にのねぬな

にのねぬな

トゥトゥップ(止める)

トゥトゥップ/tutup(音を止める)

 ガムランで、ばちや手で楽器をたたくことをプクル、その音を何らかの方法で止めることをトゥトゥップといいます。

 ビラをたたいて、とめる、この繰り返しで、メロディーが作られていきますが、その組み合わせ方によって、音にいろいろな表情が出てきます。次の音をたたく前に、前の音を止めてしまうと、音がぶつぶつと切れてしまい、なめらかにつながりません。また、逆に音と音の間に空白を入れたい場合は、わざと音を切って止めたり、たたくと同時に止めたり、いろいろな音の止め方があります。

 コテカンの場合は、ポロスとサンシがお互いに相手の音と重なるところと、重ならないところを分かった上で、相手の音のために空白を作ったり、相手の作ってくれた空白に音を入れたりします。この、”止め”方は、ガンサ類とレヨンでは、方法が違うので、分けて書きます。

 まずは、ガンサ類(ジュブラグとジェゴガンも含む)について。 軽く握った状態の左手の、親指と人差し指(曲げた状態)でビラ(鍵盤)をはさんで、ぐいっとつかみ音(振動)を止めます。音が止まったら、すぐに力を抜いて、次の音を止める準備をします。これは、慣れるまでは、結構親指のつけ根の筋肉が疲れ、また、ビラの端がとがっていると、手の甲にミミズ腫れやあざをよく作ります。でも、きちんと音を止めないと音が濁っていやーな響きになってしまうので、頑張って握ります。

 最初は、私は握るのではなくて、手のひらが上を向く状態で指先でつまむ感じで止めていました。ゆっくりたたく分にはこれが楽だったから、ずるをしていました。ジャカルタで最初練習用に使っていた私のガンサは、背の高さが通常のガンサに比べるとかなり低く、かつ、風呂イスに座ってたたいていたので、結構高い位置から見下ろす感じでたたけます。高い位置からたたくと、わきを開けなくても良くて楽だし、トゥトゥップもつまむだけでいい(あ、本当は良くないんですが、ビラも薄かったので、つまめば音が止まりました。)ので、楽な方法でやっていました。

 しかし、バリに行って本物(?)のガンサで練習したら、私のそれまでのたたき方では、めちゃくちゃたたきにくいんです。”えー?!なんで??”と、すごいショック。まず、先生はイスは使わせてくれません。ガンサの背も高いので、わきを開けてひじを上げないと、たたけないのです。そして、止め方も。手のひらが上を向く状態では、手首の格好に無理が出てきて、つまむ事が出来ないし、音もちゃんと止まってくれません。こんなんじゃ、曲を習うどころではないじゃん~と、愕然としました。先生にも、”トゥトゥップが大事なんだよ、ガムランは。”といわれてしまい、冷や汗かいた~。それからというものの、ガムランをたたく姿勢から直す事にした訳です。(姿勢やばちの持ち方については、他の章で書きます。) 

 音をどのタイミングで止めるか、というのは、曲やその部分によりけりですが、基本的には、音をつなげるために、次の音(自分のパートだけではなく、コテカンの相手がたたく音も含む)が鳴った時に、前の音を止めます。そうすれば、音が途切れ途切れにならなくなり、つややかな、張りある感じにメロディーを奏でる事が出来ます。この、”次の音が鳴った時”というのが、ポイントで、”次の音をたたく時”とは、微妙に違います。”たたく時”の方だと、ほんのすこーし、止めるのが早すぎるように思います。速いフレーズになると、どうしてもトゥトゥップのタイミングが早めになってプツプツと音が切れてしまいがちですが、左手の動きにも注意して自分の音をよく聞いてみると、案外簡単に原因がわかります。

 コテカンでは、相手の音が入る部分を空白にしなくてはいけないのですが(音が重なる部分を除く)、テンポが速くなると、相手の音が鳴る前に、トゥトゥップしてしまいがちで、コテカンの音の流れが、きれいにつながりません。私の場合、感覚的には、ちょっと遅いかなあ、くらいのタイミングでトゥトゥップして、ちょうどいいくらいです。また、トゥトゥップのタイミングがずれると、リズムも狂いやすくなるので、トゥトゥップも、16ビートのうちの1ビート、としてカウントすると、リズムがとらえやすくなるように思います。 

 この、コテカンの場合のトゥトゥップのタイミングは、私もまだよく分からない部分があります。トゥトゥップのタイミングを、遅くすると、相手の音と自分の音が少し重なり、テヌート気味っぽくなって、よりなめらかにまったりと音がつながります。逆に、タイミングを早めにすると、相手の音と自分の音が、ちょうど交互にぱらぱらと入れ替わって、切れのいい音になります。この、どちらがより良いのか、または、曲やその部分によって使い分けているのかが、よく分かりません。なんとなく、両方あり、のような気はするのですが・・・みなさんは、どう思いますか?

 ジュブラグやジェゴガンのトゥトゥップは、次の音が鳴ったら、前の音を止めます。ただし、同じ音が続く時には、一回目の音の最後(16ビートでいう、16ビート目)で一度音を止めてから、2回目の音をたたきなおします。これは、鳴っている(振動している)ビラをそのままもう一度たたくと、音が鳴りにくいから、だそうです。確かに、汚い、響かない音になってしまいそうですね。

 次に、レヨンのトゥトゥップについて。レヨンは、ガンサ類よりも音を止めるのが難しい。それは、ばちでたたいた後に、またばちで押さえて音を止めなくてはならないから。”プクル”の章でも書いたように、レヨンも、たたく時には、手首の力を抜いて、手首から先を振り子のようにゆらゆらさせます。たたいて跳ね返ってきたばちをもう一度下へ押さえて、音を止める。でも、その、音を止めるときにはばちが跳ね返ってこないように、そっと押さえなくてはいけません。レヨンは、一人で2本のばちをもち、両手を使って演奏する上に、その2本分の音をさらに止めなくてはいけないので、レヨン奏者の手もとは、いそがしい、いそがしい。両方の手が、”たたいて止めて”をすごいテンポで繰り返し、かつ、左右違うタイミングでそれをやらなくてはいけない部分が多いのです。たたくのも、止めるのも、同じばちを使って、似たような動作で行うがゆえに、余計に難しいと思います。

 基本的には右手でたたいた音は右手で、左手でたたいた音は左手でとめます。しかし、曲の中でたたく音が左や右に動いていくような部分では、右手でたたいた音を左手のばちで押さえたり、またその逆もあります。そうゆう部分は、左右の手の役割に慣れるのが、大変です。また、レヨンは4人ならんで1つの楽器をたたくので、お隣の人との呼吸をあわせないと、ぶつかってしまいます。今隣の人が音を止めたその音を、つぎは自分がたたく。早くどいてよ~なんていうこともあります。

 レヨンは特に、トゥトゥップがちゃんと出来ているかどうかが、音色の決め手になります。あの、金属をたたいて出てきた音とは思えない、なんともいえないまろやかな不思議な音色は、かなりしっかりたたいて、かつ、しっかり止めないと、出ません。止めないでたたくだけだと、たたいている本人はうわーんと響いてとてもうるさく感じるのに、少し離れて聞いていると、ただ、もやもやーっとした感じでしか聞こえてきません。また、たたいた後ばちを持ち上げないで、押しつけるだけだと、ごつごつした感じの、響かない硬い音になってしまいます。

 とまあ、書くだけなら簡単なのですが、実際に演奏するのは・・・ね。音を止めよう、と思うと、たたく方が遅れてしまったり、力が入りすぎたり、そう簡単にはいきません。レヨンは、バリ人でも、何年もかかるんだ、と言われた事があります。くやしい・・・けど、あの魅力的な音はやめられないんだよね~。いつか、きっとできるようになってやるぅ~!!

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