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クレドのにっき
零~天倉 繭~壱
ざ ら ざら
ざ ら ざらざらざらざら
耳元で
頭の中で
ノイズが響いている。
わたしには、昔からひとにみえないものがみえた。
雑踏が怖かった。
外に出るのも、澪と一緒じゃなければ怖かった。
小学校に入った頃。
澪は持ち前の明るい性格とリーダーシップで、沢山友達が出来た。だけどあたしは…
「繭ちゃん?ああ…澪ちゃんの。」
「でも、あの子暗くて、話し掛けづらいんだよね」
澪の机の周りは、ひとでいっぱい。
あたしは、何となく怖くて、目を伏せていた。だって顔を上げれば見たくないものまで見えてしまう。だから、暗いなんていわれるんだ。わかってる。
「そんなこといわないでよっ!おねえちゃんはね…っ」
一瞬激昂して、机を叩く音がした。澪は、一瞬はっとみんなの顔を見て。
「…ごめん」
「いいよ、澪ちゃん、うちらが言い過ぎた」
「そりゃ、おねえちゃんのこと云われたら、怒るよね。ごめんね」
少しあたしは笑った。
澪はあたしのことを忘れたわけじゃないんだ。
ねぇ澪、ずっと一緒にいよう。
どうしてあたしたち双子なのかな?
あたしは澪と結婚したいくらい、澪のことが好き。
澪は、あたしのこと、好き?
いつも暗いあたしのことを心配して、父と母は夏休みにキャンプ場へ行こうといってくれた。
「天倉の家には、時々お前のような力をもった者が生まれる。それは別に、珍しいことじゃないんだよ」
父はそういって、あたしを膝の上に乗せて頭を撫でてくれた。
「きっといつか、お前の能力は役に立つ日がくる。だから、恥じることは無いんだよ」
――天倉家は――この珍しい名字を持った家は、旧家で、それも、霊能者を多く輩出してきたと知ったのは、高校生になった頃。――
キャンプ場の後ろに、澪が見つけたのは、細い山道だった。
「ねぇおねえちゃん。いってみよ」
そういって、澪はさっさと下っていってしまう。あたしは慌てて「待ってよ!」と後を追った。
「ねえおねえちゃん、この道、何処まで続いてるのかなあっ?」
走りながら、澪が聞いてくる。
あたしは、走るので精一杯。澪の背中が、どんどん離れていってしまう。
時々振り返る澪の顔は、無邪気な子どもだった。
「はやーく!おいてっちゃうよー」
「まってっ…おいてか、ないで」
学校でも。
何処でも、
澪は、きっとひとりでやっていける。
あたしがいない方が…
あたしが、いない方が…
耳元で、誰かが呟いた。
「
そうよ。オネエチャンはあなたのことなんか、要らないのよ
」
!
前を向いていた視界が、急にぶれた。山道の外側にあった右足に、手が絡みついていた、
「きゃああッ…」
澪は、がけ下を覗く。そこに、奇妙に曲った姉の足を見つけて、全身が総毛だった。
彼女は、全速力で走って、父と母に知らせに行った。幸いな事に、山道の終わりは元きたキャンプ場の駐車場へと続いていた。
「お父さん!!お母さん!」
走ってくる娘の異様な泣き顔に、両親は何かあったことを悟った。
「おねえちゃんが…おねえちゃんが…」
「わかった、澪はここにいなさい。」
父は、ロープと携帯電話を引っつかんで、娘の来た方へ走り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、おねえちゃん…」
私は緊急手術を受けた。近くの病院で。
「脳などに、異常な出血は認められません。障害などは無いでしょう…しかし」
医師は両親の顔を見て、少し表情を曇らせた。
「…娘さんは…足から落ちた時に、右足の関節を完全に反対側に折ってしまっています。現代の医療技術では、これを治す事は不可能です」
「じゃあ、繭は…」
「いえ、完全に歩けなくなるという事はありません。ですが、走ったり、…つまり激しい運動をする事が出来なくなるということです」
あの声、
あの声、
あたしの心を代弁したあの声、
誰?
あたしの足を掴んだあれは、ひとではなかった。
でもね、澪はちゃんとあたしを助けにきてくれたよ。
そして、意識が戻ったあたしに何度も謝った。
「ごめんね、ごめんね、おねえちゃん、あたしのせいで」
…澪のせいなんかじゃないの。
「…約束して澪。ずっと、一緒だって」
「うん、うん、約束する。もう、絶対おねえちゃんをおいてったり、しない」
―――――思春期を迎える頃になると、あたしの能力はますます厄介なものになっていった。
霊を引き寄せてしまう。
その、霊に取り付かれることさえあった。
澪は、必死であたしにとりついた霊によびかけ、あたしの意識を引きずり起こしてくれる。
「おねえちゃん!確りして!あたしがいるから!確りして!戻ってきてよ!!」
昔いったあのキャンプ場に、ダムに沈む前に行こうということになったのは、運命だったのだろうか。
澪は、小川の清流を見ながら、ぼんやりとあの時のことを考えていた。
「よく、ここで遊んだよね」
肩に手を置かれて、見上げると、姉の顔。「ぼんやりしてたね澪。さては、達樹くんのことでも考えてたな~?」
少しからかうように、繭。
達樹、というのは、澪がひそかに好きな男子のことだ。澪は赤くなって手を振った。
「ち、違うよ!」
「そーお?顔にかいてあるよ~『達樹くんと一緒にきたかった』って」
澪に背中あわせで座って。
…澪に彼氏が出来たらどうなるのかな。
あたしは、また、おいて、いかれてしまう?
ふと。森の中を飛ぶ、紅い蝶が見えた。
「?澪…」
「何?おねえちゃん」
云おうとして…
もしここであたしがいなくなったら
澪はあたしを、追ってきてくれる?
達樹くんのことも忘れて…??
「なんでもない」
あたしはそっと立って、紅い蝶を追い始めた。ひらひらと飛ぶ綺麗な、綺麗な切ない紅さ。
さあ、追ってきて。
さああ、追ってきて!澪!
あたしはあなたを誰にも渡さない。
誰にも…。
その為なら、あえてこの霊の誘いにも乗るわ。
聞いた事があるのよ、澪。
この先に、地図から消えた村があるって…
そこへ行こう、二人で、ふたりで、ずっとずっとずっと―― 一緒にいるために。
To BE countinued⇒天倉 澪 弐
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