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リレー小説3<エースピッチャーイモ>

リレー小説3[エースピッチャーイモ]




ふぅ・・・
彼はため息をついた。
「結局ここしか受からなかったな。」
彼はいつも甲子園に行っている高校を受けたのだが、落ちてしまい滑り止めとして受けたH高に入学することになったのだが、ここには野球部がなかった。彼が入学する1ヶ月前に、部員がいなくなり廃部となったのだ。
彼の名前は、「芋澤」といい、小学生のときはエースピッチャーであり、全国で名前が知られるほどの能力をもっていた。しかし肩を怪我してしまい、中学生のときは野球ができなかった。中3になって完治したので、高校になったら野球をやろうと思っていたのだが、このありさまだ。
しかし、ここから芋澤によって伝説が作られようとは、誰も知っているはずがなかった。
芋澤は1-Gに編入された。遊戯王が流行っていたり、黒板に落書きをしたり、カップめんのカップを「そぉい!」と人の頭にかぶせたりと、幼稚なクラスだった。芋澤は誰とも関わりたくないと思い、おとなしくしていた。そこに現れたのがB彰だった。
「よぉ、芋澤!これからよろしくな!」
「あ・・・ああ、よろしく。」
B彰は、エアーズロックのような髪形をした、濃い奴だった。
しかし芋澤は特に友達はいらない、俺には野球があれば良いと思っていた。しかし、HG校には野球部がない。そこで野球部を復活させるため芋澤は部員を募った。
すると、B彰、ボボ、TSUBASA、田燐黒(たりんくろ)が集まった。しかし、これではまだ部員が足りない。
そこで、他のクラスにも呼びかけてみた。すると、なんと、学校No.1のスピードスターまどかLOVE(以下まどか)が「俺も芋の野望に協力する。」といい、陸上部を退部、HG校の「野球同好会」に入会した。
また、HG中学では試合に一度も出られず途中で辞めてしまった爬虫類も入会。今まで決断を渋っていたジェラルドとモアイ、更に顔瀬も入会した。
今まで入ったメンバーのデータは以下の通り、
B彰……陸上競技より水中のほうが使えるHG。腹筋はやたら硬い。
ボボ……HG高附属の中学の四番打者。バッティング以外にも走攻守の均衡のとれた選手。この中では芋澤より数段強い。ピッチャーも出来る(と俺は思うよ)
TSUBASA・元々テニス部であったためボールをバットに当てることはうまそうな選手。
田燐黒…元はバレー部。外野手としては使えそうな選手。
まどか・・足は異様なまでに速いが他はからきしダメ。
爬虫類…HG中学ではあまり活躍していないが、他の初心者よりはマシ。
Gerald…ボボと同じく中学では主に二塁手として活躍(?)した。ミート技術と守備には定評がある。ピッチャー経験は多少ある。
モアイ…元バドミントン部員。野球は全くの初心者だが、威圧感◎
顔瀬……元ラグビー部員。体格ががっちりしているため長打を狙えるバッターになりそう。

これで、無理矢理9人が揃い、何とか野球が出来るようになったのだが、肝心の顧問がいない。
そこで、中学の野球部の顧問だが最近はぶられ気味のOCEANに依頼することにした。
芋「野球同好会の顧問になってください!」
OC「ああ、わかった」とやる気はなさそうではあったが、一応OKしてくれることになった。

その後、グラウンドでキャプテン芋澤を中心に練習を始めた。
野球経験者は芋澤、ボボ、Geraldのみ。芋澤は顔瀬にキャッチングを教え、ボボはバッティング、Geraldは守備を皆に教えた。しかし、バッティングをすれば空振り、守備をすればトンネルと全く話にならなかった。そこでキャプテン芋澤は、合宿をすることに決めた。
芋「このままじゃ甲子園はおろか、神宮にすら行けないぞ!顔瀬のキャッチ練習は俺がやる。」
Ge「じゃあ、内野手は俺が鍛えるよ。」
ボ「皆もちゃんと練習をしてくれないと困るね。仕方ないから、俺は外野手を中心に育成してやるよ。」
こうして、1ヶ月間みっちりと合宿を行った。
合宿終了数日後、同じ東東京地区では弱いとされる巣鳥高校から練習試合の誘いがあった。しかし、巣鳥高校は選手達に自信を付けさせる為に試合を申し込んできたのだ。
これにキレたボボは「天才バッターの俺様がいるチームになんたる冒涜!てめえら、負けたら承知しねぇぞ!」と半ばヤケになりながら喝をいれた。それに便乗したOCEANは「負けたらもう1ヵ月、合宿やる。」とほざいたが、相手にされなかった。
オーダーは、以下の通り

1.まどか 中
2.Gerald 遊
3.B彰  一
4.ボボ  右
5.顔瀬 捕
6.田燐黒 左
7.芋澤  投
8.爬虫類 三
9.TSUBASA二

監督OCEANは皆に、「まぁこの布陣で行くが、交替は出来ないから怪我には気を付けろ。」と珍しくまともな発言。さっきのシカトがかなりのショックだったのか、テンションが低かった。
芋澤が円陣を組み「いくぞーーー!」と言い、皆もそれに続いた。
「集合!礼!」と審判の声。
「お願いします!」いよいよ、HG高校野球同好会最初の試合がスタートした。じゃんけんにより、HG高校は後攻となった。
ゆっくりとマウンドにのぼっていく芋澤。顔瀬とのサイン決めもバッチリだ。いよいよ、注目の第一球。ピッチャー芋澤、振りかぶって投げた。
ズバァァァァン!!!
豪快な音が球場内に響き渡った。芋澤の投げた球は、140キロ程とも思える剛速球だった。巣鳥高の打者はぽかんとしている。
「すげぇ・・・マジすげぇよ!!イモ!!!」ボボが言った。
「イモ・・・・?」
芋澤は昔の記憶を思い出した。小学生時代、芋澤は皆から「イモ」と呼ばれいじめらていた。そしてその悔しさをバネに野球を猛練習し、いじめられっ子だった「イモ」はエースピッチャー「イモ」へと姿を変えたのだった。
「イモ・・・か。」
芋澤はフッと笑った。そして、ボソッとこう言った。
「過去の記憶なんて、今の俺には関係ねェ。今はただ、目の前の敵を片っ端から潰していくだけだ。」
この試合を見て、OCEANは言った。
「あの巣鳥高は弱いといわれているが、弱いのは投手と守備だ。打撃は良いのだが、そんなチームを相手に無失点で勝つとはすごいな。校長先生に頼んだら、『野球愛好会』から、『野球部』にしてもらえるかも知れん。そうしたら、大会にも出られるぞ!俺が頼んでおいてやる」
OCEANは、生徒のポイントアップを狙ったようだが、野球部ができるかもしれないと聞き、OCEANが頼むということは考えていなかった。数日後、OCEANは校長先生にこの試合の報告をし、野球部が成立した。
「次の大会は、いまから1ヶ月後だ!よーく練習をするんだ!まず、投球練習は芋澤を中心に、打撃練習は・・・・・」
しかし、誰も聞いていなかった。最後に親父ギャグを言ったのだが、さびしい結果となった。とにかく、大会は1ヵ月後である。
試合は芋澤が巣鳥高を完全に押さえ、ボボ・GeraldのソロホームランでH校が2-0で勝利した。
こうして、HG高校に野球部が誕生した…かと思ったが、サッカー部からの猛反発があったのだ。その理由はもちろん『グラウンドの使用面積がさらに狭くなる』というものだった。
そこで、OCEANはサッカー部顧問ADEに交渉したのだが、口論となり、『そんなに心が狭いようじゃ、人間失格だな。』と暴言を吐いてしまい、この争いはさらにヒートアップしてしまった。
この問題を重く見た徳川氏末裔の理事長(通称:徳川)が『そんなにゴタゴタするなら、成績で決めてたらどうだ?文武両道がわが校のモットーですからな。』と意見する。これにADE、OCEANの双方が承認した。徳川理事長のいう‘成績’というのはもちろん学業のことだったのだが、アタマの固い二人が‘部活動の成績’と勘違いしてルールを決めた。
1.都内で、野球・サッカー共に超名門校であるジャパン大学第三高校(JU3)と明日試合する。
2.勝ったほうの意見が優先だが、両部とも勝ったり、もしくは両部とも負けた場合は、ADEとOCEANのタイマン勝負に委ねる
このムチャクチャなルールの試合を、JU3は快諾してくれたのであった。
迎えた当日。野球部はエース芋澤が先発。なぜ、キャプテンでなくエースかと言うと、実は試合前にOCEANに『芋澤にはピッチャーに専念してほしいから、キャプテンはボボに替える』と言われて、『俺は自分以外の者を統率する気はないから、早く替えてください。』ということがあったからだ。
新キャプテンボボは、『まだ野球部じゃないから公式戦前には決まらないと出場できないんだからな!』といつものように喝をいれた。これに続けと監督OCEANも何か言ったが相変わらずシカトされてしまった。
ちなみにオーダーは前回の巣鳥高校戦と同じだ。今回は先攻だ。いよいよ、プレイボール!
リードオフマンのまどかがショートへの内野安打で出塁し、ジェラルドがバント。次のB彰があっさりと三振し、2アウト三塁で4番新キャプテンボボに回った。カキーン!JU3相手に先制ホームラン!続く顔瀬も続き、3-0となったが、田燐黒がピッチャーゴロでチェンジ。
ネクストバッターズサークルで素振りをしていた芋澤はヘルメットを放り投げ、ロジンバックとグローブを手に取った。
「フッ。野村克也は『投手が0点に抑えられれば負けない』とおっしゃったな。俺もそれに倣って抑えてやろうじゃねぇか!」
とは言ったものの、
『JU3は都内でも上位ランク。甲子園優勝経験もある高校だ。さすがに無失点は無理だろう。』と思っているOCEANであった。
マウンド上の芋澤。注目の第1球。投げたぁー!
140キロの内角高めのストレートに、JU3の打者は手も足も出なかった。
「HG高に、こんな凄いピッチャーがいたのか!?」
JU3の選手は、ただ焦るばかりだった。そんな中、一人芋澤を見つめる者がいた。
JU3投手で4番の町田だった。3アウトでチェンジとなると、町田は静かに立ち上がった。
「町田。甘い試合ではなさそうだ。いつもの頼むぞ。」JU3の監督が言った。
「わかってますよ・・・。HG高ですか・・・芋澤とかいう投手は少し凄いかもしれませんが、攻撃のほうは全く脅威ではないですね。」
町田は静かに微笑んだ。
「おもしろいじゃないですか・・・」

芋澤は、バッティングも得意だった。
「ボボがホームラン打てたんだ。ならば、俺だって打ってやろうじゃねぇか。」
町田はゆっくり振りかぶった。町田の投げた球は、打ちごろのストレート。芋澤は、「いける!」と思いバットに力を込めた。
バットにボールが当たった、その時だった。
「ぐはぁッ!!?」
芋澤は唸った。100キロ前後のストレートの筈なのに、ボールがとても重かった。ボールはバットにジャストミートした筈だったが、その球は芋澤の力を遥かに超えていた。ボールはポーンと芋澤の頭上に上がり、キャッチャーがしっかりキャッチした。
「芋澤くん」町田が言った。「びっくりしたかい?」爽やかな笑顔だった。しかし、その目は何かを隠していた。
「き、貴様ッ・・・ボールに何をした?明らかに1回と違うだろう!」
「あはっ。何もしてませんよ。ボールにはね。そんなことしたら反則じゃないですか。」
「くそッ!!!」
続く爬虫類、TSUBASAは三振で、三者凡退に終わった。
「一体何なんだ・・・?」
芋澤はそう考えながら、マウンドに向かった。まださっきの衝撃が腕に残る。
「とりあえず、今は目の前の敵を倒すのみだ。」
打者は町田だった。芋澤は振りかぶり、ボールを投げようとした。その時、芋澤の体に、まるで電流がながされたような痛みが走った。
「ぐがぁッ!!!」
ボールはバッターに届かなかった。芋澤はその場に倒れこんだ。
「な、なんだ!!?一体どうしたんだ!??」
顔瀬が駆け寄ってきた。
「わ、わからない。だ、大丈夫だ。ただ滑っただけだ。まだいける。」
芋澤はもう1度ボールを投げようとした。しかし、また先ほどの痛みが彼を襲った。
「がはぁァッ!!!」芋澤はまた倒れた。慌ててHG高ナインがマウンドに駆け寄ってきた。
「何が起こったんだ?」まどかが言った。
「わ、わからない。ただ投げた瞬間腕から全身に痛みが走るんだ。まるで電流のような・・・」
ははっ、という笑い声が聞こえた。町田だった。
「大丈夫ですか?その体では、もうボールは投げられないと思いますが。」
「きッ、貴様ァッ!!イモに何をしたんだ!!!」ボボはキレていた。
「彼には何もしていませんよ。僕が何かしたのは・・・自分自身です」
「ど、どういう意味だッ!!?」
「そういう意味ですよ。さぁ、どうします?どうやらあなた方の学校には控え投手がいらっしゃらないようですが・・・?」
すると、爬虫類がすっと立ち上がった。
「俺が行く。」
「お前・・・大丈夫なのか?」
爬虫類はニカッと笑った。「まかせておけ。」

試合が再開された。皆が固唾を呑んで見守る中、爬虫類は振りかぶって、投げた。
シュルルル・・・
ボールは複雑な動きをし、ミットに収まった。
「これは凄いですね・・・何なんです?その球。」町田が言った。
「魔球、スライダーシュートだ」
爬虫類が言うと、町田はまたあはっと笑った。
「本当に面白いお方ばかりですね、HG高は・・・おかげで僕も、本気が出せますよ。」
町田はタイムを取り、一旦ベンチに戻った。
「さっきは少し摂取して投げただけで芋澤くんをダウンさせてしまいましたよ。今度は、彼を潰しましょうか。」
町田はペットボトルの中の液体を飲んだ。するとピクピク、と体が妙な動きをした。
町田の体は異常なまでに膨れ、ユニフォームがはじけた。
「こんな試合、僕一人で十分だ・・・・勝利への熱き思いが作り出した、至高にして究極のスポーツドリンク・・・
ドーピングベースボールだ・・・・さあHG高の皆さん、僕を止められますか・・・?」
爬虫類は唖然とした。
「なんだこいつ、化け物じゃねーか・・・・・」
爬虫類は再びスライダーシュートを投げた。球は複雑な動きをしながら町田へ向かって飛んでいた。
そして、町田がバットを振った、その時だった。バッターボックスの周りの砂が突然舞い上がり、ファーストのB彰の方へ竜巻のように
突進していった。そしてB彰は砂とともに舞い上げられ、ライト方向に飛ばされていった。
「B彰ォォォ―――!!!」
ジェラルドが倒れているB彰に駆け寄った。その間に町田は凄まじいスピードで走り3塁を蹴っていた。
その時、B彰が高々と左手を上げた。彼のグローブの中には、ぺしゃんこになったボールが入っていた。
「・・・・クソが」
町田は小声で呟いた。
続くJU3の5番、6番の打者はスライダーシュートの前に手も足も出ず、結局この回のJU3の攻撃は3者凡退に終わった。

その頃、芋澤は大分回復してきていた。
「あの町田とかいう奴は何者なんだ・・・?しかし、奴を除けば今のわれわれでも十分勝つことができるぞ!」
OCEANが言った。しかし、JU3の投手は町田。このままでは、これ以上攻撃ができない。さて、どうしたものか・・・・・
現在、芋澤は守備の負担が少ない外野を守りながら町田のことを考えていた。
「奴はドーピングしている…しかしなぜ誰も突っ込まないんだ!?」
その疑問に。本人が「フッ。僕の家はかの有名な巨大企業『町田コンツェルン』ですからね。高野連もNPBもカネを握らせれば自ずと静かになるんですよ・・・。」
町田コンツェルンと言えば、日本のほとんどのジャンルでトップシェアを持ち、政治家や弁護士などとも深い関わりのある会社だ。
(その一方で黒い噂も絶えないが。)
「く、くっそぉ…。カネさえあれば何でもなると思いやがって…。」
「ちなみに審判の方にも1000万ほど差し上げましたよ。ここであなた方に負けるわけには行かないのですよ。」

この会話の間にも味方はバタバタと三振して帰ってくる。しかし、爬虫類も負けてはいなかったが、6回に連打を浴びて同点になってしまった。
しかし、その後はスライダーシュートを武器に順調に三振を奪っていった。
そのまま延長10回に入った。そのとき、OCEANが、
「町田の魔球には隙がある。それは彼の球はジャストミートをすればするほど遠くに飛ばないことだ!」と。これに芋澤は、
「つまり、根っこや先っぽに当てれば軽がるスタンドイン、っていうことですか!?」
「ああ、今まで全員がジャストミートか全く当たらないかのどちらかだったからな。逆に引っ掛ければ飛ぶかと思ってね・・・。」
「それって、先生の思い付きですか!?」
「まぁまぁ気にするな。…芋澤、お前の打順だぞ。痛かったら見逃して帰って来い。」
「はい。」
そう言った芋澤の手に逆さまにバットが握られていたのだった。
ピッチャーは町田。2アウトランナー無し。
町田が投じた1球目に芋澤は“柄”の部分をボールに当てた。
「ど―――ん。」バットの柄は凄まじい爆発音を伴いながら粉々に砕け散った。しかし、ボールは高々と外野の頭を超え、ツーベースコースに飛んでいった。
「よし!OCEANの言った通りだ。セカンドまで進もう!」
さすがの町田も唖然としたように見えた。ボールを追うが、足の速さは変わっていなかった。なぜなら「ドーピングベースボール」の効果は、本家「コンソメスープ」と同様に下半身には及ばないのだ。
こうして、芋澤が余裕をこきながら悠々とセカンドに着いたそのときであった。
「アウト!チェンジ!」と審判の声。
「何でアウトなんですか?ボールはセンターオーバー…あれ?セカンドが持っている・・・?」
「見てわからないのか?二塁手がボールを持って君にタッチした。アウトではないか。」
「…どうしてだ。」と嘆きながらベンチに引き上げる芋澤を尻目に町田がこういった。
「言っていませんでしたっけ?ドーピングは私だけがしているのではなくて、JU3全員がしていると。センターの肩が良くなりすぎましたね。」
「…こんなイカサマチーム。俺は絶対に許さねぇ。野球をナメてやる奴も絶対に許さねぇ…。」芋澤の闘志が静かに燃えていた。
どんな理由であれチェンジなので、爬虫類がマウンドに行こうとした。そのとき、芋澤がマウンドに駆け上がり、爬虫類にこういった。
「俺に投げさせてくれ。」
「イモは肩大丈夫なのか?」
「これくらい、俺の野球への愛情で何とかなるさ…。」そういってボールを受け取り、OCEANが審判に交代を宣告した。
これを聞いていたのは次のバッターの町田。
「フッ。野球への愛情ですか?ハハハ。そんなものは科学の結晶やカネの前には何の役にも立ちませんよ?」と笑いながらそこにいた。
「愛に勝るものはこの世には存在しないんだよ…町田クン。」芋澤も貫禄たっぷりに言い返す。
「それならば、この打席で決着を付けましょうよ…芋澤君。」町田は静かに言う。
投球練習が終わった。顔瀬のサインはフォーク。しかし、芋澤は首を横に振った。
いつもはサインに従う芋澤の答えがノーだったので顔瀬はマウンドに行き、
「イモ、まさか奴に直球勝負を挑むのか?」
「顔瀬、やらせてくれ。俺のプライドが許さねぇんだよ・・・。」
「わかった。肩が痛くなったらすぐにタイムを取れよ。それだけは約束な。」
「わかったよ。早くホームに戻ってくれ。」
芋澤はプレートに足をかけ、ボールの縫い目を町田に見せた。
その光景をベンチで見守るOCEAN、バックで見つめるナイン。皆が固唾を呑んだ。
球場がしーんと静まり返る。そんな静寂の中、芋澤は静かにフォームに入った。
しなやかに振る右腕から150キロの速球が放たれた。しゅるしゅると不思議な回転をしながら…。

その頃、野球同好会との賭けをしているサッカー部では・・・。JU3相手に苦戦していた。前半終了時点で2-0だった。
「まずい・・・このまま負けてしまうのか・・・・」
ADEが唸った。しかし、部員たちは諦めていなかった。
サッカー部のほうも、ドーピングサッカーに対し相応の苦労をしているようであった。
後半、HG高は必死の攻撃により、2-2となり、試合はPK戦に。
こうなると、ドーピングをしているJU3は圧倒的に有利である。しかし、HG高のキーパーは、必死の思いでボールを受け止めた。彼らにとって、もうグラウンドの使用権などどうでもよかった。ただ、目の前の敵に負けまいと必死だったのである。
そして、HG高の選手は、なんとPKを決め、JU3に対し勝利を収めたのだった。
「よくやった!これでグラウンドはまたお前らのものだぞ!!」
ADEが言った。その時、部長がADEの前に出て、こう言った。
「先生。今、僕らは必死の思いで勝ちました。今頃、野球同好会の方も必死になって頑張っていると思います。
だから、お願いです。もし野球同好会が勝ったら、グラウンドの使用権を認めてあげて下さい。同じ辛さを味わっている
熱い奴らを、放っておくわけにはいきません!!お願いします!!!」
ADEは戸惑った。しかし、部員達の真剣な目を見て、ついに折れた。
「わかった。じゃあ、野球同好会を応援するか!」
     ・
     ・
     ・
     ・

町田はフルスイングした。ボールはバットをかすめ、後ろの金網にぶつかった。金網が激しく凹んだ。
まずは、1ストライク・・・・
「その程度ですか?」
町田が言った。
「言ってろ」
芋澤はそう言い放つと、振り返って、2球目を投げた。外角低めの際どいコースだったが、惜しくもはずれ、ボール。
「動揺してるんですか?」町田が言ったが、芋澤は無視した。JU3の監督は思った。
(この芋澤とかいう奴・・・これほどの力を見せつけられていながら、信じられないほど落ち着いている・・・!!)
芋澤は第3球を投げた。
ガキィッ!!!
鈍い音が球場に響いた。またもファウルチップであったが、ボールは地面にめり込んでいた。2ストライク。
「どうした?もっと楽しませろ」芋澤が言った。
「フフフ・・・・ははははははは!!!!」
町田が大声で笑った。
「面白い・・・本当に・・・・面白い」
町田は小刻みに震えていた。額の血管が浮き出ている。
その時、その場にいた誰もが悟った。次の一球で、全てが決まる―――――

雨が降り出した。まるでその勝負を邪魔するかの如く。

芋澤は静かに振りかぶった。
芋澤の肩は、もはや限界に達していた。しかし、芋澤は渾身の力を込めて、4球目を、投げた。
速かった。その球は、人間が投げたとは到底思えないスピードだった。
しかし、その球が町田に届くまでの時間は、とても長く感じられた。

雷が鳴った。すさまじい光により、皆が目を瞑った。
(ボールは・・・・?)
顔瀬は思った。そして目を開けると、町田の金属バットが、折れていた。芋澤と町田の力に、バットが耐え切れなかったのだ。
はっとして上を見ると、ボールは顔瀬の頭上高くに上がっていた。
顔瀬はマスクを外した。そして、ボールはミットに収まったのだった。
そのボールは、糸が契れ、中のコルクがむき出しになっていた―――――
『ファウルチップ…。ストライクバッターアウト!』審判の声に誰もが目を疑った。
『やった…。町田に勝った…。JU3を打ち負かした…。』そう叫んだ次の瞬間、芋澤はマウンドに倒れこんだ。すかさずOCEANと顔瀬がマウンドに駆け寄り、
顔『イモ、大丈夫か?早く救急車を。』
芋『ああ。それより、俺が出ないと試合が続けられない・・・。』
OC『心配するな芋澤。もう一人ベンチに残っているのを覚えていないのか?』
芋・顔『先生、誰か残ってましたっけ?うちのチームは9人じゃ…?』
OC『忘れているようだな。モアイが残っていることを。』
芋『モアイが…残って…』そう言いかけたが、そのまま気を失ってしまった。
OC『早く。担架を!』OCEANが呼んだ担架で芋澤は病院に運ばれていった。
顔『先生、俺も行きます!』
OC『いや、顔瀬は試合に出続けろ!俺が芋澤に付いて行く。あとはボボに任せる。』
そういって一緒に救急車で病院に行ってしまった。そのやり取りを聞いていたボボが、
『俺が監督をやります。認めますよねぇ?買収された審判さん?』嫌味たっぷりに聞くと、審判は意外にも、『ドーピングを認めているわけですから、監督交代もやむを得ませんね。』
『ありがとうございます。それでは、選手交代!芋澤に代わってジェラルドをピッチャーへ。ショートに田隣黒を!そして、レフトにモアイを入れます。』
ボボが高らかに叫んだ。そして、試合は続行。あと2アウトでゲームセットの状態だ。
突然クローザー(抑えのエース)に指名されたジェラルドであったが、文句を言わずに5・6番をピシャリと内野ゴロに打ち取った。
『試合終了。ゲームセット!3-2でHG高校の勝ち!』審判が不思議な表情をしながらコールした。
監督兼キャプテンのボボは、『良かった!本当に良かった!さぁ、まずは芋澤のいる病院へ急ごう!そうしたら、学校に凱旋だ!』
こうして、(半ば強引に)JU3に勝利したHGナインであった。勝利に浸る余韻もなく、すぐに芋澤が運ばれた病院へ向った。
そして、奏山(かなでやま)病院の待合室でOCEANに出会った。
ボ『先生、勝ちましたよ!それより、芋澤の容態はどうですか?』
OC『それはよかったなぁ。まぁ落ち着いて聞いてくれ。命に別状は無いそうだ。ただ…』
ボ『ただ、何ですか?じらしてる場合じゃないですよ?』
OC『ただ、うわ言で試合はどうなったかと叫んでいて手がつけられないらしい。』
ボ『何だ、そんなことか、肩がぶっ壊れたのかと思いましたよ~。』と安心するHGナインだが、
OC『しかしだ、肩にはまだ不安が残るから、1ヶ月は右腕を挙げてはいけないそうだ。』
全『なにぃぃぃ!!!芋澤が野球できないと・・・!それじゃあ、グランドの使用権の意味が無いじゃないですか?ていうか、試合は1ヶ月後ですよ?間に合うんですか?』
OC『いや、あるだろう。皆が一丸となってもぎ取った勝利に意味がないと言うのか?試合に間に合うかはわからないそうだ・・・。』
OCEANの珍しくいい発言に皆は静かになってしまった。
OC『芋澤に面会したいか?』
ボ『もちろんですよ。この試合に勝てたのも芋澤のおかげですよ。』
わかった、こういってOCEANは芋澤の病室に皆を連れて行った。
担当医の話によると、芋澤は至って元気だそうだが、野球は何があってもダメらしい。
芋澤は残念そうにうつむいていたが、試合の結果を聞くと飛び上がって喜んだ。
芋澤はその後、二日間入院した後、無事に退院し、学校に来るようになった。
学校で、芋澤はとある新聞記事を目にした。
『芋澤、ドーピングチーム相手に堂々1失点の好投!JU3に貫禄の勝利!』と。
ちなみにJU3の野球部・サッカー部は3年間の対外試合禁止・活動停止処分になったそうだ。
野球部としての初めての活動の日。広いグラウンドで楽しそうにキャッチボールをしている部員たち。芋澤は
それを見、静かに笑うとそのまま帰路についた。
芋澤は家に着くと、ベッドに横になった。そして自分の心の奥にしまっておいた記憶をそっと思い出した。

芋澤は小学生の頃怪物と呼ばれていた。しかしそれを快く思わない者もいた。
小学4年生のある日、芋澤は4人組の6年生に襲われた。「生意気なんだよ!」と言われ暴行を加えられた。
芋澤は近くにいたチームメイトに助けを求めた。しかし、チームメイトは芋澤を捨てて逃げて行った。
その暴行により、芋澤は肩を怪我し、しばらく野球ができなくなった。しかし、それ以上に大切なものを失った。
芋澤は、人間不信に陥ったのだった。中学生の頃も、誰とも話をしなかった。
友達なんて、いらない―――俺は、世界にただ一人だ―――――
しかし、高校に入ってからは、何か、違う。俺が無愛想にしても皆バカみたいに笑っているし、皆、バカみたいに必死に生きている。
なぜだか、俺にはわからない。でも、こいつらとなら・・・俺も・・・・

「はぁ…野球してぇ。甲子園行ってあのマウンドで投げたい。」芋澤は授業中もぼーっとしていた。右腕が使えないので、ノートもとれない。暇な授業。遠くの方から伊勢物語が聞こえるが、どうでもいい。
怪我をして2週間。芋澤は野球の本やHG学園野球部のスコアブックを見て研究すること位しかする事がない。
(大会は明後日からだというのに…。相手は確かGH高校か。あまり強くは無いらしいが、どうしy…)
「こらぁ!芋澤ぁ!授業中にボケーとしてんじゃねぇ!放課後、職員室に来い!」怒鳴り声だ、迅藤先生の。(職員室?仕方ないな。)と思いながら、
「すいませんでした。以後気を付けます。」と口が動いていた。
――その放課後グラウンドでは…。大倉監督が皆にノックをしている。
「茂愛!待ちすぎだ、外野がそれではダメだ!素早く!」熱血監督OCEANは日尾茂愛を叱っている。
茂愛は、「芋澤が居ないのに公式試合は明後日ですよ?誰が投げるんですか?おまけに9人しかいないし。」とOCEANに聞く。公式戦とは東東京地区の初戦。10回くらい勝てば夏の甲子園に行ける。
「ん?何だ口答えか!?さっさと次行くぞ!」しかし、OCEANに無視されてしまった。彼には何か考えがあるのだろうか…。
――職員室。
「すいませんでした。」芋澤は迅藤のデスクの前で頭を下げている。
「野球がしたい気持ちはわかるが、授業は疎かにするな。」迅藤が諭す。
「はい…。」芋澤の話し方に覇気はない。
「芋澤、ちょっとついてきて欲しいところがある。今すぐな。」そう言って芋澤の手を引き、学校を離れた。
「ちょっと先生。どこに連れてく気ですか?」芋澤は聞く。
「いいからいいから。直ぐに着く。」迅藤は芋澤に取り合わない。
歩くこと10分。小さなグラウンドに着いた。芋澤はここに見覚えがあった。かつて練習に使ったことがある陸技園だ。そこで誰がが素振りをしている。
「見てみろ。」そう迅藤は言った。芋澤は言われるがままそこを見る。するとそこでは…

誰かが練習している。人気のないグラウンドで、誰かがボールを投げている。
その男は、ゆっくりと振りかぶった。次の瞬間、芋澤は目疑った。
速い。芋澤と同等、いやそれ以上の剛速球である。さらにすごいのは、その速度から繰り出されるカーブである。

(―――いったい何者なんだ・・・?こんな奴が学校にいたってのか?それならなぜ俺が知らないんだ・・・?)

その男は、芋澤の存在に気が付くと、こちらに向かって歩いてきた。
「やぁ。“エースピッチャー”君。」男が言う。
芋澤は直感で感じていた。たとえチームメイトになっても、決して仲間になることはできない。
この男の全身から流れ出る嫌悪感。
「この前の試合はご苦労だったね。JU3に勝ったくらいでちやほやされて、さぞ嬉しいことだろうね」男が言った。
芋澤はムッとして、聞いた。
「お前、誰だよ。見たこと無い顔だな」
男は答えた。
「俺は三宮。中入HG生だが、中1の1学期から一度も学校に行ってない。」
芋澤は絶句した。
三宮。名前は聞いたことがある。しかし、不登校児だということで、中学卒業時に外部進学したはずだ。
「なぜ俺がまだ学校にいるか知りたいようだね。たしかに俺は3年間引き篭もってた。頭の中は実質小卒ニートだ。でも、野球部がピンチだっていうんでね。学校から呼び戻されたんだよ。」
「え・・・どういうことなんですか、迅藤先生!!」芋澤が言った。
「まぁそういうことだ。次のGH高戦は三宮に投げてもらう。」迅藤はそれだけ答えた。
「だッ・・・だって不登校児ですよ!体力的にも試合で勝てるわけ・・・」
「勝てるわけない、と言いたいのか?」三宮は口を挟んだ。
「まぁ見てな。“エースピッチャー”様。」
ふはは、ふははは、と三宮は大声で笑った。

試合当日。HG高の選手全員が、三宮のピッチングに注目していた。
HG高は初回から攻め1回表に2点を獲得した。そして1回裏。三宮の登板である。
GH高1番打者に対し、第一球を投げた!
白球は、140キロ超のスピードでミットに納まった。HG高選手、GH高選手ともども、唖然としている。高校1年の球じゃない・・・
ニヤッ、と三宮は嗤った。まるで、そこにいる全員を見下すかのように。
その後も三宮は好投し、なんとGH高に対し、ノーヒットノーランを達成した。
試合は、17-0でHG高のコールド勝ちである。

試合後、ベンチに戻った三宮は、芋澤に言った。
「どうだったかな?俺の球は?」
「・・・凄いのは認めてやる。だが、お前は引き篭もりだったのになぜあんな球が投げられるんだ?」芋澤が聞き返した。
「引き篭もり?ハッ、俺は引き篭もりなんかじゃねーよ」三宮は続けた。
「俺は幼少の頃野球の才能を認められ、将来はメジャーリーガーになるため特別な特訓を受けてきた。俺はお前ら凡人とは違う。
そんな俺に、勉強なんて必要ないのさ。中学の間も、アメリカに渡って特訓していた。今更高校野球なんて俺にとっちゃOut of 眼中だがな」
「テメェ・・・野球舐めてんのか」芋澤は怒りに震えていた。
「野球は舐めちゃいねーよ。お前らを舐めてはいるがな。日本に戻ってきたのだって、俺の名を世間に広めるためだ」
「っざけんじゃねぇ!!!さっきから聞いてりゃいい気になりやがって!!!」ボボが三宮に殴りかかった。
三宮はそれを軽やかにかわし、言った。
「というわけで芋澤。これからこの学校のエースは俺のものだ。」




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※この物語はフィクションです。実際の人物・団体等とは一切関係ありません。モデルになった我が校の先生・生徒も実際はこんな人ではありません。穏やかで、優しい人ばかりです。この物語は所詮フィクションです。
現実世界では先生に敬意を持って接しましょう。


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