今日も良いネタ入ってるよ!

実話調査編第四話





自動ドアをくぐり、少し広めのエントランスを抜けると正面玄関からは見えないように同階の部屋が続く。その死角になる天井の一部にそれとは解らないように防犯用のカメラが設置されていた。通り過ぎざまにカメラの配線を覗いて見たがダミーのカメラのようだった。詳しく確認はしていないが、このカメラがダミーだとすると建設後に後から設置したことになり、不法侵入紛いのトラブルが以前にもあったのではないかと想像ができる。まぁこのマンションの作りからすれば、新聞の拡張員やどこぞの訪問販売員が勝手に入ってきてもおかしくはないので、僕の頭の中の下から2番目位の引き出しにこの情報はそっとしまっておく事にした。

いくつかの部屋を過ぎ、あやさんの部屋の前に差し掛かろうという時、僕の隣でいつになく緊張した面持ちで、再度息を「ふぅ」っと吐き、僕より先にインターホンに手を伸ばすあけみがいた。インターホンのあやさんの声が気になったのだろう。

僕が知るあけみは普通の女の子だ。決して強くはないはずなのに、まだ会った事もない一人の女性を守ろうと思う気持ちが深々と伝わる。インターホンに指が近づくにつれ、少し強張るあけみの顔。

「自分が何かをしてあげられたら!」と、この子が時折見せるこの小さな勇気を僕はとても高く買っている。そっとあけみの肩に手を置いて「肩の力を抜け」というような感じで大きく目を見開いてニコッと笑って見せた。あけみは「チロッ」っと舌を出していつもの優しい表情に戻った。


{PM6:04}
依頼人であるあやさんの部屋のインターホンを鳴らす。

中からチェーンのロックを外す音がして、ソロリと扉が開いた。

「お待ちしてました。どうぞ。狭いところですが。」

玄関に置かれていたミュールを脇へ寄せ、顔を上げるあやさんを見て2度「ドキッ」っとした。

なんとなく声で想像していた通りの、真っ白い透き通るような肌にハッキリとした大きな二重の目。すらっと長い鼻に薄い唇。こりゃとてつもない美人だ。

あやさんが部屋のほうに振り向くと同時にあけみに目を向ける。あけみは少し冷ややかに横目で僕を見ながら、あやさんには聞こえないくらいの小さな声で「 スケベ! 」と言った。

・ ・ ・ ・ そりゃぁないだろう。・ ・ ・ ・ 

勿論依頼人であるあやさんをそのような目で見る気は僕にはサラサラ無い。
ただ綺麗な人を見たら無意識に反応してしまうのが男ってもんで ・ ・ ・

いきなり「スケベ!」とか言われて少し傷ついた僕だが、もうひとつあやさんについて気になる事があった。それは彼女の目が尋常ではないほど真っ赤に充血していること。そして目の周りは腫れぼったく、頬は酷くやつれているのだ。彼女が泣いていたのは明らかである。

電話でのあやさんの話によると7年間もの期間をストーカーにあい続けているという事だった。悪戯電話もあれば不振な贈り物もあったと聞く。

僕が思うに人には慣れがある。どんなに嫌な状況でもそれが続けば少しは免疫がつく。それを踏まえて考えた時、ごく最近にあやさんが今まで想像もしなかったような出来事が彼女の身に起こったのだと直感的に推測した。


リビングへと案内され、少し大きめの確りとしたテーブルの前で

「どうぞ。今お茶を入れますので少しお待ちください。」っとあやさん。

「お構いなく。」あけみが優しく返事をする。

部屋の中は清潔でキチンと整頓されており「A型かな」と思わせるほど台の上やキッチンの周りの小物が均等に並べられていた。職業病のようなものかもしれないが、一瞬で全てを見て頭の中で置き換えて分析してしまう。僕はこういう自分が嫌いだ。なんか機械みたいだし ・ ・ ・

そんな事を考えているとあやさんが香りの良いコーヒーを出してくれた。手際よく僕とあけみの前にカップを並べ、彼女は僕らの前に座る。

「すいません。お忙しいのに。無理に今日だなんて ・ ・ ・ 」

彼女は僕たちの前にあるカップの辺りに目を向け、決して僕達の目を見ようとはしなかった。

なにが彼女をそこまで塞がせるのか。僕はそれが早く知りたかった。

あけみが気を利かせ彼女に話しかける。「綺麗なカーテンですねぇ」とか「お部屋も広くていいですねぇ」とか「私の家なんか猫が暴れまわった後のようになってますよ」なんて、本当はあやさんのこの部屋と同じでカツヤとあけみの家もキチンと片付いてはいるが少しでも和もうと他愛無い話で彼女を和らげる。

そろそろ切り出すか。そう思い彼女を見ると、彼女の左右の頬に二滴の雫が流れ落ちた。

僕もさっきのあけみのように心の中で「フッ」っと息を吐き、気合を引き締めた。

「早速ですがお話を聞かせてください。今のあなたの状況を打開しなければなりません。きっと私達はあなたの力になれると思います。」

全てを聞く前に依頼を引き受けるような発言してしまった。僕は探偵として失格かもしれない。だけど今、目の前にいるあやさんを見ていたらほってはおけない心境に駆られてしまった。今のあやさんの状況を少しでも良い方向へ導く事はできるはずだ。そう思い僕は最後まで付き合うことを決心した。

僕の声にあやさんが始めて僕達の顔を見てくれた。目に一杯涙を浮かべてゆっくりと彼女は話し出した。

「初めて私が知らない人に後をつけられたのはもう7年程前になります。当時高校生だった私は怖くてその場から走って家まで逃げました ・ ・ ・ 最初はつけられてるとは思ってはいませんでした。でも毎日毎日私の帰り道にはその人がいて、私がその人の前を通り過ぎると少し間をおいてつけてくるんです。」

僕はゆっくりした声で「相手の人間を知ってるんですか?」

彼女は大きく首を左右に振り、「いいえ。凄く怖くてその人の方を振り向いた事は一度もありません。あの時は毎日のように同じ場所からついて来るので、父親に頼んで追い払ってもらいました。そして父親が毎日車で送り迎えをしてくれたので、その後は後をつけられたりはしなくなり安心していました。けどある日、知らない人からプレゼントが届いたんです。その中身はケーキでした。一緒に入っていたカードには { 僕の手作りだから美味しく食べてね } と。あと { いつも君を見ているよ } って ・ ・ ・ 怖くなって一時は学校にも行けませんでした。母親が警察にも行ってくれましたが { 何かあったら連絡してください。 } と言われただけで ・ ・ ・ 両親は何かあってからでは遅いから来てるんですと言っていましたが、一度家に警察の人が来てそれっきり何もしてはくれませんでした。その警察が来た日から嫌がらせが少しだけ止まったんです。もしかしたらどこかで見ていたのかも ・ ・ ・ ・ だけど少し日にちが経つとまたプレゼントや変な内容の手紙がが届いたり ・ ・ ・ それでも何とか学校を卒業するように2年位我慢したんです。だけど卒業間近に送られてきた手紙に { 卒業したら結婚しよう } とか { 君のために新しくマンションを借りた } とか ・ ・ ・ もう本当に嫌で ・ ・ ・ 親に相談して父親の会社の人に頼んでこのマンションを借りてもらったんです。今はもう引越してしまったのですが、当時はこのマンションの近くに親戚の家があって、おじさんとおばさんが良くしてくれて気持ちも少し落ち着き、私は専門学校に入りました。」

彼女は胸に詰まっていたものをほんの少しだけ話せて少しだけ落ち着けたのか、「あっ、コーヒーどうぞ。冷めてしまいますので。あっ、出してからですいません。紅茶もありますが。」

そう言ってちょっと慌てて立ち上がった。

「あぁ。大丈夫です。私達二人ともコーヒー派ですから。気にしないで気にしないで。」

できるだけ明るくあけみがあやさんに言う。

「あ。すいません。」

そう言って申し訳なさそうにちょっとだけ笑みを見せてくれた。

あやさんが席に着こうとした時、あけみが僕に目で合図をした。

僕等がこういった依頼人との接触の回数が多いケースの調査する時は必ずしている事がある。それはできる限り依頼人と僕等の仲を近くする為にお互いを名前で呼ぶという、まぁ他の探偵業者ではまず無いと思う少し変わったお近づきの方法。

あけみはちゃんと覚えていた。

部屋に入った状況でマトモに挨拶もしていなかったのが丁度都合良く、あけみがタイミングを見てあやさんに話しかけた。

「あやさん。このコーヒー美味しいですね。」

突然名前で呼ばれたのを少し驚きながら彼女は、

「私もコーヒー好きなんです。このコーヒー私のお勧めなんですよ。」って。

一気に場が和んだ。空かさずあけみは、

「あ!すいません。名前で呼んじゃった。隼人さんから聞いていたもので。ごめんさい。私達身内はみんな名前で呼ぶようにしてるんです。変な習慣でしょう。ちょっと癖みたいになっちゃてて。ごめんなさい。」

僕の文章で読んでいる皆さんに伝わったかは解らないが、あけみの話の持って行き方は絶妙だった。その証拠にあやさんは少し首を竦めて、

「あ。いいですよ。名前で呼んでいただいて。私もその方が身近な人みたいでなんか安心するっていうか。」

お見事 あけみ!

空かさずあけみは僕を見ながら、

「こちらは私の上司。隼人さんって言います。電話でもお話していると思うから名字はご存知ですよね。涼風 隼人。変な名前でしょう。」

そう言いながらあけみは僕に彼女と名前で呼ぶキッカケを作る。

おいおい。上司と言っておきながら俺を出汁に使うかよ。そう思いながらも

「あぁ。すいません。ちゃんと挨拶もしてなかった。涼風 隼人と言います。隼人でいいですよ。   あぁ、僕もあやさんでいいでしょうか?」

いつもはそんな事無いのだが、今日は少しテレ気味に、でもあっさりと言い、そして名刺をテーブルの上に置いた。

「あっ。はい。いいですよ。私もすいません。ちゃんとご挨拶してなくて。○○ あや(仮名)と言います。本当にごめんなさい。こんな腫れぼったい顔で ・ ・ ・」

そう言った彼女の顔は、全快とはいかずとも、もうすっかり晴れを取り戻していた。


つづく

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