第9章

ガォォォォォン！
白く一筋の光がまるで花火のようにアメリカ空軍基地を包み、この世から消滅させられた。
それを放ったのは、勇者には珍しい女性型巨大ロボットーベルタンディーの目の前にいる、さっきまで激しく戦っていたヴァルディアと同型の勇者―アレスだった。
アレスに装備された遠距離砲撃用武器―ランチャーガンというものにアメリカ空軍基地はやられたのである。
3人の悲痛な叫び声が光のなか、微かに響いた。

・・・幸いな事に死傷者が1人もいなかったことだ。

翠の頬に静かに涙がこぼれた。
「・・うっ」
手がかすかに震えていることにも気付かず、翠は泣きつづけた。
なぜ、手が震えているかは恐怖かそれとも違う別の感情なのか泣いている翠にはわからなかった。
翠のコクピットに羊に似た姿のコスモ・シード「スリプーサーベル」が戦いの場から翠のＧ－ヴァイスの前に戻ってきた。
「ぽにょ？」
首をかしげながら、スリプーサーベルは翠を不思議そうに下から覗きこんだ。
「・・僕は・・僕は・・」
「・・・・！！」
エリカが思いっきり拳を目の前にある機器に放った。
・・なんで、この私がこんな・・・！！！
ユーリは苦々しい表情を浮かべ、歯をかんだ。
「・・・ちっ」
そこへ、饗古副官からモニター通信で連絡が来た。
ヴァルディアが自分達が所属しているロシア支部に来たという知らせだった。ヴァルディアは通称・勇者王と呼ばれる勇者の名だ。
「「「・・ヴァルディア！？」」」
3人はモニター越しに顔を合わせた。

「・・そんな・・」
セレスが息をのみ、自分の唇をそっと押さえた。
その報告にこの場にいるオペレーターも、エリカ達もリュウト達も沈黙の状態となった。
「――失敗したな・・」
静かにため息を吐きながら、ロシア支部長官・クレイブ・ディビットが腕を組みながら、中央にそびえた長官席で低い声で言った。
「すみません・・」
「まあ、死傷者がいなかっただけが幸いだったな・・」
「・・はい」
３人は静かに頭を下げた。
「――小学生との会話に見えない・・・何なんだ、この重い雰囲気は・・」
勇牙はこの事態に頭がついていかず、冷や汗みたいなものが身体をつたっていくのを感じた。
さっきまで久しぶりに会ったイトコと和やかな雰囲気でしゃべってたなんて・・とは、何か思えなくなってきたな。
「でも、まさか、翠がオレと同じパイロットをやってるとはな・・」
何か、信じられないって感じだ・・。それと、翠も入れて、オレ達と同じように勇者のパイロットをやっている同い年の奴がいるというのも・・。
まあ、元々本家と分家とかじゃあんまり関わりナイのが当然だけど・・。
「それはしょうがないんじゃないかな・・」
「・・え？」
リュウトがいつのまにか勇牙の横を立っていた。その瞳は、子供らしさより冷静なリュウトの一面を映し出していた。
リュウトの傍らには、アークぺガシアドリルの姿があった。
「・・リュウト？」
勇牙は初めて見るそんなリュウトの姿に僅かに戸惑いを見せていた。
スバルはと言うと、壁に寄りかかり、腕を組んで皆の様子を観察するように見ていた。
「・・・」
「セレス君、君はベルタンディーが遭遇した勇者をわかってるな？」と、クレイブが厳しい目つきで勇牙の近くにいるセレスに静かに言った。
「！・・は、はい！」
「・・皆に報告してくれないか」
セレスはクレイブに静かに頷き、
「はい・・・。あれに、あの勇者「アレス」・・ヴァルディアと同じ目的で作られたコスモ・シード装備の勇者です。それに乗ってるのは・・・！！」

―――ネオ人にも身分というものがある。
神にも筆頭する知識を代々受け継いできた王族がセリュ―ジョンの頂点であり、並びに宗教団体、軍隊、庶民となっている。
そして、王族を守る事を使命とされる3代聖騎士は、優秀な血族や品格、ＥＸ能力、知識や戦闘能力が全部揃っていることを条件とされ、軍隊をしきる最高司令官の次に高位な立場に置かれていた。
「姉さん、いる？」
占姫ラフィーナがいる部屋に繋がる第5回廊の入り口前の「樹」の前にいる裾が長い高級そうな着物式の服を着た侍女達にラフィーナの「弟」―アルクがそう言って現れた。
「・・・・ええ、今、お休みになられてます」
侍女達の中央に立つ初老の女性の瞳にはあきらかに蔑みみたいなものがわかりやすいくらいに浮かんでいた。
「・・・お努めなさったので疲れているようです。アルク様、また今度いらしゃって下さいね」
と、ニッコリと微笑んだ。
「・・ああ。じゃあさ、これ姉さんに渡してくれる？」
アルクが人工庭園で今朝咲いたばかりの花々をその女性に渡した。
「わかりました・・」
ウィィィン。回廊の逆側の扉が開いて、クリストファーと3代聖騎士の1人ーエンディミオンが姿を現す。
「―――アルク、来てたのか」
「・・ッ！叔父上・・・じゃなくて、最高司令官殿！エンディミオン様！」
アルクが驚きの表情を見せ、そして、次の瞬間、軍隊共通の挨拶のポーズをとった。
「・・っはッ！」
うわあ・・、どうしよう、本物のエンディミオン様だよ・・！ど、どうしよう・・・ッ。
なんか、緊張してきたかも・・。
「そんなに緊張しなくてもいいぞ、わしとお前の仲ではないか」と、クリストファーが親しげな笑みを浮かべた。
「は、はぁ・・」
「なあ？エンディミオン」
「はい、クリストファー様」
エンディミオンの左肩には、ジャスティスレオパズーカが機嫌良さげにのっかかっていた。
アルテナが彼に献上したもののようだ。
「！・・フレイア様！」
そこへ、部下を連れたフレイアが現れた。アルクは急いで敬礼をしたが、フレイアはアルクなど気にも止めないで、クリストファーの方を見た。
「フレイアか・・・」
フレイアを見た瞬間、クリストファーが厳格な最高司令官の表情へと一変した。
「クリストファー様・・・」
フレイアの表情も苦々しい。
「―そういえば、エンディミオン、例の作戦閣下から許可が出たぞ」
「・・そうですか。ありがとうございます、クリストファー様」
エンディミオンがにこやかな微笑みでクリストファーに礼を頭を下げて言った。
・・エンディミオン。
フレイアは恨めしそうな視線を無意識にエンディミオンに向けていた。
そんな光景の中、初老の女性はエンディミオン達に丁寧に挨拶をすると他の侍女達を連れ、第５回廊へと入っていった。ハッチが静かに閉じていき、初老の女性はそれを確かめるとアルクがラフィーナに送った花々を豪快に撒き散らし、落とした。
「・・・おや、過って落としてしまったようですね。悪いけど、片付けといてくれない」
「あっ、はい！！」
新米の侍女２人が急いで床に散らばった花々を拾い始めた。
「では、私は先に行きますので・・・」
初老の女性は優しい微笑みを浮かべながら静かにその場を去っていった。

ウィィィン―・・、カシャッ。
司令室からユーリとスバル、エリカと勇牙、翠とリュウトが出てきた。
「―――疲れた・・・」
スバルがぽつりとそんな言葉をもらした。
「アレスか・・厄介な者が出てきましたね、エリカ、ユーリ」
「―そうね・・」
「ヴァルディアと同型の勇者のパイロットかぁ・・・」と、勇牙がいかにもわくわくしているような表情を見せながらどこか夢見がちに言った。
「戦ってみてえな～・・」
「バカか、お前」
と、そこでユーリが勇牙につっこんだ。
「・・・どういう意味だよ」
「お前みたいのがあんなのと戦ったら一発で命落とすぜ。お前もそう思うだろ？」
ユーリが傍らにいるスバルの肩に親しげに手を置き、ニッコリと微笑みながら言った。
「・・・・・・否定は出来ないな・・」
「！！何だと！」
その時、ふと勇牙の脳裏にラフィーナの顔が思い浮かんだ。
「・・・」
「どした？」
「いや・・」
―そういえば、いつのまにかいなくなってたけど何処にいったんだろ・・。ちゃんと、自分の家に帰れたのかな、なんか天然っぽかったし。
勇牙はそっと皆から視線を反らし、宙へと視線を泳がせた。
「不思議な子だったな・・」
そう小さく呟いた後に、なぜかミサキの事も思い出した。
「――何で、あんな奴の顔思い出すんだよ・・ふんっ」
そういや、ケンカしてたんだよな・・まあ、あいつが悪いんだけどさ！！
イキナリ機嫌悪そうに表情を歪めた勇牙の様子を見て、スバルが感づいて、
「素直に謝れば？」
と、軽く言った。
察された事に気付いた勇牙が顔を赤くして、そんなスバルに向かって、
「うるせえ～！！」
大声で叫ぶように言い放った。
―あれに乗ってるのは・・、セリュ―ジョンの騎士エンディミオンです―
「何で、セレスさんが知ってたんだろ？」
リュウトが小さく呟くように言った。
そういえば、僕達あの人の事全然知らないんだよな・・
リュウトはふとその事に気付いた。
「剣崎君？どうかしたんですか」
「・・あっ、いや、別に」
「？」
翠は不思議そうに首をかしげた。

――コツコツコツ・・。
薄暗い闇に包まれた長い回廊通路を皇帝・リシフェルの側仕えの1人ーノアがローブで顔を隠し、データファイルを持って足音をあまりたてずに歩いていた。
そこへ、アルテナが通りかかり、背丈が高いノアと一瞬目を会わした後、ノアとすれ違った。
「・・・・」
ノアはそのまま歩いていき、アルテナは立ち止まり、じっとノアの後姿を見た。
「―あいつだけ、素性が未だにわからないんだよな」
と独り言のように静かに言って、ノアに背を向け、再び歩き出した。

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