the Fourth Avenue Cafё

EP3:Pieces,3



帝国巨大船が議会棟を倒壊させた一瞬をリードと同時に違う場所で見ていたメサドは全く目が離せないでいた。コイン片手に操る催眠術に虜にされていく観客のように、目が議会棟の崩壊に釘付けにされていた。彼の網膜に反射し、目が真っ赤に揺れていた。
「そんな。なんてことだ」
彼の頭に悪夢が再び甦った。ジリジリと焦がし、狂わせていくように脳裏に焼き付いた悪夢だ。なぜなら、議会棟の地下に彼女ニーナが隔離されている(自らしたのだが)からだ。いくら頑丈な壁で何重も重ね守られているとはいえ、あの絶望的な規模の爆発が起きたのを見てしまっては、あれほど地下へは戻らないと彼女に言い聞かせたメサドも只では居られなかった。
彼は気付いたときには走り出していた。それが彼の運命を狂わすとは誰1人わからないでいる。破滅へのロンドは既に動き始めていたのだ。
彼は丘を越えた、崩れて岩が突出している平野で狂暴化した獣と闘っていた。もちろん彼はライトセイバーで鼠1匹逃さず、斬り殺している。溝にはまり、のたうち回っている象のような巨大な狂暴動物(糞尿を撒き散らし、悪臭を充満させている)を首から切り落とし、その悪臭の立ち込める場所から一刻も早く離れ、丘へ向かったが、吹き乱れる風の所為でなかなか悪臭の漂う範囲を出ることができなかった。
彼がマントを鼻にあて、臭いを紛らわして丘を走っていると、同じく(彼とは反対側だが)臭いから逃げてきた獅子のような中型の動物の群れがメサドに気付いた。彼もその群れに気付き、その場を避けて通ろうとしたが、そうは問屋が下ろさなかった。中型動物が逝かれた目を狂わせ、皮が剥がれて膨張した筋肉を奮い立たせ、一心不乱に彼に突進してきた。彼も対抗して走った。もちろん彼女の居る地下へ向かう為でもあった。
能ある鷹は爪を隠す。獅子のような中型の動物は小さな口を大開き、はち切れんばかりの牙をむき出しに飛び込んだ。
「どけろ」彼は怒りを隠した静寂な声音で言い、全く怯むことなく――いや、彼の目は今や意志がないかのように朦朧と焦点があっていなかった――、足下でタイミングを合わせ、群れの1匹目を腹から切り込み、腰を回転させ、2匹目の首をぶっ飛ばし、3匹目、4匹目を目にも留まらぬ速さで身体を真っ二つに切り分け、それでも彼は止まらず走り続け、血に飢えた獅子のような中型動物も走り続けた。彼は群れに飲み込まれていくように中枢部へ入り込み、中でも光の刃の手を休めることはなかった。赤い悪血が飛び散り、ついには彼は群れを縦断し、低い姿勢で最後に振り切った格好で止まった。群れは飛び込んできた車に続いてぶつかる渋滞の車のように前から順々に崩れていった。
彼は変わらぬ表情で低い姿勢からまた踏み切り、走り始めた。「ニーナ」彼は無表情で彼女を呼んだ。悪夢が再び彼の頭の中で暴れ始めた。





二十、

今やクルタウロンは中心都市部から崩壊していき、全土で暴走した動物が繁殖していた。
ルサーズと分かれたフィルスティーヌは20メートルは優に超える象のような巨大動物が灰となった街を歩いているのを見た。それは建物を紙で作った折り紙のように簡単に潰して、我が物顔で道を自らつくって通っていた。ある建物は蹴られ、もうある建物は踏み潰され、人々が技術と労働を備えて造ってきた街をこうも簡単に潰されていくと憤りを感じられずにはいられなかった。
「糞野郎。可愛い象は好きだが、こうまで暴れられたら殺すほかねぇだろ。まったく」彼は袖で隠していた装置で矢をその象のような巨大動物の横腹に射、それについた糸を巻き戻し、宙を舞い、象の横腹に到達した。「おさらばだ。これ以上お前の姿を目に焼き付けたくない」彼は小刀を取り出し、それを象の横腹に突き刺そうとした。が、全く刃が通らず、逆に折れて高く飛んでいった。「ほえ~、硬いな。まぁそちらの方が好都合だぜ」彼はレーザー銃を取りだし――片手を離した瞬間、落ちそうになりまた身を巨大な体に寄せた――、それを先程小刀で傷1つ付けられなかった場所にあてがった。そして鈍い音を立てて、発砲した。ようやく皮膚に少しの穴が空いた。彼は笑みを浮かべ、レーザー銃をまた腰に戻し、今度は懐から異形の銃を取りだし、また穴に銃口を突き刺した。「中の肉が軟らかいことを祈ってるぜ」彼は銃を発砲した。銃弾が体内で肉を裂いていき、胃の手前で止まった。象は急に身体を揺さぶり、痛みを紛らわせ、雄叫びを上げた。その揺さぶりにフィルスティーヌは振り落とされ、宙を躍ったが、しなった象の鼻に振り切られ、地面に叩き付けられた。彼は腰を痛めたようで、歯を食いしばり腰を押さえて、立ち上がった。八方議員特有の茶マントも白い砂で汚れてしまっていたため、彼はそれを叩いていた。すると今度は暴れ狂った象の足に思いきり蹴られ――鞭打ち状態で身体が逆に反った――、建物に突き刺さるように激突し、中で大きな物音を立てて治まった。建物の壁に彼の通った大きな穴が空き、重みに耐えきれず、建物全体が崩れた。彼はすぐに瓦礫の中から這い出てきて、象を見上げた。
象は未だ苦しそうに暴れ回り、地団駄を踏んでいた。その度震度8はある地震が起きている。彼は確信した目で象を見、右手を挙げて叫んだ。「爆発だ!」すると象の中に差し込まれた銃弾が一気に膨れ、象の硬い皮膚の中で爆発した。所々ある象の身体の傷の穴から火と煙と血が混じって噴き出した。フィルスティーヌが先程「硬い方が好都合だ」と言った理由がこれのことである。爆発が外に漏れずに、中で事を済ませる。
象は白目をむき、足を滑らせ、今までにない大きな地震を起こし、倒れた。右手を挙げて立っていたフィルスティーヌはライトセイバーを取り出し、華麗に振り回し、最後に自分の決まった構えで止まり、1人舞台の幕を閉じた。
フィルスティーヌは瓦礫の上から降り、道へ出た。その時、ルサーズが飛行車に乗って飛んできた。「フィル!」彼は右手を振り、合図を送った。フィルスティーヌも右手を振り、返した。するとルサーズの乗る飛行車が低空飛行で彼の横を過ぎていった。その一瞬でフィルスティーヌは車の窓枠を掴み、一緒に空中へ上がった。そして飛行車のルサーズの助手席に乗った。





二十一、

黒いブーツで音を鳴らしてスターキーは歩いていた。両手を広げ、勝利者が負け組に交わす笑みでカイトを見た。方々からの鉄糸が体中に絡まり、完全に身動きできない状態で両手を広げ跪いた格好のカイトは顔を血塗れにし、右腕を切り落とされていた。脳のない猿のように目を虚ろにし、思考を止めてしまった。カイトは上半身の服がほぼ切り刻まれ、無く、絡まる鉄糸は生々しくも彼の身体に刺さっているものもあった。貫通した鉄糸が傷口から流れ出る血の通り道となり、地面に血を染みこませている。
「元来人は争いを好む性質があるようだが、私はどちらかというと好まない。争いで得られるものなど損害でしかない」スターキーは両手を広げ、彼の周りを歩き、持論を展開していた。というより武力行使を自慢していた。「だから私は争い事があると決まって、あることをする。それが何かわかるかね」カイト1人を小学習室に呼び出し、説教たれる教師まがいな口調で問いただした。そしてカイトが答える気がないのをわかっていた。その為答えを待たずに自ら答えを言った。「そう、反乱者を優に上回る武力で破滅し返す。完全なる力の前にそれは無力に等しいのだよ。つまり今の君の状況だ。僕の戦法を分かって闘いに挑んだのだろう(尤も元々スターキーはカイトに奇襲を駆けるつもりで尾行していたのだが)?馬鹿は嫌いだ。もっとも私も戦い馬鹿だがな」
スターキーがカイトの髪を鷲掴み、頭を左右に振った。それでもカイトは目を覚まさなかった。「さぁ、どうだ!この状況で反撃してみろよ!」スターキーは唇を巻き上げ、歯を剥き出しに脅した。「俺はお前に似た男に一度やられた。そいつが憎いのだよ!そいつをこの手で殺してやりたい!」彼はカイトの髪を思いきり引っ張り、カイト自身に見せつけるようにした。「お前とは違って髪の黄色い奴だよ!今でも思い出すと腹が立つ」
スターキーはカイトの頭を投げ飛ばすように放し、カイトから少し離れた。頭を垂れたカイトは笑った。その笑みがスターキーに見え、彼の怒りを買った。「殺す!」スターキーはライトセイバーを抜き、カイトの首に振り下ろし、直前で手を止めた。カイトの首がライトセイバーの熱で少し焼けてきた。それでもカイトは抵抗しようともしなかった。
それが許せなく、スターキーは腹立たしげに地団駄を踏んだ。「その笑いは何だ!私に勝てると、ここから巻き返せると確信した笑みか?勝率でもあるのか。なら、やってみろ!この状況から抜け出し、私を殺してみせよ!」
カイトは顔を上げ、切られた瞼の下の灰色の瞳でスターキーを睨んだ。「俺は最後まで抵抗し続けるつもりだ」彼は足に仕込んであった銃を衝撃を与えて作動させ、自動連射させた。レーザー弾は地面に穴を空けていき、戸惑うスターキーを横目にもう片足を縛っている鉄糸を千切り(もちろんその足にもレーザー弾が当たり、犠牲にしたが)、自由になった足でスターキーの手を蹴飛ばし、ライトセイバーを遠くへ飛ばした。しかしこれでもう彼の左足は使い物にならなくなったが。
呆気にとられたスターキーはすぐにレーザー銃を取りだし、カイトを撃った。が、弾は命中したにも関わらず、カイトは全く衰えず、身体を大の字から脇をしめて、鉄糸を引きちぎろうと必死になっていた。吠え、叫び、喉が嗄れているのもお構いなく、彼は米神に筋を浮かばせ、叫び続けていた。その間もスターキーはレーザー銃を連射していた。だが、彼には全く効果がないのだ。彼の身体と壁や帝国軍隊員を繋ぐ鉄糸が徐々に伸びていき、彼は壁板を剥がし、鉄糸の刺さった地面を盛り上げ、隊員を引きつけていった。彼は体中を奮い立たせ、鉄糸を引きちぎろうとした。
スターキーは撃つのを中断し、援護で撃ち始めた隊員を中断させ、彼の頑張りに賞賛した。カイトと敵同士になってしまったことを恨んだ。スターキーは先程持論を展開させたが、心からはそう思っていないようだった。彼は闘いに誇りを抱いていた。卑劣者(サルファードは典型的な人物である)ではないのだ、少なくとも。スターキーは口を真一文字にし、覚悟を決めた。
あと少しで鉄糸を引きはがし、自由の身となるところだった。
「お前と1対1で闘いたかった。勿体ないことをした。お前が共和国八方議員であるとは」スターキーはカイトの額を撃ち抜き、静かに銃を戻した。
カイトは目を虚ろに完全に思考を停止させた。残りわずかの鉄糸に揺られ、頭が振り子のように揺れた。彼の羽織っている布きれが風に吹かれ、なびいていた。


至る所から帝国軍隊員が姿を現した。この数を見てしまってはさすがに自暴自棄になるのもわかるものだ。「こいつを繋げ!見せしめに車で大通りに出るぞ」先程の善人のスターキーからまたいつもの帝国軍司令官へと顔を戻した。
魂のないカイトは隊員に暴れ出さないか不安な面もちで見られながら、鉄糸から引きはがされ、戦車のフロントに十字架に駆けられたマン・ジーザスのように吊された。そしてカイトの吊されている戦車にスターキーと3人の隊員が乗り込み、発車した。残りの隊員はまた方々へ姿を消していった。





二十二、

リードは猪のような巨大な動物を手懐け、その背に乗って帝国軍を蹴散らしていた。横から襲ってくる獅子のような暴走動物を的確に撃ち殺していき、横に並んで攻撃してくる帝国軍の乗る飛行車の群れを順々に潰して、風を切るように走り続けた。
彼が向かう場所は議会棟から丘を越えた先にある空港だった。そこに戦闘機がたくさんあるはずだと彼は予測していた。ゴールデンシップに内蔵された戦闘機は全て出尽くしている為、そこでしか戦闘機は見つからない。
彼が丘を下り始めた頃でも襲ってくる攻撃は止まなかった。彼は空を見上げ、1機の帝国軍戦闘機が後を追って飛んできているのを見つけた。すると戦闘機は彼に照準を合わせ、両翼から発砲してきた。続けて雨のように降ってくるレーザー弾を彼は引き紐を上手に使いこなし、華麗に避けていった。しかし、帝国軍戦闘機も攻撃をやめず、今度は下口から大砲を出してき、そして砲撃した。大きな弾は彼の乗る猪のような動物の足下に当たり、爆発を起こした。
リードと猪は吹っ飛び、坂道を転がっていった。リードは身体を痛めないように上手に転がったが、猪の方は尻から落ち、背骨を逝かしたらしい、のたうち回り、息を荒げている。リードは空を見、過ぎていく戦闘機にフィルスティーヌが用いた銃を使い、発砲した。弾は煙の軌跡を残していき、見事戦闘機に命中し、大爆発を起こした。そしてすぐに猪の元へ駆け寄り、頭を撫で耳元で囁いた。
「ありがとう、助かった。君を利用した形になってしまったが許してくれ。ここからどうか1匹で逃げてくれ。私は急がなくてはならんのだ」リードは猪からどんどん遠ざかり、空港へ走った。
空港と戦闘機が眠る倉庫が見えたとき、1機の帝国軍戦闘機が彼の上を目にも留まらぬ速さで通り過ぎていき、空港に爆撃を喰らわした。倉庫は一瞬に炎を上げ、崩れていき、灯台は根からもぎ取られたように崩れていった。リードは足を止めた。
「くそおぉぉぉぉーー!!!!!!!!」彼は大声で叫び、地面を殴った。彼の目から涙が零れだした。彼の中で敗北が目に見えた瞬間だった。




二十三、

飛行車に乗り込んだフィルスティーヌとルサーズは広い森の上空を飛び越え、次の街へ移っている所だった。もちろんその街も完全に崩壊し、人がいる気配などしなかった。上空から下を覗いたいつも陽気なフィルスティーヌでも溜め息をつくほどだ。
「こいつは酷いな。もう再生も無理だろうな」フィルスティーヌが下を覗いたまま呟いた。車を運転したルサーズはその言葉が気に入らず、すぐに注意した。「言葉を慎め、俺達はここでの損害を食い止めるために来たんだぞ。その俺等が諦めてどうする」
フィルスティーヌは席に戻り、憤慨そうに背もたれにもたれ掛かった。「それはわかってる。ただお前だって心の片隅では思っているんだろ。それを言葉にしにくいお前の代わりに俺が言ってるんだ」ルサーズは唇を噛んだ。「俺が障害者みたいな物言いはやめろ。正常だ。どちらかというとお前が喋りたがりに病気に駆られているんだろ」
フィルスティーヌは不満そうに口を引きつらせ、また外を見た。
2人の関係はいつもなら穏やかなものなのだが、決まってこういう状況になると喧嘩腰になる癖があるようだ。2人の間の空気が悪くなったときだった。ルサーズはバックミラーを見て、舌打ちをし、車の速度を上げた。フィルスティーヌは姿勢が崩れて椅子の上で転倒しそうになり、また悪い癖が出た。「おい!何だ!いきなり速度上げるなよ。危ねぇーだろ。蹴り落とすぞ!」
「ごちゃごちゃうるさい!喋るな!お前はまだ気付かないのか!後ろから帝国軍の戦闘機が追いかけてきてんだろ」ルサーズはハンドルを左に回し、飛行車を左に急転換した。そこでまたしてもフィルスティーヌが転倒した。「嘘だろ!」フィルスティーヌは後ろの窓を見て確認した。
ルサーズの言う通り、後ろには帝国軍戦闘機がこちらを追って飛んできていた。それも4台。フィルスティーヌはてっきり1台かと思って余裕ぶっていたが、4台を目の当たりにすると一瞬血の気が引いた。それもこの飛行車には武器など装備されていないただの通行車なのだから。
「はっはっ、これはどうするんだ、ルーシー!」「その呼び方はやめろ!」フィルスティーヌの方は案外平気だった。戦い慣れしているせいか、余計な自信がついていないかルサーズは心配した。それだけ危険な状況なのにフィルスティーヌは全く怯んでいないのだ。
皮肉だが頼もしい限りだ――
先頭の戦闘機が飛行車に向けて発砲してきた。ルサーズはすぐにハンドルを巧みに使い、レーザー弾を避けて、より高く上昇した。それを追って、2機の戦闘機が上昇した。ルサーズは直ぐさまハンドルをまたもや切り替え、下降した。そしてすぐに2機の戦闘機も下降し、下の2機と合流した。
「まったく!」ルサーズは舌打ちをし、フィルスティーヌの方を見た。彼はまたもや転倒していた。「おい、フィル!外へ出て1機くらい落とせ」「(俺を車から)落とすなよ!」フィルスティーヌはすぐに座り直し、先程象のような巨大動物を爆発させた異形の銃を取りだし、銃弾を1発込めてから天井を空けて外へ出た。危うく突き抜ける風に飛ばされそうになったが、足を固定し、天井に立ち上がった。強く吹き抜けていく風が彼の髪とマントを激しく揺らしている。「よっしゃ!」フィルスティーヌはその銃を構え、2機縦に並ぶ戦闘機に向けて撃った。銃弾は白い煙の軌跡を残すよりも速く、一瞬にして1機にぶち当たり、後ろのもう1機もその爆発に飲み込まれ、大爆発を起こした。『×』の形に火が走り、2機の戦闘機は灰の屑となり風にあおられて、遠く消えていった。
「うっしゃー!!!」彼が右手を挙げた瞬間、飛行車は大きく左に曲がり、一気に下降していった。彼は今度は本当に落ちるかと思い、心臓が飛び出しそうな思いだった。「おい!何やってんだよ!落ちるだろ!」「お前はこれくらいで死にはしない。俺はそう思ってるがな」ルサーズは皮肉そうに答え、残った2機の追い上げに焦り始めていた。
「絶対、あとの2機消えた後、お前を殴ってやる!」彼は天井から滑るように車内に戻った。「これでどうだ!ほら、今度はお前がもう2機落とせよ!」ルサーズは返事をせず、バックミラーと睨み合いをしている。フィルスティーヌは折角2機落としたのに、不機嫌になった。
2機の攻撃は止むことなく、飛行車に撃ち続けられていた。車体に穴が幾つも空き、そろそろ落とされるのではないかと思われた。
「おいおい、ルーシ-、何してる。落ちるぞ!さっさと反撃しねぇーと」フィルスティーヌも焦りを感じ始めた。「お前、弾は?」ルサーズが横目でフィルスティーヌに聞いた。「いや、さっきので使い果たした」ルサーズはハンドルに拳をぶつけた。
それでも戦闘機の攻撃は止むことはなかった。「じゃ、一大決心をしなくちゃな」ルサーズが汗のにじみ出た顔でフィルスティーヌを見た。「はぁ?」「だってもうあれを落とせる武器ないんだろ」「まぁ」「だったら、武器を作る他ねぇーだろ」ルサーズは苦笑いを浮かべ、速度を最大に切り替え――フィルスティーヌはまたもや転倒した――、手荷物を腰に提げた。
「お前もさっさと荷物をまとめろ」「おい、待て。もしかして」フィルスティーヌは感づいた。ルサーズがやろうとしている苦肉の策を。
「しかし、それでも落とせるのは最低でも1機だぞ」「1機でも落とせれば、良いじゃないか」「お前の運転の腕があれば、奴等を何とか出来るとか――」「この蜂の巣状態の只の車で何が出来る。元からこの車のハンドルは動きにくいから、どう考えたって無理なんだよ。ほら、荷物まとめたか」ルサーズは扉を蹴飛ばし、すぐにでも外へ出られるようにした。扉は飛行車の後ろへ流れるように飛んでいった。フィルスティーヌも自分の横の扉を蹴飛ばし、自由に外へ出られるようにし、ルサーズの肩を力強く握った。「それならしっかり暴れようぜ」ルサーズは頷き、フィルスティーヌは荷物をすぐにまとめた。
「それじゃ」ルサーズは作戦を実行した。ハンドルを360度回転させ、ブレーキを同時に踏んだ。ルサーズとフィルスティーヌは同時に車から飛び降り、回転しながら浮遊した車は後ろから追ってくる戦闘機1機に突進していった。そして見事作戦は成功し、飛行車と戦闘機が激突し、爆発した。
急降下していくフィルスティーヌとルサーズは手を繋ぎ、地面へ猛突進していった。それを追って爆発を通過した残りの1機が火の中から姿を現し、2人を急降下してきた。そして攻撃はまだ続けられていた。戦闘機の方が優に速度は上で、もう2人を目の前にまで見据えていた。
2人は完全に死ぬと確信した。
そのときだった。大きな翼を持つ鳥のような生物が大きな嘴(くちばし)で戦闘機をくわえ、首を振って、戦闘機を真っ二つに割った。そして空から同じような鳥が集まってきて、戦闘機を操縦していた帝国軍の隊員を我先にと食い散らかしていった。
2人はそのまま地面へ落ちていた。そしてすぐにマントを自分の所へ引き寄せ、大きな風船にして速度を落としながら、地面に着地した。2人ともバランスを崩し、尻餅をついた。そして空で大鳥の群れが食べた戦闘機の残骸が遅れて降ってきた。2人ともそれを見て大笑いした。全く笑える光景ではないが、2人にとってそれは滑稽でならなかった。
ルサーズが先に立ち上がり、フィルスティーヌに手を差しのべた。彼はそれを快く受け取り、立ち上がった。
それから2人は周りを見渡した。そこは中心都市から森を越えた先にある発展都市のはずだった。高層建物が建ち並び、それを行き来する透明の通路が通っている都市であったはずなのに、今はその建物が動物の死骸が突き刺さっていたり、柱だけが無防備にも突出していたりと。建物を繋ぐ通路は既に無くなっており、途中で折られたように地面に転がっていた。この都市も既に灰色グレイとなっていたのだ。
「ここもやられていたのか」ルサーズは頭を抱えた。「後で共和国軍に来て貰って、生き残っている者はいないか、捜索して貰おう。俺達は先ずリード副議長のところへ報告に行かなければ」「どうやって戻るつもりだよ」フィルスティーヌは落胆した。それを嘲笑っているかのように降ってきた戦闘機の部品から煙が立ち込めていた。
「走るしかないだろ。それとも」ルサーズが言いかけた時、2人の目が合った。そして「どっちが先に見つけられるか、競争だ!」と叫んだ2人は走って壊れた灰色の都市の中へ消えていった。





二十四、

巨大な帝国船から投下された爆弾が議会棟に直撃し、大きな炎と煙を上げて爆発した。その地下ではニーナが危ないとわかっていながら扉を叩いていた。この扉は暗証番号で開く型の為、どれだけ力で開けようとしたところで開かない。彼女は暗証番号を知っていて普通なら難なく外へ出ることが出来るはずなのだが、先程の爆発で鍵が故障し、全く作動しなくなったのだ。
「そんな!嘘でしょ。開いてよ」彼女は機械を必死に作動させようとしたが、電源すら付かなくなっていた。彼女は外で何が起きているのか全く分からないため、不安でならなかった。メサドの安否だけでも確認したかった。だが、外の光景がわからない状況でどうメサドの安否を確認するのか、出来るわけがない。そこには前にも似たような光景が広がっていた。
ニーナは器用な手先で機械のパネルを剥がし、中の電線を操作し始めた。中の白い箱の蓋を開き、電線を確認したが、中の方で何本か千切れていた。彼女は持っていたパネルを床に投げつけ、膝から崩れ落ちた。室内ではクロスが泣き叫んでいた。彼女は母としてクロスを守らなければならないと思い返し、すぐに立ち上がった。そしてクロスをなだめた。
「さっきの地震からしてどこかで大きな爆発があった。もしくはこの上の議会棟で」彼女は何か閃き、壁の棒を取り出し、それで天井を小突いた。すると薄い壁しかない独得な音が聞こえ、確信した。「出られるかも」彼女はその棒で天井を殴った。
すると砂が天井から降ってきて、薄い板が割れた。彼女は手で目を隠し、漏れた日の光に歓喜した。そしてすぐに壁の近くの天井をもう一度殴り、今度は大きな穴を開けた。壁の近くなら、壁を登って外へ出られるかもしれない。
彼女は女王らしくなく一度壁をよじ登り、顔だけ外へ出し、様子を確認した。そこは何もない床が広がり、高いところに穴だらけの天井と柱があるだけのところだった。ここが議会棟の1階ロビーだとは思いたくなかった。ここ数時間でここまで変わっているとは。彼女は絶望の念に駆られた。
それからここにいつまでも居たら危ないと踏んだニーナはすぐにクロスが泣いている地下に戻り、クロスを抱き上げ、なだめながら、天井からクロスだけをまず外に出し、それから自分がよじ登って外に出た。赤い絨毯が広がっていたはずのこのロビーが今では真っ白な砂で覆われ、床に鉄柱が突き刺さっているところもあった。だが大半は砂場のようだった。それから例のように1階の高い天井は吹き抜け状態となり、今や5階の天井が姿を見せるほどだった。綺麗に舗装されていたはずの壁も剥げ、骨組みが露わに曝されている。
ニーナは普段仕事では使わない腕を使い、自らの身体を外へ追い出し、クロスを抱き上げてこの場をすぐに離れようとしたが、そこに置いたはずのクロスがいなかった。確かに彼女はそこにクロスを置き、すぐにでも動けるようにしていたはずなのに、そこにはクロスは居なかった。
だがその代わりといっては何だが、機械の3本足がそこにはあった。そして視線を少し上げると見慣れた顔とそれが抱いているクロスが目に入った。彼女に安堵の表情が伺えた。
「エンジェル」彼女は立ち上がり、服にまとわりついた砂を払うのも忘れ、エンジェルを抱きしめた。「ありがとう、ここに来てくれて安心したわ」
彼女の瞳に涙がたまっていた。「ごめんなさい。貴女を放って逃げておきながら、今更こんなことを。本当にごめんなさい。許して」彼女はエンジェルの平たい頭に額をくっつけ、意思を伝達させるように啜り泣いた。「泣かないで、ニーナ王女。貴女様がお泣きになられると私まで悲しくなります」
ニーナは唇を噛み締め、微笑んだ。「これは違うの。悲しくて泣いてるんじゃないの」
クロスが2人の間に挟まれ、静かに寝息を立て始めた。
だが、すぐに寝息は爆音や振動音によって掻き消された。「逃げましょ」ニーナはクロスを抱き上げ、エンジェルの手を引いて見覚えのある通路を通って外へ出ようとした。だが、その場所は巨大な象のような生物が突っ込み、その場で息絶え、道を塞いでいるため、出ることが出来なかった。
そのとき、胸を突き抜ける針のように鋭く、雷のように刺激のある悪寒が走った。悪い予感を感じたニーナは不安な面もちでクロスの寝顔を撫でた。「お願い、無事でいて、メサド」
彼女は、この悪寒はメサドに何か良からぬ事が起きたときのものだと感じたが、それは違った。この寒気は彼女自身を危ぶむものであった。
そして象の死体が横たわる場所で立ち止まった3人の耳にこちらへ近付いてくる足音が聞こえた。そして土の塊踏み潰していくような破裂音も聞こえた。彼女は共和国軍が助けに来てくれたと歓喜し、そちらへ走ったが、同時に心の奥で後ろ髪を引くものが微かにあった。そこへ行っては駄目だ。逃げろ、ニーナ!メサドの声が光速で頭を走り去っていった。
だが、すでに遅かった。彼らはすでに彼女のいる場所のすぐ前にまで来ていたのだから。
そして曲がり角から姿を現したのは血色に着色された戦車だった。そしてその先頭には血塗られた十字架のようにカイトが縛られていた。
彼女は口を覆い、涙が溢れださせた。
戦車が静かに止まった。上の蓋がぶち壊されるように勢い開き、黒髪の長い男が姿を現した。髭を蓄えたその男は彼女を見つけると獲物を見つけた蛇のように舌なめずりをして戦車から飛び降りた。
ニーナは瞬時にクロスを胸に強く抱き、放すまいと身構え、元来た道を走って引き返した。だが、スターキーに足下の地面を撃たれ、それに足が絡まり、大きく転んだ。もちろんクロスは放り出され、また泣き始めた。彼女は歯を食いしばってすぐに立ち上がり、クロスを抱き上げ、物陰に身を潜ませた。するとその周りがスターキーのレーザー弾によって蜂の巣のように穴だらけとなった。彼女は大雨のように飛んでくるレーザー弾を必死に身を縮めて逃げたい衝動を我慢した。
そして大雨が止んだ。彼女は少し間をおいてから、スターキーの方を一瞥もくれず、すぐに走り出し、細い通路に逃げ込んだ。彼女の先を行くエンジェルは広い先程のロビーで彼女を待っていた。
細い通路を抜けたニーナは逃げ出したという歓喜に、エンジェルに手を振る勢いで駆け寄っていった。その瞬間だった。
彼女は罠にかかった兎のように足を動けなくされ、悲鳴を上げてその場に転んだ。今度もクロスは放り出された。彼女は先程のようにすぐに立ち上がろうとしたが、右足が完全に動かなかった。急に焦りだした彼女は右足を見て気絶しそうに目眩に襲われた。彼女の右足から止め処なく血が流れていたのだ。そして細い通路の口では先程の黒髪の長いスターキーが腕を組んで立っていた。彼の顔には笑みが広がっていた。
ニーナは自己決断で外へ出た。そして今のこの状況になってしまっている。彼女は頭の中が申し訳ない気持ちと絶望でいっぱいだった。「そんな、そんな」彼女は呟き、右足を押さえながら、必死に立ち上がろうとしたが、やはり彼女の華奢な足はすでに神経を切られているように動かなかった。
「そんな、そんな。動いてよ!」彼女は泣き叫び、自らの右足を殴った。それでも右足は意識を回復しなかった。
その間もスターキーは例の笑みを浮かべて彼女に歩み寄っていった。
ニーナは彼が近付くに連れ、恐怖で顔を引きつらせ、地面を這いつくばるようにクロスのところへ行った。そして泣きじゃくるクロスを抱き上げ、母として守る姿を彼に見せた。
「おうおう、美しいねぇ。お若い女王の威厳、もしくは母の愛とやらは」スターキーは両手を広げ、賞賛した。彼のブーツの足跡が響いてくる。
ニーナが歯を食いしばり、立ち向かう決心をしたときだった。彼女の陰からエンジェルが姿を現した。あの給仕型のロボットだ。
「女王、ここは私に任せて。お逃げ下さい」エンジェルはスカートのような円錐の下半身を開き、中から銃を突き出し、それを有無を言わさず、連射した。スターキーは不意の攻撃にすぐさま物陰に避難した。
エンジェルの弾は細い通路の入り口とその壁に穴を開けていき、砂埃を上げていった。砂埃が視界を奪っていくのをニーナは黙って見つめていた。そしてエンジェルの弾が止んだ。
「さあ、ニーナ王女、逃げてください。まだ彼は生きています。だから」「いや駄目よ。早く一緒に」彼女を見つめるエンジェルの視線がスターキーへと向けられた。
ニーナもそこへ視線を向けた。
砂埃が舞う中から1発の銃弾が飛んでき、彼女の腹に突き刺さった。




二十五、

悪夢は振り払っても振り払っても彼の頭から消えなかった。
メサドは彼女の待つ議会棟へ走っていた。彼の周りの時間が止まってしまったのかと見まがうほどの速さで――風を切るように、隙間を縫っていくように――彼は走っていった。
『君はここの王女であり、僕の妻なんだ!お願いだ。自分勝手な行動だけは慎んでくれ』そう彼女に言い聞かせ、彼女を放って飛び出してきたのは自分のはずなのに、今の彼はその言葉が自らの口から発せられたとは思われないほど、彼女を想って引き返していた。こんなことになるとわかっているのなら、はじめから彼女を連れて出てきた方が良かったのかもしれない。はじめから自分の本当の気持ちをわかっていたなら。
メサドは彼女の安否が未だ分からないため、不安でならなかった。まだ地下で共和国軍が助けに来てくれるのをずっと待っているのか、それとも既に地下まで火が回り、全て焼き払われてしまったのか。ニーナもクロスも。
そして実際、今彼女に起きていることも知らなかったし、予想など出来なかった。スターキー。彼がその場に行ってるなど。
低い姿勢で次々と前に立ちはだかる帝国軍を斬り殺し、変格動物を玉砕していった。
そして彼の目の前に倒壊した議会棟が姿を現した。





二十六、

ニーナは腹に手を抑え、苦痛に顔を歪めていた。それでも耐えられず、地面に這いつくばって腹を抑えながら、のたうち回っていた。そして何度も拳を地面に打ち付け、痛みを堪えていたが、もう彼女の身体は限界に達しようとしていた。
彼女の手から滑り落ちたクロスはまた泣いていた。彼女は血の付着した手でクロスを胸に抱き、祈った。ただ既に彼女の祈りは『ここから逃げ出せますように』ではなかった。
『クロスが無事逃げ切り、父メサドの手の元で寝息を立てますように』
彼女はクロスを震える手で止まってしまったエンジェルに渡した。エンジェルは意識を取り戻し、無言で受け取った。「この子を連れて逃げて」ニーナは真っ赤に染まった手でクロスの頬を撫で、力を振り絞って上半身だけでも起こし、息子の額に口付けた。彼女は唇を噛み締め、堪えていたが、とうとう瞳から涙を溢れ出させた。
その時、砂埃の中からもう1発のレーザー弾が飛んできて彼女の脇腹に突き刺さった。彼女は一瞬顔を歪めた。それを見たエンジェルがスターキーのいる砂埃の中へ跳びかかろうと身構えたが、ニーナの手に止められた。「駄目、早く。早く逃げて」彼女は穏やかな眼差しでなだめるようにエンジェルを見つめて言った。
そして息子を抱きしめているエンジェルを突き放した。エンジェルはしばらくそこに立ちつくし、ニーナを見つめていた。
彼女は掠れた声で叫んだ。「早く逃げて!さっさと逃げてよ」彼女の細い首に筋が浮かび上がった。エンジェルは命令通りに動いた。3本足を巧みに使い、後ろへ方向転換し、人間では追いつかない速度で素速く走り去っていった。
この場にはニーナとスターキーの2人だけになった。
「さあ、どうするおつもりですか?オルガモード女王」砂埃の中からついにスターキーが姿を現した。彼は彼女に銃を突きつけたまま歩いてきた。彼女は上を見つめ、負傷した右足を使わないようにゆっくりと立ち上がった。「ここから先は行かせません」彼女は両手を広げ、彼女の後ろに続く道を塞いだ。ただ彼女の細い身体では心細く見えたが、彼女の心の決めた表情が彼女を大きく見せた。
「行かせません――ねえ。あなたに何が出来ますか!」スターキーは発砲した。弾は彼女の左手首に焼け跡を残し、静かに血を滴らせた。ニーナは目を瞑り、歯を食いしばって痛みを我慢した。それでも彼女は道を塞ぎ続け、スターキーがそれを拍手喝采で賞賛した。「素晴らしい。美しいものだ。だが、その分脆く崩れやすい」
スターキーは今度は彼女もう一方の脇腹を撃った。彼女は痛みに耐えられずその場に跪いた。「はっはっは、オルガモード女王のそんな姿は見たくないな。いつも貴賓でお美しい貴女様がそんな涙で顔を汚し、それならまだしも、今は血塗れで跪いておられる。これは参ったことだ」スターキーは戯けたように額を平手打ちし、舌を出した。だが、それはまるで彼女を嘲笑っているようにしか映らなかった。
「黙りなさい、囚人」彼女ははっきりした口調で告げた。そう、女王の威厳を醸しだし――
「囚人ねえ。長生きしたけりゃ、頭を付けて謝りな。それから俺の靴を舐めろ。何処かの若者のようにな。まあ今はご立派な八方議員へと昇格したらしいが」彼女は眉間に皺を寄せた。「無駄口を叩く前に、その銃を下ろしなさい。あなたも私もここで死ぬって言ってるのよ。ここが私とあなたの墓だわ」
スターキーから笑みが消えた。「聞き捨てならねえな。誰がここで死ぬって?ここで死ぬのはあんただけだろ?」スターキーは再び彼女の腹を撃った。今度は倒れ、先程のように地面をのたうち回った。スターキーが奇声を上げた。
「そう、残念」彼女は最後の力を振り絞ってスカートを捲り上げ、太股に隠してあった小型の銃で横の壁を撃った。何が起きたのかよく分からなかったスターキーは笑ったままの大口で止まっていた。
すると彼女の弾が当たった壁が軋み、接着部分が外れた瞬間、支柱に建物の全重量がかかり、難なくへし折れ、次々と部品が降ってきた。スターキーは両手で細かい部品から身体を守っていた。そしてそれが止んだ。「くそお」スターキーは憤怒に口を歪ませ、ニーナへ襲いかかろうとした瞬間、最後の重たい天井が2人のいる場所へ降ってきた。
「やめろおおお!」スターキーが悲鳴を上げた。天井は鈍い音を立てて2人に迫ってきた。
ニーナは苦痛から解放された気持ちで静かに瞳を閉じ、全てを待った。その瞬間だった。彼の呼ぶ声が彼女の頭に直接届いた。
ニーナは直ぐさま顔を上げ、そちらへ視線を向けた。細い通路からメサドが姿を現した。
すぐに立ち上がり、走って彼の元へ行き、彼の胸で何度も彼の名を泣き叫ぼう。だが彼女の身体は全く動かなかった。
そして彼の名を呼ぶ直前で天井が彼女を踏み潰した。
そして時が止まった。

















二十七、

議会棟へ到着したメサドは大きな物音を聞き、胸騒ぎがした。しかし立ち止まることなく、中へ突入し、その音の方へ走った。壊れた通路を通り過ぎ、戦車の通った跡を見つけた。再び、彼を胸騒ぎが襲った。すぐさま跡をたどって走った。
そして戦車を見つけた。すると戦車から帝国軍が2人飛び出てき、メサドに襲いかかった。彼は無言で無表情に2人をなぎ払った。そして後ろから不意を狙って襲ってきたもう1人の隊員の首を切り落とした。
彼は戦車を後ろから前へと見回していき、言葉を無くした。戦車のフロントに掲げられたカイトを見た瞬間、目の前が真っ暗になった。ライトセイバーを落とし、亡き友に歩み寄った。乾いて固まった血の川の流れる頬を撫でて、頭を抱きしめた。彼は既に息をしていなかった。
そしてまた大きな物音がし、建物自体が崩れはじめた。メサドはカイトから離れ、ライトセイバーを再び手にした。彼の目が変わっていた。今までに見たことのない怒りに狂った龍を宿している。彼の握り締められた左拳から血が垂れた。
彼は物音の方へ走った。
そして揺れる震源地にたどり着き、スターキーの背中を見た。彼は天井を見上げていた。メサドは直ぐさま構えたが、何処か心の中で違和感に気付いた。メサドも天井を見て、事態に気が付いた。その瞬間、まただった。悪夢が彼を支配した。
「ニーナ!!!!!」彼は叫び、細い通路へ入り、ニーナとスターキーのいる場所へ出た。
ニーナはそこで倒れていた。長い髪が流れるように地面に垂れ、微かに顔がメサドの方へ向いた。メサドは駆けだした。ニーナをこの場所から早く避難させ――
彼女が口を開くのを見た。そして同時に天井が彼女の上に覆い被さった。
メサドとスターキーは後ろに立つ柱に天井が突き刺さり、救われた。砂埃がこの一帯に巻き上がり、嵐のように視界を奪っていった。
メサドは言葉を無くし、ただ立ちつくしていた。目を見開いたまま、動かなくなってしまったメサドだが、彼のマントと髪だけは風になびいていた。彼の横でスターキーが救われた奇跡に大声で歓喜した。だが、そこには時間が止まったかのように無音が流れていた。
彼女は死に、時が止まった。





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