第15章

「ユーリ、ユーリはどこにいるの」
ヴィクトリアが広大な公園の中を声を上げて、真っ青な青空の下ユーリを探し回っていた。その傍らには、赤ん坊を連れた若い奥さん方やペットを連れて散歩している中年の男性、スケボーをしているユーリと同い年くらいの少年の姿があった。
「ママ、ユーリ見つかった？」
金髪のブロンドの少女ニーナとそのニーナの後ろでもじもじしているニーナの妹・キャサリンの姿があった。
「あら、ニ―ナ、キャサリン。ごめんねえ、もう少ししたら見つけるから」
まったく、あのこったらいつも困らせて・・。どうゆうつもりなのかしら、まったく・・。
「じゃあ、ジャネット、この子達を頼むわね」
「はいはい」
ヴィクトリアは再び、ユーリを探しにいった。
「ふぁぁ～」
そのユーリはと言うと、この公園の中央広場にある大木の中で、太い幹の間に猫のように寝っそべっていた。
「・・ねみぃ」
―ったく、おばさんも一々、うるさいよな。ちょっと、トムとの賭けでもらったばっかの小遣いなくしたくらいで・・。
「くそっ、あいつがあんな手ででなきゃ、オレの勝ちで全部オレの物だったのに」
そこへ、ガサガサと音を立てユーリの胸の中に飛び込んできた。
「うわっ」
ユーリは驚きのあまり、そのまま地面に落ちてしまった。
「・・なっ、何だ」
頭を押さえながら、自分の腹に抱き付いているその動物をひょいと拾い上げた。
〈キーッ、キーッ〉
コスモ・シードのストライク・モンキーだった。お手軽サイズ程の身体を持つ猿型のコスモ・シードでユーリと目を合わした瞬間ユーリの顔にまとわりついてきた。
「！？何だ、こいつ」

「こらっ、離れろ！！」
「ユーリ！！」
そこへ、叔母のヴィクトリアが現れた。
「げっ、おばさん！！」
ユーリが慌てて立ちあがった。
「――貴方、ユーリ・ラスユニノフ君ね」
ユーリとヴィクトリアの目の前にボディガードらしい黒服の男を連れた、20代くらいの日系の美女が現れた。サングラスをかけているが、美人だという事はユーリにもわかった。
「は、はい。そうですけど、お姉さんは？」
「私の名は、饗古・グラッセ。―あなた、勇者のパイロットにならない？」
「・・・は？」
勇者って、確か心がある巨大戦闘ロボットの事だよな。
「何で、オレが？」
「・・・・」
饗古は、無言でユーリにＧ－ヴァイスを渡した。その瞬間、ストライクモンキーがＧ－ヴァイスの中に吸い込まれた。
「・・えっ」
「きゃああああああああああ！！」
その瞬間、悲鳴が鳴り響いた。
カシャカシャと音を立てて突如現れた黒雲からデビルのキラーが嫌味な笑顔を浮かべながら現れ、球体の身体から手足を出して地面へと降り立った。
「ぎゃははははは、虫ども！！フレイア様直属の超優秀なデビル、キラー様がお前達の前に現れてやったぜ！消されたくなかったらオレ様にコスモ・シードをよこしな！」
その瞬間、公園に居た人々は混乱しながらも一目散に逃げ出した。
「・・・！」
ユーリは驚きのあまり、思わずその場にへたついた。
「・・なっ、何だよ、あれ・・」
「人類の新しい敵・・セリュ―ジョンという宇宙人の集団が作った化け物ー「デビル」よ」
「デ、デビル？」
「そして、そのデビルと戦うのが貴方ーユーリ・ラスマニノフなのよ」
そんなバカな、と言いたかったが饗古の瞳は真剣そのものだった。
「ユーリが、この子が勇者の・・あの化け物を倒す勇者のパイロットに選ばれたんですね」
ヴィクトリアが饗古の前に進み出た。
「え、ええ」
饗古はヴィクトリアに何か普通じゃないものを感じ取った。
「む、無理だよ。オレがオレなんかがあの「勇者」のパイロットなんて」
そうだよ、オレはただの何の力もない子供なんだから。
ヴィクトリアが強くユーリの腕を掴んだ。
「いたっ」
「やりなさい・・ユーリ。貴方は選ばれたんだから」
「・・おばさん？」
ヴィクトリアがさらにユーリの腕をキツク締めた。
「いたい！」
「・・あら、ごめんなさい」
「見つけたぞ、おらぁ！」
地響きさせながら、周りにドスンとユーリの前に降り立ち、周りにある人間以外の全ての物を小刻みに切り刻んだ！
「・・なっ」
「小僧、貴様だな。コスモ・シードを持ってるのは？殺されたくなかったらオレ様にコスモ・シードをよこしな」
キラーがにやにやと笑いながら鋭い刃物のような手をユーリに見せ付けて、ユーリに迫った。
「何を言ってるんだよ・・オレはそんな物持ってない」
「しらばっくれるな！！てめえが持ってるＧ－ヴァイスの中にコスモ・シードがいることはわかってるんだよ！！早く出せや！」
「――出す必要はありませんよ」
木刀を持った袴姿の日本人の少年・須王寺翠がスッとベルタンディーの分身である三角錐の機体から飛んで、現れた。
「？誰だ、お前・・」
ユーリは呆然となっていた。
ユーリの元には翠が乗るノルンと似たような機体ミラージュが到着した。乗れと言わんばかりにコクピットが自動的に開いた。
「君と同じ勇者に乗る須王寺翠と申します・・これから宜しくお願いしますね」
翠は深深とユーリに挨拶をした。
「ど、どうも、ユーリ・ラスユニノフです。よろしく」
ズガガガガガガガガ！
キラーの後頭部に激しい銃撃が突如空に現れた機体・テレジアによってくわされた。
「いてててて！！何だ！？」
テレジアに乗った金髪の少女がスッとマイクを取った。
『何、呑気に挨拶をしてますの！？翠！さっさとノルンの中に戻りなさい！！戦闘中ですのよ！』
「？誰？」
「エリカ・・エリカ・ヴァレンタイン。３人目の僕らの仲間だよ・・」と、素早くノルンに乗り込みながら翠は答えた。
「―仲間？」
その言葉にユーリは僅かながら反応した。
「早く乗ってください・・操縦の仕方なら機体が教えてくれますから」
「ちょ、ちょっと待て！オレはまだ戦うなんて・・」
ユーリは慌てて否定しようとした。
「じゃあ、この事態を見て何とも思わないんですか？逃げるんですか？君が戦わないと多くの人が困る事になりますよ」
「・・うっ」
痛い所を突かれた・・
周りをチラッと見てみると、ユーリをじっと見ているヴィクトリアや饗古の視線や混乱し、怯え逃げ惑う人々の姿があった。
「・・・っ」
「邪魔だ、どけ！！」と、その中で３歳くらいの子供を抱えた女性を突き飛ばした男の姿がユーリの目に入った。
「・・あいつ！」
そのまま、その子供は衝動で女性から離れ、地面へと転がって行った。
「あっ・・、ジェイド・・」
女性はゆっくりと起き上がり、子供に手を伸ばした。
「？何だ、こいつは？」
キラーが、足元にいるその子供の喉元に刃物となった手を放った！
「やめろぉぉ！！」
その瞬間、Ｇ－ヴァイスが輝き、ストライクモンキーがキラーほど大きくなり体当たりした！
「！！・・お前・・！」
ストライクモンキーがユーリに答える様に鳴き声を上げた。
「ユーリ・ラスユニノフ！行きますわよ！」
「ユーリさん！！」
「・・あ、ああ！」
―やってみるか・・・！！
ユーリは機体に飛び乗り、まるで操縦の仕方を知っていたかのようにスムーズに素早くコンソールに手を動かして行った。
ユーリ達が乗る機体が空で三角形に図を描きながら、合体モードへと映っていき、煌やかな巨大な光が辺り一体を包んだ！
慈愛に満ち、戦闘という名のフィールドに一体の・・鋼色の身体を持った美しき女性型の勇者、ベルタンディーが今その蒼き翼を広げて現れた・・！！
聖女といっても過言でもない静かな笑みに人々は安心をゆっくりと覚えた。
「・・こいつは」
「！？な、何だ、こいつは～！？」
キラーは顔を青くして思いっきり後さずった。
「――貴方方が私のマスターですね。私はベルタンディー・・エリカ、ユーリ、翠。私は貴方達と戦う為に現れた勇者です・・一緒に戦いましょうね」
それぞれのコクピットにベルタンディーの優しい声が入ってきた。
「――・・ええ、もちろんよ」
「「は、はい・・」」
「何２人して照れてるのよ」
エリカが呆れたようなまなざしでユーリと翠を見た。
そして、ベルタンディーはゆっくりと鎌を持って、厳しい視線でキラーを見た。

「何、ぼ～っとしてるのよ」
エリカがひょいとベンチに座っているユーリの顔を覗きこんだ。
ユーリの手には、難しい科学の本が読みかけの状態であった。呼んでいる最中に、ふとこの公園でのこと、エリカ達やベルタンディーとの出会いを思い出していた様だ。
「何だ、エリカか」
「珍しいわね、あんたがぼ～っとしてるなんて」
「そう？」
「そうよ」
そこへ、翠が息を乱しながら走り寄ってきた。
「エリカさ～ん、ユーリ君～」
「あっ、着たみたいね。行くわよ」
「はいはい・・ったく、面倒くさいな」
ユーリは苦笑しながら身体を起こして歩き出した。
ユーリの肩には、ストライクモンキーの姿があった。

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