第9話ー恥ずかしい・・・


ガサガサ、と音を立て、紙くずが人が歩くハリウッドゾーンの表通りにあるカフェから、ビジネスゾーンの一区にある学園シティに留学中のタカトの兄、氷天智司フォーレが午後のティータイムを過ごしていた。
「・・ふぅ」
フォーレは、悪トレスが主演する演劇のパンフレットをもう1度めくった。
「ったく、ありきたりのラブストーリーですね」
このスケジュールが忙しい時期にちょっと休みが欲しくて、こんな暇つぶしを受ける羽目になるとは。
フォーレはまた溜め息をついた。
「・・寒かった」
「!」
聞き覚えのある声にフォーレはゆっくりと入り口の扉の方を振り向いた。
天使属の象徴である白い翼を背中に生やし、帽子を被り、真っ白なコートに身を包んだスバル・・いや、スバルと瓜2つの外見を持つ少年がフォーレの前に現れた。
「・・スバル君?」
フォーレは呆然とその少年を見た。
少年はじろりとフォーレを睨むと、さっさと店員にカフェオレを注文して一番奥の席に座ってしまった。
「・・・・」
「兄ちゃん!!」
と、そこへタカトがデミアン達を背にフォーレの前に駆け込んで来た。
「――タカト?」
「兄ちゃん~」
タカトがフォーレの姿を確認すると、フォーレに抱きついた。
「・・何アレ?タカト、あいつの姿見た途端全速力で走って行ったぞ」
「タカトのお兄さんの氷天智司フォーレさん。タカト、ブラコンの気があるんだよ」
「まあ、可愛らしいですね」
「そうですね」
「――クロノ、フシール、それ本気で言ってるの?」
シエルは既に呆れ顔だ。
「あ、そろそろ、時間だ。じゃ、デミアン、オレバイト行くから」と、スバルは言うとスタスタとその場を去っていった。
「お、おうっ」
「・・・あれが僕の兄さんか」
その光景をひっそりと見ていた少年はカフェオレを飲みながら澄んだ声でそう言った。
―ミラージュ劇場。
今日、ここで超売れっ子の悪トレスが主演する「幻蒼の夢」というラブストーリーが演劇として披露されるのである。
「―――・・え?」
悪トレスが今言った言葉を聞いた途端、スバルの思考が止まった。
目の前にいる悪トレスはニッコリと微笑んでいた。
「す、すみません、もう一回言ってくれませんか?よく聞き取れなかったもので」
スバルは苦笑い状態だった。
「だ・か・ら、スバル君がイルミネの代わりに私がやるヒロイン・マリアの妹・ロゼッタをやるのvvきっと可愛いわよ」
その時の悪トレスの笑みは極上のモノだった。
スバルは思いっきり後さずった。
「―ご、ご冗談ですよね?」
「本気に決ってるでしょvvじゃあ、皆スバル君に早速衣装を着させてあげて」
悪トレスが近くにいた針子さん達にアイコンタクトすると、数10人程の針子の女性がスバルに飛びかかった!
「!!・・ちょっ、やめ・・、やめろ~ォォ!」
楽屋にスバルの空しい叫び声が響いた。
「助けて~」
―2時間後。
ミラージュ劇場には、たくさんの観客達が入場してきていた。
「あっ、ポーチ先生、コーラルさんvv」
ピンク色のふんわりとした髪を翻し、颯爽と愛助コーラルがポーチを後ろに歩いていたのをデミアンが見つけた。
「あら、デミアン君、久しぶりね」
コーラルは優しくニッコリと微笑んだ。
「いやー、美人が2人歩いていると華がありますね~」
デミアンの後ろでは、機嫌が悪そうなフシールの姿があった。
ふと、コーラルがクロノの姿を見た。
「!何ですか?」
「可愛い~」
コーラルは力いっぱいクロノを抱きしめた!
「本当にかっわいいvv飼いたい~」
「あ~、いーな、コーラル~。次私にも抱っこさせて~」
「ちょ、ちょっと~、や、やめて下さい~」
「オレ、クロノになりて~・・っていうか、すげえ羨ましい~。な、タカトそう思わねえ?」
「それは・・」
ハッとなって、タカトがデミアンの後ろを見ると怒りに燃えたスゴイ形相のフシールの姿があった。
「・・そうでもないかな」
「じゃ、じゃあ、楽屋に行ってみようか・・」と、ここでシエルが気を回した。
そうだな、とタカトがシエルにそう言おうとすると、偶然タカトの視線の隅に妊婦が友人らしき女性につられ、向こう側の通路へと通っていった。
「・・・」
「タカト?」
フシールがタカトの顔を見ると、息を激しく乱し、明らかに困惑した表情を見せ、ガタガタと身体を震えさせた。
「タカト?どうしたの?」
フシールがそっとタカトの腕を掴むと、タカトの身体から力が抜け、ふらふらと漂った。フシールはタカトの身体を抱きとめた。
「あ・・あぁ・・っ」
タカトの口から出たのは何処か呻き声に似ていた。
フシールはタカトが何かに怯えている事に気付いた。
「・・いやだっ」
タカトはそう言い放つと、フシールを引き離して、人込みの中へと走り去ってしまった。
「どうしたんですか?タカト様は?」
「さぁ・・」
「あ、あたし、追いかけてみるね。あいつ、この辺知らないだろうし」と、シエルはそう言い残すと、タカトの後についていった。

楽屋――・・・
「・・・・うわ、何か、予想以上の出来ね」
「・・ええ」
悪トレスも針子さんも思わぬスバルの変身ぶりに驚きを隠せなかった。
「・・恥ずかしい・・、何でオレがこんな格好をしなきゃ・・」
スバルは片隅で身を抱え込みながら、頬を赤らめ、恥ずかしげに悪トレスから視線をソラした。
「悪トレス、久しぶりね」
そこへ、ポーチを先頭にデミアン達がどやどやと入ってきた。
「!!」
スバルは思いっきりびくついたっ。
「あっ、ポーチ。来てくれたの・・」
「ええ!」
「ポーチさん、遅かったですね」と、フォーレが現れた。
ニッコリと優しげな微笑みを浮かべている。
「あの~、・・こちらに昴天使スバル君がいるって聞いてきたんですけど」
フシールがおずおずと聞くと悪トレスはにっこりと微笑んだ。
「ああ、それならここに・・」
「ちょ・・っ、やめ・・・っ」
慌てて、逃げようとしたスバルの腕を掴み、悪トレスは無理やりデミアン達の方に向けさせた。
女のこに扮したスバルの姿にその場にいた誰もが息を飲んだ。
「・・・・・・・!!」
フシールの心臓が静かに高鳴った。
「ス、スバル・・?」
白いリボンがついた柔らかな金色の長い髪がゆれ、その白い肌に映えたゴスロリ風のドレスがサイズぴったりで細い身体に合っていた。恥ずかしげに頬を赤らめ、視線をソラすその姿は正に「女の子」そのものだった。
ポーチとコーラルはまじまじとスバルを見た。
「・・・可愛い」
「・・・すげえ。お前、化けたな・・とても、男には見えないぞ。・・ってか、美少女だ」
「―な、何やっても似合いますね。さすが、スバル様」と、クロノは苦笑いを浮かべた。
「どういう意味だ!!」
スバルがデミアンの胸ぐらをスゴイ形相で思いっきり掴んだ。
「・・・・・やっぱ、スバルかも」
「そういえば、もうすぐ開演ですよね。そろそろ、出てもらわないと」
「そうね・・」
その時、微かに悪トレスの着ている白いマーメイドドレスの胸元のブローチの宝石が反射で輝いた。

とある寂れた映画館の中のロビーで毒覇師ランフェンと浄珂士エリフェアが一人の少女と対面していた。
「・・わかった?悪トレスが中央にただ一人居るこのシーンで彼女から、この宝石を奪うのよ」
「―この仕事を成功すれば、仲間入れてくれるんですね?」
毒覇師ランファンが優しく微笑み、
「・・ええ」
と答えた。
「これであのお父様に見返す事が出来る・・」
不用泥棒の娘・盗れリスは闘志に燃えた瞳を輝き出した。
エリフェアがその時妖しく微笑んだ。

シエルは、中央広場にある噴水近くでやっとタカトの姿を見つけた。
「タカト!」
「あ、シエル」
タカトは呑気そうな笑顔を浮かべて、アンパンを食べていた。
「どうしたんだよ?そんなに息切らして」
「どうした、じゃないわよ!あんたこそどうしたいのよ!いきなり走り出していっちゃうなんて」
「・・ああ、その事か」
「その事?」
「オレさ、妊婦とか産婦人科とか、そーゆう関係ちょっと苦手なんだよ。あんまり見てて、心地よくないというか。押し潰されそうというか」
「?何よ、それ?どーゆう事?」
「さぁ」
「さぁって・・」
「オレにも何でそうなのかわからないんだよ。さ、行こうぜ」
タカトはニッと笑って、スタスタと歩き出した。
「ちょっと、待ちなさいよ」
モグッ
「ん?」
何だ、と思ってみてみると何と盗れリスがタカトのアンパンを食べていた。
「・・あ」
盗れリスはそのままアンパンを全部食べてしまった。
「・・何だ、お前」
「えへへ・・それじゃ・・。おいしかったですよ」
盗れリスはそのまま後さずり、あっという間に物凄い素早さで走り去ってしまった。
「待て~、オレのアンパン返せ!!」
タカトは怒りに震えながら、スゴイ形相になって、盗れレスに負けないくらいのスピードで追いかけて行った。
「・・・・」
シエルはポカンとなっていた。

「・・ああ、どうして貴方はこんなに私を苦しめるの・・」
悪トレスの真に迫る演技に観客の誰もが魅了されていた。彼女の目の前には相手役の天使の青年がいた。
「・・素敵ね」
「ええ」
ポーチやコーラルもそんな事を言っていた。
―まだ、ドキドキしてる。
「あたしって、そっちの気があるのかしら」
フシールは思わず溜め息をついた。
「彼女、本調子じゃないみたいですね」と、隣にいるフォーレが呟くように言った。
「どういう事です?」
「彼女見てるとどこか焦っているという感じが身体全体で現れてるんですよ」
「クロノ、スバルの番はいつだ?」
「次みたいですね。プログラムにそう描いてあります」
その時、会場の照明が暗くなった。
「あ、来ましたよ」
舞台の上では、悪トレスとロゼッタが金色の光に包まれ、会話のシーンへと入った。
「・・お姉様!」
ロゼッタが現れた瞬間、観客の席の一部がわっと、盛り上った。
「・・すげ」
その会場に静かに盗れリスが侵入し、火がついた花火を観客席に投げつけた。
次の瞬間、
ドカー―ン!
物凄い煙が観客席全体を包んだ。
「な、なに?」
息、苦しい・・何が起こったの?
煙のせいで周りが見えず皆身動きできない状態になった。
「・・だ、大丈夫?」
「あ、はい」
悪トレスが煙を吸い込まないように口を押さえながら、ゆっくりと天使の青年に近づいた。
その瞬間だった――
盗れリスが素早い動作で悪トレスの胸につけられたブローチを奪い取った。
「きゃっ」
「確かに、この盗れリスがマガタマ手に入れた~!!」
盗れリスは不敵に笑うと、あっという間に飛び去っていった。



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