★  OVER  THE RAINBOW  虹の彼方★

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千曲川旅情の歌

千曲川旅情の歌  島崎藤村


    小諸なる古城のほとり

    雲白く遊子悲しむ

    緑なす蘩蔞(はこべ)は萌えず

    若草も藉(し)くによしなし

    しろがねの衾の岡辺

    日に溶けて淡雪流る



    あたたかき光はあれど

    野に満つる香りも知らず

    浅くのみ春は霞みて

    麦の色はつかに青し

    旅人の群はいくつか

    畑中の道を急ぎぬ



    暮れ行けば浅間も見えず

    歌哀し佐久の草笛

    千曲川いざよふ波の

    岸近き宿にのぼりつ

    濁り酒濁れる飲みて

    草枕しばし慰む



    他著書『夜明け前』『破戒』





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