Laub🍃

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2018.11.01
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カテゴリ: .1次長
理想というのはいつも残酷で、だがどこまでも救いである。

 それを俺は自ら踏み躙っている。

 数年前俺は、王である兄を殺して暴政を止めた。
 けれど結局民衆がついていく相手は兄のような人間であるという固定観念と理想が解けなかった。

 影武者を務めていたのだから一般的な民衆にはそれを気付かれないか、気付かれてもこちらのほうが良い王様であると言われている。
 俺はそんなことは全然思えないのに、俺は偽物の俺などには全然救われないのに、民衆たちは皆救われている。

 俺の脳内から、皆の脳内から、兄の姿が次第に消えていく。
 兄を思い出そうとしてもうんと幼い頃転んだ俺を引き上げてくれた腕か、民衆に恐れられ伝えられた姿、でなければ俺が殺した死に際の笑顔の「好きなようにやれ」という声が浮かぶばかりだ。


「こんなこときっとお兄ちゃんなら楽勝だよ?」



「こんな俺をきっと兄は許さないよ」

 時折どうしようもなく自分が憎らしくなり、手の甲にがりがりと爪を立てる。
 それでも、兄とよく似た俺以外の、例えば狐のようにこずるい宰相や、気の弱い養子の彼女や、新しく出てきた領主や勇者とかいう奴らにこの国を任せるわけにはいかない。

 兄から受け継いだものを、兄に唯一任された俺が守り切る。
 それが俺の存在価値なのだから。





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最終更新日  2021.06.01 05:11:54
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