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11.動きだした想い
もちろん、ティティが落ちることはない。つまり、セナトスにしがみつく必要もないわけだ。
それはそれで残念なような、ホッとしたような複雑な気持ちであった。
ティティは緊張をまぎらわすために、いつになく饒舌だった。
「おまえ、よくしゃべるな~傷口が開いても知らないぞ?」
「・・え・・そんなにしゃべってますか?」
「あぁ」
「申し訳ございません・・!うるさいですよね」
「・・フッ・・いや、嫌じゃない」
この距離での笑顔は危険だ・・危険すぎる・・
思わずのけぞるティティ
「うわっ!おい!大丈夫か?!馬の上だぞ?」
「す、すす、すみません・・」
「あの・・将軍・・」
「ん?」
「今日は・・本当にありがとうございました。助かりました・・」
「ん・・まぁ・・うん・・」
「・・・嬉しかったです・・」
「・・・・・」
消え入りそうな声だったが、セナトスの耳にはしっかりと届いていた・・・
宮殿に到着し、ティティはセナトスの手を借りて、馬から下りた
「花もしおれず、なんとかもったな。早く水につけてやれ」
「はい。ありがとうございます・・あ・・・」
「ん?」
「あ、いえ、ブルーの蓮を摘んだつもりが、一輪だけピンクの蓮がまぎれていたので・・」
「あぁ・・それは俺が摘んだんだ」
「将軍が?!」
「・・まぁ・・そうだ・・」
「はぁ・・ありがとうございます・・??」
「ったくっ!」
拗ねたような照れたような、なんとも言えない表情で
セナトスは乱暴にピンクの蓮をティティの髪に飾った
「・・え・・!?!」
「おまえには、ブルーよりピンクの蓮の方が似合うってことだ!!じゃぁな!!」
吐き捨てるようにして言い放ち、セナトスは力任せにマントを捌いて馬にまたがり、あっという間に遠ざかっていった・・・
顔を真っ赤にしたティティだけが、その場に残された・・・
************************************************************:
「あら・・?ティティ・・?」
儀式が終わり、神殿と宮殿の渡り廊下を王族たちが歩いている
その列の中ほどに、ハルノートンと並んで歩いていたネフェルがティティを見つけた
ブルーの蓮をあんなに沢山持って・・・どこまで摘みに行っていたのかしら?あの傷で・・?
「・・・セナトス?・・」
察するに、セナトスの馬で摘みに行ったのか・・・
セナトスのあのような優しく無邪気な表情は初めて見る。ネフェルは素直に驚いていた
その上、セナトスがティティの髪に花を挿してやっているではないか
「まぁ・・あの二人・・いつの間に?・・ねぇ?ハルノート・・・」
ネフェルは思わず息を飲んだ
ハルノートンのこのような表情も初めて見たからだ
二人を見つめるその瞳は、明らかに「嫉妬」の炎が見える
「ハルノートン・・あなた・・・やはり・・」
ハッと我にかえったハルノートンは慌ててネフェルを見る
「何か言ったか?」
「いえ・・何も・・・」
ハルノートンを残し、ゆっくりと歩き始める
少し歩いて立ち止まると、ネフェルは振り返ってまっすぐにハルノートンを見つめた
「あなたがたとえティティに恋し始めているとしても、私はあなたを離さないわ」
「ネフェル・・」
「あなたと私は、将来このエジプトを治めていくのです。それだけは忘れないで」
「あぁ・・わかっている・・つもりだ・・」
「・・・・先に・・・行きます・・・」
柱にもたれて、ハルノートンは大きく息をついた
「恋・・・か・・・」
セナトスにも言われたな・・俺が恋している・・と
二人に言われてもまだ、この気持ちが「恋」なのかどうかわからない
ただ、あの娘が気になる
あの娘を目で追ってしまう
多くの人間が集まる宴会でも、すぐに姿を探し出すことができる
ただ珍しいからだけじゃないのか?興味があるだけじゃないのか?
もう一度、大きく息を吐いた
しかし、あの二人いつの間に親しくなっていたんだろう?
ティティのはにかんだ眩しい笑顔が頭から離れない
ティティはセナトスを・・?
だったらどうだというのだ?
複雑な想いを振り切るかのようにハルノートンは足早に歩き始めた
****************************************************:
宮殿が見えてきた
ティティをはじめ、侍女たちが総出でブルーの蓮を飾っている
「ネフェル様・・?」
神殿から共に歩いていた侍女が怪訝そうにネフェルを見つめた
ネフェルは無言でティティを見つめていた
侍女は勘違いをしたらしく
「あっ・・!申し訳ございません!急いで終わらせますので!こんな時間まで何をやっていたのでしょう!注意してまいります!」
「よい!!」
「は・・」
「私が無理を言ったのです。少し中庭を散歩してきます」
「はい、ではお供を・・」
「いらぬ。一人で行きます」
「・・?かしこまりました・・」
侍女の目には寛大な王女としてうつっているのだろうが、真意は違った
少し一人になりたかったのだ
今の自分に、ティティの前で冷静さを保つ自信はなかったから
幼い頃からハルノートンを見てきたが、あのような表情は初めてみた
それが驚きと同時にショックであった
いつもファラオがネフェルにしつこく言い寄ってきたり、手を握ったりしても、王子は常に冷静沈着で、ファラオへの怒り、ましてや嫉妬など微塵も見せることはなかった
見るにみかねて止めには入るが、それは「愛する女」を助けるためではなく、自分の父親の悪ふざけを戒めるような、ファラオの威厳に傷がつくから止める・・・といった感じであった
ふと目線を上げると、向こうからセナトスが歩いてきた
「これは王女。ご機嫌うるわしゅう・・」
いつものセナトスだ
先ほどティティに見せた少年のような表情はそこにはなかった
「私の侍女と随分親しいようですね」
少し皮肉めいた口調で言う
「・・それはティティのことですか?」
「えぇ。先ほど、あなたの馬から二人で降りる所を見ました」
「・・・そうですか・・」
「あなた確か、宴の時にティティを強引に踊りに誘ったわね。あの時から?」
「あの時からとは?あの娘が宮殿入りする時に宮殿まで案内してやっただけ・・・」
「あなたもティティに恋しているのか?ということです」
遮るようにネフェルは言った。その口調からはハッキリとイラつきが感じられた
「・・・あなたも・・とおっしゃいましたね・・」
「・・・・・」
ハッとネフェルは口を閉じ、セナトスに背を向けてしまった
セナトスは全てを察したように微笑み、それ以上は問い詰めなかった
「もしかして王女は嫉妬して下さるのですか?嫉妬に狂う王女は一段とお美しい!」
「・・っ?!な、何をバカなことを!」
「はははっ!冗談ですよ。しかし・・今まで自分に言い寄ってきていて疎ましく思っていた男が自分以外の女にいってしまうと、それはそれでおもしろくない・・といったとこですか?」
「・・っ!セナトス!!一軍人ごときが王女に向かってそれ以上の暴言を吐くことは・・」
「おや・・図星のようですね」
「セナトス!!そなた・・・!!二度と私の前に現れるでない!」
「ほぅ・・いいのですか?」
「・・・・・・」
怒りに身を震わすネフェルは、ただ黙ってセナトスを睨んでいる
いや、「睨むことしかできなかった」
「フッ!これ以上怒らせる前にあなたの前から姿を消しましょう!では、また・・。」
王女に背を向けた瞬間、セナトスの表情から笑顔が消えた・・・
”あなたも”か・・・
王子も罪なことをなさる
気高いネフェル王女が嫉妬と屈辱に身を震わせているなんて初めて見たぞ
まぁ、火に油を注いでしまったのは俺だけどな・・
「おもしろくなってきたじゃないか・・・」
思わず笑みがこぼれた
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