9、そらみみ


静かに風が吹き抜ける中、友人と一緒に帰っていた輝一はそっと振り向いた。
「どうした?輝一」
突然立ち止まった輝一にいつのまにか先を歩いていた輝一の友人達が声をかけた。
「・・・いや、今誰かに呼ばれたような気がして・・」
その声が何故かひどくなつかしいものに感じられたのは気のせいだろうか。
妙な親近感みたいなものもあった。
「気のせいじゃねえの、どうせ空耳だろ」
「そうだねっ、いこっ」
輝一は気を取り直して横断歩道を歩き出し、友人達の間に入って再びたわいのない友達同士の会話を始めた。

「―輝ニ」
自分の名前を呼ばれた瞬間、輝ニが辺り一面を振り返った。
「・・父さんか」
「どうしたんだ、そんなとこで立ち止まって?母さんが待ってるぞ」
・・母さんね。
「ああ・・」

・・・何だ?胸が妙に熱くなって、心臓が高鳴っている。
今の声は一体?空耳か?
気味が悪いくらいいとおしく感じられたけど・・。
「・・何だ、これは」
「行くぞ、輝ニ」
「あ、ああ」
―あと、ちょっとで小学五年か。まあ、どうでもいいけど・・。
どうせ、今までと変わらないだろうし。

輝一と輝ニはこのとき両反対の歩道を歩いていたが、それぞれの存在にまだ、気付いていなかった。



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