Laub🍃

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2020.02.02
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カテゴリ: .1次小
「嫌だっ、助けて、ハルディス…!」

 地の魔女の名を叫ぶケルベロスを俺は撫で回す。

「どんなに呼んでもあいつは来ないぜ」

 俺じゃない。これを言っているのは俺じゃないのに、紛れもなくケルベロスの艶やかな肌と柔らかな毛並みを撫でている感触は伝わってきて、つい夢中になってしまう。駄目だ。これは俺じゃない。ケルベロスには嫌われたくないのに。


ケルベロスとの思い出が蘇る。
出会ったばかりの頃の人当たりはいいけれどどこか壁のある様子。後ろに控えるハルディスを守るような仕草。
最初にあいつのーハルディスの所を抜け出してきた時の不安そうなぎこちない、それでもこちらに歩み寄ろうとしている顔。
俺が大怪我した時に初めて抱き締めてくれたあの温かさ。
それが嬉しくてよく怪我してでも戦い続けては怒られた。


揺さぶられてるケルベロスの目はそれでも目の前の俺のことさえ映してない。
ああそうかよ、そうだよな、お前はそういう奴だよな。

いつだってこいつの目には俺は映ってなくて、あいつしかない。
俺に優しくしてたのだって、あいつに仕えてるこいつ自身を重ねてただけだ。

そうか。そうだよな。それならもう、いいよな。俺は、俺で居る必要がないよな。
何の為に我慢してたのかわかりゃしねえ。
初めは純粋に追いかけて守ろうとしてたはずなのに、薄汚く汚れた欲の方が勝っちまった。

それを自覚した途端現実感のなかった腕はにわかに実感を帯びた。
今ならもしかしたら意志を発揮すればケルベロスを嬲ることをやめられると何度も思った。
けれど俺は。
魂の戻った俺はそれでも、俺自身の手で、俺自身の心で、ケルベロスと交わり続けた。



 叶わない恋心。
 敵わない恋敵。
 適わない俺という存在。

 すべてが嫌でどうしようもなくて、それでもケルベロスのことを嫌いにはなれなかった。





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最終更新日  2021.05.03 20:16:09
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