日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

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07用語の説明 参考文献資料



用語の説明

● 咀嚼そしゃく
歯,顎,骨,筋,舌など諸器官の働きによって,食物を咬断・臼磨し,唾液と混和して,嚥下えんげしやすい食塊を形成することをいう。咀嚼そしゃくの意義は,第一に食物の消化吸収を助けることにあるが,同時に口腔の自浄作用を高め,歯,顎骨その他の組織に適度の刺激を与えて,正常な発育を促がし,健康を保持することに役立つことにある。

● 咬合こうごう
上下顎の解剖的対向関係,顎がく関節かんせつの構造ならびにいわゆる下顎運動の生理的メカニズムに基づいて生じる歯と歯(人工歯を含む),または歯列相互間における静的,動的な咬合面ないし切端の接触関係をいう。

● 咀嚼そしゃく系( masticatory system )
咀嚼そしゃく,嚥下えんげ,発音ならびに呼吸に関わる顎顔面と口腔を構成する器官の総称をいう。構成器官として,咀嚼そしゃく筋,顔面筋,頸筋などの頭頸部の筋群,顎がく関節かんせつ,上下顎骨,歯,歯周組織,舌,口唇や頬などの軟組織,唾液腺などがあり,これらの器官が相互に関与しあって,咀嚼そしゃく機能を営む。

● 機能的咬合系( functional occlusion system )
咬合こうごうは,咀嚼そしゃく筋,顎骨,歯,歯周組織,顎がく関節かんせつなどの多くの構成要素に対る中枢神経系の統合の上に成り立っており,これらはひとつの機能単位として働いている。特に,歯(歯列),咀嚼そしゃく筋群,顎がく関節かんせつの3要素と咀嚼そしゃく筋群を支配している神経系をいう。

● 中枢神経
脳および脊髄せきずいをいう。さまざまな中枢(知覚,運動,視覚,聴覚,味覚,嗅覚,言語,呼吸,血管,心臓,嚥下えんげ,反射など)があり,またそれらの伝導路ともなっている。

● 顎がく関節かんせつ頭蓋にある唯一の関節で,側頭骨の下顎窩と下顎骨の下顎頭との間に作られる顆状関節をいう。顎がく関節かんせつの運動は,下顎頭を中心とする単なる蝶番運動ではなく,関節円板の移動をともない,滑走運動と蝶番運動が組み合わされたものである。

● 咬頭嵌合こうとうかんごう位( intercuspal position )
上下顎の歯列が最も多くの部位で接触し,安定した状態にあるときの上顎に対する下顎の3次元的な位置をいう。

● ブラキシズム( bruxism )
昼間の仮眠を含めた睡眠中のgrinding ( 上下顎歯をすり合せて雑音を発生させる歯ぎしり),clenching ( 雑音を発生させない上下顎歯の噛みしめ),tapping ( 咀嚼様の空口運動) を含めた異常機能または周期的,類型的な運
動障害をいう。

● QOL
Quality of Life の略で,生活と人生の質と訳されている。高齢社会となり,生きている間の生活の質が重要であると理解されるようになり,ある時には生活の満足度で表される。これは,身体的,心理的,社会的ならびに経済的要因が重なって形成される。

● 学習障害
基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,「聞く」,「読む」,「書く」,「計算する」又は「推論する」といった能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態をいう。
この学習障害の原因として,中枢神経系の何らかの障害が推定されている。
視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,家庭,学校,地域社会などの環境的な要因は直接の原因にはなりえない。

● 注意欠陥/多動性障害
発達段階にみあわない注意持続の困難,あるいは年齢にそぐわない多動性や衝動性もしくはその両方の特徴をもつ状態をいう。診断は,障害が少なくとも6ヶ月は続いており,学業上の機能もしくは社会的機能を損ない,発症は7歳以前であること,などからなされる。この障害には多くの要因や環境が寄与しているとされ,単一では引き起こされないと考えられている。

● 高機能自閉症
3才位までに現れる自閉症のひとつ。他人との社会的関係の形成の困難さ,言葉の発達の遅れ,興味や関心が特定のものにこだわることなどを特徴する自閉症のうち,知的発達の遅れをともなわないものをいう。また,中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

● 中耳伝音機能障害
空気振動が十分に中耳に伝わらない状態から,小さな音が聞こえにくいことをいう。耳垢栓塞や中耳の炎症,耳小骨の異常などが原因とされる。

● 情動障害
衝動的に結果を考えずに行動する傾向が特徴で,気分は予測不可能であり,気まぐれである状態をいう。

● タンパク質・エネルギー低栄養状態(protein-energy malnutrition:PEM)
血清アルブミン値が3.5g/dl 以下の場合,または体重の減少が一年間に5%以上の場合をたんぱく質・エネルギー低栄養状態のリスクとされる。高齢者(特に支援や介護を必要とする高齢者)にエネルギーやたんぱく質の低栄養状態が多くみられ,その原因として,咀嚼そしゃく力の低下,嚥下,心理的な問題による食欲不振,消化吸収機能の低下,年齢とともになんらかの病気にかかる確率が高くなったりするなどが考えられている。入院生活などによる生理的ストレスも要因とされている。

● 歯科補綴ほてつ治療
歯が欠けたり,喪失した場合にさし歯や入れ歯,さらにはインプラント(人工歯根)などの人工物で補うことを補綴ほてつといい,これを行う治療を歯科補綴ほてつ治療という。この補綴ほてつ治療により,歯が欠けたり,喪失した合に生じる「噛めない」,「しゃべれない」,「みた目が良くない」,「コミュニケーションができない」といった問題を解決してQOL を回復・維持する。

● ADL
Activity of Daily Living の略で,日常生活動作と訳されている。高齢社会となり,自立して生きるために日常生活動作の程度を評価し,リハビリテーションに繋げる。「立つこと」が可能か,「歩けるか」,「食事をひとりでできるか」,それらの程度はどうかなど,日常の生活で最も頻度の多い運動,最も生活に直結する運動ならびに独立生活に必要な動作などを評価する。

● 節目歯科健診
平成12 年度より,老人保健法に基づき市町村事業として40 歳ならびに50歳の節目において実施されている歯科健診をいう。歯周病は40歳以降に歯を喪失する大きな原因となっており,この年齢以降加齢的に歯周病が増悪し,それとともに喪失歯数も増加していることから,この時期に歯周病の予防や進行防止を徹底する目的から行われている。

● 前向き疫学研究
結果因子(例えば,ある病気にかかるかどうか)が発生する前に,対象者の群を設定し,一定期間にわたって追跡観察する研究をいう。

● 最小治療
世界歯科医師連盟(Federation Dentaire Internationale:FDI)が2000 年に提唱した新しい予防的な歯科治療の概念をいう。具体的には,う蝕のメカニズムを理解したうえで,正しい診断による治療計画に基づき,できるだけ歯質の侵襲の少ない処置を行うことである。



日本学術会議 咬合学研究連絡委員会報告 咬合・咀嚼が創る健康長寿 平成16年12月16日

参考資料

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