第8章


勇牙の前に現れたのは、勇牙と同い年くらいの少女だった。
「―き、君は?」
すごく可愛いかもしれない・・・ッ。
勇牙は顔を赤くした。
「あら?」
少女の目が勇牙のパイロットスーツにとまった。
「まあ・・・あなた、セリュ―ジョンの方じゃないんですね?」
ゆっくりとした口調で少女―ラフィーナはそう言った。
「はあ?」
「・・あ、申し遅れました。私、ラフィーナ・エクリートと言います」
「ラフィーナ?」
―って事は、この子外人さんなんだよな。どこの国の人なんだろう。
でも、日本語ペラペラだな・・達者と言うか・・。
「あ、オレ、勇牙。草薙勇牙」
「勇牙様ですか。何だか、エキゾチックなお名前ですね」
ラフィーナが愛らしい笑顔を勇牙に向けて送った。

―地球防衛組織「ゼウス」ロシア支部―
「―勇牙君が行方不明!?それは本当ですか?」
モニター上に映し出されたレイ副官と佐東長官の表情がそのセレスからの報告で歪められた。
「はい、つい先ほど30分前にガルバヴァルノとの通信が途絶えました。おそらく、通信が寒さで通じなくなったんだと思います」
「長官、私に捜索の許可を下さい」
と、公人が敬礼のポーズを取りながらセレスの横に進み出た。
「――いや、まだそれは許可できない。まだ、ガルバヴァルノの場所の位置確認がすんでいないのだろう?」
「!・・そっ、それはそうですが・・」
そんな光景をハッチが開き、この司令室に入ってきたリュウトとスバルが目撃した。
「・・・スバル君、まさか、これって・・」
リュウトが隣にいるスバルの様子をうかがいながら恐る恐る言った。
「・・・・・・・勇牙が遭難したってことだろ。あんまり聞きたくなかったけど」
―まさか、勇牙がそんな目にあうとはなぁ・・・しかもこんな生まれて始めて訪れた場所で・・。
スバルは頭ではそう考えているものの、その表情は心配で張り詰めていた。
なぜか、手も震わせて・・・。
「――スバル君」
そんなスバルを見ながら、リュウトも不安を隠せないでいた。
・・でも、勇牙君が乗っているガルバヴァルノがないと出撃できないよな、それにここの地理に詳しいわけでもないし・・。
「・・どうしよう」

「・・げっ!!」
勇牙がラフィーナとの挨拶を終え、何気ない会話をしてた頃、勇牙の目にクレンペラーの姿が見えた。
「ここ、あいつらに見つかちゃたよ~!!やべえ、逃げねえと!!」
「あら、あれは・・」
ラフィーナが嬉しそうにクレンペラーを見上げた。
「何してるんだよ!!あんた!早く、逃げないと!」と、勇牙がラフィーナの腕を掴んで、秒速11.2mの自慢の足で突っ走った!
「え、え、あ、あの??」
「逃げるぞ!」
「は、はい・・!」

いち早くターゲットを戦線から離脱したガルバヴァルノに変更したフレイアは、クレンペラー機から余裕の態度で極寒の大地を見下ろしていた。
「敵艦載機発見!生命反応ありません!」
「・・もはや、衝突のショックで・・」
「そんな事は決してありえないわ、仮にも勇者に選ばれたパイロットなのだから。探査レーダーの範囲を広げて!第2クレンペラーは墜落したガルバヴァルノの捕獲に回って!このままパイロットを追いつめる!」
「し、しかし、フレイア様・・」
フレイアの指示に戸惑う兵士を、フレイアが「どうした?」と目で見やる。
「本部からはコスモ・シードの捕獲を最優先事項とせよ、と指示が出ています。パイロットを深追いする事は命令違反ととられかねるかと・・」
フレイアはふっ、とその兵士を鼻で笑う。
「お前は先の戦闘で勇者の強度を見ていなかったのか?ただの一撃で我がクレンペラーを粉砕するのだ。我らの火気程度では完全破壊すらままならないだろう」
それに――
「いかに勇者いえども、操縦者なくしてはただの鉄の塊にすぎん。コスモ・シードはそれからでもいいだろう。確実に討てる相手から討つ、それが勝利の鉄則だ。それでも納得できないなら――」
フレイアの自信と威厳に満ちた態度に、たちまち兵士が低頭する。
「はっ!失礼致しました!第2クレンペラー降下!」
「本機は敵パイロットの探索を続けます!」
――まったく、戦場では一瞬のタイムロスが生死を分けるというのに・・。
それに引き換え奴らは・・・。
言い表せない期待を胸に感じながら、フレイアが眼下に広がるシベリアの大地に目を向けた。
何時の間にか、そこには深い夜の闇に溶けこんでいた。

はぁ、はぁ、はぁ・・・・ッ!
弾む自分の息だけが聞こえる。
目の前は闇。
真っ暗闇だ。
何処をどう走っていたかは覚えていないが、恐らく真っ直ぐに走っていたのに違いない。たぶん、何処をどう走っても同じだろうから。
迫りつつある危険から逃れるために。
ただひたすらに。
「・・・・・ん?」
勇牙はようやく全身に汗ビッショリとなっていることに気付き、顔を上げた。そして、針葉樹林の生い茂る森の中に自分がいることが分かった。
ガルバヴァルノの墜落地点から、遠くかすかに見えたタイガ―針葉樹林帯である。
破裂するくらいに鼓動する胸が勇牙にとってかなりハードな逃走劇であった事を物語っている。
「・・大丈夫ですか?勇牙様」
と、ラフィーナが勇牙の顔を覗きこんだ。
「はぁ・・・ラフィーナさん・・・ふぅ・・」
まだ息が整えられないようだ。
ゼエゼエと途切れに、勇牙はラフィーナの口から絶望的なセリフを聞いてしまった。
「・・さっき、森の入り口にクレンペラーが着陸するのが見えましたわ・・。どうしましょう・・」
「!」
・・・・敵の戦闘機がすぐ近くに!?
が、頑張って逃げるにしてもラフィーナさんと一緒だし・・・もしかしたら、いや、もしかしなくても捕まるかもしれない。
「だ―ッ!!こんなうじうじした考えオレ、らしくねえ!!」
勇牙がすくっと、立ちあがり、勝利のガッツポーズを交えながら言った。
ラフィーナはと言うと、勇牙をものめずらしいもののように見ていた。
穏やかな笑顔を浮かべて・・。
「――貴方なら変える事が出来るかもしれない」
「・・は?」
その瞬間、ラフィーナの傍らに新たなコスモ・シード―神聖な深紅のドラゴンの姿を象ったイフリーギアスが転移移動(テレポート)してその姿を現した。
金色の鋭く研ぎ澄まされた瞳が勇牙を睨むように見た。彼の尻尾と片足にはネオ文字がなぞられているリングがつけられていた。
――我に近し魂を持つ者・・・我はイフリーギアス・・・。
「・・・イフリーギアス?」
――我を求めよ・・・。
ドクン・・・!
勇牙の心臓が何かに呼応するように静かに脈打った。
こ、この感じは・・・。
熱い、身体中がだんだん熱くなっていく・・・!
「ああ、わかった!」
――ジャスティスコール、イフリーギアス!!
勇牙が、コスモ・シードをアップロードした!
「―じゃあ、私、行きます」
「・・・え、行くってどこへ?」
「私の「家」にです・・」
・・・・ピッ!ピピピピピッ!
墜落以来、反応しなくなっていたガルバヴァルノのコンソールに、一斉の光がともった!そして、パイロットである勇牙を迎えに行くように、ガルバヴァルノはひとりでに包囲していたセリュ―ジョンの兵士をなぎ倒すようにジェット噴射し、発進した!
「ディル!?」
「アルクア!」
聞き慣れないネオ人の言葉がその場に響いた!
「イ・・・イデス!?」
こ・・、これは!?
勇牙のすぐ近くまで来ていたフレイアが自分の上空に飛んでいるガルバヴァルノの姿に動揺した!
中を見ると、パイロットはいなかった。
「フレイア様!あれを!」
彼女のモニターに勇牙の姿がくっきりと映し出される。
「!?―何、子供だと?」
まさか、あんな子供が勇者のパイロット!?そんなバカな!!
「!!2機の戦闘機がこちらに近づいてます!ハ―デスとマーキュリーです!」
「・・あの子供を撃て!奴がヴァルディアのパイロットの1人だ!」
「・・はっ!」
クレンペラーの銃口が森を抜け出した勇牙に向けられた!
その瞬間、勇牙の心臓が凍りつくように強張った!
・・うっ、撃たれる!?
――――――が・・、その瞬間、クレンペラーのコントロールが突然聞かなくなった!フレイアの近くにいたクレンペラー機が突然爆発した!
「・・これは!」
イフリーギアスの能力か!!!
「・・フ、フレイア様・・」
「一先ず撤退する!!」
「・・はっ、は!!」

――再び、地球防衛組織ゼウス・ロシア支部――
「よかった!!勇牙君!」
ガルバヴァルノから降りるなり、勇牙は公人に抱きつかれた!
「うっ、うわああああ!!」
その背後には、ホッと一息をついたセレスの姿があった。

「――あいかわらずですわね、公人は」
ハッチが開き、格納庫のなかに艶やかな長い黒髪を翻し、茶色の瞳のモデル並の体型を持った20代くらいの女性がずかずかと入ってきた。
中々の美形である。
近眼なためか眼鏡をかけているようだ。
「あっ、響古、久しぶり」
「―?誰?」
「このロシア支部の副官の響古・グラッセさんよ。それで、青山君の・・・まあ戦友みたいなものね」
「はぁ・・」
「セレス少尉、こちらの勇者とそのパイロットもアメリカ空軍基地からちょうど帰ってきました」
「・・は、はい、わかりました」
セレスの表情が厳しくなった。
「3人ともここの勇者のパイロットにもうすぐ会えるから心の準備しておいてね」
と、公人がにこやかに微笑みながら言った。
「・・え、え・・」
突然のことに3人そろって戸惑った。
「――ちなみに、その勇者の名前は?」
リュウトが手を上げて公人に質問した。
「ベルタンディーですわよ・・。北欧の神話に出てくる女神の名前ですわ」
金色の髪をかきあげ、声の主である少女が陶器のような白い肌を隠し、パイロットスーツに身を包んでその姿を現した。
高貴さを感じさせる整った顔立ちと11才ながらもしなやかな立ち振る舞いが華やかさを感じさせた。
「?誰?」
「―あら、私の名前知りたいんですの?それなら、先に名乗って下さらない?それが礼儀というものでしょう」
「―エリカ、お前早過ぎ・・」
走ってきたらしく、息を乱しながら少年・ユーリ・ラフマニノフがエリカ・ヴァレンタインの顔を見上げた。
ユーリの後ろには、パイロットスーツから着物に着替えた須王寺 翠の姿があった。足袋に草履もしっかりとはいている。
「ユーリ、スイ、もう来たんですの?」
「・・・・まあね。あれ?」
翠が勇牙の姿を見て、
「勇牙?」
「え、お前、もしかして、翠か?」
勇牙と翠がお互いの顔を見合わせた。



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