ナラティヴ ひとり語り

ナラティヴ ひとり語り

・・・『メダカが田んぼに帰った日』


稲垣栄洋、栗山由佳子、松下明弘=著『田んぼの教室』(家の光協会)

 農業というのは、どんなにがんばっても自然を壊すものだと、ずっと思っていた。農薬や化学肥料を使う近現代の農業でなくても、山や森を拓いて田畑を作ること自体、本来の自然である雑草を引き抜くこと自体、もうすでに自然を壊しているのだと。だから、テレビで不耕起栽培のことを知った時は、本当にうれしかった。ここでは、その不耕起農法について紹介した本を紹介したい。金丸弘美=著『メダカが田んぼに帰った日』。
 “不耕起栽培”を提唱し、農家の指導をしてきたのは岩澤信夫さんだ。岩澤さんが米作りを学ぶために秋田を訪れた年はひどい冷害で、ほとんどの稲が被害を受けていたという。そんな中でも被害に遭わずに育った稲は、昔ながらの農業をしていた地域のものだったそうだ。この事をきっかけに、岩澤さんは成苗稲作の研究を始める。それが不耕起栽培(自然耕栽培とも言う)へとつながっていったのだった。
 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読むと、殺虫剤や除草剤の人類に及ぼす影響の凄まじさに恐怖を覚えるが、それらの使用と農業形態とは深く関連しているということが分かる。この『メダカ・・』の中でも、農業形態と農薬との関連や農地改革による水路のコンクリート化とメダカの絶滅との関係が分かりやすく説明されている。
 けれど、私がこの不耕起栽培で感動したのは、稲が野生化するということだった。その野生化した稲の育つ田んぼを真ん中にしてメダカなどの生命が甦ったということに感動したのだ。『田んぼの教室』という本の中に稲の害虫であるウンカのことが書かれている。稲に大きな被害を与えるのは秋ウンカだそうだ。その秋ウンカの天敵であるコモリグモの餌として夏ウンカは田んぼに必要な昆虫だというのだ。(ウンカと言えば、台湾の東方美人というお茶は、この夏ウンカにわざわざ葉を噛ませて独特の味わいをつけているのだそうだが・・)不耕起の田んぼを中心に緑の藻からメダカ、昆虫、カエル、鳥までが生き生きと活動している様子に、私は自然の壮観さを思ったのだった。
 トキを自然に放つために不耕起栽培の田んぼが必要だと考えた元編集者の根元伸一さんの働きかけによって、2001年、佐渡島で7軒の農家が不耕起栽培を実施した。『メダカが田んぼに帰った日』は、2001年12月2日に開かれた「第36回全国野生生物保護実績発表大会」での新潟県新穂村立行谷小学校5年生の「トキの野生復帰をめざして見直そう ふるさとの自然」という取り組み発表で始まり、締めくくられている。この本を読んで、「本物の自然を子ども達に残そうと頑張っている大人達がいた」という事実に、私は感動したのかもしれない。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: