今日も良いネタ入ってるよ!

実話調査編第二話





前々からの予定であった打ち合わせを終え、お気に入りの真っ黒なインフィニティで甲州街道を新宿方面へと流す。山手通りを右折して少し行った路地を左に曲がり、代々木を抜けて青山の裏手へと抜けて行く。

例え渋滞していても一番の抜け道であるこのコースは僕のお気に入りの道だ。


{PM3:45}
パネルの電子時計に目をやり、「そろそろ準備しないとなぁ」っと思いながら、調査を受ける時には必ず手伝ってもらっている後輩のカツヤ(仮名)に電話を入れる。ネタ屋の仕事にドップリ漬かっていた僕は年が明けてからは初めての連絡となる。僕が探偵業をおろそかにしていたにもかかわらず電話口のカツヤの声は弾んでいた。

「連絡待ってましたよ。最近連絡くれないんで嫌われちゃったかと思いましたよ。」

ハハッ。なんとも憎めない奴。

こいつとはもう6年近くの付き合いになる。若いのに探偵の「いろは」を心得ていて仕事が正確でしかも早い。ついでに付き合っている彼女まで僕の仕事を手伝ってくれるという僕には切っても切れない大切な仲間だ。

「お前仕事は?」

問いかけた電話の向こうで大きなくしゃみがした。

「ハックション! あっ、すいません。仕事ですか?まぁボチボチやってますよ。けど、隼人さんの依頼なら時間空けますよ。なんてったって割が良いですからね。」

僕が聞く前に返事をくれた。この物分りの良さがまたこいつ魅力でもある。

そうそう、隼人とは僕の仕事用の名前。カッコ良く言えばコードネームってところ。僕は仕事が早いのを売りにしてるので、早いって言葉に掛けてなんか良い偽名はないかと単純に選んだのが「早斗」だった。だけど「早斗」って漢字だといかにも当て字みたいだったんで普通に隼人にしてみた。ただそれだけのこと。

そんな事はさて置き、まだ依頼を受けてはいない旨をカツヤ告げ、

「受けるようなら頼む」と言うと、

「水臭いですねぇ~。うちのも空けさせておきますから。」

・ ・ ・また僕が聞く前に返事をされた。

鋭さは天下一品だ。

「うちの」とはカツヤの彼女で、名をあけみ(仮名)という。大きな目にこげ茶に染めた、いかにも今時の可愛い女の子。(可愛いって書いとかないと後で酷い目にあいそうなので強調しておく。)この子も3年ほど探偵に携わり、尾行を最も得意とする強者(兵 つわもの)。単独での電車やバスでの尾行では一度も巻かれた事がない。グループを組んでの車やバイク、自転車の尾行ではまだ経験が浅いがそれでも良い仕事をする。

なんとも心強い見方だ。

直ぐ折り返す旨を伝えて煙草に火をつける。もう目的地は目の前だった。



{PM4:15}
とあるマンションの前に車を着け、まずは依頼人であるあやさんに電話を入れる。

「もしもし ・ ・ ・」

さっきと変わらず透き通るような声の後にはため息が混じっていた。

「どうも。先ほどお電話いただいた涼風です。あと一件用事を済ませたら伺えますが、お時間は大丈夫ですか?」

僕の問いかけに彼女はまた、ため息をついた。

「はぁ~。お電話いただけないのかと思ってました。あ、すいません。そんなつもりじゃぁ。」

大分精神的にきているようだ。普通なら「後で電話します」という僕の言葉を聞いていたら当日中は電話をもらえないとは思わないはずだ。気持ちが安定していないのかもしれない。

こりゃ急いで出向いた方が良いかもな ・ ・ ・

そう思いながら「大丈夫ですよ。約束ですからちゃんと伺います。あやさんのご自宅近くにデニーズがあると思いますが、お会いするのはそこでいいですか?」

少しでも安心させてあげようと出来るだけ明るい声で聞くようにした。
本当なら自宅へそのまま向かってもいいのだが、もし彼女が一人暮らしだったらと思い気を使った。

「あっ、いや、家の方に来ていただけると助かるのですが ・ ・ ・」

予想通りの返答だった。

多分そう言われるだろうと踏んでカツヤかあけみに同行してもらおうとカツヤに電話を入れておいたのは正解だった。

「そうですか。分かりました。連れと二人で伺いますのでそちらに近くなりましたらまたお電話差し上げます。大体6時過ぎには到着できると思います。」

そう伝えると、彼女は「お願いします。お待ちしてます。」っと。

やはり言葉の最後にはため息が混じっていた。


いつも思う事だが探偵とはなんとも複雑な職業だ。依頼の殆どは人の不幸が付いて回る。今回の仕事も「キツそうだなぁ~」などと思いながら車を着けたマンションを上がっていった。


このマンションの一室には古くから付き合いをしている探偵社がある。今は探偵業が副業のようになってしまっている僕は、必要な機材は全て知り合いの探偵社にあげてしまっていた。

ここもそのひとつ。
頭に浮かんだある程度の機材を近いうち借りにくるかもしれないと、いつも電話番をしている「かのさん」(仮名)ってお姉さんに伝えて、一応機材を借りるための書類にサインをする。

「専務によろしく」

そう言い残して事務所を出ようとすると、

「仕事復帰ですか?専務が会いたがってましたよ。」っとかのさん。

ここの専務も人探し等の非常に疲れる仕事を回してくるので僕的にはあまり合いたくない。っと言うか今日も専務がいない時間を見計らって出向いて来たので、かのさんの問いかけは旨くスルーしとかないと ・ ・ ・

「復帰じゃないんですよ。友達に頼まれただけで ・ ・ ・」

見え透いた嘘を言ってしまった。

「クスッ」って笑ったかのさんは「うまく言っておきますよ。」だって。

こういう優しい人とはずっとお友達でいよう。なんて思いながら

「ありがとう 今度飯でも。」

・ ・ ・ ・ 墓穴掘った ・ ・ ・ ・

ニコニコしながら「期待しないでお誘い待ってます。」って。

かのさんには適わないや。

笑いながらお礼を言い、表へ出る僕の右手はカツヤにかけるための携帯を掴んでいた。


つづく

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