第5章ー3


やはり、気になったのか拓人はふと振り返った。
「・・大丈夫かな、武湘」
子供は早くついてこいとくいくいと拓人の服の裾を引っ張った。
「そこのお若いの、冷厳の知り合いかね」
瓦礫が散乱し、整備されていない石垣に背を預け地べたを座っている老人がふと声をかけてきた。
「いや、ついさっき会ったばかりだけど」
冷厳、と呼ばれた子供はおじいと呼んでその老人に駆け寄った。
「坊主、別の国のもんだろう?」
「ええ、まあ」
「良くこんな何もない荒れた国に来る気になったの。どうして、来た?この国には、自分の事しか考えない愚か者しかおらんぞ」
「愚か者?」
「王の真似事をしている喜州侯・頑端とそれに組みしてる淳州侯・宗叡の事じゃよ・・。まったく、恐れ多くも天を何だ、と思ってるのか・・」
老人はぶつぶつと物言いを言い始めた。
「・・そんな簡単に自分の国の事情って言っていいのか?」
「だって、本当のことだもの」
「!姉ちゃん!」
その少女の後ろには、数人の若い男性と血塗れになった武湘の姿があった。
「武湘!よかった、無事だったんだ!」
「当たり前だろ、まあ、さすがにちょっと手間取ったけどな」
「しかし、すごい怪力でしたね。生まれつきですか?」
「まあ、それもあるな」

姫乃は、食事を済ませると一人で部屋で待たされていた。
取りに行かなければならない書類があるので取りに行くと言って、朔夜は出て行ってしまった。
ぽつんと残された姫乃は特にすることがないのでぼんやりとしていた。
「・・・・」
「暇だなぁ・・」
怪我してるから外を出るわけにもいかないし・・。
「嬢ちゃん」
突如、声がしたので慌てて視線を探らせると、いつ入ってきたのか3人組の男が扉の前に立っていた。柄が悪く、いかにもごろつきと言った印象の男達だった。
「お前、海客だろ」
「?何言って・・・」
「へえ、可愛いじゃん」
男の一人がニヤニヤと笑った。
姫乃はその笑みになぜかはわからないが、嫌悪感をもった。
「怪我してるみたいだな、可哀相~」
その男がニヤニヤと笑いながら姫乃の腕を掴み、顎先をとらえた。
「暇そうだな、嬢ちゃん」
「オレ達も今暇してるんだ。一緒に飲まないか?」
「触らないで!!」
姫乃はキッと睨んで、その男を突き放した。
「おー、強気だねえ」
「・・・・っ」
腕がまた痛み出し、姫乃はぐっと押さえた。
「無理するんじゃねえよ。少し、休んだ方がいいんじゃねえの」
男はわざとらしいくらい良い微笑みのまま、姫乃をゆっくりとベッドに押し込んだ。その手つきはやさしいものだった。
「・・・休めって事かしら」
3人組の一人、優しげな印象が微かにある髭面の優男がその瞬間、妖しく微笑み、姫乃に気付かれない様、他の2人に目配せした。
男が姫乃が毛布を羽織ろうとした瞬間、姫乃に向かって後ろから手を伸ばした。
「!?」
ハッと振り向いた瞬間、姫乃の瞳孔が微かに揺らめいた。
風が少し姫乃の髪を揺らした。
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妙な悪寒が拓人の身体を通りぬけた。
「・・・・?」
何か、今嫌な感じがしたような・・・。気のせいか?
「どうかしたの?」
「いや、何でもない。ちょっと、寒気がしただけ」
「そう?」
「あ、そうだ。助けてくれて、ありがとうな。君や君の兄さん達が助けてくれなかったらオレ、今頃食われてたかも」
「・・まあ、怖い事言うのね」
少女はクスクスと軽く笑った。
「明仁兄ちゃん、これ」
冷徹がそっと1番背が高い長兄の明仁にお金を握らせた。
盗んだ金か、と拓人は思った。
「今回はちょっと失敗したな」
「うん・・、でもちょっと良い事知った」
「何だ?」
「新王がこの巧に現れたって」
「まさか」
急に周りがざわざわと騒ぎ出した。
「また、ガセネタじゃねえか?そーゆう話なら、この前もあったし」
「そうかなぁ・・。でも、喜州から来た人がそう言ってたって」
「そいつ、その御方の周りに台輔がいるとか言ってたか?」
「ううん。でも、台輔がこの国に訪れたってのは本当みたい」
―主上。
その時、確かにそう誰かが拓人を呼んだ。
聞いた事のある声だった。
拓人は扉を開け、外に出てみると、そこにはホウテイの姿があった。
「ホウテイ・・?」
主上、お探ししましたとホウテイは確かに言った。
その時、ずかずかと拓人の周りを衛兵の男達が囲んだ。
「え!?何?」
拓人がおろおろとしていると、一人の役人が衛兵をかき分け、拓人の手を取った。
「貴様だな、采家の者から金を盗んだのは!」
「オレ?ちっ、ちが・・・」
違う、誤解だと言いたかったが突然の事過ぎてそれ以上言葉が出なかった。家の中にも当然聞こえている筈だが、怯えているのか出てこなかった。
「嫌らしい海客のやりそうな事だな、いかにも」
忌々しそうに拓人を見ると、その男は拓人を羽交い締めにした。
「ちょっと、話聞いてよ」
「話なら、庁でじっくりと聞かせてもらう。付いてこい」
「いや、そうじゃなくてだな。オレ、金なんか盗んでないし、怪しい奴じゃないって」
役人は、拓人に視線を一度向けた後、無視するように背中を向けた。
「おい!」







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