クレドのにっき

クレドのにっき

零~立花睦月~



「いつか村の為に俺を殺す日が来るんだ、樹月」


その言葉を云うと、兄はいつも目をそらして、俺の方を見なかった。
月明かりの差し込む中、幼さの残る寝顔を見て、短刀を自分の首に当てた。
なまぬるいよ。
「睦月…?!」
双子巫子だから。
フタリがソロワナイト意味がナイから。
だけど樹月、お前きっと、俺を殺せない。
俺は髪を伸ばした。
禊の日に切られてしまうけど。
だけど、「俺は俺」だってことを、誰にでもいい、知ってほしかった。
なあ。
樹月。
何でそんなに泣くんだよ。
何で、そんなに泣くんだよ?

 ここは暗くて、くらくて、クラクテ、なにも、みえないけど、
 なあ、
 樹月、
 お前が、ないてるのはキコエルンダ。
知ってるよ、樹月。
お前は村の外から来るものにいつも興味を持っていた。
なあ。
樹月、
本当は、
お前が、
村から…この村から、ここから、出たかったんだろう?
出ればよかったんだよ。
俺が死のうと、した時に。
立花の家も棄てて、千歳も棄てて、全て棄てて。
逃げればよかったんだ。
だけど、しなかったのは何故だよ?
「俺を殺して…」
俺を殺して。殺して。殺して。殺して。殺して!
誰でもなく、お前に。お前に。
 俺を殺して…。

みなもは揺らめき、ただ聞こえる呟き。
「許して…くれ」
ゆるして。ゆるして。ゆるして。ゆるして…。
 俺はそっとその背に顔をうずめた。
「…?」
「髪、白くなっちまったんだな」
「睦月…!」
なあ、気付かなかった?
俺はずっと側にいたんだよ。
「蝶にはなれなかったけど、俺はいつもお前の側にいたんだよ」
振り返った樹月の目から、涙がこぼれた。溢れて、みなもに落ちる。
「むつっ…ごめ…ころせなくっ…」
しゃくりあげるのは、子どもの頃からずっと変わらない、言葉は言葉にならない。
俺は、樹月を抱き締めた。
「もういいよ。もういいよ。」
もう、いいよ。
月のきらめくみなもから、逝くべきところへ、

「逝こう」




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