今日も良いネタ入ってるよ!

実話調査編第六話





僕等がこの部屋に来てから既に2時間が経っていた。彼女は泣きながらも昨夜の出来事を僕達に話す。物音がして怯えながらも恐る恐る寝室のカーテンを開けた事。カーテンを開けた直後、誰かが外から「バシッ」と音を立てて擦りガラス窓に両手を突き、ライオンが吼えるような声で「ウォー」と叫んだ事。

余りの恐ろしさにその場で座り込み、夜が明けるまで一歩も動けなかったと言う。

彼女は話しながら小刻みに震えていた。


現状の確認をと思っていた為に、翌日からのカツヤとあけみのスケジュールを確認していなかった。僕も今朝電話を受けてここに来ているので明日からのスケジュールは一切変更していない。っと言うかむしろ僕のスケジュールはやっと調整を取っていた状態なので直ぐにどうこうなる状態ではなかった。

参ったな ・ ・ ・

当然の事ながら依頼を受ける僕等が彼女と行動を共にする事は出来ない。
だからと言って今の彼女をひとりこの家におく気にはなれなかった。


本気で困っていた ・ ・ ・ ・


そんな時カツヤからタイミング良く電話が入った。

こいつは本当に読みが良いな っと感心しながら電話にでる。

「お疲れです。まだ打ち合わせですか?」

気を利かせてか手短に問いかけるカツヤ。

「あぁ。丁度良いところに電話をもらった。お前、明日からどうなってる?」

僕は心のどこかで読みの鋭いカツヤの機転に賭けていた。

この実話調査編の二話と三話を読んだ人には解るだろう。この時僕に電話をくれた連れのカツヤは、千里眼でもあるかのように人の心を読む。読むと言うよりは観察に長けているのだろう。本人はそのつもりは無いのだろうが、目で見ている時ばかりでなく、電話での相手の声や言葉の運び、話の流れなどを総体的に判断して人の先の行動を察知するのだ。昔から探偵をやっているこの僕にも、時々怖いと感じさせる程の能力をカツヤは持っていた。

「隼人さんから電話がある時は突拍子も無い事が多いですからねぇ~。ちゃんと空けてありますよ。何なりとどうぞ。」


よし! こいつは本当に頼りになる。


5秒で頭の中を整理して今からカツヤにここまで僕を迎えに来るよう指示を出した。そこから後の段取りは来てから話すと伝え1時間以内には着いて欲しいと頼んだ。

「楽勝です。でも久しぶりに隼人さんと一杯やれるかと思ってましたが、ちょっと状況を読み違えたなぁ。酒買って今隼人さんの家の前に着いたとこだったんですよ。直ぐ出れますので着いたら電話します。」

そう言ってカツヤは電話を切った。

どうやら自分自身の楽しみに関しては千里眼が働かないらしい ・ ・ ・

僕は苦笑しながら携帯の停止ボタンを押した。続けざまに古い友人で都内にビジネスホテルを経営するやり手の社長 卓也(仮名)に電話をした。

「お~う。隼人!久しぶりじゃん。元気なのかよ。」

名も名乗らずに「もしもし」と言った声だけで僕と分かってくれるとは、仲間とは本当に良いものだ。

挨拶を手短に済ませ、少し急ぐような話持ちで卓也に聞く。

「卓也、悪いんだが今から一室空けてもらえないか?」

突然の頼みに驚いてはいたものの、

「水臭せ~な。女連れか?ダブルでいいか?」っと卓也。

「いや。俺の知り合いなんだが女性一人だ。2日ばかし頼まれてくれ。」

そう言った僕の言葉に卓也は敏感に反応した。

「ほぉ~。頼まれてくれって事は訳ありか。探偵か?」

数年前、僕が探偵を本業にしていた頃、同じように1度だけ頼んだ事があった。その時も快く引き受けてくれ、「但し、事件は勘弁な」っと念を押されていたのを思い出した。

「迷惑はかけない。依頼人を守りたいんだ。事情は言えんが頼めないか ・ ・ ・」

卓也も探偵の依頼となるからには事情が聞けないのは承知している。

「 ・ ・ ・ 信じるよ。お前の頼みだ。受けない訳にはいかんだろう。30分以内に準備させておくからこっちに向かう時に電話をくれ。近い内に六本木にでも連れてけよ。」

そう言って電話の向こうで笑ってみせてくれた。

卓也との電話を切り、あけみを隣の席へと呼ぶ。あやさんに内容を話して身支度をし、僕のインフィニティを使い卓也のビジネスホテルに連れて行くよう指示を出した。急な展開であけみもびっくりしていたが、「はい。」っと言ってあやさんの横に行き、事の内容を説明した。

二人が身支度を始めると同時に、僕はあやさんに断り、あやさんの寝室に入らせてもらった。寝室の窓を開けるとステンレスの格子がついている。その格子の先には、このマンションのものであろう大きな貯水タンクが構えていた。

確かこの壁の向こうは駐車場になってたな。

ここに来る前にあけみと周辺を歩いたのを思い出しながらマンション周囲の地形を頭に入れる。

外はもう深い闇に閉ざされていた。


あやさんはやはり窓の側が怖いのか、僕が窓を開けると反対の壁を向いて目を瞑っている。

「大丈夫。今は誰もいません。」

そう言って僕は直ぐに窓を閉めた。そしてあやさんに用意をしながら僕の話を聞いてくれるよう頼んだ。

「あやさん。まずこの部屋とダイニングの電気はつけっ放しで行ってください。念の為に大切な物は持って行くようにしてください。2日間は知り合いのビジネスホテルに泊まれるよう手配しました。あけみをつけてあげたいのですが、それは出来ない事は分かって下さい。何かあれば先程渡した僕の名刺に携帯番号が書いてありますので直ぐに電話をください。大丈夫ですか?」

そう言って僕はあやさんの目を見てゆっくりと頷いて見せた。

「今は僕達がいます。心配しないで。」

あやさんはまた涙ぐんでしまった。

「それと、仕事は大丈夫ですか?仕事に行くのでしたら帰りは誰かを迎えに行かせる事も出来ます。」

これは普段は決してしない。っが尾行があると聞いているので特別な対応である。彼女は泣きながらか細い声で、

「大丈夫です。凄く辛かったので1週間ほどお休みをいただきました。」

「そうですか。もうひとつお伺いしたいのですが、前にご両親が協力して下さったとの事ですが、今回の件はご相談なさっていますか?勿論あやさん次第で秘密にも出来ますが。」

僕としてはご両親の協力がある方が望ましいと考えている。現に昔、あやさんの父親はストーカーを追っ払っていると言っていたので相手の顔を見ている可能性がある。また、彼女は高校生の頃から被害にあっているので相手は実家付近の人間の可能性がかなり高い。後の調査にはあやさんの実家付近にも足を運ぶ事になるだろう。

「 ・ ・ ・ ・ すいません。父も母ももう年なので余り心配はかけたくないと思っています。だからここ2年位はこの事を話した事はありません。父と母に聞かれても今はそんな事は無いと言うようにしてきました ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

・ ・ ・ 彼女はこの2年間たった一人でこの苦痛に耐えてきていたのだな ・ ・ ・ 

「分かりました。そのようにしましょう。」


そう僕が言い終えると同時にカツヤから電話が鳴る。

「あ、もしもし。もう着きますがどの辺に車をつけますか?」

裏手にある駐車場に車を止め中で待機するように支持を出した。

卓也の方も遅くなると迷惑かけるな。

そう思った僕は、僕が先に出るので5分後に二人が出るように告げ、あけみには卓也のビジネスホテルに近くなったら必ず電話を入れるように言って車のキーを渡した。二人が頷くのを確認して僕が玄関へ向かうとあやさんが心配そうに問いかける。


「隼人さんはどうするんですか?」


「心配しないで。僕にはまだここでやる事があるんです。」


つづく

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