうと思っていたから、さほど驚きはしなかったけれど、ここ数日妙に頭の動きが鈍いのはきっと無関係ではないだろう。

「ふーん」

 彼は自分に興味の無いことは全てこれで流した。
 俺はその度に彼に対しての興味を失って行った。

 きっと彼はあの芸術を愛していた。
 だから同じようにあの芸術に関心のある俺に話し掛けてきたのだ。

 同じ物に対し愛情を抱く者同士が仲良くなることはそう珍しい事ではない。愛を語ることが出来、また相手の愛を聞いて自分の愛を連想することもできるから。自慰行為。そんな言葉が頭を過る。

 だからその芸術、彫刻について話している時に少しある話に触れたときも、きっと今まで通り「ふーん」で流されるのだろうと思っていた。それでもよかった。彫刻について話せる相手が彼しかおらず、また友人の殆どいない俺にとってはそんな関わり方もまた真新しい、うざったくはないものであったから。


「なにが」
「この像が、俺の好きな人に」

 言った直後にしまったと思った。いつも彼は俺自体に全く関心を示さないから、また「…ふーん」「ほー」「へーえ」で流すのかと。俺の好きな人は違う。そう思って、彼を僅かに見下すことでいつもそれに対する苛立ちを抑えていた。彼が自分の話を少ししても、ああ彫刻に捧げる人生なのかと、そうしてお前は自分を語るのに俺が語るのは、俺が彫刻と少し関わることを世間話の如く語るのに対し全く反応を示さないのはどうなのかと思う事を抑えていた。

 だから。

「……ねえ、鳥坂、家行っていい?」
「は?」
「いいだろ」
「いや、お前明日から合宿じゃ……」
「いいんだよ、そんくらい」
「よくねーだ……」
「いいんだよ!」



「……っいいよ、だったらもう」
「あ、おい……」

 花野はがしがしと頭を掻き、そのまま何も言わず、普段は曲がらない角で消えていってしまった。

「……ま、またな…!」

 花野は面倒臭い。だがその顔を二度とみられないのはそれはそれで面倒臭い。



 それとも、あそこで追いかければよかったのだろうか。

 ……だが俺には花野を止める程、花野への関心が残ってはいなかった。

 関心は削られる。俺は自分を傷付けるものの存在をすぐに忘れるから、花野のしたことを面倒だとしか思えなかった。たとえ他の友人に数日前、「花野がやたらと醜い像を作っている」と言われていたとしても、若干の罪悪感がうずくだけだった。
 そうしてそれは暑い中どういうわけだか花野の所にわざわざ出向いてやっている俺の心中にも当て嵌まる。


「……花野」

 見舞いに行った先で、花野は眠っていた。日向が日陰になってもずっと、蝉の声が止んでもずっと、窓ガラスが俺と白い病室を映すようになってもずううっと。

 今、花野はこの世の全てに関心を寄せることが出来ない。

 それは花野にとって幸か不幸か分からないし、俺はそれを思い詰めるだけの義理も関心も、ない。

 けれど、こういった終わり方もまたもしかしたら、すべてに関心を寄せる俺の好きな人の役に立つかもしれない。
 そう思って俺は、ひとまず考えることをやめた。





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最終更新日  2015.08.13 21:55:59 コメントを書く


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