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the Fourth Avenue Cafё
EP2:evergreen,4
共和国クルタウロン。真っ白い部屋に閉じこめられたニーナは後ろでされていたはずの手錠を前へ持ってきている。多分、誰にも見られていないと思い、女王らしくもない格好で前まで持ってきたのだろう。彼女は天井に抜けることの出来る穴があることを知っていたため、そこへ手を伸ばし跳んでいた。しかし、彼女の身長と豪華な装飾ドレスがそれを邪魔していた。
「うん!うんっ!」彼女の高貴な口から声が漏れる。どれほど頑張っても届くわけがない。それでも彼女は諦めなかった。今度は華奢な腕で重い装飾を外し始めた。まず腰回りのウエストリング、次にふんわりとしたスカート(中に細身のスカート)。これで随分と軽くなったはず。彼女は一息つき、休む暇などないことを思い出し、脱出を再開し始めた。
しかしだった。全く届かない。「クソ野郎」彼女は女王らしくもない汚らしい言葉を吐いた。上に届かないとすると、今度は壁に扉を開ける手段があるはず。ニーナは、白い壁に1つだけ浮かび上がって見える扉へ急いだ。しかし、内側には取っ手はおろか持てる所などなかった。あるのは扉の長方形の溝だけだった。
彼女はその扉を何度も何度も強く叩いた。しかし、外側には振動は伝わってないようだ。外からの反応はない。何度も何度も叩いていく内に両手が赤くなっていく。そんなことも彼女は気にせず、たたき続けた。
しかし、しかし、叩くに連れ、手以上に目が痛くなっていった。彼女は目の痛みを誤魔化そうと、擦った。それでも目から流れる涙は止まらなかった。目が赤いのは涙を我慢しているせいだった。
彼女は震える口で叫んだ。「どうして!どうして!助けて!助けてよ、メサド!」彼女は無意識にメサドの名を口に出していた。そしてそれに気付き、口を抑えた。彼女は自分で言った言葉なのに、口から出るまで全く気付きもしなかった。
「メサド、メサド」こんな危険な状況においても、彼女は彼の名前を出したことに納得していた。そして口の中で転がすように名前を繰り返した。すると、今まで以上に涙が溢れてきた。何度も口にする度、今まで我慢していた物が吐き出されたように勝手に出てきた。そして安心させられる自分がそこにいた。
「メサド!メサド!メサド!メサド!」彼はきっと来てくれる、そう信じることが出来た。身体の奥から力が湧いてくるように思えた。
ニーナはまたもや女王らしくもない行動に出た。扉を跳び蹴りし始めたのだ。「くそ!」彼女はもう涙を拭おうとしなくなっていた。
ハイヒールが折れ、その場に転けた。しかし、諦めようとはしなかった。今度は今まで以上に強く助走し、バランスを崩しながらも蹴った。当たった場所は扉の横。それが功を奏した。外側ではちょうどニーナが外した電脳キーパネルのある場所だった。蹴った一部が外れて、パネルの裏が現れた。彼女は涙で潤んだ瞳をしたまま、その方へ顔を近づけた。そして潤んだ目を疑った。夢を見ているのではないか。しかし、それは本物だった。「メサド」彼女は次第に何かある度に、メサドを呼ぶようになっていた。
「メサド・・・」
一方、捕獲された共和国軍を助けようと試みているミドナカは、裏の通路を走っていた。
どうやら、エンジェルが起こした騒動は収まっているらしく、その片づけで帝国軍の何人かが居なくなっている。よって帝国軍は先程よりもその場にいる数が少なくなっていた。その少なくなった帝国軍に囲まれている共和国軍の居る大ホールの上にある、裏通路。彼はニーナが女王になるずっと前にこの国へ何度か来たことがあり、知っていたのだ。
長い間使われていない為か、ミドナカのマントがはためく度に、埃が綺麗に舞っていく。多分、ニーナ女王はこの場所を知らないのだろう、と走っていたミドナカは推測した。
通路の端へ来た。木の板で塞がれている(カモフラージュしているだけで、簡単に外すことの出来る)壁を蹴り飛ばした。すると濃い埃にまみれて、奥深い部屋が現れた。
彼は部屋を突っ切り、曇れた窓の前まで行った。その窓から下が見える。ちょうど帝国軍の主隊長が見えた。「よし、ここなら」ミドナカはマントの中から銃と手榴弾をとりだし、瞬時に準備した。
ミドナカは窓ガラスを肘で割り、手榴弾を破片に紛らせ、投げた。下の軍は皆、その物音に反応し、上を見た。そしてその中の1人がどうやら手榴弾に気付いたらしい。「何だ!あれは!」しかし、『時既に遅し』という言葉はこの為にあるかのように、ミドナカは手榴弾に狙いを定めていた。そして射撃。
大爆発。皆の居る上で大爆発が起こった。その爆発で大ホール天井が崩壊し、皆の頭に降ってきた。帝国軍は何も対応できないまま、即座にその場から避難していった。
取り残された(身動きの取れない)共和国軍は悲鳴を上げた。その悲鳴に感銘を受け、作動したように緊急の天井が出てきた。そして、緊急の天井に共和国軍が守られた。
大丈夫だと踏んで、大ホールから避難していた帝国軍が引き返してきた。
奥部屋から見ていたミドナカは笑みを漏らした。「今に見てろよ。チビ共!」ミドナカはその窓から身を乗り出し、大ホールにある4箇所の扉へ照準を合わせた。
彼の狙っている先には扉の横にある緊急作動手動開閉のボタンだった。「狙った的は外さねぇ」ミドナカは爺なまりの発音で決め言葉を発した。そして言葉通り、4箇所のボタンを撃っていった。
見事命中し、扉が勝手に閉まっていくことに気付き、帝国軍が走って引き返してきた。運良く中に入れた者が数名。残りは入ることが出来なかった。そして全ての扉がしまった。外からどれほど力を加えようが、枠ごと外さない限り、開かなくなった。
先程運良く中にはいることが出来た、しかし帝国軍にとって運が良いなどありはしなかった。どう考えても共和国軍の方が帝国軍よりも数十万倍分は上だった。「よっしゃー!!」下で共和国軍が喜んでいた。
そして窓のミドナカに気付き、「ミドナカ議員!万歳!」と歓声が沸き起こった。ミドナカはすぐ下へ下りていき、何人かの手錠を外してやった。そしてそれが広がっていき、最後に入ってきた帝国軍に手錠を仕返してやった。
事が終わり、共和国軍隊長がミドナカの元へ来た。「ありがとうございます」敬礼した。「いやいや、ワシも捕まった分際だ。それよりも」ミドナカは大ホールの外を見るように遠くを見た。「ここからが、本当の戦いだ」「はい!」隊長は下がり、軍に戦闘準備をさせた。
二十、
共和国ソー、第3ホールまでの通路をリード、ウォーミアム、カイト3人はリードを先頭にひた走っていた。鉄の柱が裸にされている粗末な通路が数キロメートル続いた。それでも止まることなく走り続けている3人は構図通り、2階へ上がった。
「!」リードが2階へ顔を出した直後に銃声がなり、焦げた跡から煙が上っていた。どうやら3人はばったり敵に出会ってしまったらしい。3人はすぐに別れて、物陰に隠れた。予想外の出来事にウォーミアムは驚き、焦り始めた。
しかし、カイトは全く動じず、冷静に現れた帝国軍を撃ち殺した。死んだことを確認すると銃を提げ直し、2人に出てくるように合図した。「こんな所で止まってられない。さっさと行きましょう」リードとウォーミアムは苦笑いをして返した。そして今度はカイトを先頭にまた走り始めた。
第3ホールに着いた。
ホールの横の廊下とあって、随分と高い。幅の割には、天井までの高さが尋常ではなかった。鉄柱が露わになっているこの廊下を3人は走った。
やはり、足音や話し声が反響する。3人の走る音が騒がしく鳴り響いた。それを聞いた帝国軍の話し声、こちらへ来る足音。全てが聞き取れる。「作戦通り、行くぞ!」リードは周りに反響するしないを考えず、言った。
第3ホールの横にある通信室の上階の鉄格子だけの廊下で帝国軍2人が喋っていた。1人は軍に入って7年の中堅の男、もう1人はその男にそそのかされるばかりの入隊して間もない男子だった。2人はいつもの他愛ない話をしている。中堅男は今までに残してきた功績の自慢や故郷の母のこと、若い男子は故郷に残してきた恋人や友人との想い出を語った。
すると中堅男は若い男子に恋人がいる事を自慢げに聞かされ(本人はそう思って話しているのではないが)、うんざりし廊下を歩き始めた。そして階段に着くと、下を覗き込んでから、下りていった。
若い方はいつも自分の話をすると無視されることに嫌気がさしていたが、今回も我慢し、後を付いていった。彼が階段を下りようとしたとき、何かに気付いたらしく、立ち止まり、耳を澄ませた。中堅の方がそれに気付き、後ろを振り返った。「おい!何してる!」「ちょっと待ってください」若い男子が耳に手を当てているのを不審に思い、中堅男が引き返してきた。「何してる?」若い方は男の声の五月蠅さに眉間に皺を寄せ、口元に指を当て「シーッ」と囁いた。
その行動にさすがの中堅男も面食らった顔をして、黙った。「何か聞こえませんか?」「何が?」若い方はしばらく何の音か聞き分けてから、答えた。「鉄の擦れる音」
リード、ウォーミアムと別れたカイトは1人第3ホールの廊下を故意に鉄棒を擦らせながら、歩いていた。その音を若い帝国軍が聞き取ったのだ。カイトがちょうど通信室の前を通った。
その時、2人の帝国軍が勢いよく飛び出てき、銃を構えた。しかし、それよりも速く身軽にカイトは鉄棒を振り切り、中堅男の脇腹にそれを叩き付けた。男は一瞬何が起こったのかもわからず、ふらついた。しかし、カイトを見つけ、状況を把握したが、すぐに意識を失った。
若い方は気を取られながらも、カイトに銃を向けた。しかし、またもやカイトの方が素速く動き、彼の背中を取った。そして若い帝国軍の首に鉄棒を押し当て、呼吸できないように動きを止めた。
首に鉄棒を挟まれた若い男は全く動じず、逃れる術を考えていた。そんな時、耳をくすぐる囁き声が聞こえた。「動くな、殺しはしないから」その言葉に安心させられ、若者は肩の力が抜けた。その所為で挟まれた鉄棒が無防備の首に食い込んで、咳き込んだ。カイトは力を少し加えた。すると簡単に若者はポックリと意識を失った。
「殺しはしていないからな」カイトはそう言い残し、通信室に無音で入り、開かれた扉を静かにしめた。そして、通信室の上階に来たカイトはそこから、大型モニターの前に立つ男を狙って、発砲した。見事命中、男はその場に倒れた。
周りに居た隊員達はいきなりのことでわけもわからず、慌てふためき始めた。カイトは首領隊員らしき男達を次々と殺していった。そんなカイトに皆が気付いた。
カイトは故意に音を鳴らし、階段を下りてきた。「聞け!今ここは俺が仕切る。俺の指示全てに従え!勝手に動くな!」カイトは目の端に手元を動かす男を見つけた。
「勝手に触るな!」カイトは腹の底から出てくるドス低い声で叫び、その男に発砲した。レーザー弾は男の手に当たり、血がとんだ。「ぐああああ」男は手を押さえながら、しゃがんだ。カイトはその騒動に紛れて、また微かに動いた男を見つけた。そして同様にその男も撃った。「何度言ったらわかる。馬鹿共が」彼は端から能無しの帝国軍隊員の銃を集めていった。
それから武器を窓から全て捨て、帝国軍隊員に通信電波遮断と電力切断などの命令をし、自分は2人の後を追った。
リードとウォーミアムはカイトが通信室に入ったのを確認すると廊下を走り出した。そして通信室で激しい音と叫び声が響いた。
何故2人が先へ行くのにカイトを通信室へ入れたか。それは第3ホールと廊下を挟んで横にある通信室にはガラス窓があり、そこから廊下が丸見えになっているからだった。見つからずにここを通るのは不可能なため、中でカイトに引きつけて貰ったのだ。
そして2人はカイトが支配することのできた通信室の横を突っ走っていった。それを見た男が手元を動かし、カイトに撃たれたのだ。
2人は第3ホールの横を通り過ぎ、3階へ上がった。
二十一、
共和国クルタウロン。未だ倉庫の中から抜け出せないニーナ女王は蹴ってこじ開けた穴に髪留めの細い針を突き刺し、中の電線を弄っていた。
涙目で彼の名を呼び、その名を頼りに頑張っていた。「メサド、メサド、メサド」
髪留めを取った所為で長い髪が無防備に垂れ、その何本かがメサドの名を呼んでるだけの華奢な口に入っていた。
しかし、彼女の意識はそこになく、彼の顔を思い浮かべるのと、ここから出る(結局彼に逢うには変わりない)ことしかなかった。「メサド、メサド、メサド」
虚ろになり始めた彼女の瞳に一筋の光が差し込んだように見えた。
弄っている電線の中に3本の主力電線を見つけたのだ。主力電線の3本は異なる色でわけられている。彼の名を呼ぶ口が一瞬止まった。しかし、それも一瞬のことだけで、彼女は希望を見つけた喜びで再び彼の名を呼んだ。「メサド、メサド、メサド」
彼女はその3本の線に集中した。赤、青、黄。全て原色。
彼女は考えた。よくあるのは女性の好きな色(ちなみにニーナが好きな色は黄)、もしくは赤い糸を信じて赤。こんなもの、ほとんど運だというのに、成功すると信じている自分がそこにいた。
彼女は考え込んだが、彼女の勢いはそれを止まらせなかった。細い針に軽くキスして、すぐに行動に出た。「メサド、メサド、メサド」
まずは先程の2つの選択肢に当てはまらない青。彼女は細い針を青い電線の中央に突き刺し、力任せに引きちぎった。千切ったと同時に扉を見た。何も起きない。彼女は壁を殴り、次に移った。
赤、黄。彼女の好きな色は黄、よく見る(切ってはならない)赤い糸。どちらを選ぶか。彼女はメサドなら、あのメサドなら、(私の好きな色を知っていたなら)黄を尊重し、赤を切ってくれるだろう。彼女はそう信じて、赤の線に手を掛けた。細い針で震えながらも、先端を赤い線にくっつけた。
ここで一度深呼吸。そして彼女は意を決し、先程のように赤い糸に針を突き刺し、横に引きちぎった。その瞬間だった。
パッと電力が落ち、視界が暗闇に支配された。
彼女は何が起きたのか理解できなかった、しばらくは。
そして気付いた。この倉庫の電気が落ちたのだ。部屋が真っ暗になり、何も見えなくなり、何が起きたのかわからなかったのだ。
そして状況を理解するとパニックになり、泣きじゃくった。涙も拭わず、壁を連打した。手が痛いなど、この際関係ない。彼女は必死に壁を殴り、叩き続けた。
失敗したのだ。彼女は電線を選ぶのに失敗したのだ。成功したのではなく失敗したのだ。
彼女の頭の中はその言葉と彼の名が行き交っていた。「メサド!!メサド!!メサド!!!!」
そこに女王としての威厳など全くなかった。
――・・・ピィー・・・ガシャン。
ピクとも動かなかった扉が開き、真っ暗な倉庫に光が割り込んできた。彼女は開いた扉の方を見た。彼女の顔は涙が流れた跡で汚れていた。「メサド・・・」彼女は目を疑った。そこに彼が居るわけない。そう確信して見ると、やはりだ。そこにいたのはメサドではなかった。彼女は顔を伏せて、再び泣き始めた。
そんな時、扉が完全に開かれ、男が入ってきた。メサドに見間違えられた男だ。そして男は静かに彼女の所へ行き、後ろから抱きしめた。突然のことに流石のニーナも何をされているのか理解しがたかった。
そんなとき、彼女の耳をくすぐるような囁き声と感じたことのある臭いが体中に充満した。
「ニーナ」彼女は彼の手を握って、再び確信した。私は何も間違ってはいなかった。ここにいるのはメサドだ。そして必ず彼が助けに来るという願いも叶ったのだ。「遅れてしまった。申し訳ない」「メサド・・・?」彼女は分かっていながらも、嬉しく彼の名を始めて呼ぶような感覚で呼んだ。
「あぁ、そうだ。こんな所で、恐い思いをさせてしまったことを許してくれ」「私を助けに来てくれたの」「その通りだ。神に、父に誓ってそうだ」彼女の顔に笑みが浮かんだ。「その喋り方、貴方らしくない」彼の顔にも笑みが浮かんだ。
ニーナは自分の顔のすぐ横に彼の顔が迫ってくるのを感じた。それが本当に嬉しく、嬉しく、嬉しく想った。「ごめん。やはり慣れないと使えないな」「はは」彼女の笑い声は15そこらの少女の笑い声のように幼く聞こえた。
ニーナはメサドの腕を解き、彼に向き直った。そして一心に彼の瞳を見つめた。奥深くまで舐め回すように。彼もそうした。「この前のことは、ごめんなさい。私にもどうしてあんな辛いことを言ったのかわからないの。許して。でもこれだけ言える、あの時、貴方のことを愛しているから、だからわざと突き放してしまったの」彼女は早口に噛まないように言い切り、言い終えると呼吸を整えながら、また気持ちが込み上げ、泣き始めてしまった。
そんな可愛い彼女をメサドは静かに抱きしめ、腕の中に包み込んだ。「僕も愛している。だから分かっていた。ただ自分に素直になって欲しかった」彼は彼女が痛いと言うほど強く抱きしめた。そしてやはり、言われた。「痛い」
始めは彼の服の中で言ったため、こもっていて何を言っているのか聞き取れなかったが、彼女が苦しそうに動き、彼の手を必死に叩いているので、ようやく理解できた。「ごめん、ごめん」彼は笑いながら、放した。
「痛かった?」彼女は怒った風にそっぽ向いたが、笑いを堪えながら向き直り、彼の耳元へ近づき、囁いた。「愛してる」メサドはそれがどれほど嬉しかったことか、また彼女を強く抱きしめ(今度は一瞬で放したが)、見つめ合いながら同じ言葉を返した。「愛してる」そう言われると彼女も嬉しくなり、彼の両頬を包み込むように触れ、素速く彼の唇に自分の唇を重ねた。
そのときの無邪気なニーナを彼は一生忘れないだろう。今度はメサドが彼女に柔らかい唇に口付けした。長い時間――2人にとっては。
「今は?」彼は彼女に聞いた。「ん?」何のことか彼女はわからず聞き返した。「今も愛してる?」彼女は無言で頷き、彼を押し倒し、再び唇を重ねた。
二十二、
共和国クルタウロン、第1議会室。段になっている椅子と向かい合った大きな椅子に寺井が座っていた、机に両足をだらしなくのせながら。そして退屈そうな表情で小型無線機を見つめていた。そこには立体に映った帝国軍隊の1人が姿勢を正し、現状を慌てて話していた。『大ホールから第3議室にかけて既に共和国に占領されました!』寺井は返事をせず、黙って映像を消した。
なぜなら、この第1議会室に1人の女性が入ってきたからだ。寺井は苦笑いを浮かべながら立ち上がった。「何をしてる、アナスタシー。俺と寝たくなったか」彼はヤニだらけの歯をさらけ出し、下品に微笑んだ。
そんな彼をアナスタシーは無視し、階段を下りてきた。徐々に近付く彼女の異変に彼は全く気付きもせず、肢体を舐め回すように眺めていた。彼女が銃を持ち、構えようとしているのにも気付きもせず。
「私は全く・・・」彼女は自分の犯した罪(帝国の恥さらしと彼女は反省している。※『四』参照)を悔いた表情で彼の目の前に来た。正面向いた彼と彼女の背の高さの違いには驚かされる。寺井は禿げた頭を恥ずかしそうにしながら、彼女を見上げて居るではないか。
寺井は彼女に汚い、薄汚れた手を伸ばし、触れようとしたが、彼女がその手を銃で殴りはらった。予想もしていないことに寺井は焦り、手を引っ込めた。「私に逆らうと言うのか!小娘」彼女は銃を彼の眉間にあてがった。「醜い顔で近付くな。殺すぞ」彼女の余りの冷徹な表情に寺井も恐怖でおののくしかなかった。
「1人の戦士――メサド――に思い起こされたよ。私は共和国軍だ」その言葉に彼は先程同様の(彼特有ではなく、帝国軍隊長によく見られる)にやけた笑みを見せたが、そこでは何も言わなかった。
アナスタシーは寺井を顎であしらい、帝国軍を止めるように指示した。寺井から笑みは消えなかった。いつまでも彼女の身体を眺め、帝国軍の動きを止めるように放送切り替えボタンに手を伸ばした。これで共和国クルタウロン内の戦争は終わる。そう思っていた。
「そうか、そうか。戦士か。簡単に男に乗せられるお前は、やはり尻軽女だったってことか」寺井は彼女に振り返り、笑顔を見せた。そして彼女は撃たれた。わけもわからず、ぼやける視界から寺井が消えていった。彼の手には銃が握られていた。「刃向かう女は好きだが、もう飽きた」寺井はそう彼女に吐き捨てるように言い残し、部屋から出ていった。
彼はその後、帝国巨大船FR2-95に乗って、1人で操縦し、クルタウロンから脱出を図ろうとした。
二十三、
共和国ソー。3人は3階廊下を走りきり、端にある操縦室の扉を蹴飛ばし、中に入った。3人は3方向に銃を構え、中にいた帝国軍隊員の動きを止まらせた。
3人が蹴飛ばした扉は大きな音を立て、床に転がり、沈黙した部屋に騒音を響かせた。「動くな」扉の音に合わせるようにリードの声が反響した。「銃を下ろして、両手を挙げろ」その時、リードの陰に隠れていたウォーミアムが操縦機を撃ち、次々に壊していった。
その間もゆっくりと抵抗できない帝国軍は次々と銃を床に置き、手を挙げていった。3人は帝国軍に近付いていき、床に置いてある銃を踏み潰していった。銃は火花を散らせ、へし折れていった。
すると突然、照明が消え、部屋が真っ暗になり、しばらくしてまた照明がついた。周りを見れば、帝国軍が銃を持ち、3人を囲んでいる。「くそ」「銃を置け」と帝国軍。
カイトは歯ぎしりして、帝国軍の指示に従った。続いてリード、ウォーミアムも従った。「誰だ、お前は」カイトとウォーミアムが帝国軍を睨んでいるとき、リードは奥にある階段を見た。その階段を1人の男が下りてきた。
「私の名を聞きたいか、共和国八方議員よ」顎髭の似合う渋い男は語り始めた。「私の末えいは、最期のガンスリンガー『オーディア=ランド・フリー』。彼は愛馬タルマイラーと共に千里の地を駆け抜け、全ての武将を撃ち殺し(その血は千里を染めたと言われている)、王をも上回る権威を振るい、ありとあらゆる智を得たと言われている。私はその血を引くガーマン・フリー。彼が千里を駆けたのなら、私は億里を駆け抜ける。彼が全ての武将を撃ち殺したというのなら、私は全ての共和国議員を撃ち殺す。彼が王をも上回る権威を振るったのなら、私は王をねじ伏せる権力で王を意のままに動かす。彼がありとあらゆる智を得たのなら、私はその智に上回る智を発揮する」
「それで今はシリウスの下で働く只の隊長か」リードは彼を挑発する笑みを見せ、足下に置いた銃を足で蹴り上げ、その銃を取ると見せかけ、3人を囲んでいる帝国軍の1人の腕をはたき、銃を奪い取った。
そして蹴り上げた銃をもう片方の手に持ち、両手の銃でガーマンを撃った。しかし彼はリードが銃を蹴り上げたときにすでに階段から跳び降り、銃を構えていた。彼の銃口はリードをまっすぐ狙っている。
「私はオーディアの子孫、貴様などに負けるはずがない」ガーマンが発砲した。
が、そのレーザー弾をカイトが撃ち落とし、ガーマンを撃った。カイトよりもガーマンの方が数段上で彼はカイトの次の行動を先読みし、カイトの手を撃っていた。それにも気付かず、カイトは発砲したのだ。当然レーザー弾は全然違う場所に命中していた。「うあああ」カイトは手から噴き出した血に興奮し、まだ周りを囲んでいる帝国軍を1人倒して、銃を奪い取り、それでガーマンを狙って撃った。
彼が狙った先にはガーマンは居ず、物陰を走って、彼らの後ろに廻っていた。ウォーミアムは周りの騒動に紛れ、床に置いた銃を拾って、帝国軍を次々に撃っていった。「俺もこれくらいなら出来るぜ!」
そしてガーマンが彼らの後ろに姿を現した。「なっ!」ガーマンが姿を現した目の前にカイトが銃を構えて待っていたのだ。「遅ぇーよ」彼はガーマンにしっかり照準を合わせ、発砲した。
しかし流石ガーマンだった。その弾を銃床で弾き、逆にカイトに狙いを定めた。カイトは瞬時の判断で下にしゃがみ、万事を免れた。しかし安心は出来ない。カイトが無理な姿勢を良いことにガーマンはすぐにカイトにまたもや照準を合わせた。流石にここまで追いつめられ、カイトはただ腕で頭を守るしかなかった。
ところが、ガーマンは彼を撃たず、上へ銃口を向けた。その先にいたのは階段から跳んでくるリードだった。彼は茶マントをはためかせ、ガーマン一直線に跳んできたのだ。ガーマンはそれでもすぐに照準を合わせ、リードを撃った。しかし命中はしなかった。
全て彼のマントに穴を開けるだけで終わった。そしてリードに突撃され、ガーマンは仰向けに倒れた。その衝撃で視界が混乱したガーマンは視界を良くしようと頭を左右に振った。と視界が良くなったと思えば、逆にガーマンは最悪な状況を目の当たりにした。リードの落ち着いた笑顔に首筋に当たるリードの冷たい小刀。穏やかなリードの表情が一瞬、氷河に溢れる流氷のように冷徹な顔に変わったように思えた。少なくとも、ガーマンには。
「お前が誰であろうと、ここは共和国だ。お前はここでは無権無力だ」彼はガーマンの首に当てていた小刀を離し、勢いよく振り下ろした。あまりのことにガーマンは目を閉じ、現実から目をそらした。しかし小刀は彼の首を突き刺しはせず、擦れるほど真横に突き刺さった。
「軍を引け、お前の敗北だ、敗北」リードは『敗北』という言葉をガーマンの頭に刷り込ますように2度繰り返した。
その頃、部屋にいた帝国軍は全てウォーミアムが始末していた。
リードは立ち上がり、ガーマンの手を放れた銃を踏み潰し、手を抑えて屈んでいるカイトの元に歩いていった。「大丈夫か」
彼はカイトの肩に手を置き、安心させるように言った。ウォーミアムもカイトの所に来た。「リード議員、国内放送をします」「あぁ、わかった」ウォーミアムはカイトの肩を2度叩き、先輩面で言った。「もう終わったぞ。ありがとうな。お疲れさまだ」その言葉にカイトは顔を上げ、涙を拭った。彼の復讐は幕を閉じたのだ。
ウォーミアムは放送切り替えボタンを押し、マイクに口を近づけた。「あーあー。帝国軍に命令する。お前等の隊長ガーマン・フリーは敗北を認めた。無駄な戦争はやめ、大人しく武器を捨てて確保されよ」彼はガーマンを引っ張り、マイクに近づけた。そして顎で指示した。ガーマンは静かに口を開いた。「我々は負けた。我々は共和国の命令に従う」ウォーミアムはリードの方へ笑顔を向けた。
それにリードも笑顔で返した。「命令に従わないのなら、ソロ本国からの要請軍がここに来る」その言葉にガーマンが不気味な笑い声を挙げた。「はっはっはっはっはっはっは」ウォーミアムはその声が入らないように電源ボタンを押し、放送を切った。
「何が可笑しい」「貴様等は知らないようだな、負けた分、情報を教えてやろう。共和国ソロ本国は帝国軍が占領した。ソロ国軍が他国へ要請され、空っぽなのだ。帝国軍の方が有利になり、すでに共和国ソロ本国は帝国領に洗浄されているだろう。もう手遅れさ。すでに共和国ソロ本国は壊滅したのだよ」
ウォーミアム、カイト、そしてリードの間で時間が止まり、沈黙が流れた。
二十四、
共和国ソロ、中央階段電力中枢橋。「シリウス!!!!」ディールは腕で勢いをつけ、上半身から起きあがり、銃を抜いた。彼の踏ん張りも虚しく、シリウスは軽々とディールを壁まで吹っ飛ばし、壁に激突させた。鞭打ちになったディールは体を反りながらも、倒れず構えた。
しかし、シリウスは全くディールを相手と見ず、片手であしらった。またもやディールは空中を浮遊され、今度は橋のない所まで運ばれた。「ぐふっ」ディールの首が絞められていく。もちろんシリウスが手で操作しているのだ。
呼吸ができなくなり、顔を赤らめていくディールは見るに耐えなくなっていった。手でじたばたと抵抗できなくなったディールの顔は次第に色を失っていく。「っ」声すらもう出ない。当たり前だ、息も通行できない通路になっているのだから。
「はっはっは」黒衣で口下しか見えないシリウスの笑いは無表情と変わりないほど、感情がなかった。3回「は」と言うと笑顔が簡単に消えるのだ。「死のうか、爺」シリウスはディールの首を絞める手を強めた。するとディールの目が飛び出るかと思われるほど見開かれた。ディールは血がにじみ出るほど、手を強く頑丈に握っていた。
しばらく続いた。
と思ったとき、ディールは溜め込んでいたモノを口から吐き出すように叫んだ!溜め込んでいた全ての感情と共に。「は!!」
するとその気に圧されたかのようにシリウスが吹っ飛んだ。丁度シリウスが今までしてきたように。状況が理解できないまま、シリウスは橋ぎりぎりまで滑り、そこで踏みとどまった。そして黒衣をはらい、今の状況を見た。空中を浮いていたディールはシリウスの支配から放れ、笑いを残して奥底へ落ちていった。マントをはためかせながら。
シリウスは急いで下を覗いた。もう彼の姿はそこから見ることが出来なかった。「ちっ」シリウスは玩具を奪われたマセた子供のように舌打ちをし、サルファードに目で合図してから橋からスロープへ行き、天井へ上っていった。
ディール対シリウスの闘いの下で行われていたアントニオ対サルファード。
アントニオはふらつく足取りでサルファードへ突進していき、先程までのように体を横に回転させ、その反動で剣を振るった。彼の攻撃は既に力任せの無術になっており、サルファードに軽々避けられ、腹に拳を入れられてしまった。アントニオは腹を抱えながら、振り切った腕を振り戻しサルファードに攻撃した。それもサルファードにとっては避けられぬ攻撃ではなかったが、彼はそれを故意に避けず、剣での攻撃で返した。そして2人の剣が交わった。
一瞬のことだったが。ゆうに彼の、サルファードの攻撃がアントニオの剣を振り払った。アントニオの刀は宙を舞い、煙突の闇の底へ落ちていった。武器を失ったアントニオは腰を抜かしたように倒れ、急いで後ろへ引いていった。その顔は恐怖で汗が噴き出していた。
尻を付き、後ろへ逃げていくアントニオをサルファードは嘲笑いながら、ゆっくりと歩いて追いかけていった。「逃げるつもりか?先程までの余裕はどうした?見れば既に血だらけではないか。可哀相に苦しいだろう、痛いだろう、生きるのに疲れただろう。すぐにでも殺してやるよ。ほら」サルファードは銃を抜き、アントニオの額を狙って撃った。
アントニオは動かない腕で身構えたが、レーザー弾は彼の頬をかすり、床に焦げ跡を残しただけだった。彼はその跡を見てから、サルファードの笑顔を見た。彼の笑顔を見れば、故意に外したことが容易に推測できた。しかしサルファードは白々しかった。
「おっと、すまない。手元が揺れて、外れてしまった。苦しい時間が長くなったな。しかし、まぁ良かれ悪しかれ死ぬのだから許しておくれまいか」サルファードは再度銃を構えた。
アントニオは我に返り、また後ろへ引いていった。そして橋の端まで来てしまった。これ以上は後ろへ引けない。困惑しているそのとき、目の端に何かとらえた。それはディールだった。
シリウスと闘っていたディール議長が空気を切るように下へ落ちて行くではないか!アントニオは自分の状況も忘れ、それを見えなくなるまで眺めていた。彼のマントが忙しいほどはためいているのが目の奥に焼き付いて仕方なかった。
アントニオは我に返った。「議長!!!!ディール議長!!!!!!」その声も虚しくディールは瞼を閉じ、闇へ消えていった。アントニオの目から止まらぬ涙が溢れてくる。アントニオはそれを拭い、拭い、下を覗いた。そして怒りに震えた唇を噛み締め、シリウスを見上げた。噛み締めていた唇を開いた。「シリウス!!!!クソォー!!!!」アントニオは何とか踏ん張り、立ち上がろうとした。しかし、力が全く入らなかった。
その光景を端から見ていたサルファードはアントニオを狙っていた銃を下ろし、シリウスの方を見た。彼と目があった。そして『すぐに終わらせろ』と合図され、『了解』と目で返した。シリウスはその後、スロープを上っていった。
そしてサルファードはもう一度アントニオに照準を合わせた。体を震わせている(何故だ?恐怖か、怒りか、それとも)アントニオはゆっくりと先程と同じく揺らめきながら、立ち上がった。そして上へ歩いていくシリウスを見、サルファードを見た。眉間に皺を寄せ、閉じて開かない口をやっとこさ開き、語った。「我が星ソロは、いやソロだけでなく共和国全ては、何かと言えば自然を破壊して支配することで人類の住みやすい場所へと変貌させることしか考えてこなかった帝国とは違い、自然との共存を前提に街を創ってきたのだ。高層建物、大橋、飛行自動車、飛行機、地下道、生活で言えば食事、睡眠、仕事、生活に欠かせない電力そしてそれをしてきた人間、その中には全て緑があった。完成間近だった人類と自然の共存できる星、共和国。それをお前等のような人々に格差を強制させ、争いを好んでしてきた自然破壊非人道者に乗っ取られる苦しみがわからないか。我々の正義を貴様等のような偽正義に染められる悔しさをわからないのか!!」
黙って聞いていたサルファードは止められない笑いを見られないように口で隠しながら、言った。「それが何だというのだ。人それぞれには人それぞれの正義がある。それを国民に強要させているお前等も同じではないか。まぁどちらにせよ、勝った者が正義なのだよ」
「帝国は地球で犯した罪を繰り返しているのだぞ。それを知っているのか!」「地球で犯した罪だと?」サルファードは少し考えた。「それは地球の温度が上がり――温暖化とでも言うのだろう――、地球が崩壊したのは人間が居たから、だという嘘の理由のことか。それが本当だとしても今は暮らせる場所など捨てるほどあるだろう」「わかっていてやっているとは」アントニオは落胆し、橋から下を覗いた。
「それが地球を崩壊へ導いたのだ」彼はサルファードに笑って返した。「我々の正義は既にこの星から消えた」そう言い残すとアントニオは橋から飛び降りた。
サルファードはその行動に驚き、走って彼の立っていた場所へ行き、下を覗いた。その時、闇の底から1機の丸いポットが飛んできて、そのまま彼のいる橋を通り過ぎ、煙突の天井まで飛んでいった。
サルファードはそれにアントニオが乗っているのを見つけ、逃げたとわかった。「くそ!」サルファードはそれに持っていた銃で発砲したが、既に手遅れだった。ポットは天井にくっきりと光の穴を開け、空高く消えていった。暗かった中央階段電力中枢橋に一筋の光が差し込んだ。
闇に飲み込まれた世界に未来、共和国が光の穴を開け、一筋の光を差し込んでいるように。
ポットが通り過ぎ、その風にサルファードの服がはためいた。
ポットを見送ったシリウスは一泡噴かされたと言わんばかりの笑みを見せ、上っていった。しかし、小型船が上にあったのを思い出し、それが多分アントニオの乗ったポットに破壊されただろうと推測すると、彼は苦虫を噛んだ顔をして下りてきた。
二十五、
共和国クルタウロン。倉庫から抜け出したニーナを連れて、メサドは議会棟から外へ出た。彼女はあられもない服装なので、メサドの茶マントを借りて、上からスッポリと被っていた。外に出た2人は広場に出てきた。懐かしい秋風が2人を吹き付け、危うく彼女を守っている茶マントを飛ばすところだった。「大丈夫か」メサドは彼女の肩を両手で強く抱きしめ、先を急いだ。そんな彼にニーナも優しく答えた。「えぇ、だいじょうぶよ」彼女は彼に顔を見せるため、顔を隠していたフードを上げて、メサドに笑顔を見せた。
そんなとき、議会棟の横に建てられた四角い飛行機収納庫から1機の帝国機が現れた。2人はそれに目を奪われていた。
帝国巨大船FR2-95内。寺井は操縦室に居た何人かの隊員を連れ、共和国クルタウロンから脱出を謀っていた。隊員の遅い対応に苛立ちながら、彼は窓から外を見ていた。外では共和国軍の大半と帝国軍全員が今まさに衝突するところだった。なかなか宙に浮かないことに寺井は遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。壁を爪先で蹴り、隊員を押し退けた。
「さっさとしろ!退け、俺がやる。使えない奴等め」寺井はどうやら昔この機種を操縦したことがあるのだろう。手慣れた動きで羽尾の切り替え、取込空量を手動に切り替え、レバーを下ろしていった。
「動くな」冷たい銃口と言葉を寺井は後頭部に感じた。後ろには振り返れない。「それ以上動かすな、撃つぞ」
「ア、アナスタシーか。お前だな、アナスタシー。何の真似だ。お前には俺は撃てないはずだ」「さあね」「おい!お前等こいつを撃て!」寺井は操縦室にいる隊員に命令したが、返答がない。「帝国軍隊員は全員いないさ」寺井はその言葉に動揺しながら、冷静に微かに手元を動かした。
「んぐ!」その時寺井は言葉では出ない悲鳴を上げ、足を抱えて、倒れた。彼女の銃が火を噴いたのだ。彼の操作を放れた帝国巨大船FR2-95は勝手に動いている。
「動くなと言ったはずだろ」アナスタシーは寺井の薄い髪を鷲掴みし、顔を持ち上げた。「お前の負けだ。殺してやる」そのまま髪を引っ張り、立ち上げさせた。
そしてそのまま彼の顔を電子パネルに何度もぶつけた。男は手をジタバタさせ、負けを認めた。「わかった!分かった!俺の負けだ。やめてくれ、もう!」アナスタシーは手を止めた。
そして彼の口に銃口を突っ込み、先程のような冷徹な声で彼の耳元で囁いた。「まだ終わってないからな」彼の口の中に突っ込まれた銃口を見れば、この言葉が嘘か本当か疑う余地などない。
みるみる寺井の顔が汗と涙と鼻水で濡れ、崩れていった。それを見たアナスタシーは彼に笑ってみせた。そして銃を抜いた。寺井は安心して呼吸を荒げ、口の中に手を突っ込み、銃口の味を拭った。そんな彼に彼女は長剣を突きだした。寺井の顔はまたもや恐怖で歪んできた。「やめろ、殺さないで」
寺井は操縦機械の上に乗り、長剣から離れようとした。それでもアナスタシーもその上に乗り、どんどんガラス窓に近づけていった。彼の背はゆうに越す高さの大きいガラスがアナスタシーの銃弾により、割られ、風が勢いよく吹き抜けていった。
それにあおられ、寺井は体勢を崩し窓から下に落ちそうになったが、助かったことにアナスタシーの長剣が目の前にあり、それを掴み、落ちることは免れた。その代わり彼の手から血が大量に流れ出た。
血は彼の手を真っ赤に染めた後、腕を伝って服の中に入っていった。それでも今もなお風が寺井を揺さぶった。寺井は風に揺れ、余計に手を深く切っていった。
「助けてくれ!頼む!」彼は歪んだ口でアナスタシーにすがった、がアナスタシーは依然長剣を伸ばしているだけだった。そしてもう片方の手に持っていた銃を男に向けた。「やめろ!やめろ!やめてくれ!俺を撃つな!」
「あぁ、わかったよ」彼女は笑い、長剣の先を撃った。寺井の咄嗟の反応と、長剣が撃たれ折られたことと、その振動が重なり、寺井は地面へまっすぐに落ちていった。
彼は必死に滑らかな船の側面を掴もうとし、長い爪痕を8本残して、地面に落ちた。
寺井は船の側面の抵抗で何とか地面に落ちても死なずに済んだ。しかし身体の負傷は大きく、ほふく前進でしか動けなかった。見るに耐えない様子で彼は船から遠ざかろうと必死に逃げていた。
しかし船はそれをわかってか、わからないでか宙を浮いていたのが、車輪をまた地面につけ、地面を走行し始めた。そして寺井を小さな害虫の如く弄んでいるように、彼をゆっくりと追尾した。
アナスタシーは遙か目下で男が喚いているのが聞こえていた。「それじゃ、短い間だったけど。糞野郎」アナスタシーは帝国巨大船で寺井を踏み潰した。
メサドとニーナはその光景を見ていた。そして彼は必死に逃げていた寺井と目があった。「おい!お前、俺を助けろ!何でもしてやるから」メサドは目を見開き、何も答えなかった。「助けろ!助けろ!助けてくれ!」寺井は喉をからしてもなお叫び続けた。それでもメサドは返事もしなかった。「助けろッて!」ついに寺井が壊れた。裏声になり、口から悪血を垂れ流した。どうやら彼の足が遂に帝国巨大船に踏み潰されたのだろう。すると車輪は一瞬にして腹まで到達し、口から内蔵が出る勢いで全身潰された。メサドは彼女にそれを見せぬように彼女を腕で抱き寄せ、その顔を胸で隠した。メサドも見てられず、目を瞑り、顔を伏せた。
メサドは船が近付いてくるのに、ようやく気付き、ニーナを連れて船の通る道から避けるため、横に逃げていったが、逃げ切れないと判断し、せめて車輪の通らない場所に屈んで彼女を守った。すると帝国巨大船はゆっくりと轟音をならし、宙に浮いた。船は空高く上っていった。メサドはニーナの肩を抱き、それを見過ごした。
その時、帝国巨大船は爆発した後、真っ赤な炎を舞い上げ、帝国軍の応急準備基地に落下した。そして基地もろとも再び爆発した。アナスタシーもろとも。
帝国巨大船FR2-95内。船を自分で操縦していたアナスタシーは寺井を踏み潰した後、船を宙に浮かせた。「まったく私は大きな過ちを犯してしまった。共和国を崩壊に導いてしまったことをお謝りします。我が身を持ってこの罪を償います故、お許し下さい。ディール・ロドホルン議長」彼女は爆破ボタンを押した。
帝国巨大船FR2-95は爆発した。
それからミドナカの頑張りもあり、しばらくして帝国軍は敗北を認めた。共和国クルタウロン軍は帝国軍をまとめた後、共和国船に乗せ、ソロ国へ搬送するつもりでいた。
しかし。
リードからの電報でメサド・カタル、ミドナカ・トース、ニーナ・オルガモードはソロ国に起きたことを知ってしまった。3人はそれを真実と認めたくなかった。「嘘だ!」始めに沈黙を破ったのはミドナカだった。彼は机を殴り、髪を掻きむしった。メサドは信じられないと言った表情で目を見開き、おぼつかない足取りで窓まで行き、足下の鉄片を蹴飛ばした。静かな部屋に騒音がうるさく木霊した。彼の吐息は随分と荒れている。ニーナは彼ら2人と違い、静かに顔をうつぶせ、体を震わせながら涙を流した。
それを聞き、ニーナはしばらく帝国軍をクルタウロンに滞留させることにした。
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