クレドのにっき

クレドのにっき

零~天倉 澪 拾~

私が紡いだ言葉は、けして嘘なんかじゃなかった。
「おねえちゃんと一緒にいたい」のは本当だから。
でも、私の何処かでなにかが告げているの、
「もう一緒にはいられない、」
どうして?



「蝶神…あの、紅い蝶のこと?」
私が訊くと、睦月は首肯した。『そうだ。その呪いは、蝶神様の無念の集合体みたいなもの…と紗重が云ってたからな。…問題は』
「… 何処で何匹撮ればいいか 、よね…」
「…」
おねえちゃんは黙ってきいている。なにかを思案しているような双眸が、私に不安を与えた。
「おねえちゃん?」
「…なんでもないよ」
そう云って彼女は目をそらした。
「なにがあっても、私の傍からいなくならないでよ?」
「…うん」
「絶対だからね!」
彼女の小指を取り、私は歌う。「ゆーびきーりげーんまーん、嘘ついたらはりせんぼん、のーます!」
「…うん。うん。澪」
少し笑って、おねえちゃんは嬉しげに自分の小指を眺めた。
『蝶神の沢山いるところ、かー…うーん…』
睦月が腕を組んで悩んでいる。
「あの蝶、時々ひらひらしてるけど、何処にいつもいるってわけじゃないものね」
『…ああ。そうだなあ、う、ウツロ…とか。』
少し小声で呟かれた言葉に、私はウツロ?と訊き返す。
「なによそれ。」
『口に出すことすら禁じられてる、黄泉の穴のことだよ。黒澤家の深道を通って、いきつく深い深い、正方形の穴だ』
睦月は瞳を伏せた。『…紅贄はみな、姉が妹を、兄が弟を、ころし…そこへ投げ込み、村を救う。そして蝶になり、双子はひとつに還る。』
「え?だって睦月は…」
『……』
少し悲しげに笑って、
『…兄貴は俺を殺せなかった。俺は宮司達に殺され、祭りは失敗したんだ。
ほんとうは…俺だって、紗重のように狂う筈だったのに、どうしてだろうな。
…あの手が首に伸びてくるのを、幼い頃からずっとずっとずっと待ってた筈なのに。』
暗く呟く声音は、紗重のようにぞっと背筋を冷たくさせるものがあった。ああ、このひとは、死者、なのだと。そのとき、改めて気づく。
「…嘘よ。…だって…ひとつになっても、今までのように一緒にはいられない。」
『…ああ』
「それが理解っているから、あなたは狂わなかったんじゃない?」
『!』
瞠目した黒い瞳が、笑みを刻んだ。
『…そうかもな。そうかも…知れない。』


昔、天倉の家におばあちゃんが生きていた頃、よく色々なひとが
相談事をもちこんでいた。おばあちゃんは「れいのうしゃ」というものなのだと、あとでしった。
天倉の家は天才的霊能者の家系なのだと…



「じゃあ、深道をとおっていこう。…おねえちゃん?」
おねえちゃんは少し後ろへ後ずさった。
「…だめ」
「おねえちゃん?!」
片足を引きずって、彼女は黒澤家とは逆方向へ走っていく。
「何処行くのッ」
「だめよ!あたしは一緒にいけない!…これはあたしの問題だから!」
直ぐに追いかけて、追いつくと手近な家屋に入って、彼女は中から鍵を閉めた。
「おねえちゃん!おねえちゃん!」
強く戸を叩いても、帰ってくるのは自信の無い声音だけ。
「ごめん澪…あたしは…自分で解決する」
おねえちゃん!!

おばあちゃんがなくなってから、しんせきのひとが
いってた。『双子のうちどちらかがゆうりょくなれいのうしゃに
なってくれるといい』って。きたいされてる?
ちがうの、天倉の家はれいのうしゃのかけいだから、それでおかねを
かせいでいるから…その、

「双子のうちどちらか、はあたし。…繭ってわけね…」
覗いた双子人形を睨み付けながら、彼女は足を進めた。
「自分で招いたことくらい、自分で収集つけなくてどうするのよ。澪はあたしを必要だと云ってくれた。なら、あたしが自分でなんとかするのは道理じゃないの」
割れた壁。開けた扉のうち、走っていく双子の影。
「自分で解いてみせるわ」
ここは桐生家――幼い双子の無念が宿る家。

TO BE CONTINUED→天倉 繭 拾壱


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