the Fourth Avenue Cafё

EP3:Pieces,5



ゴールデンシップは重たい巨体を水面に浮かべたように、のっそりと飛行していた。その下は既に破壊し、灰色へと豹変している。大小多種の足跡が道筋を造っているのが目に見えた。
その景色を見下ろすアントニオとリードは行き場の無くした思いを内に溜め込んでいた。ただただ今は歯ぎしりをし、唇を噛み締め、耐えしのぐしかなかった。
そんな折り、アントニオが口を開いた。「私は、あの時、ディール議長――今ではもう亡くなり、元議長となるのだが、私の中では今も永遠の議長なのだ――とミッドと共にシリウス卿と闘った時、真理を知ったのだ。荒れ狂うこの世で永遠に不滅な物はないと。もちろんディール議長も私の中では永遠だったのだが、現に不滅してしまったしな。それもこれも全て私の所為だと自負している。あの時、あの場へ赴かなかったら、こんなことにはならなかったのではないか、と。しかしそんなチンケな決意も全て真理に動かされているのだ」リードは外の殺風景を見つめ、唇を真一文字にして聞いていた。
「つまり、全ては真理に動かされているのだ」「<運命>。私はメサドにそう言った」リードはメサドを、あの凛々しく成長した青年を思い浮かべ、目頭を熱くさせた。アントニオは<運命>の言葉を聞き、一瞬素っ頓狂な驚き方をしたが、全てを見守る父の笑顔で返した。「ある地域ではそういう言い回しもあったな」
しかし、そんな言葉リードには耳にすら届いていなかった。彼は<宇宙全土を救う少年>なのだぞ。何故、その彼が――
「しかし御言葉ですが、メサドはどうなるのです!」リードは堪えきれず、アントニオの方を睨んだ。「全てがその<真理>によって動かされているのなら、メサドはどうなるのです。彼が今、静かに眠っていることも<真理>なのですか!<運命>なのですか!メサドは<宇宙全土を救う少年>なのですよ!彼は何も知らず、この戦地へ身を投じ、その報いがこれですか!何のために彼を<宇宙全土を救う少年>に仕立て上げたのですか」
「落ち着け!」彼の空気をかっ切るような声が操縦室に振動した。「落ち着け、リード。彼が、今の彼が、彼全ての<真理>なのだ。現に彼は私達の運命を大きく変えた。もちろん彼自身の運命も。そしてニーナ女王、息子様の運命も」リードはその言葉に何か希望のようなものをくみ取った。「クロス」
リードは床を見、呼吸を整えた。「そうさ。これが<真理>なのなら、まだ<希望>はある」アントニオはリードのこの言葉に救われた。「今、<宇宙全土を救う少年>の血はクロスに流れている。それに<世界を愛する少女>ニーナ女王の血も受け継いだ少年だ。彼が本当の<宇宙全土を救う少年>なのではないのか、リードよ」リードは一度落ち着いたが、それでも心の中では腑に落ちなかった。「では、メサドはその少年を産ませただけの道具なのですか」「違う。彼はその少年を生んだ無二の父なのだ。<宇宙の平和を見守る父>なのだ」
リードは必死に涙を堪えた。彼に対する厳しい修行は報われたことは認めたものの、まず彼にあって謝りたい気持ちでいっぱいだった。


「アントニオ元副議長はこの3年間、人間の心理に触れたと思います」リードは続く沈黙を破った。「死のうと思ったときもあった。生きている価値など無いに等しい。」アントニオは辛辣に言い、腕を組んだ。
「<真理>は経験して得る物。しかし無知な者に経験させて<真理>は生まれない」先を続けるリードにアントニオは不審な目をした。「何が言いたい」
「つまり、貴方は経験もしたでしょうが、誰かから<真理>を学んだ。違いますか」アントニオは眉間に皺を寄せ、視線をそらした。「いつか言う。私がこの3年間、何処で何をしていたかを」
座席について操縦していたルサーズとフィルスティーヌも振り返って、アントニオの方を見た。彼は非常に険しい表情で目を瞑っているだけだった。
ゴールデンシップが砂埃を巻き上げ、突進している動物たちの群れを捕らえた。





三十六、

外は灰色だった。メサドは全てを包み込む膜のような灰色の空を見上げ、心にぽかんと穴が開いた気持ちになった。尤も今の彼には心など持っていないに等しかった。数少ない稀少な彼の心は今、<復讐>の文字で埋まっていた。
何もない空間に乾いた風が吹き抜け、突っ立ったメサドの茶マントを吹きすさんだ。彼は朦朧とした瞳で辺りを眺め回した。「サルファード、いやシリウスか」彼はそう口ずさんである方向へ歩いていった。彼にはその先に何かを見つけたのだ。今の彼に敗北の文字は無かった。
彼は砕けたガラス片や小石を踏みならし、歩幅を広く歩いていった。そしてある場所に着くと地面に積もった瓦礫を蹴散らし、敷いてあった薄い板を剥がした。
そこに現れたものは、あるはずだったニーナの部屋だった。彼女の特注の赤い絨毯は引き裂かれ、白い砂に埋もれ、色を失っていた。メサドはそれを拾い、親指で生地を擦った。ほんの少し前までこの部屋で寝ていたとは思えないほど、それは形を成していなかった。懐かしい。
<復讐>を求めて彷徨うメサドは今、何を探し、何のためにここにいるのか、自らも知らなかった。ただ何かがここで彼を呼び止めているのは確かだった。
しかし彼には今、心を満たす<復讐>と微笑みかけてくれる『ニーナ』と『クロス』が必要だった。今の彼にはそれしかいらない。
そして彼はその声に呼び止められていることにも気付かず、再び復讐に道へ身を投じた。
「サルファード、いやシリウスか」

彼は窪んだ一郭へ来た。そこに彼の求めているものがあった。「待ってろ、望み通りそこへ行ってやる。そしてこの手で全てを壊してやろう」
彼の目の前に現れたのは1機の戦闘機だった。旧式で今は使われないとされている物だ。発車時とワープに大量の燃料を使うため、廃盤となり、消えていったものだった。彼には片道分で十分だった。何故なら、帝国を滅ぼせば、新たな機体は難なく見つかるから。
彼は1人で帝国に乗り込み、滅ぼすつもりだった。しかしそんなこと出来るはずがなかった。1分も持たないと彼は共和国で、その恐怖を教え込まれていた。だが彼は気持ちを変える気などさらさら無かった。
メサドには見えた。自ら帝国軍を壊滅させる場面が。帝国軍を壊滅させる確信が彼にはあった。
しかし、シリウスがその未来を妨げる大きな壁となるのを彼自身未だ気付かないでいた。
メサドは旧式戦闘機に乗り込み、俊敏に操作し、戦闘機を発車させた。旧式だからか、発車時に妙なコロコロという音が聞こえてくる。電子パネルの光が反射した彼の瞳は今も死んだままだった。
そして戦闘機が大空へと消えていった。
彼の運命、<真理>が大きく変わった。彼の傍にずっと居て、正しい道へ導いてくれていたリードやニーナは今はここにいない。もし2人がここにいたなら、彼の<真理>はまた違う方向へと向いただろうか。




三十七、

大小まばらで煌びやかな宝石が散りばめられた暗黒の絨毯のような宇宙を飛んでいるのはメサドの乗る旧式戦闘機だった。彼は座標軸を標準値に合わせ、目的地に座標を定めた。そして右端にある赤いボタンを押し、天井から吊り下げられた酸素マスクを口にはめた。旧式のためか、この機は大移動ワープのときに急激に気圧が変わり、酸素が激減する可能性があるらしい。メサドはレバーを引いた。
色鮮やかな星々が白線になって後ろへ流れていき、一瞬にして時空が曲がった。その瞬間、彼の乗る旧式戦闘機は白い光に囲まれたかのように瞬いたと思ったときには、目の前には帝国司令船RAVENがのっそりと構えていた。先程まで何も無かったその場所に帝国船が姿を現した。正確に言うとメサドの乗る戦闘機が一瞬にして帝国船の目の前に瞬間移動した、ということだった。
帝国船RAVENの周囲には取り囲むように浮遊する帝国戦闘機があった。それらがメサドの戦闘機に気付いた。だが、旧式戦闘機の速度は尋常ではなかった。次々と帝国戦闘機をシューティングゲームよろしく撃ち落としていった。速度が速ければ、それに付く操縦も容易ではないのは推測できる。しかしメサドはその難しい操縦を難なくこなしているのだった。
帝国戦闘機内では無線で情報を知り、駆けつけてきた物もあったが、命を捨てにくるようなものだった。帝国軍が無線に吠えているのが見える。「早く来い!何してる糞!」「何なんだ!あいつ。止めろ!誰か止めろ」
そうこうしている内に帝国戦闘機は次々と海の藻屑ならぬ宇宙の塵となって消えていく。
その時だった。帝国戦闘機全機に同じ放送が流れた。『道を開けろ。奴をRAVENへ招き入れるのだ』声の主はサルファードだった。
そして帝国戦闘機は言われたとおりにした。メサドは異変に気付くと一時待機して見守った。しかし一向に動く気配が無いと判断すると眉間に皺を寄せ、道のど真ん中を飛行してRAVENへ入っていった。
彼の<復讐>をサルファードが受け入れたのだ。戦闘開始。





三十八、

リード達の乗るゴールデンシップが脳のない動物たちが暴走している群れの先頭へ追いついた。それらは大きな一塊りとなっている。おぞましい光景だ。
リードとアントニオは前の巨大スクリーンに映し出される光景を前のめりで食い入るように見守った。「発見しました」フィルスティーヌが巨大画面を操作し、前方を拡大した。
「あっ!」誰もが息を飲んだ。南の都市ホーンテイルが動物たちの進行方向の先に広がっていたのだ。「速度上昇!」ルサーズが言うと操縦員全員が「速度上昇」と声を合わせて復唱した。言葉通り、速度が上げられた。危うくリードとアントニオは転倒するところだった。
「急げ。見たところまだ帝国軍に襲われていない。市民全て乗せろ。全員入る分はあるはずだ」リードが大声で命令した。
「間に合わない」アントニオが呟いた。「この速度では市民を乗せる時間がない」リードもそれを分かっていて、唇を噛んだ。だから先程叫んだのだ。「では見捨てるのですか!」アントニオは答えなかった。「どうするのです」
アントニオはしばらく思案した後、静かに口を開いた。「答えはある。私は初めからこういう運命なのだ。シリウス、サルファードとの戦いで逃げてこれたのはこれを成し遂げる為だったのだ」リードは何が言いたいのか、わからなかった。
「いつかは言うことになるだろうとは思っていたが、言わなければならない時がもう来るとは思わなかったな。先程、『いつか言う』といっていたことだ。私が何処で何をしていたか」リードは目を見開いた。
アントニオは続けた。「私は共和国の最端に位置するミリアンヌの更に端にある非境地で先程お主が言ったように<真理>を学んだ。全てを司る<真理>を」リードは何も口を挟まなかった。この時リードには終わりが見えた。自らの<真理>の終わりを。
「そしてこれが<真理>を知った者の力だ」彼は後ろに設置された机にある書類へ手をかざした。するとその書類は勝手に持ち上がり、そして空中を浮遊した。リードは何も口に出来なかった。いろいろな感情が頭に沸き上がってくるのが分かった。歓喜でもなく、憤慨でもなく、恐怖でもなく。この力をシリウスも持っているのを知っていた為、歓喜だけを感じ取ることが出来なかった。いやディール元議長も最後にこの力を使った。
「この力は<真理>を全て知り尽くした瞬間、生まれた」アントニオは喜びの反面、空しい感情に囚われた。書類が元の位置へ戻った。
「そしてこの力を持つ者の運命なのだ、<死>は。特別でない者は<真理>を知ってはならぬのだ」リードはアントニオにその力が備わったことを知った。しかし今のこの現状とアントニオの言った「答えはある」という意味が未だわからなかった。いや、わかったがそれは感情の表へ出すことが出来なかっただけか。
「つまり、私はここで共和国のため、命を張ってでも変格動物を止める。その間にお前達が市民をこの船に乗せ、逃げるのだ。それが<真理>を知った者の運命だからな。共和国のために死ねるのなら光栄だ」




三十九、

メサドの乗る旧式戦闘機が帝国船RAVENの船内へ入っていった。彼を待ち受けていたのは待遇の帝国軍だった。着地地点に整列している帝国軍。一寸たりともズレがない。
彼の戦闘機は整列している中に着地した。しかし彼らは全く動かない。皆同じ姿勢で固定されている人形のように表情一つ変えない。メサドはしばらく機内から様子を伺っていたが、動かないと分かると戦闘機の底の扉から帝国船の船内へ出た。メサドは白い砂によって色が失われ始めている茶マントを頭まで被り、顔が見えないようにしている。しかし彼の<復讐>に駆られた褐色の瞳が燃えているのが見えた。
黒いブーツの音が広い船内に響く。メサドの足音である。彼は整列した帝国軍の中央を歩いていった。招き入れられていることを彼はとうに分かっている。つまり彼はそのサルファードの戦略に乗ったということである。
これら全員を従えているかのように彼は堂々と中央を渡っていく。しかし彼らの列は一向に終わりが見えない気がした。一向に彼に、シリウスに届かない気がした。
その時、彼と相対する方向からサルファードが姿を現した。メサドの方へ静かに歩いてくる。そしてそれぞれ承知している距離で立ち止まり、素速く光の刃を構えた。メサドのライトセイバーは緑に光り、サルファードのそれは赤紫――どちらかというと紅色――に輝いていた。
「この場で私を殺し、このRAVENを爆破させるか?」サルファードは一切笑みを見せず、問うた。「俺の求めているものは彼女だ。<復讐>だ」
その言葉を発したときには既に2人の刃は交差していた。電子音が鳴る。「しかし残念だな。この場にはお前の墓石は無いぞ」同時に互いを弾き返し、再び距離が置かれた。しかし直ぐさま、2人は光の刃を交差させた。今度はサルファードの力が勝り、いやメサドが力を抜き、メサドは後ろへ下がった。彼はその間隔を活かし、サルファードの懐へ入り、顎を蹴り上げた。
サルファードは一瞬のことに何も分からなかった。頭の中がはじけたように瞬き、目は開いているはずなのに視界は暗かった。ふらつき、地上を彷徨った。顎が砕けたようだ。得意の悪態も口が動かないため、全く付けない。
その隙にメサドは一気に距離を詰め、サルファードへライトセイバーを振り下ろした。だがサルファードの的確なライトセイバーの捌き(さばき)に防がれた。攻撃の手を止めたメサドの腹へ彼は蹴りをお見舞いし、少しでも時間を作った。そして彼の視界が戻った。一方、攻撃を塞がれ、逆に腹に蹴りを入れられたメサドは後方へ下がり、体勢を整えた。
サルファードは口から垂れた血を袖で拭い、メサドは来ていたマントを脱ぎ捨てた。
メサドの頭に再び煮えたぎるような復讐の感情が沸き起こってきた。<復讐>。たかがこんな白髪爺に手こずっているなど。
メサドは低い姿勢で突進し、サルファードに光の刃を突き刺そうとしたが、彼のライトセイバーに難なく弾かれた。しかし、メサドは直ぐさま足を回転させ、身体を回し、左脇の下からライトセイバーを突き出した。それもサルファードに弾かれた。もっとも彼は精一杯それを弾き返したのだが。
メサドは互いのそれが交わった瞬間、掌返すように手首を回転させ、サルファードのそれを受け流し、彼の手首に自らのライトセイバーをあてがった。「待っ――」サルファードが制止させるよりも早く、彼はサルファードの手首を切り落とした。ライトセイバーを持つサルファードの右手首は高々と舞い上がり、不快な音を立て床へ落ちた。流石に周りを囲むあの帝国軍も出動した。彼らは一斉にメサドに発砲した。が、難なく全て弾丸は弾き返され、それを受け、次々と帝国軍が倒れていった。
「勝負あり」メサドはさり気なくそう言い、右手首を押さえ、尻餅付いたサルファードの所へ歩いていった。当のサルファードは悲鳴を上げ、尻餅付きながら、右手の方へ寄っている。サルファードはメサドの表情は一切変わらないのを見て、恐怖を覚えた。「待て!待つんだ!」彼は左手を広げて、メサドを制止させようとしたが、彼は聞き耳を持たず、サルファードの方へ歩いてくる。何人かの帝国軍がサルファードの所へ駆け寄り、上半身を支えた。「くそ!待つんだ!待てと言っているだろ!話せばわかる!<復讐>だろ、お前の望みはそうなんだろ。なら、ここにいる軍を好きなだけ斬れ!」その言葉に周りの軍の目の色が変わった。裏切られたような感覚。
それでもサルファードは続けた。「私はこの戦争に関与していない。いや反対しているのだ」彼を取り巻く隊員達の手が止まり、動かなくなった。そしてメサドが徐々に近付いてくるとサルファードから離れていった。
メサドはサルファードの前に来ると、ライトセイバーを彼の目前に突き立てた。「3分もかからず、お前は負けた。スターキーでもこんな情けない事にはならなかった。左肩を奪われた彼でも」サルファードはメサドを見上げた。「お前は生きている価値などない。ましてや死ぬ価値も」彼は冷徹に言い放った。こんな情けないサルファードは見たことがない。
「くそぉ!!!!」サルファードは金切り声を上げると、右手の落ちている所へ死にものぐるいで駆け寄り、それからライトセイバーの柄をもぎ取り、左手で構えた。だが、一瞬にして左手までも奪われた。
メサドは宙を舞う左手からサルファードのライトセイバーを取ると、自らのそれと合わせて両手のライトセイバーを跪くサルファードの首に十字架にしてあてがった。
「ジ、エンド」




四十、

「そんな――」誰もが息を飲んだ。ゴールデンシップ船内に沈黙が訪れた。その間も船体は着々と南の都市へ接近している。
「時間がない。迷って等いられない。私が犠牲になり、それで国民が救われるのなら、それが私が今まで生きてきた結果なのだ」アントニオはそう言うと外へ出る準備を始めた。操縦席に着いていたルサーズがアントニオの方へ躓きながら振り向いた。その顔は戸惑いを隠せないでいる。「しかし、まだ間に合うかもしれないって」「いや、お願いします。共和国のため身を尽くすことに心からお祈りします」ルサーズの慰めにフィルスティーヌが口を挟んだ。
フィルスティーヌは静かに立ち上がり、敬礼した。ルサーズよりも彼の方が状況を把握し、現実を受け止めていた。「おい!フィル」ルサーズは彼の言動に瞬間的に反応して、敬礼を無理矢理止めた。
「構わんさ、ルサーズ」アントニオはルサーズを制止させた。「ああ、国民のため私は生きてきた。今散らさぬ命に誇りなし」彼は操縦室を出ていった。リードは何も声をかけず、ただ外を見ているだけだった。
「到着しました。着陸します」気まずい空気の中、ルサーズは仕方なく席に着き、着陸態勢にした。今、ゴールデンシップは南の都市ホーンテイルに到着し、着陸する。
リードはその時、何を考え、何を思っていたのか。人生は<運命>、全ては<真理>。





四十一、

「ジ、エンド」不意に彼の交差させた2本のライトセイバーが色を失い始めた。電子光が荒く弾け、次第に光の刃は姿を消していった。流石のメサドもこれには目を丸くして驚いた。そして完全にライトセイバーは刃を失い、柄のみがそこに残った。
サルファードは救われた思いになった。故障――そう2人は推測したが、そんなものではなかった。ニーナの発明した物に不備が生じるなど考えられないからでもあるが、なら何故この瞬間それは色を失ったのか。答えはシリウスが知っていた。
「くそ!」メサドは柄を放り投げ、サルファードの顔面を蹴り飛ばした。彼は後方へ10メートル飛ばされ、吐き気を催した。安心すると両手の痛みが同時に彼の襲いかかってきた。またもや彼は悲鳴を上げた。そこに帝国軍総司令将軍補佐の面影は一切感じられなかった。
その時、メサドは一瞬のうちに圧迫された恐怖を感じた。それはシリウスのものだった。「全く。見ていられない」彼は遙か高見の天井へ繋がる階段から音を立てず、黒衣を引きずりながら降りてきた。彼もメサドのように黒衣を頭まで被り、顔は見えないようにしてあった。だがメサドの<復讐>に満ちた瞳が見えたように、彼の卑下な笑みが見える。
彼は後ろにジーバスを従えている。シリウスとメサドはこの時、初めて視線を合わせた。
「これでは補佐として従えている私に屈辱だ。消えろ、これからはお前が補佐として動いたらどうだ」彼は後ろのジーバスへ一瞥した。それを苦しみながらも耳にしたサルファードが汗を滲ませ、脂ぎった形相でシリウスを見上げた。「そんな!私が、私こそが貴方様のお供と、補佐と自負しております。どうか。どうか、まだ広い心で!寛大な瞳で見てくだされ!」サルファードは痛む両手首を床に付け、土下座をした。それでもシリウスは一切彼の方へ目を向けなかった。彼は依然とメサドと睨み合いを続けている。
「どうか!私を」しつこいサルファードをシリウスは目を向けずに、人差し指のみで奥の壁へ叩き付けた。彼の特殊能力だ。<真理>を知る者だけが許された境地。彼は特別なのだ。もちろんアントニオよりも。彼はただ<真理>を学び、知ったに過ぎない。
「さて、お前か<宇宙全土を救う選ばれた戦士>とは」シリウスとジーバスが階段を降りきった。つまりメサドと同じ位置に立ったのだ。
そしてメサドの<真理>が道を間違える。





四十二、

南の都市ホーンテイル市民が悲鳴を上げ、大通りを行き交いし、渋滞して混雑していた。そこにゴールデンシップが来たことにより、恐怖が増大していった。しかしそれが共和国の救世主と気付けば、皆方向を変え、ゴールデンシップへ駆け寄ってきた。
フィルスティーヌ、ルサーズの知れた顔が利き、皆が整列して船内へ入っていった。アントニオは船と迫り来る動物との間に入った。尤も変格動物はまだ遠く肉眼では把握できない所にいたが。しかし彼らの猛進する速さは計り知れない。2分もすればここへ到着するかもしれない。
今の彼は全てを受け入れた父の顔であった。吹き荒ぶ乾いた風が彼の異形の茶マントをはためかせている。薄い髪も虚しく揺れている。彼は舞う砂埃に目を細め、地平線を見据えていた。その先に奴等がいるのだ。
今、市民は丁度半分か船内へ入ったところだ。その時、アントニオは地平線の先に猛進する動物を見た。もうほんの数分しかここで待機できない。そろそろ発車させなければ、ゴールデンシップもろとも全てが粉砕されることになる。しかし船と動物たちの間に彼がいる。アントニオが居る。彼の<真理>が時間を稼げば、まだどうにかなる。
その間も着実に動物は彼らに近付いてきている。それにここにきて彼らは的を見つけると速度を上げるのだった。
「もう駄目です!時間がありません。これ以上乗せるのに時間が」共和国軍隊員が叫んだ。言葉通りだ。もう本当に時間がない。「駄目だ!諦めたら、終わりだ。まだ間に合う!急げ」ルサーズが叫んだ。市民の悲鳴に紛れて聞こえにくい。「てめえらはてめえらの使命を成すまでだ!誰もこの状況から逃げるな!立ち向かえ」フィルスティーヌも叫んだ。そこには既にあのフィルスティーヌは居なかった。冗談を言うことで現実から逃げていたあのフィルスティーヌは。

振り向き、その勇姿を見届けたアントニオは再び動物たちへ向き直った。そして今一度大きな深呼吸をした。動物たちの足踏みの震動が彼の足下にまで来ている。「全ては我が胸に、我が胸に眠れ。お前達は道を見失い、そして人間に脅威を奮った。どういうことか分かっているのか。禁忌だ。お前達が道を見失い、禁忌を犯したその瞬間から、お前達の運命は決まっていたのだ。全ては<真理>だ」
彼はそういうと両手を広げ、風に身を任せるように揺らめいた。そうして彼は彼らの足踏みを直に感じ取った。「お前達にはまだ心がある。その報われない気持ちをぶちまけようとこうして暴れているのだと。お前達の純な瞳に涙が見えるぞ。私が身を撤して、今、お前達を解放してやる」彼は瞳を閉じ、再び深呼吸をした。そして両手を下ろし、仁王立ちになった。
「そう言う貴方も心に恐怖を宿している」不意にアントニオの背後から声がした。そこに立っていたのはリードだった。
「別れの挨拶でもしに来たか」「ああ」「そんな物はいらん。さっさと皆を引き連れ、逃げろ」だが、リードは船へ戻らず、アントニオの横に並んだ。「これが、今から起きることが、<真理>なのなら、私の決断も<真理>だ」とリード。そして右手を開き、灰色の空から零れる日差しにかざした。「アントニオ元副議長、貴方は1つ大事な事を言わなかった。それは私が唯一自ら知った事だ。私がニーナ女王と親友関係にあったことでメサド――私の息子の、あのメサド――が彼女と恋に落ち、そして結ばれた事がその1つでもある」「何が言いたい」アントニオは眉間に皺を寄せた。
「貴方が言わなかった事、そして私が知った事、それは運命は縁であるということ。」アントニオは目を見開いた。「運命――または<真理>――は人との繋がりによって生まれ、強大となる。貴方のその力、それが<真理>の力なら、私が貴方と手を合わせれば、強大な<真理>の力となる」「やめろ」アントニオは静かに叫んだ。周りを黙らせるものではなく、人を納得させる、人の意見を押し殺すものだった。だが、リードは一向に怯まなかった。
「貴方1人の力で防げないと言っているのではなく、私も貴方と共にここで共和国のため、命を散らしてでも彼らを助けたいと言っているのです。貴方と生きたこの時代、今は私ら老いぼれは不必要なのだ」アントニオは納得できなかった。リードだけでも助けてやりたかった。息子を失った悲しみを背負ったこの男、このまま死なせることほど酷なことはない。「早まるな」「いいえ。私は既に決めていた。メサドを失ったその時から、私の役目は失われたと」
「しかし!しかし、お前にはまだやることがある。共和国を再建し、そして何よりメサドの息子クロスを育てなければ」アントニオの口を彼はその右手で塞いだ。「だから言ったでしょう。私の役目は既に終わった。時代は動いているのだ。彼の教育はフィルスティーヌやルサーズに任せれば良い。共和国はこの期に次の世代へ受け継いだのだ。彼らの世代へ」そう言うとリードは市民を船へ乗せているフィルスティーヌとルサーズの方へ視線を向けた。市民はもう残りわずかだった。残りわずかを乗せれば、ゴールデンシップは発進する。
「時間がない。もう動物たちも目の前だ」彼は今度は動物たちへ視線を向けた。彼らはもう目の前だった。地面の揺れも一段と激しくなっている。
アントニオはまだ腑に落ちなかった。だが、その反面、彼の目には涙があった。「しかし!」「もう!もう、良いんです。私達は私達の人生を、<真理>を、成し遂げた。そしてこれが若い者への最後の教えだと、そう思えば――」リードは茶マントを脱ぎ捨てた。それは風になびき、高く消えていった。
「私は何と言われようと退きません。ここが今の私の居場所なのです」リードは拳を握り締めた。
アントニオは涙を拭った。その目には決意がある。「最後まで、お前はわがままだったな」アントニオも同様に茶マントを脱ぎ捨てた。そしてそれも高々と舞い上がり、姿を消した。「頼もしいぞ、リード!心の折れそうな私を支えてくれ」とアントニオ。
「私は貴方を敬愛している。その気持ちこそが<真理>です」リードはアントニオへ手を差しのべた。アントニオは一瞬戸惑ったものの、決意は固く、それを握り返した。
そして時が来た。
国民は全て船に乗り、その船は今こそ飛び上がろうとしていた。だが間に合わない。彼らが飛び立つよりも早く動物たちはゴールデンシップに激突する。しかしそこにはアントニオ、リードが居た。2人は深呼吸した。「この力は目には見えない部分も全て知り尽くした<真理>によって操ることの出来るものだ。気の流れを感じろ。お前は私のその流れを読みとり、そして自らの流れを感じるのだ。お前なら一瞬で出来る」リードは緊迫するこの状況で心を無にし、自らを感じた。頭の天辺から肩、手先の爪へ、そして足首からその指先へ流れるように動きを感じた。すると驚くことにリードの流れがアントニオのそれと共鳴するように調和し、流れが1つとなった。アントニオは一瞬その末恐ろしい凄さに感激したが、そんな感激している時間はない。もう動物たちは目の前だ。「恐怖に打ち勝て。心を無にし、彼らを迎えるのだ」
そして動物たちが来た。2人の<真理>が交わり、消える。

「我が名を誇れ!永久に共和国!」2人は両手を広げ、彼らを迎え入れた。
そして猛進する動物たちが彼ら2人を潰した。その瞬間、彼らから聖なる光を発する光の刃よろしく青白い閃光が弾け、みるみるうちにそれは大きなドームを形成していった。そのドームは動物たちを全て取り囲むように広がっていき、やがてそれは風になびきながら、巨大な壁に変形していった。その壁に触れた動物たちは悲鳴を上げ、その皮膚は火花を散らせ、足を止めるに至った。
リード、アントニオによって救われたゴールデンシップは重い巨体をゆっくりと浮かせ、そのまま上昇していった。そして宇宙へ逃げていった。
船内では静かな時が流れ、ルサーズは泣き叫び、それを必死にフィルスティーヌが止めていた。ルサーズはリードをこよなく敬愛し、彼を思って議員になったのだ。だから、彼は尊敬するリードを目の前で助けることも出来ず、失ったことを悔やみ、嘆いた。全ては自分の所為だと、自分の力が足りなかったと。
フィルスティーヌは断腸の思いで彼ら2人を見送った。耐えられない屈辱で、尚も彼は耐えたのだ。抑えられないこの気持ちを堪え、迷いや自らの弱みを断ち切り、決意したのだ。
ゴールデンシップ操縦室では皆が敬礼した。敬愛なる八方議員副議長に心から御冥福をお祈り申し上げます。「我が名を誇れ」
ゴールデンシップは静かにソー国へ帰っていった。




四十三、

帝国船RAVEN。シリウスがメサドの方へゆっくりと歩いてきた。ゆっくりと、黒衣を揺らして。メサドは使えなくなったライトセイバーに一瞥したが、すぐにシリウスの方へ向き直った。「殺す」彼はそう呟くと茶マントを脱ぎ捨て、シリウスへ突進した。見る者を圧倒する速さで、俊足に。だがシリウスは一向に体勢を変えないで、薄ら笑いを浮かべたままだった。
そして。そしてメサドは遠くまで吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた。シリウスはいつもように右手を彼の方へ向けただけだった。<真理>これを知り、学んだだけのアントニオとは違い、彼はこれと共に生まれ、いや、彼自身が<真理>なのだ。
メサドはそれでも怯まず、再び長い道をシリウスに向かって、突進した。彼の前で高く跳び、レーザー銃を構えたが、再びシリウスの右手に阻まれ、遠くまで飛ばされた。しかしそれでも彼は諦めなかった。何度飛ばされ、壁に叩き付けられようと彼は足を止めなかった。それでも幾度と無く飛ばされ、壁に叩き付けられた。メサドの頭には<敗北>の文字が浮き彫りになってきていた。彼自身そう気付いているのだろうか。
そしてついに彼は動きを止めた。壁は何度も叩き付けられた為、ある一定の場所だけが深く窪んでいる。その下でメサドはぐったりとし、動かなくなった。呼吸も虫の息といったところか。「くそ・・・」周りを取り囲む帝国軍も見ていられなかった。
メサドはゆっくりと顔を上げ、霞んだ視界の中、シリウスを捕らえた。そしてその中にニーナを見た。その瞬間、メサドは狂ったようにシリウスに再び突進した。「くそおおおおおお!!」それは心底震えるほど低い声だった。
シリウス目掛けて銃を投げた。それはシリウスの手によって爆発を起こした。が、それがメサドの読みだった。その見えなくなったシリウスの前方の端からメサドは現れ、一瞬にして彼の懐に入った。そして彼に殴りかかろうとしたその瞬間だった。
メサドの身体はその床に叩き付けられた。彼の顔面が床に突き刺さったかのように埋まった。そして紅い鮮血がじわじわとシリウスの足下に広がってきた。シリウスの手によって彼は地面へ押し潰されたのだ。「<宇宙全土を救う選ばれた戦士>ねえ。これがそうか」シリウスはメサドの髪を乱暴に掴み、顔を上げさせた。その顔は鼻から血を出し、唇を切り、額に大きな切り傷をしていた。
「道を間違えたな」シリウスはそう言うとメサドを放り投げた。彼は骨のないタコさながら、無抵抗にその場に倒れた。「まあ、選ばれし戦士と謳われたお前も<真理>の前に役立たずだっただけだ」シリウスはそう言うとメサドの放り投げたライトセイバーの柄をその力で引き寄せ、握った。そして蛇のように舐め回すように見てから、メサドへ視線を戻した。メサドの方は何とか上半身を起こしたところだった。
「このライトセイバー、性能が悪いのか、故障か。随分と杜撰(ずさん)な剣だな。このがらくたを造ったのは何処の何奴だ」シリウスは答えを知っていた。もちろん、それはニーナだった。そして彼がこのライトセイバーの内部を遠距離から手で操作し、動かなくしたのだ。その為、これは故障などではなかった。
メサドはその言葉にかっとなり、シリウスに襲いかかろうとしたが、全く身体が言うことを聞かなかった。さらにシリウスは続けた。「私なら、これを一瞬にして性能の良いものにできるのだがな」メサドは堪えられなかった。この場面で何も出来ない。彼女を失い、その復讐にここへ来たのに、この場面で何も出来ない。屈辱だった。そしてそれがシリウスの狙いだった。
そう言うとシリウスは内部を操作し、ライトセイバーの刃を伸ばした。光の刃が元に戻った。色を失っていたはずの刃が再び光を取り戻したのだ。
その瞬間、メサドは絶望し、失望した。彼は運命を受け入れた。<真理>を受け入れたのだ。
「さて、そろそろ時間かな」シリウスはそう言うと元に戻ったそれをメサドの目の前に突き出した。「終わりだな。ジ、エンド」
光の刃はメサドの首に振り下ろされた。「ジ、エンド」メサドは最後に微笑んだ。
そしてメサドの視界は暗黒になった。<悪夢>




四十四、

星々が瞬く大宇宙をゴールデンシップがゆっくりと泳いでいた。巨大船にも関わらず、この宇宙の中では蟻にしか見えなかった。それに加えてその船の後ろ姿は重たかった。
敬愛する大議員リードとアントニオを犠牲にしてまで守るべきものがその船にあったのか。フィルスティーヌ、ルサーズ、互いに言葉は交わさないようにしていた。ただただ宇宙を見つめていただけだった。尤も2人ともその先にある者を見据えているのだが。
「俺達、間違ったのか」ルサーズが口ずさんだ。「判断を間違えなかったら、いや後少しでも早く行動しておけば」「違う。それは断じて違う」とフィルスティーヌ。腕を組み、辛辣に言った。彼も随分と長い間、考え込んでいたのだろう。広大な宇宙を眺め、自らを狂う程責め続けていたのだろう。その声は籠もって聞こえた。「アントニオ元副議長が言ったことを覚えているか、<真理>だ。それが答えなのだ。全ては<真理>で、俺達が今こうしていることも<真理>なんだ」
ルサーズは窓の台座に額を付け、それを力強く殴った。そして暗黒に反射する自分の顔を睨んだ。「何だ!<真理>って何なんだよ!言い訳が思いつかないときの逃げ道か!分からないことがあったら、その糞忌々しい言葉で片付けるんだろ!」フィルスティーヌは答えをすぐ返さなかった。
「そうだろうな、全てが<真理>なのだから、<真理>と言えば、それで質問に答えたことになる」「ほら、結局はそうじゃないか」フィルスティーヌは脂汗で滑る鼻を掻いた。「俺もそれが何なのか、結局の所わからない。だが、この目で確かに<真理>の力を見た。つまり俺達には分からない世界がまだまだあるということだ」
「それが<真理>ってか?トリックかもしれないだろ。全ては誰かが仕組んだトリック」「なら、それは神だな。神様が全て仕組んでいる」今のルサーズにとって彼のこの言葉は笑えなかった。フィルスティーヌの冗談も質が落ちた気がする。
「話の論点がずれてるのな。つまりだ。俺達がどうこうあがこうが、リード副議長とアントニオ元副議長は死ぬ運命にある」全く間違っていない真実にルサーズは一瞬怒った。フィルスティーヌの飾り気のない言葉が胸に刺さった。「そう考えたなら、共和国のため一生を終わらした方が、共和国のためにも自分のためにも良い。双方が救われる手段だった」ルサーズは自分の無力さを呪った。拳を握り締め、もう一度台座を殴った。「くそっ!!!」
フィルスティーヌは自らを責め続けて、出した答えだった。どれほど自分を責めたところでリード、アントニオの2人はフィルスティーヌとルサーズを救う最善の方向へ導くつもりでいたのだと痛感した。その2人の寛大さに全くと言って良いほど無頓着だった自らを責めた。
「俺にはまだ2人の気持ちが分からない。だから俺も<真理>を知りたい。<真理>を知り、2人と同じ位置に立ち、死を知る苦しみや逃れられない心の痛みを持ったときの心境を感じたい。俺は<真理>を知りたい」ルサーズは俯き、呻った。「俺は無力だ」鼻を啜る音が聞こえる。
「俺も<真理>を知りたい」とフィルスティーヌ。その言葉にルサーズは顔を上げた。「死んでも良い、何を犠牲にしても良い。<真理>を知りたい。その覚悟はある」彼は組んでいた腕を解き、目の前に拳を突き出した。

「答えはすぐに見つかる」とルサーズがおもむろに言った。「ああ」とフィルスティーヌ。2人が考えている事が合致した。「<宇宙全土救う少年>いや<全宇宙の救世主>」フィルスティーヌが意味深に言った。「彼か」ルサーズが身体を起こした。
「ハズホーに向かったとアントニオ元副議長が言っていたな」2人の目が合った。「クロス、彼が全てを知っている。<真理>は彼の手に託された」

ゴールデンシップがソー国を捕らえた。後数分もすれば、到着する。





四十五、

傷だらけの小さなポットが流れ星ならぬ速さで宇宙を駆けていた。船内では白い布に包まれた赤ん坊が寝息を立てている。その胸には小刀が眠っていた。
ポット船体が遠く燃える赤結太陽の光りに照らされ、反射していた。船全体に広がる傷全てが露出して見えた。
船内に設置された座標画面がふと点滅した。『目標地点座標344・23、ソロに到着、着陸します、着陸します、着地体勢に備えて下さい』そしてクロスを乗せたポットが帝国ソロ――旧、共和国本国――へ引きつけられていった。




☆Pieces

words:hyde
music:tetsu
arranged by L'Arc-en-Ciel & Hajime Okano

泣かないで泣かないで大切な瞳よ
悲しさにつまずいても真実を見ていてね
そのままのあなたでいて

大好きなその笑顔くもらせてごめんね
祈っても時の流れ速すぎて遠くまで
流されたから戻れなくて

あぁ穏やかな輝きに彩られ
歳月は夜を夢に変えるみたいだから目をこらして さぁ!

あなたのすぐそばにまた新しい花が生まれて
木もれ日の中で鮮やかに揺れてる

いつまでも見守ってあげたいけどもう大丈夫
優しいその手を待ってる人がいるから顔を上げて

ねぇ遠い日に恋をしたあの人も
うららかなこの季節愛する人と今
感じてるかな?

あぁ私のかけらよ力強くはばたいてゆけ
振り返らないで広い海を越えて
たくさんの光がいつの日にもありますように
あなたがいるからこの命は永遠に続いてゆく

あぁ両手にあふれそうな想い出たち枯れないように
ゆっくり明日をたずねてゆくから
私のかけらよ力強くはばたいてゆけ
振り返らないで広い海を越えて


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