第5章ー4


「―・・姫乃さんが出ていった?」
やっと戻ってきた朔夜は呆然とした様子で、門番にそう言った。
「そんな、喋れないのに」
「でも、走って出ていったよ。スゴク興奮してた」
「興奮?」
「・・・はい、実は・・」
その後、聞かされた事実に朔夜は愕然となって動けなくなった。
「・・まさか、そんな・・」
その姫乃はと言うと、人込みの中を乱れた服装のまま人の目も気にせず、走っていた。その表情からは、悔しさと揺るぎ無い怒りがあふれていた。
悔しい悔しい悔しい・・・っ。
私の、バカバカバカ!
あんな奴らに身を奪われそうになるなんて・・・!何とか、未遂に出来たけど・・!
総毛立つ、気持ち悪い、あいつらに触られた部分が・・・。
何で、この私がこんな目にあわなきゃいけないのよ・・っ!
姫乃の脳裏に康麟の顔が思い浮かんだ。
そうだ、あの女が現れてからだ。
こんな現実まで行きつく事になったのは・・・。
姫乃は足を止め、誰もいなそうな路地裏へと入って背中を建物に預けた。
「そうよ、そうなんだ・・」
あの女に会わなければ、何もこんな所まで来なくて良かったのよね・・。あんな変な化け物にも襲われなかったし、今みたいな最低男にも会わなかったし・・。拓人も巻き込まれなかったし・・。
「許さない・・・」

拓人は身を拘束されたまま、三日馬車に揺らされ、淳州侯・宗叡が治める地域にある廃墟のような雰囲気を漂わせるある村の建物のの中へ連れていかれた。
・・あ~あ、旅券も剣も金も全部没収されちゃって、オレどうなるんだろう。
絶望的?
拓人は、力なくため息をついた。
その建物の入る前に歩かされた田園では、枯れた大地を懸命に耕す農民っぽい男の姿があり、赤く染まった時刻でそれらの人々を見ると、拓人は少しだがやるせないような、切ないような気分になった。
「何だろう、この感じ・・」
でも、前にも似たような気分を味わったような・・・。一生懸命頑張っている姿を傍目からフェイス越しでただじっと見てて・・。何か、凄く悔しくて。―・・何だったけ。
「こら、さっさと歩け!」
「は、はい!」
そして、建物の中に入った拓人は自分と同じように身体を拘束された幼い少女を連れた女性や数人の男性と引き合わされた。
皆、狩りの前に獲物とされる怯えた兎のような表情を浮かべ、恐怖で震えていた。
「・・・この人達は?」
「お前と同じ罪を犯したものだ。厳粛な裁判で刑が決まりしだい、処遇が決められる」
「罪って・・、オレ無実なんですけど!!マジで!オレ、本当に何もしてないし!と言うか、何でオレが捕まらなきゃいけないんですか!?盗みなんてした覚えもないのに!!」
「罪人は皆同じ事を言うな」
「いや、本当ですって!!」
「お前達には、罪人・・または本当に悪い海客かどうか裁判で判断する為に県知事の所までついてきてもらう事になっている。わかったな」
「悪い海客?良い海客もいるんですか?というか、裁判するのに何でこんな大勢で?」
「・・良い海客はそれなりに暮らせる。だが、悪ければ死刑か幽閉だ。罪人はまあ天に逆らった行為したという事だから裁判しなくても死刑か、鞭打ちの刑で決まりだろうがな」
拓人は、あまりに普通の事のように男が話すので、背筋に冷たいものが伝っていくのを感じた。
何、淡々としゃべってるんだ?この人達・・。
人が死ぬんだぞ、・・人が・・。何で、そんな顔で笑えるんだよ。
・・死ぬのが怖くないのか?
「・・!」
拓人は自分の手が震えているのがわかった。
「あれ?」
「・・嫌」
その時、震えるような声が拓人の後ろで響いた。
ハッと拓人が振り向いた瞬間、その女性は子供を抱えて拓人を通りぬけて、外へ出る扉の方へ走り出した。
「追え!」
「はっ!」
鎧をつけた手下らしき衛兵の男達が棍棒を持って、外へと抜け出した女性を追いかけ、その女性の手を掴むと無理やり自分達の方に引き寄せた。
「さっさと戻れ!逃げるなんて何を考えてる!」
「私、子供の為に、確かに、1個の餅盗んだけどそれで殺される覚えはないわ!ここから下がらせてもらいます!」
「貴様、この国にさらに凶事を招く気か!」
衛兵の一人が、女性に向かって棍棒を振り落とそうとした!
「・・きゃ・・」
女性は目を瞑った。
次の瞬間、鈍い音が鳴り響いた。
女性の頭から血が噴き出し、その女性はそのまま気を失し、倒れた。
子供は転々と転がった。
「何やってるんだよ、お前・・」
「・・・あ」
男は我に返った。
その光景を見ていた拓人は、そこでやっと自分が呆然となって、立ち尽くしている事に気付いた。
「・・・あれ?」
―・・オレ、動けなかった?・・何で?いつものオレなら、こーゆう場面に関わるのに・・。











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