クレドのにっき

クレドのにっき

零~天倉 繭 玖~


今まであたしは、ずっと澪と一緒に育てられてきた。
けど、違う。
違うのよ、澪。
澪はひとりで、…あたしなんか邪魔なの。
だから、だから、
「だから、あたしが必要だなんて、いわないで」



 広げた細い首に、紅い蝶の痣。
「あ…あああ!」
『呪い…!』
『きゃはははっきゃ―――はははははははあっ!楽しいでしょ!面白いでしょお!?アレはねぇアタシとアタシの約束ナノヨ!だから消えない!2度とね!』
「うるさい…」
澪が睦月の肩に手をかけて、彼を横へ押しのけた。『おい澪っ』
冷たい、強い霊気の吹きつける中、
「うるさいよ…、
どーしてあたしとおねえちゃんのなかを邪魔するのッ?!
あんたなんか死んでるくせに!
ひとりじゃ生きられないコト、理解ってるくせに!!

澪の手に持たれた、射影機が蒼く光る。その光は、冷たい霊気を圧し戻した。
『きゃああっ?!』
その勢いに、紗重とあたしも圧された。のけぞる紗重は、だらりと腕をたらして、前へ出す。
『楔!』
禍禍しき縄の男は、ずいと前へ出て、澪と睦月へと迫る。
「あっ…待て!紗重!」
走っていこうとした澪を、睦月が引き戻した。『ダメだ!澪、殺されるぞ』
「あんなの、射影機で――」
ファインダーを覗いた澪が、驚愕の声を上げる。
「射影機が…効かない!」
迫り来る影を、察知して、睦月が門を開いた。『脱出だ!澪っ早く!』
いってしまう。
あたしは、紗重にひかれて黒澤家の中へ。
「…こないで…澪。…いや、いかないで…だめよ、きちゃ…こないで」
おねえちゃん!
あたしは頭を抱えて、首を振った。
ダメよ!!こないでっ澪!ひとりでかえって――っ!!


昏い大広間にただひとり…
あたしはひとりでたっている。
「…澪を…」
『…なあに?』
「澪を、どうするつもり」
きゃははははっ、と紗重は笑った。のけぞり、笑いを歌う。
『決まってるじゃない!儀式をするのよ!あたしと、八重が、ひとつになる儀式を!』
「そんなのできっこない!」
『!』
強く叫んだあたしの言葉に、一瞬紗重の瞳が正気を取り戻した。
「そんなの…できっこない。あたしと…澪は。双子だけど。でも、別々の人間なんだよ。…ひとつに戻ることは…できない。」
『…や』
紗重が、俯いた。あたしと合わせ鏡のように。
『厭!いや!いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやああああああああああああああああっ!!!!!!!あたしと八重はひとつになるの!ひとつになれるはずだわ!だってこの村じゃ、それが普通のことだもの!』
「もうこの村は…っぐうう?!」
急に息が苦しくなって、首を抑える。痣が…締め付けている、のどを。
「う…げほっ」
『いやよ!絶対に厭ぁ!ひとりで、このままくらい場所にいるのは、いやあ!八重もいっしょよ!いつも一緒にいたいだけなの!どうして、どうして、どうして、』
紗重の狂乱に合わせて、息がつまる。
…苦しい…!目の前がかすむ。紗重の叫び――
どうしてあたしと八重のなかを邪魔するのよう!
ひとつになるの!ひとつに――

血を絞るような、悲痛な叫び。出来ないと理解っているからこその…
そこで、あたしの意識は途切れた。

ひとつになれない、

理解っていたよ。


ひとつになれない?

わかってる。


いや。
…厭よ。
くらい、くらいさむい場所で…ミンナシネバイイノ。
あたしをころして、八重とあたしを引き離して、それでも、幸せを願うくらいなら、こんな村滅びればいいのよ。
永遠にこない朝を待ちわびればいい。
肉体が朽ちて灰になっても、とこしえの闇の中で彷徨えばいい。
お父様も、宮司たちも、村人も、みんなみんなみんなみんな、大ッ嫌い!
あたしと、八重の中を邪魔するから…ウツロなんて開いてしまえ。滅びてしまえ。みんな死んでしまえ!

…お前はいつもそうだな

…誰?

云いたいことがあるならはっきり云えよ。云わなきゃわかんねぇ。双子だからって、チョーノーリョクシャじゃねえんだぜ。


…睦月。

お前は、後悔する。もし、八重に自分を殺させていたら…
きっと、否、絶対後悔する。

…後悔なんか…しないわよ。

俺はしてる。…樹月に…樹月につらい思いをさせて。あんなに髪が真っ白になるほどショックを受けて。
鬼隻として、普通の幸せまで奪われて。

……あたしは…あたしは。

だから、後悔する。今のうちに、呪いをとけ。そして、あの二人を返すんだ。そうすれば…少なくとも、もうお前は罪に塗れなくて済む。


解けないわよ!

…え?


呪いは…あれは、もう「あたし」じゃとけない…ウツロの、怨念。紅贄にされた蝶神様たちの…意識だから

なっ…


…だから、
このまま突き進むしか道は無いのよ!
あたしは…もう曳き返せない。あのふたりだって、そう。もう、後へは戻れないのよ!

…そうか。…紅贄…か。


…呪いは…多分…


みんなしんじゃった
ずっといっしょだって、やくそくしたから
ふたりでにげたのに、
みんな しんじゃった。


みんな、しんじゃった………

「!」
目がさめると、澪に抱き起こされていた。
「おねえちゃん!よかった、無事?!」
「…澪。なんで…きたの」
「…おねえちゃんが、すきだからよ。」
澪は笑った。
「!」
「ずっと一緒、約束したでしょ。例え、別々のひとを好きになって、別々のうちへ嫁いで、違う人生を歩んでも、…心がひとつなら、ずっと一緒でしょう?」
詭弁、かな?と澪は遠慮がちに云った。
「…!」
あたしは澪の胸に顔をうずめた。涙を、見られたくなかった。
「…ごめん。ごめんね、澪。あたしの所為なの…あたしが、紗重を挑発した。澪と、一緒にいたかったから。だから…」
あたしの髪を撫でながら、澪はかぶりをふったようだった。
「…あたしだって…おねえちゃんと一緒にいたいよ?…忘れないで。あたしも、同じ気持ち、持ってるってこと。」
「うん…うん…!ごめん…ごめんね、澪…!」
『…あー…えーと…仲睦まじいとこ、もーしわけねーんだけどー…』
ぎゃあああヘンタイーッ!!(カシャッ・滅)
ぎゃぁああああああああああ?!いいいってええええええええええ!?

シバラクおまちください。

『ぜはーぜはー…し、死ぬかと思った…』
「死んでるくせに。何よ睦月。あたしとおねえちゃんの仲を邪魔するつもりならもう一回撮るわよ?」
ファインダーを構えた澪に、睦月は手を上げて、『ひいいっあの痛みは勘弁!俺マゾじゃねぇから!』
「…あのーそれで、何?」
あたしがいうと、睦月はあたしの喉をゆびさした。
『ソレ。』
「それ?」
睦月は宙で腕を組んで、頬を膨らませた。『呪いの解き方だよ!』
「ああ…ってすっごい大事なことじゃん!早くいいなよ!」
『お前がいきなり撮ったんだろがあああ!』
澪と睦月の漫才を見つつ、あたしは何故か気が引けた。
「…それで、解き方…は?」
頬を引っ張り合っている二人は、こちらを向いた。
彼は襟を正すと、真顔に戻って告げた。
『ウツロから溢れ出した、蝶神を撮ること。…多分それが、その呪いを解く方法だ。』

紅い蝶…おいかけて、ひらひら。
さよなら、八重。


TO BE COUNTINUED→~天倉 澪 拾~


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