the Fourth Avenue Cafё

EP2:evergreen,5



共和国ソー。
メサド、ミドナカはニーナにクルタウロン国を任せ、その場を後にした。それからソー国へ行った。丁度今、彼ら2人はソー国で待っていたリードとウォーミアム2人と会議しているところだった。国民が復興運動を起こしている間、乾いた秋風が吹く丘の上に建てられた小さな緊急会議室に彼らは集まっていた。いつも居るはずの残りの議員がいない分、もの寂しいものがそこにはあった。
「私はこの国に本拠地を置くことを提案するが」リードは身を乗り出し、組んだ両手で髭を撫でながら言った。それにミドナカが応えた。「それはここを本国にすると言うことか、それなら私は反対だな。この国はまだ発展途上だ。私はパドロ国を本国とするべきだと思うのだが」無断に意見を述べる権限がないメサドは「失礼します」と始めに改まり、話し始めた。「僕もソー国を本国とすることに賛成します」
するとリード、ミドナカ、ウォーミアムがメサドを見た。「ソー国が未だ発展途上国ならば、この期に本国とし、政力と都市力を向上するよう努めた方が良いかと」ウォーミアムが頭を抱えた。「そうすると国民の労働負担が増すのではないか、メサド議員」「そこです」メサドは切り込んだ。「それは必ずしも今の状況なら仕方ないことです。が、それを最小限に抑えることができる策があると、僕は思います」そこにはニーナと対面するときの彼とは違う彼がいた。「それは何だ」ウォーミアムは尋ねた。「簡単なことです。他の国からの支援をもらえれば(資金だけでも構わないのですが)、国民も楽にはなると思います」「それが簡単なことか?」ミドナカは厳しかった。「それが出来れば、こうも悩まなくて済むのだ」彼はメサドを傷つけないよう穏やかに言った。「今は他の国も忙しい。それにソロ国を失った我らの損失は大きい」「そうだな」ウォーミアムも頷いた。
メサドは意見がまとまっていない内から喋ってしまって、失敗したことで気を落とした。「申し訳ありませんでした」
すると今まで黙っていたリードが何か閃いたかのように顔を上げた。「この国はどうせ――と言っては失礼なのだが――復興まで時間はかかる。そして本国にはそれなりの都市力が必要となる。なら、結局人を集める他ない。復興と本国となるのが同じなら、その分手間も省けるというものだろう」メサドは言いたかったことをリードに言って貰ったことで、またいろいろと意見が頭の中に出てきた、が同じ結果になるだろうと口を噤んだ。
それに対し、ミドナカ、ウォーミアムは半分納得しないような感じの頷きをした。リードは先を続けた。「他の国が忙しいのなら、どっちみち本国の創作は出来ない。なら、この国の復興にまで時間があるのだから、他の国の政府状況が安定するまで復興に頑張って貰えれば良い。それから安定したら、いよいよ本国の創作に打ち出せば良いのではないだろうか」
ウォーミアムはその意見に納得したらしく、「それなら私も賛成だな」と言った。残るはミドナカだった。「なら損傷のあったクルタウロン国の復興も遅れることになるぞ。今、あの国で新たな武器を造っているのだろう。完成間近と聞いているのだが」それに関してメサドが返答した。「失礼します。その事に関してニーナ・オルガモード女王からお聞きしていることがあります。帝国はクルタウロン国を工場として迎えるつもりだったらしく、製造場の方は無傷だと」それに付け加えるようにリードが中に入った。「亡き友クリフから聞いたことなのだが、あの工場は人が造るのではなく機械が全てを仕切っているので、人力不足にはならないだろう」リードは言い終え、メサドに勝ち誇ったような笑みを浮かべた。そしてメサドが最後に言った。「共和国クルタウロンは都市の復興に勢力を上げると。クルタウロン国の協力は望めませんが、ソー国を本国にするのにクルタウロン国は関与しませんし、クルタウロン国の復興が遅れる影響を与えるわけでもありません」メサドも言い終え、笑みを浮かべた。自信に満ちた笑みだとリードは後に語った。それに遂にミドナカが折れた。「わかった。私も賛成しよう」


「話は変わるのだが」リードは話の筋を変えた。「八方議員が3人となった今、私は彼を推薦したいのだが」リードはメサドの背中を叩き、前へ出させた。メサドもその事に驚きを隠せなかった。「異議のある奴はいるか」ミドナカは「完敗だ」と言わんばかりの笑みで拍手した。それにつられ、ウォーミアムも拍手をして八方議員に迎え入れた。メサドはあまりの嬉しさに唇を震わせ、リードに抱きついた。リードも義父として師として包み込むように抱きしめ、彼の髪をぐちゃぐちゃに掻くように撫で回した。「おめでとう」リードはメサドを放し、彼に拍手した。たった3人に拍手されているだけなのに大勢の人から祝われているように恥ずかしくも嬉しくなった。
そしてリードの公認の下、メサドは八方議員となった。
「それなら」すると今度はウォーミアムが言った。「私も1人推薦したいものが居る」「彼か?」リードはウォーミアムに聞いた。「そうだ。姓を失った青年カイトだ」「私は知っているが、ミドナカ議員は知らない」リードはミドナカの方を見た。「後で見ておこう。それから私の意見を採り入れてくれ。というより2人が賛成で私だけが知らないなら、私が決めても良いということだな」つまりミドナカは2人が推薦しているのだから、間違いはないと思い、ほとんど賛成しているようなものだった。「それから議長と副議長を決めなければならないな」とリード。「私はミドナカを議長にしたい」「私もだ」ミドナカは泣きそうになりながらも笑いで誤魔化し、頭を振った。それは拒否の反応ではないことは誰にでも分かった。「私で良いのなら、喜んで引き受けよう」「それと副議長なのだが」リードが言っている途中にウォーミアムがきっぱりと言った。「私はパスだ。私には出来ない。それはわかっているだろう」とリードを見た。リードは笑った。「わかってるよ、だからお前ではなく私がしようと言おうとしたのだ」ウォーミアムはとぼけた風に笑って額を叩いた。「あいたた、こりゃ一本とられた」
「それから、後2人議員に推薦したい者がいる」最後にミドナカが言った。「カルカウでの戦いに参加してもらった議員なのだが、フィルスティーヌ・コールとルサーズ・ハイラだ」



会議が終わり、秋風の吹き抜ける廊下を駆け足で通り過ぎ、議員用宿舎の中に入った。宿舎には部屋へ繋がる廊下の前に古式のロビーがあり、寒い冬の季節には頼りにされる暖炉も今は使われず、枯れ葉が積まれている状態だった。その暖炉の前にはカイトが腕を組んで長椅子に座っていた。メサドはその椅子の後ろを走り抜けようとしたが、見たことのない彼に興味を持ち、またその周りに漂う変わった空気に気が向いた。
「あの・・・」メサドは話しかけようとした。ここは議員のみの宿舎なのだから、市民が入れるところではない。しかしメサドは口を閉じた。今はそっとしておいた方が彼のためでも自分のためでもある、と。
メサドは心残りながらも部屋へ戻った。
メサドは部屋にはいるや否や、小型無線機を取り出し、通信した。すると例の如く立体映像で彼女が映し出された。ニーナ・オルガモード。メサドは手汗をマントで拭い、彼女を一心に見た。「ニーナ、久しぶり。早く逢いたいよ」
『私も。それで今日は何でそんなに嬉しそうなの、メサド』「僕、八方議員に入ったよ。ニーナ」『ホント?!良かったじゃない?』ニーナの返事は随分と明るく、その返事にメサドはまた嬉しくなった。しかし、それ以上メサドは口から何も出てこなかった。
「早く逢いたいよ、ニーナ」メサドは同じ言葉を言うことで間を持つことしかできなかった。『私も』ニーナも同じ言葉を繰り返した。メサドは歯を食いしばり、何かを決意するためのように太股を殴った。
すると自然に言葉が口から出てきた。「ニーナ!早く逢って早く言いたいことがある」その言葉に最初ニーナは戸惑ったものの、微笑んで返した。『待ってるわ』
「それじゃ――」メサドが別れの挨拶を告げようとしたとき、ニーナが付け足すように言った。『あの、メサド。リード議員にもう一度クルタウロン国へ来るように言ってくれない。もちろん貴方も一緒に来てね』「あぁ。でも何で?」『新しい武器の試作が出来たの』
メサドとニーナの会話は終わり、メサドは無線機を消し、懐に直した。窓の外を見れば、もう日も暮れ始めていた。メサドは部屋から走って出ていった。ロビーには既にカイトは居なくなっていた。



ソー国立リフィア霊園。十字架が並ぶ中に一際目立つものが5つ、その中でもより大きな2つ。もちろんそれは八方議員のものだった。日が傾きかけ、墨汁の空に朱色を垂らしたような空には雲1つなく、肌を刺すような風が吹き抜けているだけの場所にリードが立っていた。何処かで見た光景のようだった。
丁度メサドが両親と育て親ガンダスを失ったときのような。
リードはフードを被り、自分が八方議員であることを隠して突っ立っていた。それでも彼のはっきりとした顔はよく分かる。しかし彼の表情から、彼が今何を考え、何を思っているのかはわからなかった。それ程彼は放心しているのであった。
そこにメサドが駆けつけてきた。「リード議員、クルタウロン国からの要求で僕と2人で来て欲しいと。新しく完成する武器の試作を見て欲しいと」メサドは最後まで言い終えたものの、リードがその気でないことに気付き、彼の横に並んだ。
メサドはリードの顔を伺いながら、彼の考えていることに割り込んだ。「これはクリフ議員の墓ですか、リード議員」「そうだ」リードは心ここにあらずといった声で返事した。
「クリフ議員は貴方の一番の友と聞いています、本当に残念ですね」今度は返事はなかった。メサドは墓の前に積まれている多種の花束を見て、心が温まった。「皆さんが彼らが亡くなったことを悲しんでいます」「そんなことはわかっている」リードの返事には棘があった。
しかし、その言葉はそれほどメサドを傷つけることはなかった。なぜか彼はそう返ってくることをはるか昔から知っているようだった。
「クリフ議員、いや彼だけでなくディール議長にアントニオ副議長(彼はソロ国を抜け出したものの彼らの元には帰ってこなかった)、それにミッド議員にジョニー議員。彼らは亡くなってしまったかもしれません、しかし彼らの前に積まれたこの花束を見ればわかります。彼ら5人は我々の心の中で今もなお生きています」「彼らが生きているだ?」やはりリードの言葉には刺があった。
「『復讐でもするつもりですか』」メサドは誰かに操られているような生気のない声で呟いた。そしてその言葉が確信に近付くに連れ、大きくなるのを感じた。
「僕は昔両親と育て親を失った。それも議員になれば忘れていく存在なのだろうと誰かさんが僕に言った。それも確かにその通りだった。始めは復讐すると誓った心など忘れるわけがないと思っていたが、貴方の修行は辛く、両親と育て親の為の復讐心は消えていった。しかし彼らを尊う気持ちは忘れることはなかった。それも誰かさんが言ってくれたことだった。途中で議員になった理由が大きく変わった。そしてその誰かさんはこうも言った。八方議員になれば復讐するといった小さな心は簡単に忘れていくだろうと。それはつまり、その誰かさんが僕に『復讐など考えてはならない、その心の暗闇が僕を飲み込んでいってしまうから』と伝えたかったのかもしれないと今では思っています。今はその言葉に感謝しています。なぜならその言葉の御陰で今の僕がいるから。僕もその誰かさんに伝えたいことがあります。リード議員、貴方の友にその誰かさんが居るというのなら、僕のかわりに伝えてください。『僕は貴方の言ったことを自分なりに成し遂げたのだと思います。貴方も僕の言葉で元気になってくれるなら何度でも言いたいと思っています』」リードは返事をしなかった。
「リード議員、良き友を失ったことで貴方が変わることをその良き友は望んではおりません」メサドは深々と礼をし、1歩後ろへ引いてから、その場を後にした。

残ったリードはしゃがみ、花束から1本赤い花を抜き取り、地面に置いておいた水筒を手に取り、中の水をそれに流した。「我が名を誇れ」
彼はその花を高々と投げはなった。それは秋風にあおられ、遠く丘を越え、山を過ぎ、彼方に消えていった。リードは右拳を左胸に握り、それを見届けた。
「メサドとクルタウロン国へ、か。詳しいことは女王に聞いてからだな」リードはなるべく明るく振る舞い、丘を下った。


リードとメサドは無言で巨大船ゴールデンシップに乗り込み、クルタウロンへ出発した。もちろん2人の仲は悪くなったわけではないのだが、(何となく)関わりたくないといった風で壁を創っていた。そして2人は船内でも無言を突き通した。メサドは気にもならない爪(几帳面にカットされている)を擦り合わせ、リードは窓の外の宇宙を髪を整えながら眺めていた。





二十七、

共和国クルタウロン、国立第2空港に2人の乗るゴールデンシップが音もなく着陸した。扉が開き、リードが先ず降り、続いてメサドが降りた。2人をニーナが出迎えてくれた。もちろん彼女はメサドに再会することで胸がいっぱいだった。
「来て早速で申し訳ないのですが、こちらです」ニーナは右手で2人を招き入れるように会議室へ勧めた。そしてリードとニーナが横に並び、メサドがその後を付いていく格好で会議室に入っていった。
しかし実際には会議室ではなく、その奥にある厳重な守りの倉庫に行き着いた。そこで彼女は鍵を開け、指紋認証、網膜スキャン、静脈認証、暗証番号と扉を開けていった先には白い部屋が広がっていった。天井と壁と床の全方向から照明が照らされ、妙に眩しい。そして中央には細い三脚の机があり、その上にこれまた白い箱が置かれていた。
リードとメサドは乾燥し張り付いた喉奥を唾を飲み込むことで一時的に潤した。「あれは?」リードはからからの声で呟いた。そして部屋へ入ろうとするとニーナに止められた。「待ってください」ニーナは分厚い壁にある手形認証に手を当てた。するとその手形に緑の線が辿っていき、辿り終わると。
辿り終わっても何も起きなかった。「赤外線レーザーですか」リードが言った。つまりこの部屋にかけてあった赤外線を解いたということだった。
そしてようやくリードは部屋の中に入った。続いてメサド、最後にニーナ。
リードは箱に手を掛けたが、全く動く気配がなかった。「すみません、その箱は私のこれでしか開きません」するとニーナはスカートのポケットからカードを取り出し、それを箱の上にある溝に差し込んだ。
「箱はカードを差し込んでいないと爆破しますから、抜かないでください」ニーナは付け足すように言った。そして箱が開き、中のものが皆の前に姿を現した。
リードはそれを包んでいたスカーフを開き、現物を出した。「柄、ですか?」彼の言葉通り、それは剣の柄だけだった。見た目は只の鉄棒に見えるが、何か仕掛けがあるのだろうか。
「皆さん離れてください」ニーナはリードからメサドと護衛を離した。「リード議員、その赤いボタンを押していただければ」ニーナが言い終える前にリードはそれを押した。
そのとき、電子低音と共に青い光の線が1メートルほど柄の端から伸びた。周りに漂う埃と触れ合うたびに静電気のような音が発せられた。「これがライトサーベル」リードはそれに惚れ惚れしたように見つめた。「レーザー弾のような電子攻撃は全て返すことが出来ます。試してみますか」リードはニーナの話を聞きながら、ライトサーベルを誰にも当たらないように軽やかに振り回していた。
そんなリードを見ながら、メサドは誰にも見られないようにニーナの背中に手を回そうとした。が、彼女に叩かれた。ここではダメ、と。メサドは目を細め、我慢した。
それから3人はライトサーベルの試し斬りに外へ出た。

ソー国では農民が食用野菜の収穫が終わり、来年に向けて新たな種を植え、実りを祈って待つこの時期、クルタウロン国はちょうど地に眠る野菜の新芽が出揃い、実がなるまで丁寧に育てる夏の始め。この時期のソー国に吹く秋風と違い、クルタウロン国は湿った熱気が背中にのし掛かるように漂っていた。
工場が並ぶ一郭の開けた草原でそれは行われた。「準備が出来ました」途切れそうなニーナの声の通り、リードを囲んで総勢10人のクルタウロン国軍が重装備に銃を構えていた。「大丈夫でしょうか、本当に」ニーナは再度リードに聞いた。「えぇ、大丈夫です。全てを弾き落とします」リードは自信満々に答えた。「それではお願いします」
リードは何の変哲もない柄を取り出し、光の刃を伸ばした。それを華麗に体の周りで振り回し、ライトサーベルを持った右手を視線の先に延ばし、左手を剣に沿うように構えた。次の瞬間、10方向からリードの体に向けてレーザー弾が飛んできた。一瞬のことだった。
彼は目にも留まらぬ速さで、足下に来た2発を地面に円形に焼き跡を残し、ライトサーベルで弾を弾き飛ばし、次に残りの8発を体を回転させることで自由に動き、全て弾き返した。それも飛ばしたレーザー弾を誰にも当てぬようにライトサーベルの角度を変え、地面に返したのだ。
メサドはその全ての動きを見逃すことなく見、即座に頭の中で彼の動きを再生した。やはり彼は凄い。メサドは確信した。誰にでも出来る技ではない、あの動きは。メサドは言葉を無くした。
しばらくの沈黙の後、ニーナとメサドの拍手が聞こえ、続いて10人兵が銃を置いて拍手。リードは名残惜しそうにライトサーベルを直し、ニーナの元へ歩いていった。彼はこの気候と今までにない動きで変な汗を掻いている。「貴方の剣術には恐れ入ります」ニーナの言葉は褒め言葉とも取れた。そしてリードは褒め言葉として受け取った。「流石です、リード副議長」メサドは『副議長』という表現に違和感を感じながらも、彼は『副議長』なのだから仕方ないと割り切った。しかし、メサドはあの時から父として慕ってきた間柄なのだから、自分は言わなくても良いのではないかとも思った。「あまり動かない箇所を動かすと、流石に応えますね」リードは苦笑いを浮かべた。「もう歳ですしね」ニーナは軽い冗談を言い、笑った。「はっはっ、言われましたな」リードも苦笑いから変わり、心から笑った、額を平手打ちして。
そんな2人に見向きもせず、メサドは何度もリードの動きを頭の中に刷り込ませていた。
2人の談笑も終わり、ニーナが帰りましょうと言ったとき、メサドが2人の動きを止めた。「僕にもライトサーベルを試させて貰えませんか」




二十八、

帝国ギマール、大議長室。シリウスが広い1室で椅子に座り、肩肘を付いて物思いに更けていた。彼の頭の中には、遠い昔に見たものが古びた映画館で上映されるようにカタコト鳴らしながら流れていた。しかし皆の自分を見る目が違った。『リスト=ヴィ・ナシス』皆が俺をこう呼んでいる。自分の中にこの男の血が流れていると誰に言われなくともわかる。全く忌々しいにもほどがある。俺はリストで、リストはリストだ。「俺は何だ」シリウスは呟いた。そして、不意に出た言葉が妙に頭にきて、眉間に皺を寄せ、頭を抱えた。
その時大議長室の扉が開いた。入ってきたのはサルファードのようだった。シリウスは彼を横目で見た後、すぐに視線をそらした。「シリウス卿、ガーマン・フリーの殺害が成功したと」シリウスは手を振り、わかったと表現した。ガーマンは共和国の収容所で共和国にいる帝国スパイに殺されたのだ。情報を漏らさぬために。
「それから、あれが完成しました」サルファードのこの言葉にシリウスは顔を上げた。
「今からでも見に行きましょうか」サルファードはシリウスの機嫌を伺いつつ、尋ねた。シリウスの反応は良く、サルファードは助かった。「わかった。連れて行ってくれ」シリウスは重い腰を上げ、立ち上がった。「こちらです」サルファードが先に行き、シリウスはその後ろを付いていった。
透明のガラスで出来た筒状の廊下を2人は歩いていた。シリウスは1歩出す度に黒衣を揺らしているように見えた。透明の廊下の下で例の『あれ』が造られていた。「早いな。寺井がクルタウロン国へ行き、その情報を聞いて製造工程を見ただけで造るとは」シリウスは感心していた。
2人は廊下の先にあるエレベーターに乗り、階下に降りた。そして階下で造られている物の試作品が飾られているガラス張りに行った。「美しい」シリウスは声を漏らした。シリウスは誰の許可も取らず、ガラス張りの扉を開け、中の物を手に取り、感触を楽しみながらガラス張りから出した。彼は怪しげな笑みを浮かべ、それに付いていたボタンを押した。
すると光の線がそれから伸び、剣となった。「見事だ、ライトサーベル。しかしまだ重たいな。もう少し改良を加えてみても良いだろう」シリウスはリードがやったように、それを手の中で上手に回転させた。そしてその光の刃を見つめ、また奇怪な笑みを浮かべた。




二十九、

共和国クルタウロン、夜。メサドとニーナは彼女の寝室で両手を繋ぎ、ベッドに座って見つめ合っていた。彼らを照らすのは、大きな出窓のカーテンの揺れに倣う、ベッドの横に置かれた綺麗な棚の上のロウソクの火だけだった。2人の瞳はその火の光が反射し、ともに光っているように見えた。2人の間で沈黙が続いていた。2人にとってその沈黙も嬉しかった。
「嬉しいよ、ニーナ」メサドは聞こえないほど小さな声で言った。しかしニーナにはしっかりと聞こえた。それは2人の顔が数センチメートルも開いていなかったから、とニーナには彼しか見えていなかったから。「綺麗だよ、ニーナ」ニーナはその言葉に赤を赤らめた。火の光で赤くなっていたものの、それでも分かるほどニーナは顔を赤らめた。
そして彼女はメサドの手を包み込むように持ち、そのまま自分の頬に持っていった。それからメサドの若いながらもたくましい手を頬に当て、目を閉じた。「嬉しい」ニーナも呟いた。メサドは彼女に見とれながら、少年のような笑顔を見せた。「柔らかいね」ニーナは時たま少年を思わせるそんな彼が好きだった。
しかし今のメサドは少年のような無垢ではなかった。今すぐにでも彼女を愛したいのだ。彼女の柔らかい肌をもっと触りたいのだ。彼女の全てを知りたいのだ。
「メサド、大丈夫。具合でも悪いの」メサドが唇を噛み締め、その欲望を押し殺していた所為でニーナに要らぬ心配をかけさせてしまったようだ。メサドは笑って誤魔化した。しかしその衝動は抑えられなかった。握っていたニーナの手を離し、抱きしめた。いきなりのことにニーナはわけもわからず、戸惑ってしまった。
「ごめん、僕もう耐えられない。君から離れたくない」メサドの本心から出た言葉にニーナは涙した。「私も」ニーナはメサドの耳元で囁いた。
メサドは唇を震わせながら、同じくニーナの耳元で囁いた。「ニーナ、君は僕が守る。だからこれから先、ずっと一緒に居てくれないか。誰にも傷つけさせない。誰からも恐い思いをさせない。だから――」
ニーナはメサドが最後に言おうとしたことを止めた。「結婚は駄目よ、貴方と私とでは違いすぎる」メサドは返ってくると予想していなかった言葉に驚き、そして悲しんだ。「関係ない。僕とニーナ、位が違いすぎても、この気持ちは割り切れない。君と一緒に居られるなら何だってする」彼がそこまで想っていることに彼女は感激し、すぐにでも結婚を認めようと思ったが、理性がそれを邪魔した。
ふと、メサドがニーナを抱きしめる力が弱まり、静かにニーナから離れていった。ニーナは彼が諦めてしまったと思い、後悔した。しかし実際は違った。メサドは窓の外から会話を聞いていた者に気づき、ニーナから離れたのだ。メサドが窓の外の陰を睨む形相は今までに見たこと無いものだった。愛する者との大切な時間を潰した輩を見る目は恐ろしかった。
「誰だ、そこにいるのは。出てこい」その言葉に気づかれたとわかった彼は揺れるカーテンを開き、姿を現した。「リード副議長」メサドが彼を見て言った一言にニーナは驚き、窓を見て確かめた。
確かにそこにはリードが腕を組んで立っていた。「すまない。彼女に用があって来たのだが、偶然にも見てはならないものを見てしまったようだな」どうやら最初から聞いているらしかった。
「話は全部聞かせて貰った。まさかメサドとニーナ女王がこんな間になっていたとは気が付かなかったな。私の勘も鈍くなったものだ」リードはメサドを見て、微笑んだ。彼から全くと言って良いほど邪気がなかった。むしろ喜んでいるように見える。
リードは両手を開き、メサドを抱き入れた。しかしメサドはすぐにその手から逃れた。「どうした、メサド。私は喜んでおるのだぞ。人を愛することも許されない程の厳しい修行しかしてこなかったお前が人を愛する喜びを知ってくれたのだ。私は大賛成だ。もちろんニーナ女王、あなたもメサドと一緒にいることを望んでいるのならの話だが」そう言い、ニーナに目をやった。
彼は不本意と思いながらもメサドの為だと、故意にニーナの気持ちを言わせるように仕向けた。ニーナはリードをひたと見つめていた。そして先程までの声と大違いな女王の威厳のある声で言った。「私は彼を愛しています。全てを捨てでも彼と結婚したいと思っています。それでもまだ不安があり、決めかねました。しかし貴方のその言葉を聞き、私はようやく自分の気持ちがわかった気がします。私はメサドと結婚したい」その言葉にメサドは先程以上に驚き、彼女を見返した。
「もちろん私は2人を応援しています。ですが、私に国民に納得させるほどの権力がない。後押しはできますが、2人で何とか頑張って頂きたい」メサドはリードの方に向き直った。彼の目には涙が溜まっていた。「メサドおめでとう。ここで言うようなことではないが」メサドはゆっくりとリードの胸の中に顔を埋め、啜り泣いた。
「父さん、ありがとう」メサドは彼の胸の中で呟いた。リードはその言葉に感激した。そして両手で彼を包み込んだ。彼の目にも涙があった。それを誤魔化すようにメサドの背中を叩き、震える声で言った。「ほら、女性が見ているんだ、泣くな。男だろ」
リードは今まで一度もメサドに父さんと言って貰ったことが無く、それが堪らなく嬉しかった。
それを見ていたニーナも陰で目頭を押さえた。
「さて、男達の慰め合いなど見たくないな。時間を邪魔して悪かった。結果を聞いたら静かに立ち去ろうと思ったのだが」リードはメサドを放し、来た道を帰っていった。

残されたニーナとメサドはまたしばらく沈黙した。メサドがリードが消えると涙を拭って、ニーナに向き直った。「へへ、めそめそしたところ見られたな。格好悪いや」メサドは輝く笑顔をニーナに見せた。
するとニーナも先程と違い、少女のように笑った。「ありがとう。結婚してくれるって」メサドはニーナに手を差しのべた。ニーナはその手を取った。と思ったときにはメサドに引っ張られ、キスをしていた。
ニーナは驚いていたが、嫌とは全く思っていなかった。軽いキスで名残惜しそうにすぐに唇を離した。ニーナが含み笑いをするとメサドもそれに合わせて笑った。
そして彼女が言い訳を言おうと口を開くと、またメサドの唇が触れていた。今度は深く長く。メサドとニーナは互いに感触を味わい、息を吸い合った。しばらく経ち、ようやく離れた。そのとき2人とも無邪気な少年少女の笑みを浮かべた。
「愛してるわ、メサド」「僕も愛してる」メサドは再び彼女に口付けした。そして今度は彼女がメサドの顔をキスで覆った。


メサドはベッドの上で目が覚めた。隣には生まれたままの姿でシーツにくるまっているニーナが寝入っていた。スースー寝息を立てているニーナの頬にかかった髪を優しく指でなぞった。メサドは窓が開き、カーテンが揺れているのが目に入った。ベッドから降り、窓際に歩いていった。そして縁を手でなぞり、外を見た。そこにはクルタウロンの夜が広がっていた。メサドは上半身裸で壁にもたれ掛かった。そこには無情の笑みがあった。
そして自分らしくない気がして、髪を掻きむしってベッドに戻った。そして彼女の寝顔を撫でた。本当に少女にしか見えない。メサドは彼女の寝顔を見るだけで心が和むのがわかった。また彼女の頬にかかった髪をなぞり、その後それをどけ、頬に軽いキスをした。それからメサドはニーナを包み込むように隣りに寝転がり、2人で同じ夢を見ることを願って深い眠りに入った。



☆evergreen

song and words:HYDE
english translation:lynne hobday
arranged by HYDE

窓の中の僕は
グラスの水に
差した花のよう

淡い日差しに揺れて
まどろみの底
気づく夏の気配

無情な時計の針を
痛みの分だけ
戻せたなら

あぁ、おかしな君との日々を
あふれるくらい
眺めるのに

This scenery is evergreen
緑の葉が色づきゆく
木漏れ日の下で
君が泣いている

優しい季節を呼ぶ
可憐な君は
無邪気になついて

そっと身体に流れる
薬みたいに
溶けていったね

This scenery is evergreen
儚いほど途切れそうな
その手をつないで
離さないように

This scenery is evergreen
可哀想にうつむいてる
悲しい瞳を
ぬぐってあげたいのに

近付く終わりに
言葉ひとつ言い出せない
This scenery is evergreen
愛しい人よ


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