the Fourth Avenue Cafё

EP1:New World,4



クリフは周りをFSに囲まれた状態で、FR2-66の中枢部を狙って、発砲した。
「喰らえ!特大の大砲だァ!」その声とともにTR3に取り付けられていた2対の爆破弾は切り離され、独りでに飛んでいった。TR3は発射してすぐに方向転換し、今まで来た道を折り返した。クリフに飛ばされた2対の爆破弾は交差しながら、中枢部の輝くトコロへ飛んでいき、直撃した。爆風が吹き、ドーム全体が振動したかと思われた、その時中心部が爆破し、電撃がそこら中へ飛び散った。ドームは中にいたFS軍と共に一瞬で焦がされた。ドームから瞬時に抜け出したクリフは1本道を突き進んでいた。何故か迷うことなく、決まった道を飛んで行っていた。そして、何度か曲がり、出口が見えたときだった。後ろから爆風とその火が回ってきていた。クリフはミラーで後ろを見て、スピードを限界まで上げた。しかし、爆風の方が速い!それにクリフが向かおうとしている出口はシールドが張られていた。
そんな時、誰かがクリフに交信してきた。共に戦っているTR2軍だった。「こちらTR2。TR3通信お願いします」「こちらTR3。可能です」クリフは落ち着いていられる状況ではなかった。「中心部爆破ご苦労。操縦室の攻撃に成功しました。シールドが外れるはずです」クリフの顔が明るくなった。交信したTR2の言っていることはクリフが中心部を爆破したことで操縦室のシールドが切れ、TR2がそこを狙い、見事、大破することができたということ。それによりFR2-66全体のシールドが一気に切れた、という報告だった。クリフは目の前の出口を見た。本当だった。シールドが切れていた。
安心したときだった。TR3の後方部に火が達した。クリフの右上のランプが赤く点灯しブザーが鳴り始めた。「くそ、急げ!クリフ大佐!!」大佐?クリフは自分に言い聞かせた。火がついにクリフの横にまで来ていた。赤いランプの点滅し始めた。「!?」

クルタウロンの基地から見ていた国民や軍隊が声を失い、ただただその光景を見ていた。
大きな船体から小さな火の固まりが煙を上げ、飛び出してきたのであった。火の固まりとなったTR3はそのまま操縦不可能となり、地面に垂直に降下していった。クリフはシートベルトを外そうとした。しかし、手が油まみれになり滑ってなかなか上手くいかない。「糞野郎!誰だ!このベルト作った奴!?」両手でベルトを外しながら、足で頑丈な窓を蹴り開けようとしていた。外から見ていた皆は事情も知らず「早く出ろ!」と願っていた。クリフは苛立ち、ついにはバックルを壊した。と同時に窓が外れ、風にあおられ、飛んでいった。クリフは椅子の下のハンドルをきった。クリフの座る椅子が大空高く飛んでいった。クリフも安全ベルトに締め付けられながら。
地上で見ていた人々は歓声を上げた。ゆっくりとパラシュートをはためかせ降りてくるクリフの背景には燃え上がるFR2-66が見えた。クリフは右手を高々と挙げ、皆に見せた。歓声は今まで以上に沸き上がった。
クリフの顔には満面の笑みと勝利の汗が滲み出ていた。



二十六、

共和国ピサラルド。C-25Vは地面を深く削りながら、着陸。船内奥に隠れていたニーナは怪我一つ無く、一安心。宙から飛び降りた軍の残りのメンバーは歪(いびつ)な入り口から飛び出し、加勢した。ニーナも直属護衛に命令し、自ら外に出た。
「ここがピサラルド――」しばらくピサラルドの自然に思い耽っていた。そして、我に返り、直属護衛の1人に命令した。「この船をすぐに飛び立てるように機動させて起きなさい。早く!」その1人はまた中に入った。ニーナと残りの護衛はレーザー銃を構え、森の奥へ入っていった。
共和国軍と帝国軍の大きな固まりはぶつかった。近距離の戦いでは帝国軍よりも共和国軍――得にピサラルドのサーライス村の人々――の方が上手だった。帝国軍は一気に衰えていった。それに追い打ちをかけるように共和国軍が加勢し、帝国軍は挟み撃ちにされた。もう帝国軍も終わりか。今回の帝国の作戦は失敗に終わるだろう。


一方。メサドは完全に気を失い、2人の戦いの場で眠ってしまった。
リードはレーザー銃をスターキーに向け、威嚇していた。「何故ここへ来たスターキー」「理由もなく散歩するのはいけないことかな?」スターキーは刀を鞘(さや)に収め、両手を広げ、何も持っていないと見せた。しかし本当は小汚い策を今にも取ろうしているのだった。「なら、この騒ぎは何だ?スターキー君」「・・・」スターキーは舌打ちをした。どう見ても猿芝居にしか見えない。「本当のことを答えろ。クルタウロンを襲うと共にここも一緒に襲うというところか」「はっはっはっは・・・。合っているのは合っている。だがな、付け加えるとするとここを襲うのが本当の作戦。私は冷戦状態に決着をつけたかっただけさ」スターキーは横に歩いていき、メサドから離れていった。「そして、何故ここか。それは――」「挟み撃ち」「御名答」スターキーは足を前に投げ出し、背中から倒れるようにし、ズボンに仕込んでいた銃を発砲――。と思ったがリードの方が素早く、先にスターキーの心臓目掛けて発砲していた。スターキーは口から血を垂らし、仰向けに寝転がりながら暴れていた。スターキーはリードの素早さに目が付いていけず、何が起きているのかも分からず、ジタバタしていた。リードはその隙にメサドのもとに駆け寄り、様態を見た。大丈夫、生きている。
スターキーが顎にまで達した血を拭きながら立ち上がった。どうやら心臓を外れ、その横に命中したらしい。重傷ではあるが死にはしなかった。「よくも・・・糞ジジィ!」スターキーの声は掠れた汚い声に変化していた。鞘を投げ捨て、刀を両手で持ち、リード目掛けて突進していった。スターキーの息は大分上がっていたし、直線的な攻撃ではリードに触れることすらできなかった。リードは軽やかにスターキーを避けた。スターキーは刀を大木に突き刺し、抜くのに一苦労していた。そして、抜いたと同時にまたリードに向かって直線攻撃を仕掛けた。リードはこれも軽やかに避けた。しかし、今度のスターキーは考えていて、リードが避けるため背中を向けたときに、足を大きく後ろへ引き、リードの腹を蹴った。リードは蹴りを直接受け少し体勢を崩した。その隙にスターキーは刀を手の中で上手いこと回転させ、リードの首もとへ持っていった。このまま振り上げれば、リードの首を下から真っ二つに切り落とせる。と思ったとき。リードは腰に提げていた小刀を同じように回転させ、スターキーに対して良い方向に向け、投げた。小刀はそのままスターキーの手に飛んでいき、突き刺さった。スターキーは悲鳴を上げ、刀を落とした。リードは自分の首に在った刀が下に落ちていくのを見ていて、腰辺りになったとき、刀を踏み台にして、飛び上がりながら腰をひねり、スターキーの顔に蹴りを入れた。スターキーは鼻血を噴き出し、ねじれながら地面に叩き付けられた。左手は負傷した右手をかばい、顔は地面に埋めている格好で動かなくなった。
「はぁ・・・はぁ・・・」リードも息が上がっていた。小型機を懐から取り出し、何処かに連絡した。メサドの方をチラチラ確認しながら。メサドを本国ソロへ連れて行くということだろう。「彼を見つけました。重傷のため、すぐにでも来て貰いたい」
油断していた。寝転がって動かなかったスターキーが音も立てず、ゆっくり立ち上がった。リードはスターキーに全く気付かなかった。スターキーは刀を手に取り、リードに向けて振り下ろした。
「スターキー!!!!止めろ!!!!!!!!!」
目を覚ましたメサドが叫んだ。スターキーはその声で一瞬手を止めてしまった。そのせいでリードはスターキーに気付き、小型機を地面に放り投げ、銃を撃った。その弾はスターキーの刀に命中し、刀は砕けた。スターキーは折れた刀を振り回し、自分の周りに誰も近づけないようにした。「はぁ・・・はぁ・・・。近付くな!俺に近付くな!」スターキーはチラッとメサドの方を見て、刀をその方へ投げた。メサドは抵抗できないまま目を瞑った。リードはその折れた刀に発砲した。刀は粉々に砕けた。粉はメサドの頭に降り注いだ。刀を失ったスターキーは腰に提げていた銃を取ろうとマントを広げた。銃を取るより先にリードに左手を撃たれ、また悲鳴を上げ、リードに背中を向けて蹲った。リードは落とした小型機を拾った。「すまない。邪魔が入っただけだ。早く来てくれ」リードは小型機を切り、懐に直した。スターキーは再び立ち上がった。既に銃は手に持っている。しかし、両手はリードに撃たれているため、片手だけでは銃を持てず、両手に力を込めて握りつぶす勢いで持たなければ照準を合わせることすらできないでいた。リードがスターキーの方を見た。彼は震える手で銃をリードに向けていた。「はぁ・・・はぁ・・・。近付くな」「銃をおろせ。潔く捕まるのだ」リードとスターキーの睨み合いが続く。スターキーの口が歪んだ気がした。!?
スターキーは姿勢を崩しながら連射した。リードもスターキーと逆方向に姿勢を崩しながら同じく連射した。2人の後ろの木が穴を開けられながら、砕けていった。2人は木の陰に隠れながら攻撃していた。横で見ていたメサドは動く方の手で頭を抑えながら、2人の最後の戦いを見ていた。数分間も連射攻撃が続いた。
後ろの木が完全に消え去った頃、ようやく攻防が終わった。木の屑やら草やらが3人の一帯で舞っていた。メサドはゆっくりと顔を隠していた手を退け、辺りを見た。「!?」リードは銃をしゃがんで構えたままだった。スターキーは?!メサドはリードが銃を構えている方向へ目をやった。髪を乱したスターキーは崩れた木に寄りかかっていた。肩で呼吸している。リードは2人はしばらく動かなかった。この場は静かだったが、周りではまだ紛争が終わっていなかった。リードは銃を腰に戻し、立ち上がった。そして服とマントに付いた屑をはたきながらスターキーのところへ歩いていった。リードのマントはスターキーの銃が当たり、下の方に穴が開いていた。リードは懐から"X"型の機械を取り出し、スターキーの両手の間に入れた。その機械から電気線が出てきて、スターキーに手錠をかけた。リードはメサドの方へ歩いてきた。

ビィーーーーーピリリリリリ・・・――。

けたたましい音が森中に響いた。リードとメサドは耳を押さえ、身構えた。すると2人の頭上に小型船が飛んできた。葉が風で吹き飛んでいく程、すぐ上を飛んでいた。リードはハッと気付き、スターキーを見た。スターキーは小型船から垂らされた紐を手錠のつけられた手で握りしめていた。小型船は止まることなく、スターキーを拾い、また高く飛んでいった。リードはすぐに銃を構えて、撃ったが小型船の底を焦がしただけだった。スターキーは吊し上げられ、船の中に入り、姿を消した。
リードは舌打ちをして、小型機を取り出し、また連絡を入れた。「こちら、リード。すまない。帝国議長を逃してしまった。この星から出ようとする小型船を追ってくれ。それに乗っている」リードは小型機をポケットに入れ、メサドの方へ歩いていき、横にしゃがんだ。
「久しぶりだな。メサド君」メサドは答えなかった。「怖がらしてすまない。君の父にはすぐに迎えに行くよう言っていたのだが」メサドは父、母、ガンダスのことを思い出した。体を起こして、立ち上がろうとした。しかし、すぐに姿勢を崩し、倒れてしまった。足が上手いこと動かない。それに左腕がズキズキ痛む。そうか、スターキーに折られていたのか。メサドはそれでも立とうと何度も努力した。そこへリードが手を貸してくれた。リードはメサドを軽々持ち上げ、背負った。「何処へ行きたい。両親の居るところか?」メサドは頷いた。
リードは3人が既に亡くなっていることを知らずに意気揚々と歩いていった。



二十七、

共和国ピサラルドでの戦いは幕を下ろそうとしていた。ニーナ率いるクルタウロン軍の御陰でもあるだろうが、大半はサーライス村の男達の隠れた戦力の御陰だろう。共和国は死者を全然出さずに勝利した。ただ、ジョージとサティーとガンダスを残して。
いつも穏やかなニーナも流石に帝国に対して遺憾を表明していた。そして、ニーナの命令で帝国軍は整列され、FR2-45に入っていった。もちろんクルタウロンに連れて行き、そこで皆を確保するためであった。それとこのFR2-45も共和国機になった。帝国軍は全員、FR2-45の中に入った。C-25V(破壊され使い物にならない)の機長がFR2-45を操縦することとなった。そして機長がニーナの所へやってきた。「準備は出来ました。いつでも発車できますが、どうしましょう?」ニーナは辺りを見てから、「リード・カタル議員は?」と尋ねた。「彼はまだ来てませんが」「来るまで待ってください」ニーナは船内に入っていった。操縦室に来ると、クルタウロン国に交信した。繋がる。
「こちら、ニーナ・オルガモード。クリフ・ディゴナ議員をお願いします」
ジィーッ。クリフを呼ぶ声。掠れた音。
『はい、こちらクリフ』落ち着いた声にニーナは一安心した。クルタウロンの方も勝利したのだろう。
「そちらの状況は、どうなっていますか」
『空を飛ぶFR2-66は何とか爆破しまして、今は荒れたところを皆で掃除しています』
敵であろうとFR2-66を倒すのは、皆迷っただろう、そうニーナは思った。しかしそれよりもクリフが皆と一緒に掃除している場面を想像して、微笑ましかった。
「わかりました。後程、そちらに向かいます」『その船、C-25Vではありませんが――』
「それも後程、説明します」『わかりました』ジィーッ。切れた。ニーナは操縦室に来ていた機長に一礼して、操縦室から出ていった。



二十八、

メサドを背負って、リードは3人の所へ着いた。メサドは無理矢理リードの背中から降り、3人のもとへフラフラしながら走っていった。そして、そこにしゃがんで呼吸していない3人を抱きしめ、泣いた。リードは3人の異常に気付き、走ってきた。3人の首に手を当て、脈拍を測った。それに鼓動は無かった。リードは表に出さないように落ち込んだ。そして3人に抱きついて動かないメサドを離そうとした。しかし、メサドは一向に離れない。「メサド君!離れるんだ。さぁ」「嫌だ!!!誰が離すか!近寄るな!!!!!父さん!母さん!ガンダス!」メサドは声も上げず、泣いた。リードはその状況を見てられなかった。
黙って、小型機を取り出しニーナに交信した。『はい、何でしょう?』「こちらへ来て貰いたい。3人の遺体と1人の負傷者だ」いつも口調に棘がある。ニーナも感じたはずだ。『わかりました。小型船を向かわせます』小型通信機を直した。リードがメサドの方を見ると、彼はリードをずっと睨んでいた。「3人は誰にも渡さない!!3人は死んじゃいない!彼らは遺体なんかじゃない!!!」リードはゆっくり歩いていき、メサドの横にしゃがんだ。「気持ちはわかる。しかし――もう何ともならないんだ」「黙れ!最高の戦士と謳われた議員が、手も足も出せないのか!!」メサドは3人の中に顔を埋めた。「俺も昔、父と母を失った。帝国軍のせいでな。当時は恨んだよ、彼らを帝国を、そして自分を。それでも何もできなかったし、議員達は何もしてくれなかった」メサドは横目でリードを見た。悲しんでいるどころか、微笑んでいた。「こうも昔に感じると虚しくなるな」「・・・どうして、何もしてくれなかった議員になろうと思ったんですか」「子供の頃から、信じていたんだ。皆を救うことが出来るのは議員だけだと。そして憧れていて、将来はなってやると思っていた」「そんな時に」「あぁ、奴等が来た。議員になる理由が、こうも簡単に変わる物なのだと、軽い物なのだと思ったよ。復讐してやるって、誓った」「成功したの?」「いや、そんな気持ちだったから、苦しいことだらけで後悔した。議員が背負う重さを感じてね、耐えられなくなったんだ」メサドは3人から離れて、リードの横に座った。「でも今は議員になってる」「議長に止められた。そして八方議員になった」「八方議員――」「そう。八方議員は今までよりも忙しくて、すぐに昔のことは忘れていったよ。それでも何故か両親のことはいつまでも残っていた。今では、それが良い過去になった気がする。いや、良いってわけじゃないけど。特別な経験になった、みたいな感じに残ったんだ」「今の俺も、そうなるのか・・・」「わからないな。議員になれば、そうなるかもしれない。しかし、それだけの為に生きていくのは辛いし、悲しい。いや、この3人はそう願っていない」メサドは3人を見た。3人を見てからまたリードの方を見た。「・・・」「どうしてお前の両親がマルヒナさんに頼んでお前と親を離したか、わかるか」「いえ――」「両親はお前に今の姿を見せたくなかったのだよ。議員にとって父親がどれほど偉大な存在か、彼には分かっていたのだろう。だから議員だったことの誇りがお前と両親を離すことを決断させたのだろう」メサドは涙を流した。「話はここまでだ。来たぜ」慣れない口調でリードは言い、立ち上がった。
彼の見ている方向からエンジェル(CO23 Angel)が飛んできた。大きな3本足の関節を伸ばし、地面に降り立った。そして頭にある円形の板に3D映像が映し出された。そこにはニーナが映し出された。「リード議員、そこのCO23に先程おっしゃった人々を運ばせてください。3人までなら、持つことは出来ます」「うむ、了解した」「それとC-25Vは損傷が大きいため、帝国機FR2-45に移動しています。そちらへ来ていただきたい」帝国機FR2-45?勝利したことを裏付けしていた。リードは一瞬悩んだが、すぐ理解した。「はい」映像が切れた。エンジェルの足が奇妙に開き、空中を漂いながら3人に近付いた。そして器用に3人を持ち上げ、来た道を引き返していった。残ったリードはメサドに背中を向けて、しゃがんだ。オンブしてやる。メサドは戸惑いながらもリードの背中に身を任せた。3人を探すときよりも居心地が良かった。
「リ、リードさん、どうして俺にそんなに優しく・・・してくれ・・るのですか?」メサドは敬語の使い方をあまり知らず、慣れない喋り方をしてから後悔した。「お前が息子のように思えたからだろうな。息子でなくても、弟とは感じたはず」「ふ~ん」「もっとも、お前が俺を親と認めてくれないなら、何でも無いがな。お前にとって親は、一生あの2人だろうし」「いや、そんなことは――ないよ、きっと」メサドは急に照れくさくなり、リードの背中に顔を合わせ、温かみを感じた。「助けてくれてありがとう。いつか、この借りは返すよ」「まだ幼いガキがよくそんな口をきけたものだな、はは」メサドはまた涙が出そうになった。鼻をすすり、潤んだ目を擦った。

そうこう言っている間に森の向こう側にFR2-45が見えた。共和国軍はあそこへ移ったと言っていた。「あと少しだ。傷が痛むかもしれないが我慢してくれよ、メサド君」「はい、わかってます」リード達の目の前にFR2-45の巨体が姿を現した。その入り口にはニーナ女王と護衛が並んで待っていた。「待っていましたよ、リード議員。そして初めましてメサド君」リードは軽く会釈して、入り口をくぐり、中に入っていった。リードの背中に乗っていたメサドはニーナの美しさに魅了されて、横を通り過ぎるときもずっと見とれていた。そしてニーナに一瞬微笑まれ、一目惚れした。すぐにまた赤面してリードの背中に顔を隠した。



二十九、

C-25Vで運んできた武器をピサラルドに残し、FR2-45はクルタウロンへ向け、ピサラルドを出発。
3人の遺体がある暗室でメサドは小さく固まり、座っていた。3人は個別ベッドで静かに寝ていた。メサドは3人の顔を見ることができなかった。リードに色々言われ、今は帝国を恨んでいないが、悲しいことに違いはなかった。昔の記憶が頭に沸き上がってくる。

――まだ4,5歳の頃、父が家に帰ってこなくて悲しんでいる母の背中。父が帰ってきたときの喜び、しかしその気持ちと真逆なことをしてしまう母。毎晩の喧嘩。それでもメサドの問題にはしっかり答えてくれていた。7歳の誕生日、両親に忘れられていた。そしてそれが切っ掛けで起こった喧嘩。メサドがその仲を直した。7歳にしては凄いと自分でも思っていた。そんな時、ジョージと仲の良い友ライドの自殺。彼を自殺にまで追い込んだ帝国のレイノルズ。彼を殺したことで共和国を追放された。家族とのいきなりの別れ。ガンダスとの出会い。始めは泣いてばかりで世話をかけていた。そして一緒に仕事するようになる。そんな頃、両親のことを頻繁に考えるようになる。両親のことでガンダスと喧嘩別れ。サーライス村での反省。しかし、もう手遅れだった――

メサドは一段と小さくなった。泣きたくても泣けなかった。自動ドアが開き、ニーナが入ってきた。メサドは彼女を見なくても彼女だとわかった。それがリードの言っている<宇宙全土を救う少年>の力の現れなのか。
「メサド君」「女王様ですか?」ニーナは無言でメサドの横に座った。「ごめんね。こんな事になるなんて思って無くて。」「女王様のせいじゃない」「本当にごめんなさい」ニーナはメサドの頭を持って自分の肩に寄せた。メサドはされるがままに、肩に寄りかかった。「女王様、俺――助けられなかった」メサドの気持ちは爆発した。彼女に抱きつき、大泣きした。大声を上げて。「あぁぁぁぁぁー!!!!」恐かった、恐かったと何度も泣き叫んだ。ニーナはメサドを抱きしめた。何も言わず。今はそれだけで良かった。今のメサドにとって。包んでくれるだけで今のメサドの気持ちは癒えた。


C-25Vはクルタウロンに到着した。そこでピサラルドに派遣されたクルタウロン軍を置き、待機させていたクリフ・ディゴナを乗せ、本国ソロへ向かった。そこでニーナも残さず、一緒に乗せて本国へ行った。



三十、

そして、C-25Vは本国ソロに到着した。
ジョージとサティーとガンダスは整列して永眠していた。その周りを議員が囲むように並び、手を組んでいた。天国へ無事逝けることを祈るように。3人は赤々と燃えている。メサドはその炎を目を離すことなくずっと眺めていた。リードは一歩後ろからメサドの後頭部を見て、その陰とジョージを重ねていた。ジョージと昔からの友達であったミドナカは涙を流していた。ディールとアントニオは両目を閉じて、溜め息をついた。
彼らに見送られ、ジョージ・バームル、サティー・バームル、ガンダス・マルヒナは紅い華と共に天に昇っていった。


本国ソロの中心部からは想像できないほど自然の溢れる場所。墓が並んでいる丘にリードとメサドが立っていた。花と土の混じった香りを漂わせた風が2人のマントと髪をなびかせている。3人の遺灰をメサドとリードは木箱に入れ、3人の墓土の中に埋めたところだった。メサドはそこにしゃがみ、頭を抱えていた。
「過去のことだ。メサド君」「『振り返るな』」「そうだ」リードに促され、メサドは立ち上がった。しかし、リードを見ず、ずっと墓を見つめていた。儚(はかな)い風が2人を包み込む。「リード議員、俺を弟子にして欲しい」「議員になると?」メサドはようやくリードの方に顔を向けた。その瞳には少年の幼い輝きは消えており、決心の炎が燃えていた。リードは瞳を見ただけで全てを悟った。「議員になって、人を救いたい。それでこの世が救われるなら」「議員になったからといって、全てを支配することなどできない」「支配するのではなく、そうするように誘導する。平和へ皆を導く」
リードは直感した。彼は、メサド・バームルは、危ない。純粋すぎる、無垢すぎるところが見えない側面を生み出している。皆にとっての平和を自分にとっての平和と考えていないか、その疑問が残った。取り違えば、悪の根元を生み出しかねない少年だった。その分、リードの責任は大きかった。彼はまさに「宇宙全土を救う少年」である。その器を持っている。
しかし・・・。
「まずは、八方議員になることを志せ」「それは俺を弟子にしてくれると?」「まだ分からない。しかし、もしなったなら、その暁にはこれを」リードは腰に提げていた小刀を取り、前に突き出した。「これは」「お主の父の形見」メサドはその刀を手に取ろうとしなかった。「正式に議員になった時、その刀を渡してくれるなら、今は触らないで置くよ。それが父の望まないことでも」「『自分の心で決めたことだから』か」リードは刀を戻し、丘を降りていった。
メサドはまた墓の方に向き直った。「父さん、母さん。もうちょっと話がしたかったな。・・・俺、この世界を変えてみせるよ。そしてガンダス、今までありがとう。世話ばっかりかけて、ごめん。またいつか来るよ。バイバイ」メサドは最後に少年の笑みを見せ、丘を降りていった。




三十一、

本国ソロ。ガラス窓で囲まれた円形の部屋。紅い絨毯(じゅうたん)に黒い石像、所々にある立体テレビのモニター。ソロの状況を全て把握することが出来る1室。そこに彼らは集まっていた。目隠しをしているメサドを中央に立たせ、向かい席の段々の椅子に八方議員が適当に座っていた。椅子の真ん中にディール、横にアントニオ、その2段上にミドナカ、彼と同じ段の3席左にジョニー、彼の真後ろにミッド、また全然別の方向にいるリード、彼の右後ろにクリフが座っていた。皆は、メサドが噂されている少年と聞いているから、緊張していた。
「君の名前と血液型、生年月日は?」とディール。「はい。メサド・バームル、2月8日生まれのO型」「君が議員になる理由は?」「僕が入ることで共和国を進展するなら、という理由です」「君が入ったところで進展しないかもしれない」とミドナカ。「それは承知――」「それだけ自分の力を過信しているとか?」とミッド。「そういうわけではなくて――」「では、何故それだけの理由で入ろうと考えているのか?」とまたもやミッド。「他にも理由は――」「それを聞きたい」とジョニー。またそれに加算するように「聞きたいな」と復唱するミッドにアントニオ。「それは」父と母とガンダスの敵です、と口にしそうになったが、リードの顔が頭を過ぎって、途中で言うのを止めた。「それは?」ディールが身を乗り出し、手元の資料から目を離した。「僕の・・・1つの決心です」リードは一安心したはず、とメサド自身想像してしまった。「ほぉ、決心のう」ディールはそれだけで納得したが、ミッドは納得していなかった。「その決断とは何か!」「僕は今まで大自然の溢れるピサラルドで暮らしてきましたが」「これからはこんな辺境の地で生活するから、これを期に心を一新しようと考えている、と答えるつもりか」とミッド。メサドを最後まで喋らせる気はないのか。「あ・・・まぁ、はい」「そんな生温い気持ちで帝国を倒せるとでも思っているのか!大きな勘違いだな!」皆が彼を見ている中でミッドは勢いよく立ち上がった。そのおかげでミッドの座っていた椅子が思いっきり倒れ、その音が部屋中に響き、部屋が一掃静かになった。ミッドの頭の中は、ディールに教えられた反逆者リストとシリウスのことでいっぱいなのだろう。誰から見ても取り乱していると分かる。「いえ、そんな気はありません」メサドは目隠しをされた状態で必死に平常を保とうとしていた。「しかし、君の言っていることはそのことではないか!!そんな気持ちで帝国の脅威から皆を救えるとでも思っていたのか!君には彼らを倒せるとは思えないがね!!」「ミッド・サウンド!!!!」図太い声が響き、壁が振動した。メサドはその声に体で反応し、震えだした。その声で恐怖が爆発したのだ。声を発したのは、今まで黙って見ていたディールだった。「ミッドよ、心を落ち着かせよ。彼は若い、まだ重みを知らないだけかもしれない。しかし、彼もお主と同じ状況なのじゃ。それでもこれ程平常なら、彼の方がマシかもしれんな」「黙れ!」ミッドは机を思いっきり叩いた。「ミッド!誰に口をきいている!」アントニオも立ち上がった。少し落ち着かせてから、後を続けた。「ここは議室だ。態度を改めよ」アントニオに睨まれ、ミッドは小さくなった。するとミッドに背を見せたまま、ディールが語り出した。「それに我々、共和国は帝国を滅ぼすために作られた議員ではない。我々はこの仲を元に戻す為に作られた、という方が正しい。そこに座るメサドはそれをわかっていて『共和国を進展させる』と言ったのだろう。議員になる資格は十分にあると、ワシは思うが」ミッドは返す言葉を無くした。「お主には、一度言ったはずじゃが?」「申し訳ありません。取り乱しました」ミッドは倒された椅子を戻し、着席した。
「さて、話を戻しましょう」アントニオがしきり直した。
「次の質問ですが、というよりも君の望みを聞きたい」メサドは完全に恐怖で固まってしまい、ずっと黙っていた。「君が議員になったときのために、ここから師を選んで欲しい。これは君が議員になれるかどうかの参考になる物で、また師に選ばれた者に与えられる新たな修行でもある」メサドは、すぐにリードの名が浮かんだ。「リー・・・――」言いかけたとき、遮るかのように、既にわかっているかのように、ディールが言った。「わかっておる。お主が誰を選ぶかを聞くなど、愚問だったな。そいつを選んでおく」ディールは腰を一苦労して、後ろにひねり、リードの方を見た。リードは頷いた。ディールは向き直った。
「君は大丈夫だろう。目隠しをとっても構わない」ディールは立ち上がり、メサドのところに歩いていった。肩に手を置き、彼の耳元で何か囁いた。
目隠しを取り、眩しそうに前に座る議員達を見た。ディールは大きく手を広げた。
「ようこそ、共和国ソロへ。君はここに議員になることが許された」




三十二、

メサドは議室から出て、赤いカーペットの敷かれた廊下を歩いていた。彼の顔からも分かるように、完全に放心状態に陥っていた。向かい側から歩いてくる男の人にも気付かず、肩がぶつかった。「あ、すいません。」メサドは虚ろな目で彼を見てから、また下を俯き、歩いていった。肩をぶつけられた男は舌打ちをして通り過ぎていった。

目隠しを外したメサドは、ディールに肩を叩かれた、と鮮明に頭に残っていた。それ以上に、終わってからミッドに謝られたことが残っていた。彼の左目の傷が妙に、いろいろ考えさせられた。

「あっ!?」「あら」メサドはニーナとばったり出会った。メサドは一気に我に戻った。そして急に照れて、頬を赤らめた。メサドの鼻に彼女の香りらしい香りが香った。「どうでした?面接」面接?メサドは、あれの何処が面接なのか理解できないと思った。「あぁ、えぇーっと」メサドは何があったのか覚えていなくて答えられない自分に困惑した。「クルタウロン国女王の前だぞ」と護衛がメサドに注意した。「いいんです。彼は私の良き友です」ニーナが即座に護衛を引き下げた。「申し訳ありません」とメサドにお辞儀をした。本当はメサドがするはずなのだが。「ここでは何ですし、私の部屋に来ます?」「あ!良いんですか!」メサドは是非とも行きたかった。話すことは何もないが、ただ彼女といつまでも一緒に居たかった。「はい、是非来てください」「喜んで」メサドはニーナに勧められ、廊下を戻った。
彼女の部屋は豪華に飾られ、彼女と同じ匂いがした。部屋を見渡すのは失礼かと思い、メサドは部屋を見過ぎないように一方向にしか見なかった。すると「どうかなさいましたか?」逆に勘違いされたらしい。「いえ」今、部屋にいるのは2人だけだった。「ちょっと待ってくださいね。着替えてきますから」メサドは、着替えてきます、という言葉に反応してしまった。「この格好だと苦しいのよ」ニーナは奥の部屋に行った。残ったメサドは隣で女性が着替えていると想像するだけで緊張してしまった。ドレスの置く音まで聞こえてくる。メサドは座っていたが、小さく小さくなっていった。メサドは、あることを思い出した。気まずい空気を吹き飛ばそうと、その話題を話そうとしたが、口が止まった。何て呼べばいいのか、どう話せばいいのか。いろいろ迷ったが、結局、迷ったまま、口を開いた。「あ、あの・・・女王様?」部屋の向こうから優しい声が聞こえてきた。「はぁーい?」先程、廊下で出会ったときとは全然違う声音だった。その声にメサドは救われた。「女王様はいつまでここに居られるのですか?」メサドは言いたい話題とは違うところから切り出した。「その前にメサド君、私のこと女王様って呼ぶのは止めて貰える?」意外な返事にメサドは面食らった。「いえいえいえいえいえ。そんな!女王様は女王様ですよ!」メサドの慌て様にニーナは笑った。2人の仲は大分、うち解けていた。「で、いつまで居るんですか?」「私?多分――1週間はいるわ」メサドは得に聞きたいことではなかったので、ほとんど頭に入らなかった。「ふ~ん」「それがどうしたの?」「いや、あの・・・――」メサドは、上手いこと切り出したが、本題に入るのはやはり難しかった。「何ですか?」ニーナのスカートが床に落ちる優しい音が聞こえた。「女王様。俺、今日か明日くらいに――明後日かも、まぁそれくらいに修行に行くと思うんだ。だから女王様と会えるのも後ほんのちょっとだね。って――」メサドは急に気分が落ちた。隣の部屋でもニーナは黙っていた。メサドは隣の部屋の扉を見た。ようやくニーナの声が聞こえてきた。「そうなの」メサドにはニーナの声も落ち込んでいるように聞こえた。メサドがニーナのことを良いように考えているから、そう聞こえるだけかもしれないが、今のメサドにはそう思えた。「そんなに心配しなくても、必ず帰ってくるって!」メサドはニーナがそう考えていなくても、自分なりに付け足した。「そうですね」意外な返事だった。
2人が話している時間は長かった。ニーナはまだ着替え終わっていなかった。




三十三、

議室。ディールは後ろに座るリードを見た。リードは肘をつき、その手に顎を乗せ、頭の重さを任せていた。ディールに見られ、その方に視線を投げた。「彼のことは君に任せる。リード」リードはゆっくりと重たい腰を上げ、肩をポキポキとならし、ディールを見下すように目を細めた。それから議室はしばらく沈黙が続いた。「了解しました。彼のことはお任せ下さい」格好つけるように右腕を左腕の方に振り、深々と礼をした。そのとき、測りミスで額を机にぶつけた。「お主が弟子を取るのは初めてだったな」ディールはそう言い、部屋から出ようとしたが、それを止めるかのようにアントニオが言った。「それでは、他の者に代わって貰った方が良いのでは?」ディールはこの言葉に足を止めた。リードはそれに応えずに、階段を下りてきて、ディールの立っている出口に行った。「アントニオ副議長よ。もしワシが彼を師にしなくとも、彼は自ら名乗り出るつもりだっただろうよ。何が何でも自分の弟子にするつもりだった。じゃろ?リード議員」リードはディールの後ろにまで歩いてきていた。「そう彼に言われたのでな」ディールが見た彼の瞳は真剣な眼差しで遠くを見ていた。リードは右拳を心臓の上で叩き、目でディールに合図した。ディールは無言で頷いた。アントニオは髪を後ろに流し、溜め息をついた。「わかった。お主を正式に師とする」リードはアントニオの方に向き直った。「ありがとうございます。早速なのですが、それに際し、ピサラルドでの修行を許可して貰いたいのですか」ディールはリードの肩に手を置き、髭をもごもごさせながら「わかっておる」と言った。リードは一礼し、部屋を出ていった。
彼が出ていった部屋は、メサドが出ていった後のように静まりかえっていた。
アントニオはディールを見た。「多分、帝国の攻撃は止まないだろう。彼らには何も伝えないべきでしょうね」「そうじゃな、しばらくはここから離れて遠い地に行って貰っている方が安心かもしれない。しかし、ピサラルドに行くのは、再び襲われる可能性があるのぅ」アントニオは立ち上がった。「それは大丈夫でしょう。リード議員だから」ディールはアントニオに微笑んだ。「分かっておるではないか」ディールは杖をつく音を一掃大きくさせ、出ていった。陽気な鼻歌さえ聞こえてきた。アントニオは立ち上がり、手元の書類をまとめた。「今日の議会はこれで終わりだ。解散」


部屋を出たリードは懐から小型機械を取り出し、口元に当てた。「メサドか。今すぐ広場へ行ってくれ」それだけを言い、廊下を突き進んだ。




三十四、

ニーナの着替えの物音を隣で聞いていたメサドの懐が光った。リードから貰った小型無線機のような物だ。メサドは慣れない手つきでそれの電源を入れ、耳元に当てた。
『メサドか。今すぐ広場へ行ってくれ』「はい、わかりました」メサドは電源を切り、無意識に座っていたソファに置いた。なかなか着替え終わらないニーナを不思議に思い、ちょっと覗き込んだ。彼女の滑らかな背中の線の影が見えた。メサドは急に顔を赤らめた。そして何も告げず、部屋から出ていった。リードに言われたとおり、広場に向かった。
その後すぐに着替え終わったニーナがメサドが待っていた(はずの)部屋に来た。「あれ?」メサドがいない。部屋に来て、真っ先に小型無線機が目に入った。ニーナは周りを見回した。先程の堅苦しいドレスではなく、ラフな服装のため、身軽に動いて、メサドを探した。しかし、というよりは、やはりメサドは居なかった。「出掛けたのかしら」ニーナは悪いと思いながら、メサドの無線機を手に取った。まだ温かかった。親の秘密を知らずに見てしまった子供のように、周りを気にしながら電源を入れた。履歴放送が勝手に流れ、彼女は驚き、それを落とした。通常、議員は履歴を調べられないように消去するのだが、メサドは使い慣れていないため、消去するのを忘れていたのだ。『メサドか。今すぐ広場へ行ってくれ』リード議員の声、ニーナは推測した。『はい、わかりました』若い声からして、メサド。
メサドは、広場に行ったのか。ニーナは何故か安心していた。何故か。
『俺、今日か明日くらいに――もしかしたら明後日かも、まぁそれくらいに修行に行くと思うんだ。だから女王様と会えるのも後ほんのちょっとだね』
ニーナは、着替えているときに隣でメサドが言っていたことを思い出した。「メサド君は、もう行っちゃったのか」ニーナは完全に少女となっていた。



広場前の扉の所でリードが待っていると、ニーナの部屋から走ってきたメサドが息を切らせながら、リードの前に現れた。彼は膝に手を置き、一呼吸していからリードの顔を見て言った。「遅れました。申し訳ありません」リードは手首にしている時刻パネルを見た。「いや、大丈夫だ。出発まではまだ時間はある」「出発?」メサドは耳を疑った。今日この日にもう出発するつもりだった。「しかし、まだ準備が」リードは扉を開けながら、笑ってメサドの方に振り返った。「お前の荷物はすでに船に乗せてある」メサドは再度耳を疑った。リードが開けた扉から眩しい(目を覆うほど)日差しが2人を照らした。メサドは扉の向こうを目を凝らして見た。するとそこには広場が広がっており、そして中央に大型船が見えた。
そこにあったのは帝国軍の襲撃に共に戦い、今修理されて新しくなったC-25Vだった。型そのものは変わらず、修理箇所にこれまで以上の強力な部品が使われていた。そしてその前には先程、議室で会った議員達が並んでいた。
「あの船――」「新しくなった船、ゴールデンシップだ」メサドは、その輝かしい船体に見とれていた。「さぁ行こう。皆が待っている」リードに背中を押され、メサドは完全に開かれた扉をくぐり、外へ出た。そしてリードと共にゆっくりと八方議員の所へ歩いていった。彼らの前に来た。
・・・ここはメサドの父、ジョージが議員から追放された場所だった。そして今、その息子がここから新たな世界へ旅立とうとしている。ニュー・ワールドへ――
八方議員にメサドは一礼した。目の前には議長ディール。メサドはすぐに後ろに引いた。今度はリードが前に出た。「任せたぞ」ディールはリードの肩に手を置き、頷いた。彼が本当にあの少年なら、失敗は許されない、そう目で伝えた。リードはクリフの所へ行った。クリフは笑っていた。いつもの陽気な笑顔ではなかった。「言うことはない」とクリフ。「わかっている」リードはクリフの手を握った。
リードは他の八方議員達に一礼し、メサドを勧めて船に乗せ、自分もその後に続いた。船の扉が上へ閉まっていく。段々姿が見えなくなる議員達に向かって、胸に拳を握り、言った。
「我が名を誇れ」
「我が名を」
すると皆が声をそろえて、続けた。そして扉は完全に閉まった。
ゴールデンシップは空気の抜けたような音を出しながら、ゆっくり浮上していった。


船内。リードがメサドの議員用の服とマントを持ってスロープを上がってくると、先に部屋で待っていたメサドが深刻な顔をして、座っていた。「メサド、ピサラルドに着く前にこれに着替えておけ」リードはようやくメサドの様子がおかしいことに気付いた。リードはメサドの隣りに座った。「どうした」メサドは落ち込んだ声で呟いた。「女王にさよなら言えなかった」リードは溜め息をついた。「そんなことか。彼女なら来ようと思えば、ピサラルドへ来ることも出来る。それ以前に――」リードはそこで止めた。メサドは気になり、リードの方に顔を向けた。「それ以前に?」「それ以前に、向こうでは彼女のことを思っている時間がないほど修行することになる」リードは立ち上がった。「これに着替えておけ」メサドの反応はなかった。リードは髪を掻きむしり、溜め息をついた。「そういえば、操縦室に通信機があったような。多分、ソロとも繋がっていた気が」リードはメサドの方をこっそり見た。メサドの顔はゆっくりと起きあがり、活気づいていた。これがリードなりの優しさなのだろう。リードは持ってきた服をメサドの頭に落とした。「5分だ。到着までは時間はあるが、5分で準備しろ」リードはそれを言い残し、またスロープを下りていった。
メサドは服を抱え、部屋を飛び出し、操縦室へ向かった。

幾度もスロープを駆け上がり、最後に右に曲がり、操縦室に着いた。扉を開け、立体テレビのところへ行った。そこで勝手に電源を入れた。機長が慌てて、メサドの所へ来た。「何やってる!」メサドは捜査方法を知らず、手を泳がしていると、掴まれた。「聞いているのか」メサドは我に返り、彼の方を見た。「申し訳ありません」「君は確か・・・メサドさんだったかな」メサドは頷いた。彼は慌てて掴んでいる手を放した。「こちらこそ、申し訳ありません。乱暴な真似を。それでこの通信機で何を?」「ニーナ女王と通信したいのですが」メサドは正直に答えた。「ニーナ女王と?出来ますが」と、やはり機長は戸惑った。機長は立体テレビのいくつかのボタンを押し、画面を映した。そこには1人の人物が映し出された。ニーナではない。機長は落ち着いた口調で「そちらのニーナ女王をお呼びしている方が居るのですが」『誰ですか。女王をお呼びしている方は』「私です」メサドが仲に入った。『少しお待ち下さい』




三十五、

共和国ソロ。ニーナは自分の部屋でくつろいでいた。今度は彼女の小型通信機が光った。彼女はそれを取り、口に近づけた。「はい、何でしょう?」口調は完全に女王に戻っていた。『メサド議員からの通信です。出ますか?』ニーナは間をあけず、「いいえ。切ってください」と冷徹に言った。『了解しました』小型通信機の通話ライトが切れた。
ニーナは窓の外を見た。その窓からは中央広場が見えていた。彼ら2人がここから旅立つところも一部始終逃さず見ていたのだ。彼女は、その窓のカーテンを閉めた。
これから修行する者の気持ちを乱してはならない・・・。
ニーナにはメサドに対して、恋人としての愛情がないとは言えなかったが、それは彼を友と自分の中で押さえ込んでいたせいで気付けずにいた。
ニーナの本日の仕事は終わり、疲れた体を横に寝かせた。




三十六、

『申し訳ありませんが、女王は今、通信できない状態ですので、また今度おかけになってください』立体テレビの映像が切れた。メサドは固まって動かなくなってしまった。機長はメサドの横に来た。「大丈夫ですよ。今度またかければ良いでしょう」メサドはやっと口を開いた。「いや。もうかける時間はない」機長はメサドの顔を見た。無表情。「それに彼女がかけなかった理由が――」メサドは鼻面を擦ってから、笑って見せた。「いえ、何もありません。ありがとうございました」メサドは落ち込んだ背中で部屋を出た。
すると部屋を出たすぐ前にリードが腕を組んで壁にもたれていた。リードの顔を見て、メサドは心を入れ替えた。「遊びはこれまでだ。さっさと着替えろ」リードは全く笑わず、そのまま去っていった。メサドはリードの行った方向と逆に走っていった。


メサドは服を着替えて廊下に出てきた。マントを得意げに、はためかせ、歩いていた。真っ白で綺麗な壁が目に入る。しばらく歩いていると大きなホールに出た。机と椅子が3脚ほど並び、ソファが壁に設置されていた。何よりも壁の一部が透明で外の景色が大迫力で見ることが出来た。もちろん見える景色は真っ黒な宇宙。メサドは歩きながら、その宇宙を眺めていた。眺めていると、吸い込まれていくような感覚に襲われる。遠くの方で小さな星が光った。あるいは大きな星が。メサドはついに立ち止まった。そして体の向きを完全に外に向けた。感心していると後ろから肩を叩かれた。メサドが振り向くと、そこに立っていたのはリードだった。
「どうだ。宇宙は?ソロへ来る途中はずっと部屋に閉じこもって出てこなかったから、宇宙を見るのは、これが初めてだろう」メサドは無言で頷いた。「我らが抱える物の重さがこれだ」「その中に、僕が」リードはメサドの肩をほぐした。「大丈夫さ」
「僕は新たな世界に来たんだ」
リードは腰にしめた小刀を取り出し、メサドに差し出した。「あの時、お前が受け取らなかったものだ」メサドは差し出された刀をただ見つめているだけだった。「受け取らないのか?メサド」メサドは手をゆっくりと刀に伸ばした。しかし、その手も刀に触れる直前で止まった。「メサド」リードの視線にメサドは合わせた。「僕は認められたのですか」「わからない」リードはまた言葉を濁した。「受け取るつもりがないのか。何故だ」
メサドは顔を俯けてしまった。しばらく沈黙。メサドは意を決して口を開いた。「僕が、僕がこれを受け取るに値するか、わからない」メサドは目頭を熱くさせた。言葉を発したことで気持ちと共に涙が込み上げてきた。リードは刀をもっていない方の手でメサドを抱きしめた。
「大丈夫だ。お前は私が守る」リードはメサドを解放した。メサドの手には刀が握られていた。リードはメサドの肩を持ち、外を見た。
「真っ黒なシートの上に散りばめた宝石のようだろう。我らはその宝石に守られている存在なのだ」メサドはリードの言葉で顔を上げた。目の前に広がっている宇宙は先程見たものよりも美しく、儚かった。「すまないが、掟で決まっていることなのだ。お主はバームルからカタルに変わる」メサドの目が見開かれた。「バームルを後世に残したい。その為に」リードはメサドが握っている刀を握った。「お主はメサド・カタルだ」
メサドは目頭を再び熱くさせた。



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