第4章ー3


彼方は冗談じゃないと思った。
宗叡がどんな事情で海客である王を嫌がってるかは知らないが、そんな大ごとではっきりとしない計画に巻き込まれては、こちらとしてはすごくたまらない事だ。
きっと、自分が良い目にあうなんて確率的にも少ないだろう。
王といえば、国の中心でありリーダー格だ。
国民の希望にこたえたり、たくさんの命を背負わければならない。嘘とはいえ、そんな重大で強大な仕事を15あたりの子供に背負わすなんて何を考えているのかと思う。
「・・ったく」
彼方は、どうにかここから逃げられないものかと考え込んだ。
周りを見てみると、この部屋の扉は閂があるせいでぎっしりと閉められている。恐らく、逃げられないようにしてるのだろう。
「・・どうしようか」
彼方は、ふと微かに開いた陽光が自分の方に差しかかっているのに気付いた。
「・・・」
窓を空けようとするが、小さく狭い窓なので上半身くらいしか入る事ができないようだ。
「・・っ、ここも無理か?」
「そこで、何してらしゃるんですか?」
そこへ、部屋に入ってきた初老の男の家生が彼方に声をかけた。
「・・それはその・・」
家生は彼方をじっと見ると、机に朝食を置いた。
「―食べ終わったら、外にいますのでお伝え下さい」
「・・う、うん」
・・そうだ。
背中を向け、去ろうとしたその家生の肩を慌てて彼方は掴んだ。
「!?」
「―・・騎獣ってのは、どこにいるんです!?オレに、オレにここの騎獣っての見せてもらえません?」
彼方はニッコリと優しく微笑んだ。
「いきなりそんな事言われても・・、私の一存ではそんな事は・・、旦那様に聞かないと」
「1時間だけで良いから頼むよ。ずっと、同じ部屋にいて飽きてるんだ。すぐ、ここに帰ってくるしさ」
彼方は、その家生に頼みこむようなポーズを取った。
「・・しかし、客人はこの部屋にいさせろと命令されてますし」
「じゃあさ、こーゆうのどう?」
「はい?」
「耳貸して」

「―お母さん、玉葉と外に出ていい?」
慶鋼が高い声を上げて、お金を数えていた葵と老婆と喋っていた璃祇がいる女部屋に入ってきた。微かに潮の匂いも慶鋼と一緒に部屋の中に入ってきた。
「ええ、それは構わないけど。気をつけてね、船の上なんだから」
「慶鋼はすっかり、玉葉を気に入ってるみたいだね」
「うん、僕、ずっとお姉さんが欲しいって思ってたから玉葉が来てくれて嬉しい・・。じゃ、行こう、玉葉」
慶鋼は葵の腕を引っ張ると、部屋から連れ出し、青空が広がり、風が吹き溢れる船橋へと招き入れた。
「わぁ~~っ」
どこまでも広がる風景に葵は思わず圧倒されていた。
「玉葉、見て見て、魚が跳ね回ってる」
慶鋼が指差した水面には、銀色に輝く数匹の魚の姿が見えた。
「・・・・きらきらしてて、綺麗」
葵は見惚れた表情のまま、微笑んだ。
・・そういえば、小さい時にこうやってお父さんとお母さんと一緒にこうやって、旅行で船に乗った事があるな。
お父さんとお母さんがまだ生きてた頃の・・。
そう考えた葵は少し涙が出そうになった。
「あ、やだ」
・・あの2人が死んでから、随分経つんだし、もう慣れなきゃ・・。
「まだ、・・涙腺弱いのかな、僕」
その時、ふいにどこからか腕が伸びて、葵の服の裾を引っ張った。
「きゃ」
「―・・すまないが、水をくれないか?」
枯れたような小さな声で、男は座ったまま目が見えないのか、うっすらとした瞳で葵を見て、片方の手を動かした。
「?あ、あの・・」
「頼む、水をくれ」
「玉葉、水くれって言ってるんだよ」と、慶鋼は手の平にそう書いた。
「???何?」
「僕、水がどこにあるのか聞いてくる!待ってて、玉葉!」
慶鋼はそう言うと、葵を残して走り去っていった。
               4
利広に巧に行かないか、と言われた時を武湘を待ちながら、食堂の中の席に座りながら、拓人は思い出していた。
「巧?」
「そう、この国の隣にある巧州国に」
「―・・そこに、康麟って人はいるんですか?」
「ああ・・。でも、正確にはその康麟は人じゃないけどね」
「・・じゃあ、何なんですか?」
拓人は脳裏に康麟の姿を思い浮かべたが、どう見ても人間の女性のようにしか思えなかった。
「―この十二国で唯一王にだけ頭を下げる仁道の生き物で王を支える者、麒麟だよ。康麟は、十二国の一つ、巧州国の麒麟だ。そして、麒麟は決して、王以外の者には頭を下げようとしない」
「キリン?―・・と言うと、首が長くて黄色い毛並みで草ばっかり食べてる動物園にいる・・、あれ?」
「・・いや、こちらの麒麟は多分君の知ってるそれとは違う。もっと、神々しい生き物だよ。それより、拓人」
「何です?」
「その康麟が君に頭を下げ、君の足元にひれ伏したという事は、・・その意味がわかるね?」
―王以外の者には頭を下げようとしない・・。
「・・い、いやだなあ、まさか利広さん、オレがその巧州国の王だとか言うんじゃないでしょうね?」
「そうだといったら・・?」
利広の目は本気だった。
「・・それはないな。オレ、王不向きだもん」
拓人はあっさりと軽く答えた。
「オレ、国のトップになれるほどの器質じゃないし、誰かを背負えるほどの度胸もないしな。・・まあ、だからって、何かなりたいものがあるわけじゃないけどね」
「王になったら、たくさんの人間が君の足元にひざまずいたり、贅沢三昧ができるよ。・・なりたくない?」
「―そーゆうのって憧れはあるけど、ばかばかしい気はするな。人に拝まれたりするのって、何か気持ち悪いし。・・ま、贅沢してもいいけど、オレだけするのもあんまり心地よくないし。やっぱり、そーゆうのは皆でした方が楽しいしな」
「そう・・」
「何事も程々が1番だよな、やっぱ」
うんうん、と拓人は自らの言葉に納得したように頭を動かした。
「―・・で、利広さん、一人で巧国に行くにはどうしたらいいんですか?」
ガン、と音を立て武湘が酒瓶を置いて片方の手で持っていた料理を豪快にテーブルの上に置いた。そのせいで、少しこぼれそうになった。
「何、ぼ~っとしてるんだ?拓人。女のことでも考えてたのか、ん?」
武湘はにやにやと笑いながら、豪快に酒を飲んだ。
「・・あ、いえ。武湘さん、良いのみっぷりですね」
「そうか?」
拓人は野菜炒めのような蜂蜜が乗った料理が乗った皿を取って、それを食べた。
「あ、これ以外とおいしい」
拓人はどんどん口にそれを運んだ。
武湘はそれを見て、優しげに微笑んだ。
「オレの弟もお前ぐらいになってたらそんなにバクバク食ってたかな」
「お前ぐらいになってたら?」
「ああ、オレの弟、先の王のせいで飢饉になって死んだんだ。―九つだった」
武湘の瞳に微かに哀しみが浮かんだ。
「!!・・あっ、ご、ごめん!」
「いいぞ、別にお前が困らなくても。戦や妖魔、飢饉で人が死ぬのはさすがに慣れたし」
「・・そうなんだ」
その何気ない言葉に戸惑った拓人は、一瞬呆然としたが、慌てて再び何気ない様にして、食べ始めた。
拓人はその言葉に酷く胸が痛く響いたのを感じた。
・・何だろ、この気持ち。
何か、オレ関係ないのに、いきなり現実をパンチでくわされた気分だ。・・何か、ショック受けてるな、オレ。
「・・・」
それに、そーゆうのに慣れてるなんて・・、こっちではそれが普通なのかな。
そーゆうのに慣れちゃう普通。
「―変なの」
何か、オレ違和感みたいなの感じてるな・・何でだろう。
「ん?何か、言ったか?」
「いえ・・」
なんか、嫌な世界だなと思ったのも同じに拓人は、「・・・・案外、オレなんか無力で役に立たないかも」とも思った。
・・ちゃんと、勉強しとけばよかったかも・・。
「・・まず」














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