今日も良いネタ入ってるよ!

実話調査編第五話





すっかり落ち着きを取り戻したあやさんは、それから約1時間半に渡って今までの状況を説明してくれた。引っ越して来たこの家が相手に見つかってしまったこと。手紙やプレゼントだけでなく、何時からか悪戯電話までかけてくるようになったこと。一時は無かった尾行まで最近されるようになったこと。その相手は直接顔を見せて接触こそして来ないものの、手紙や電話で「何故自分を避けるのか?」「結婚しよう!」「子供は2人くらい欲しい。」などと言う、完全に空想の世界からあやさんに語りかけてきていた。相手から届いたいくつかの手紙を見せてもらったが、その内容は相手の頭の中そのままで完全にイカれていた。こんな事を7年間も我慢してきたあやさんは、僕らが想像も出来ないくらい辛かったろう。

一通り話ができてホッとしたのか、あやさんは「お茶を入れ直しますね。」っと言い、僕らに新しいコーヒーを勧めてくれた。今度はあけみと二人で素直に「いただきます。」っとお願いした。台所に向かいコーヒーを入れるあやさんを見てあけみと僕は言葉は交わさずとも同じことを思っていたと思う。

「なんとかしてあげたい ・ ・ ・ ・ 」っと。



過去の事情は分かった。だが僕の中ではもうひとつ聞かなければならないことがあった。それは人づてで僕を探し、直ぐにでもここに来て欲しいと彼女に思わせるだけの理由だ。つい最近におき、あやさんが今まで経験したことの無い恐怖が、そこには必ず存在するはずだった。

コーヒーを入れなおしてくれたあやさんは僕達の前に座り、俯きながら小さくそして何度も深呼吸をした。

彼女にはまだ伝えたい事があるのだ。

せっかく彼女から言い出そうとしている事を僕等の挟む言葉で遮りたくは無かった。コーヒーを飲む振りをしてあけみには口を出さないようにと目で合図を送る。


フッと彼女の顔が上がった。そしてその心の中に溜まっていたものをやっと吐き出すかのように僕等に言った。


「今日ここに泊まっていただけませんか ・ ・ ・ ・ ・ 」


思わずあけみと顔を見合わせてしまった。まだ他に何かあると考えてはいたので一応予想の範疇ではあるものの、まさか「泊まっていただけませんか」と言われるとは思わなかった。勇気を出してやっとの思いで言葉にしたあやさんの目には、いつこぼれてもおかしくない程の沢山の涙が溜まっていた。


「 ・ ・ ・ あやさん。もう少しだけ僕達に話す事がありますよね。」


そう僕はありったけの優しい声で問いかけた。

向かいに座るあやさんは、小さな子供のように頷くと、そのままテーブルに両手をついて泣き崩れてしまった。

僕達もそんなあやさんを見て胸が詰まる ・ ・ ・あけみはその大きな目に薄っすらと涙を溜めながらあやさんの横に席を移し、そっと彼女に肩に手をやった。



それからどれ位だろう。あけみはあやさんを励ましながら、優しく彼女を勇気付ける。

「辛い思いは今だけにしましょう。今は頑張って私達に教えて。これからはもう誰もあやさんを泣かしたりさせないんだから!」

あけみの優しい言葉が届いたのか、あやさんは少しづつ落ち着きを取り戻している。

ここはあけみに任せるか ・ ・ ・。そう思い僕はこの家に少しでも変わった事が無いかを、目で追い探していた。

どの部屋も綺麗にまとまっている。誰かが侵入してきた形跡は見当たらない。電話にも目を向けてみる。受話器には驚いて落としたりしたような傷は見受けられない。そして「フッ」と一番奥の彼女に寝室らしい部屋に目をやった時、一目では分からないが何か違和感を感じた。直ぐ様他の部屋に目を向ける。

やっぱりこの部屋だけは他と違う・・・

そう僕に思わせたのは開きっ放しのカーテンだった。

僕とあけみがこの部屋を訪れたのは夕方6時頃。確かに外は暗くはあるが、まだ厚手のカーテンを閉めるほど闇は落ちていない。だがこの家のカーテンはほぼ全て閉められていた。

僕はそれが彼女の警戒からくる行動だと思った。しかし入り口からベットの角が見られる、多分彼女の寝室であろうはずのこの部屋のカーテンはなぜか閉められていない ・ ・ ・

人の心理の中で寝室とは、無意識の内に自分の聖域的な場所として認識することが多い。辛いことや悲しいこと、めげる気持ちやどうしようもない苛立ちを布団の中で沈めた経験が皆さんにもないだろうか。今の彼女の心情を読み、彼女がするであろう行動と比較した時、この開いているカーテン、しかもベットがある彼女の寝室であろう部屋のカーテンが開いているのは不自然だ。

多分ここだな ・ ・ ・  まさか ・ ・ ・

この部屋で何かあったのだと確信する僕の心が悲鳴を上げる。

何もあっていてくれるな ・ ・ ・ ・ ・

現実と推理による想像の境が見えなくなる。

よく見ろ!  よく考えろ!

何度も自分に言い聞かせ平常心を取り戻す。

部屋の状況 {大丈夫だ。さっきも確認したが荒らされた形跡は無い ・ ・ ・}

彼女     {手や顔など目に見えるところにあざや傷は一切無い ・ ・ ・}

祈るようにひとつひとつ慎重に頭を整理し、何があったのか可能性を搾り出す。

大丈夫だ! 彼女自身の身にはなにもない。

僕の中で8割ほどその結果で収まった。残りの2割は僕の強い祈りのようなものだった。そう決断を下した僕はテーブルに肘をつき、少し身を乗り出してあやさんに近づくようにして静かに話しかけた。

「あやさん。大丈夫。今は僕等がここにいます。」

あけみは僕が何かを見つけたんだと悟ったのだろう。僕が目で合図を送るとあけみは波打つあやさんの肩に手を回し「安心して。私がついてるんだから!」そうやって、まるであやさんの彼氏かのように自信たっぷりに言って見せた。

あやさんはゆっくりと顔を上げ僕の目を泣きながら見つめる。

もう少し ・ ・ ・
もう少し勇気をあげられれば話せるはず。

そう思ったら何も考えずに行動に出ていた。テーブルの上のあやさんの手を取り、お互いの親指の付け根を包み込むようにしてそっと握り締めた。

普段僕はこんな事をした事が無いので、ちょっとあけみはびっくりしていた。だけど今このチャンスは逃せない。あとでまた嫌な思いをさせるくらいなら、今、全てを聞いてしまった方がいい。

あけみもそう思ったのだろう。

「頑張って。」

僕の手を力一杯握り返し、涙をぽろぽろ流しながらあやさんは話し出した。

「昨日の夜 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 誰かが ・ ・ ・ ・ ・ ・ 窓の外から ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


彼女の僕の手を握り締める力が強くなる。


「大丈夫。僕がいます。」 僕は精一杯落ち着いて言った。


「誰かが ・ ・ ・ ・ 窓に手をついて ・ ・ 大きな声で叫んだんです ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


よかった・・・・・・・・・・

どんな時でも確実に平静を保たなければならない立場の僕も、思わず深く息を吐いていた。そして僕は一番最悪の事態ではなかった事に何よりもホッとした。

あけみは勇気を出して話してくれたあやさんを励ます。

「言ってくれてありがとう。もう大丈夫。私たちがついてますから。」

そして次に僕の頭に浮かんだのは、彼女が本当に危険な状況に置かれていることだった。

今まで直接彼女の前に姿を現さなかった相手が行動に出てきた。

これがどういうことか。

直接接触する勇気もなくウジウジと7年間も彼女の心を追い詰めてきた陰険な輩が痺れを切らした可能性がある。7年間という尋常ではない期間で蓄積されたその輩の鬱憤も極限に達しているのかもしれない。そうなると今までの行動からしてもその輩は何をしでかすか分からない。

彼女もそれを察しているのだろう。だからこそ始めてあった僕達に、すがるような思いで「今日ここに泊まっていただけませんか」と言ったのだ。

会ってから数時間とまだ間もないが、僕が見る彼女は他人にそのような頼み事が出来る程の積極さを持ち合わせているようには見えなかった。心の底から本当に助けを求めているのだろう。 目には見えない今にも押し潰されそうな重圧に必死に耐え、声を殺しながら涙を流す彼女がここに来た時よりも増して痛々しく見えた。


つづく

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