4.ハルノートン王子



ルカのすさまじい大音量のいびきでティティは眠るどころではなかった。いびきのせいだけではなく、めまぐるしく過ぎていった一日のせいもあるはずだが・・・
このまま悶々と横になっていてもしょうがない。どうせ眠れないのであれば、明日に向けて少し宮殿内を歩いておこうか・・少しでも建物内の構造を知っておきたい。
ちょっとやそっとではルカは起きないとは思うが一応そっとベッドからすべり降りる
昼間はギラギラと照りつける太陽のせいで焼けるように熱いが、夜ともなればヒンヤリとするくらいである
王女の寝室とは逆の方へと、まず歩いてみることにした
しばらく歩くと、美しい庭園が目の前に広がった

「うわぁ~・・キレイ・・」

池には蓮の花が咲き乱れ、その池の真ん中を廊下が続いている。その池を渡り、真っ直ぐに進む。
建物の造りが少し変わった?
と、その時、何かがかすかに聞こえてきた

「?」

音のする方へ進んで行く。まるで吸い寄せられるように・・
歌?誰かが歌っている?

「なんて美しい歌声・・こんな夜中に・・」

その歌声は優しく、艶やかで心地良い響きで「心がうっとり」してしまう・・・
もっと聞きたい・・もっと間近で・・
暗い宮殿内を歌声を頼りに歩いて行く

ぼんやりと人影が見えてきた。どうやらその人物が歌っているようだ・・誰だろう?

「・・!何者だ?」

ティティは夢から覚めたようにハッとなった

「・・侍女か?ここで何をしている?」

相手は右手を腰の剣にそえている。ティティは急に現実に引き戻された

「も、申し訳ございません。う、う、歌・・歌・・」

身体がガクガクと震える。このまま斬られてしまうのだろうか?冷や汗が全身から噴出す

「歌?歌がどうかしたのか?」

相手の声が少し和らぐのがわかった。ティティが刺客ではないと、わかったのだろうか。

「殺さぬ。だから落ち着いて答えるがいい」
「は、はい。私は本日よりネフェル王女様の侍女として王宮に入った者でございます。眠れなかったものですから宮殿内を歩いておりました。すると美しい歌声に導かれてここまで来てしまいました。お許し下さいませ!」
「フッ。その歌声は私だ。私の歌を誉めてくれた者を殺すことはできぬ。そなたの名は?」
「は、はい。ティティと申します。」
「ティティ・・顔を上げて、もう少し近くへ・・」
「は、はい」

中腰のままで前へと出て、おずおずと顔を上げた・・

そこには月の光を浴びた麗しい美青年がいた。涼やかな目元柔らかい物腰・・物憂げな雰囲気の中にも甘さがあり・・美女と見紛うばかりの美しさだ昼間出会ったセナトス将軍とは全く違うタイプだ

「我が名はハルノートン」
「ハッ!ハル・・!ケホッ!ケホケホッ!」

驚きのあまりティティはむせてしまった
ハルノートン・・ネフェル王女同様、その名を知らない者はいない。現在のファラオの第一王子、王位継承権第一位の王子。つまり時期ファラオだ
とんでもない相手に遭遇してしまった。ティティの顔から血の気が引く・・今日は赤くなったり青くなったり忙しい日である。

「そなた・・大丈夫か・・?」

スッと王子の右手がティティの頬に優しく触れる

「ヒッ!・・」

あまりのことにその場に尻もちをつくティティ

「だ、だだ大丈夫でございます!無礼をお許し下さい!」

キョトンとした表情でティティを見ていた王子は突然笑い出した。その笑顔の優しいこと。スッポリ
と包まれるような気さえする。

「そなたのような表情豊かな娘は初めてだ」
「・・し、失礼致します!」

ティティは走った。赤くなった顔を隠すようにして走った
その後ろ姿をハルノートンはじっと見つめていた・・





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