クレドのにっき

クレドのにっき

夢のハナシ~ラクーンシティ脱出劇~

今 の所、この街でまともな意識を保っているのは俺達家族以外にいなさそうだった。
 この街は汚染されている。…俺も研究所を出る前に計った数値じゃ、ニ、三時間と持たないだろう。じゃあ家族は。
「おにいちゃん、やっぱり納屋にもないよ、ショットガン」
ダークブルーの瞳、明るい栗色の髪、白いブラウス、深いグリーンのプリーツスカート、どこか子猫を思い出させる面影の少女。妹の有香(ありか)だ。
うちは母がアメリカ人で、親父が日本人の日系だ。俺はどちらかというと日本人の血が濃く、髪は黒に近い茶色で、余りひとに誇れたものではない。
「そっか――なんで親父は武器のひとつもかっとかねぇんだ」
毒づいて、窓を細く開ける。ゆらゆらゆれている人影。
ずしりと重い刀の感触。結局のところ、俺がこれを振りまわして敵を蹴散らすしかないのだろう。俺は達人でも何でもない、ただの研究員なんだが。
「ねえお兄ちゃん。それで本当にあのひとたちは助からないの?隣のマニーおばさんだって…少し前までは元気そうだったわ」
細く開けた窓からの目線に気付いたように、それがこちらを向く。俺は慌てて、シャッターごと窓を閉めた。
だん!とぶつかってくる腐肉の気配。
「きゃ…」
それ以上云えずに、有香はあとずさる。
硬直している妹に、俺は問うた。
「それで、どこからが「少し前」だって?」

 食料も何ももっていけない。おふくろは食べ物を袋につめようとしたが、感染が始まったのがいつからかわからない俺にとっては、全ての食べ物を拒否するしかなかった。缶詰だって…いつから汚染されているのかわからないのだから。
ガレージには車がある。これで、郊外まで行けば、軍が救済処置を行っている筈だ。今回の事件には、アンブレラの上層部と、国が一枚噛んでいる。
 ガレージはリモコン式なので、家の中からでも開けられる。まずは、ドアの所で呼び鈴を鳴らしつづけているゾンビを片付けることにした。
我が家のドアは中へ開けるようになっている。だが、この際そんなことはどうでもいい。俺は思いきり、外へと蹴り開けた。一緒にゾンビをふっとばす重みを感じて、右足が痛みを訴えるが無視する。
ガレージへ辿りつくまでに、ニ体程蹴ったり、どついたりして、何とか車へ載りこむ。ガレージのドアがゆっくりひらいていくのに、厭に長く感じた。
親父とお袋、そして有香が車に載りこむ、エンジンは直にかかった。
「お兄ちゃん!!」
有香の声に、背後を振りかえると。先刻蹴り飛ばしたゾンビどもがたかってきていた。俺は日本刀を抜き放ち、キラキラ光る刀身を思いきり振る。
がっ!と硬い感触。
腐肉は殆ど手応えはなかった。ならばこの首に食い込んでいる刃につっかえているもの――骨!
今更ながら、自分の屠っているものが「何」なのか、理解した。
――ひと、だったもの…!
「糞!」
毒づいて、刀を引きぬき、俺はそれに蹴りを入れる、ゾンビの輪が縮まる前に、車へと駆け込んだ。
「いくぞ!」
普段の物静かな親父からは考えられない勢いで、車を急発進させる。ゾンビ達に向かって。
後部座席に座る、有香を抱きしめる。「見るな」
ボンネットに、何体ものゾンビがすがりつく。広い道路を蛇行して、それらを全部振り落とす。どん、と車体が浮いた。多分ゾンビを轢いたのだろう。

 ――もう何キロ走ったか…市街の中心部にあった俺達の家から、ノンストップで走ってきた。熱い・喉が焼ける・水…ダメだ、街は汚染されてる。
車はもうガス欠だ。降りて歩くしかない。
「はあっはあっはあっ…」
深呼吸してるはずなのに、空気が掴めない…微熱があるように足元がふらつく。
疲労がウイルスを励まし、俺の身体を蝕む。それは、どうしようもない事実で…何時間経ったろう?――ひょっとして、俺はもう死んでるんじゃないのか、家族を手にかけるのだけは…それだけは、頼む、頼むからそんなことになる前に…
「お兄ちゃんッ助けて!!」
「有香!」
有香に群がるゾンビを蹴り飛ばし、襟首を掴んでその首を握る。
ぶしゅっ、と血と体液を吹き出して、ゾンビは黙った。
俺はその手をぼんやり見る。――こんな力があったのか。否、それ程までに脆いということか。
「お兄ちゃん…??」
見上げてくるダークブルーの瞳。肩を流れる明るい栗色の瞳、白いブラウスに深い翠のプリーツスカート…不意に視界がぼやけた気がした。
あと、少しで郊外だ。軍の装甲車が見える。あそこまで走ればあとは、軍が片付けてくれる。
――疲れた・喉が痛い・息をしているはずなのに、全然肺に入っていない気がする、苦しい、くらくらする…誰でもいいから、
日本から移住してきた時の…今までの幸せな記憶。
何処で間違ったんだろう?
アンブレラの研究員にスカウトされた時か?
極秘研究にスカウトされた時か?
全て知っている、だからこそ有香にあのフロッピーを託した!
俺は顔をあげた、
「大丈夫。忘れるなよ、有香。あのフロッピーを…軍に。
 …親父とお袋を連れて軍まで走れ」
わらわらとアリのように群がってくるゾンビ達。俺はぎらりとした刀を抜いた。もう重みは感じない。横にゆっくりと両手で構える。
「――俺はこいつらを引きつける」
地面を蹴ると、面白いくらいに俺の身体は跳んだ。空中で刀を一振り。頭が面白いように飛ぶ。
――何でもいいから、クワセテクレ。
「あははっ…あはははは!」
笑いながら、俺は刀を振りつづけた。数分もすると、俺の周りは静かになった。動いているゾンビは一匹だっていやしなかった。
軍の方から米兵が走ってきた。
「すごいね、きみ、何か武術の心得でもあるのかい」
……、ああ、それは俺の名前だ。
…有香達は無事…感染レベルも高くない…よかった。
思い出す輪郭がぼやけた。記憶がゆらゆらと水面に融けこんでいく。
ああ。わかった。この衝動は…もう俺は、手遅れなんだ。それならさっきの馬鹿力もうなずける…
「…、……」
「え?…何だって?!」
驚いた米兵の顔――傾く意識――
ぱぁんっ。

Kill,me…




そして、兄は私達の目前で銃殺されました。
ウイルス感染しているということで、兄の遺体はそのまま焼却されました。
手元に残ったのは、この紅いフロッピーだけです。これが、兄の人生の全てです。
兄は最後までひととして戦ったのです。
このフロッピーが、役立つのなら、私もまた、兄のようにひととして戦いましょう。
最愛の兄へ。有香。



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ある日見た夢です。いやにリアルな骨に当る刀の感触が…夢の中では何故か自転車で逃げ回ってました。…何故に自転車。

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